【連載】文房具百年 #36「卓上タイプ鉛筆削り第2弾」
昨年4月に引き続き
今年のゴールデンウィークも緊急事態宣言が発令され、つらつらと一年前のことを思い出した。
あの時は1年後にまた緊急事態宣言が出ているなんで全く想像していなかった。そう言えばこの連載の昨年4月は鉛筆削りを紹介したな。確か帳簿の続きを書く予定だったのだが、状況が悪化していくコロナ禍に不安を覚え、軽い話にしたくて鉛筆削りにしたのだった。そうだ、では今月も鉛筆削りの紹介にしよう。この一年で増えたものや、前に紹介していないものがまだあった。
というわけで、今年もコロナ禍の先行きはますます見えなくなっているので、難しい話はなしにして100年前のユニークな鉛筆削りを眺めていただこうと思う。
※昨年の鉛筆削りの記事: #24「手洗い動画と100年前の鉛筆削り器」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/taimichi/011478/
やすりで削る
昨年鉛筆削りを紹介した際は、ジャニーズ事務所の手洗い動画の歌詞になぞらえたので、紹介する順番は考慮していなかった。今回は昨年紹介したものも含めて、削り方の特徴で古い順に並べてみようと思う。だたし19世紀終わりから20世紀初頭の鉛筆削りはユニークなものがたくさんあるのだが、自分が所有しているのはそのごく一部である。そのためすべてを紹介することができず、歯抜け状態であることをあらかじめお伝えしておく。
とはいえ、持っているものだけを並べてもある程度の特徴は見える気がする。なお、昨年紹介したものは簡単に済ませるので、動画等は昨年の記事を参照いただきたい。
持っている卓上タイプの鉛筆削りの中で最も古いのは、円盤状のプレートにやすりをセットしてこするように削る「Gem Pencil Sharpener」で、特許は1886年だ。続いて、やはりやすり状のプレート部分に鉛筆をこすりつける「Perfect Pencil Pointer」が古く1892年から販売している。
*Gem Pencil Sharpener
*Perfect Pencil Pointer
他にもやすり状のものにこすりつけるタイプの鉛筆削りは複数あるが、比較的オークションなどで見かけるはこの2つなので、これらは当時人気商品だったのだろうと思っている。
鉛筆削りの始まり方が、刃物で削るのではなく、こすりつける削り方であったのは改めて考えると不思議である。鉛筆と共に石筆も広く使われていたので、「こすって尖らせる」という発想が先行したのだろうか。
やすりのような刃で削る
1890年代半ばになると、平らなやすりではなく、やすりの凹凸を大きくしたような刃を使う削り方が出てくる。「Planetary Pencil Pointer」(特許1896年)などがそれにあたる。Planeratyは鼓か糸巻きのような形の刃が2つついているが、この「刃」はナイフのように切るのではなく、鉛筆の先端を凹凸のある2つの刃で挟んでこするように回転するので、削り屑はやすりで削ったように細かい。
*Planetary Pencil Pointer
*Planetary Pencil Pointer
これと似た形の刃を使っているタイプに「Jupiter Pencil Pointer」がある。ドイツの会社が特許を持っており、アメリカよりドイツで使われていたタイプだ。横に長い大きな鉛筆削りで、古文房具を集め始めた頃に、骨董市で始めて見たときは現代の鉛筆削りとはかけ離れた形にびっくりした。なお、JupiterはJupiter1とJupiter2があり、2の方が一般的だが、私が持っているのはJupiter1の方だ。
*Jupiter Pencil Pointer(Jupiter1)
*Jupiter Pencil Pointerの側面。「Quail」はドイツ語でウズラ。フランクフルトの文字も見える。このマークや住所はモノによって異なるので、メーカーのものではないと思われる。
*Jupiter Pencil Pointerの刃
*Jupiter Pencil Pointerの削りくず
同じような刃を使っているが、刃を回転させる仕組みが面白いのが「Webster Pencil Sharpener」(販売1898年、特許1900年)だ。
*Webster Pencil Sharpener
*Webster Pencil Sharpenerのカバーを外したところ。
カバーを付けているとスマートとは言えない形だが、外すと印象が変わる。刃の形と回す仕組みはPlanetaryと似ているが、鉛筆削り自体の形や大きさが全く違うのが面白い。(Websterの方がかなり大きい。)
このタイプの刃で、ハンディタイプがある。名前が「Handy Pencil Sharpener」(特許1906年)なので、小さなものかと思ったが実際はハンディというには抵抗を感じる大き目の「ハンディ」だった。さらに手で持って操作するのではなく、他のアンティークな卓上タイプと同様、壁や柱などに固定しないと使えないタイプだった。
*Handy Pencil Sharpener
刃で削る
1900年代になると、ナイフのような刃で削ぐように削るタイプが出てくる。卓上型の鉛筆削りは、ハンドルを回して刃を動かすタイプがほとんどだが、このタイプについては、少し違った刃の動かし方がみられる。
まず、ごくシンプルな形の「Little Shaver Pencil Sharpener」(特許1904年)は、鉛筆を斜めに固定する台に、剃刀の刃を付けただけのようなものだ。日本であれば、多くの人が「これを使わなくても、小刀で削ればいいのでは?」と思うであろう鉛筆削りだ。鉛筆は台にセットするだけなので、自動で回転しない。そのため削っては角度を変え、削っては角度を変えるという動作の繰り返しが必要になる。
*Little Shaver Pencil Sharpener
*Little Shaver Pencil Sharpenerの裏面
卓上タイプではなく、柄がついているタイプもある。「Rockford Pencil Knife」(特許1906年)といって、左手で柄を持ち右手でナイフを上下させて鉛筆を削るので、こちらの方が実質的に「Handy Pencil Sharpener」と言える。Rockfordは鉛筆が自動的に回転する仕組みが組み込まれている点がよくできているが、その仕組みのため「Pencil Knife」から想像するより大き目で複雑なつくりになっている。
*Rockford Pencil Knife
*Rockford Pencil Knifeの鉛筆を差し込む部分。
*Rockford Pencil Knifeの側面。細長い腕のようなパーツが、刃の上下に連動して鉛筆を回転させる。
*Rockford Pencil Knifeの裏面
回転する刃
ナイフのような刃とほぼ同時期に、手裏剣のような刃を回転させるタイプが出てくる。回転刃の王道というかおそらく一番のヒット商品であろう鉛筆削りは「U. S. Automatic Pencil Sharpener」(特許1906年)だが、残念ながら持っていない。この鉛筆削りは、海外のオークションに常に何台か出品されているほど出回っているので、いつでも買えると思っていて、いざというときに手に入れるのが間に合わないというパターンだ。
雰囲気は違うが所有している「回転刃」の鉛筆削りの画像を載せておこう。チェコスロバキアの鉛筆削りで時代としてはかなり後になる。
*チェコスロバキア製の回転刃の鉛筆削り
写真の鉛筆削りは小さな刃が6枚付いており、形も可愛らしい雰囲気だが、U. S. Automatic Pencil Sharpenerは、もっと大きな刃3枚で出来ている。形もアメリカらしい迫力のあるデザインだ。
なおU. S. Automatic Pencil Sharpenerについてはこれを機に早々に購入して、次回鉛筆削りを紹介する際には、写真を掲載できるようにしようと思った。
回転刃タイプの後の面白いが残念な鉛筆削り
回転刃が出てきた後にも、ユニークな削り方の鉛筆削りがいろいろを作られているが、あまりヒットした形跡はない。回転刃の後は、現在も使われているシリンダー型の刃、と言うのだろうか、小さな円筒側に斜めの筋が入った刃が出てくるまでは、回転刃及びそのバリエーションが鉛筆削りの主流だったと思われる。
回転刃と似てるけどちょっと違う、「Premier Pencil Sharpener」(特許1910年)というのを持っている。一枚の金属でできた刃ではなく、一枚ずつの刃をねじで止めている。デザインとしては面白いのだが、古いせいか構造上の問題化かは分からないがほとんど削ることができない。
*Premier Pencil Sharpener
*Premier Pencil Sharpener
もう一つ、回転刃の後に出たユニークな鉛筆削り「Peerless Whittler Style B」(特許1910年)を紹介しよう。これも「3つある刃」が「回転する」という意味では、回転刃の鉛筆削りに当たるのだが、刃は手裏剣型ではなく、丸い刃で三つ目のような特徴的な外観である。
*Peerless Whittler Style B
*Peerless Whittler Style Bの裏面
*Peerless Whittler Style Bを上から見たところ。丸い刃を付けた土台が回ることで、鉛筆を側面から削ぐように削る。
見た目のインパクトとしては大変面白い刃の部分にパーツが多く付いているせいか、動きが重い感じがする。
さらにもう一つ、丸い刃を回転させているのだが、回転のさせ方がとてもユニークなタイプが「New Era Pencil Sharpener」(特許1913年)だ。ナンバリングマシンの仕組みで上下させることで削るようになっている。
*New Era Pencil Sharpener
*New Era Pencil Sharpener。丸い刃が上下して鉛筆を削りる。
これは、今でも大変よく削れるが、刃を上下させる動きが雑になりがちで、バランスよく削るのが難しい。コツを抑えられればうまくいくのかもしれないが。
これら3つの鉛筆削りを見ていると、どの道具にも言えることだが、廃れたのにはそれなりの理由があると感じるのだ。
鉛筆削りについては、いつかまた
以上で、私が持っている古くてユニークな鉛筆削りはほぼ全部紹介した。今後またコレクションが増えたり、違った軸で紹介する機会があれば是非第3弾をやりたい。とはいえ、鉛筆削りは珍しいものはなかなか手に入れにくいので、この後も手に入れられるかというとハードルは高い。もっともこういうものは、手に入れたいものがあってそれを見つける過程自体が楽しく、手に入れにくいからこそ、手に入った時の喜びがおおきいのでこれからも気長に集めていこうと思うのだ。
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