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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.63 暑~い夏はこの文具で乗り切ろう!(その3)

文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、暑い夏に使いたい、おすすめの文房具をブング・ジャムのみなさんに紹介してもらいました。

第3回目は高畑編集長おすすめのクラッシュメトリック「スイッチペン」です。

(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2022年5月27日にリモートで行われました。

一瞬でシャキッ!となるボールペン

クラッシュメトリック1.jpgSwitchPen(スイッチペン)SILVER」CRUSHMETRIC(クラッシュメトリック)

――最後は高畑編集長ですね。

【高畑】夏で、ちょっとさっぱりしたいといったときに、何があるよ? という話でね。涼しげなものというと、ガラスペンとか透明な消しゴムとか色々あるんですけど、どんよりとした天気を一瞬でシャッキとさせるというと、これは涼しげだなと思って、この「クラッシュメトリック スイッチペン」はいいなと思いました。

【きだて】まあ、みんな「氷結ペン」って呼んでるしね。

【他故】うん、「氷結」だよね。

クラッシュメトリック2.jpg【高畑】「氷結」って、お酒はともかく、一瞬で凍るような、冷えた感じがあるので。このキラキラした感じになるのは、なかなかいいなと。そもそも、ビールのアルミ缶を凹ませて作品を作るアーティストがいて、その人のアートの表現の一つとしてこのペンを作りましたということで、なかなかちょっと面白い。元に戻るのがすごいよね。

【きだて】これは、中を分解して見ちゃうよね。

【高畑】ああ、見ちゃうよね。もちろん、中に形を決めるためのガイドが入ってるんだけど、これって幾何学的には円筒の変形でできる形だからそうなるということで、おりがみの折り方の一種として、昔からこの形は知られていたんだけど。これって、クシャッってつぶすのもそうだし、折りたたむのでも、この折り方はおりがみ的な幾何学的として、この形は割といろんなところで使われている。それこそ、航空宇宙関係でもこの折り方は色々と研究されていたりするので面白いんだけど。それより何よりもこのペンが面白いのは、ノックした瞬間にわが目を疑うところだよね。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】人前でやったらウケる、ウケる。

【高畑】これはいいよね。

――これは本当にクシャッってなってるんですか?

【他故】なってますよ。

【高畑】これは、この軸の長さを強制的に縮めるんだよね。そうするとクシャッて潰れるんだけど、中に凸凹した軸が入ってて、それが折れ曲がるきっかけを中に用意しておいてあげることで、こんなかたちに潰れるんだけど。何にもなかったら、こんなにきれいに潰れないので、上手いことやってるよね。

【きだて】うん。

――これはアルミなんですか?

【他故】何だろう?

【高畑】これは、プラスチックのフィルムに、アルミ蒸着みたいな感じだと思うんですよ。だから、フィルムは比較的復元力の高い樹脂製のフィルムなんだけど、面白いのは型がつかないで元に戻るんだよね。

【きだて】そうそう。戻すと折り目がほぼ見えなくなるというのがキモだよね。なのでより驚きがあるというか。

【高畑】すごいよね。さっきまであったのがなくなった感があって、これはちょっとしたSFを見せられた感じがするよね。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】メタリックなものが、突然姿を変えたりするのって、「ターミネーター2」を観ているみたいで。

【他故】あ~、液体金属的なところがね。

【高畑】でも、そんなことはなくて、モノとしてはギュッと縮めて、おりがみのようなことをしてるんだけど、なかなか上手いなと思って。なんか、手品を見せられている感がすごくあったので、これは本当にそこはビックリしたな。

――クシャッてなった状態だと芯が出ているわけですね。

【高畑】そう。ノックがサイドレバーになっていて、これをゆっくりやると、端から順番に変わっていくので、なかなか良い。

クラッシュメトリック1-2.jpg【きだて】過冷却の水がピキピキって凍っていく感じで、これはこれで涼しげなんだよね。

【他故】はいはい。

【高畑】涼しげな感じがあるのが、いいねって思うな。見た目が涼しげというところでいくと、これは良いかなと思います。面白い。

【きだて】これは最初、インディーゴーゴーで見つけたんだけど、「クラウドファンディングが成立しました」ぐらいのタイミングだったのでこれが買えなくて、しばらく探し回ってたのよ。このアーティストさんのサイトでもまだ発売してなくて。なので、最初の1本はオークションで買ったのよ。

【高畑】あっそうなんだ。俺はサイトに載っていたのを誰かので見て、リンクされていたサイトから買ったんだけど。でも、きだてさんが早くからこういうのに目を付けて投資をしておくというのは必要なことだと思うんだけど。

【他故】さすがだね。

――これは公式サイトで販売しているんですね。

【高畑】5月から日本でも売るようになったので。きだてさんが注文した途端に、日本での販売が決まったんだよ。

【きだて】そう。「注文したぜ」みたいな事をSNSで言ったら、日本公式のアカウントが「もうすぐ日本でも販売します」みたいなコメントを付けたので、「ちくしょう」っていう(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】どっちが安いのかな? 今は海外のものは円安だからあれかな?

【きだて】手数料かかるし、送料かかるしで、アメリカから買った方がちょっと高いでしょ。他故さんはそれいくらで買ったの?

【他故】1,500円くらいじゃないの?

――公式だと税込1,430円ですね。

【他故】うん、そのぐらいでしたね。

【高畑】5本まとめて買うと、アメリカの方が安くなるんだよね。

――公式サイトだと、5本パックで6,435円ですね。

【きだて】となると、日本の方がちょい安か。

【高畑】送料とか手間とかを考えると、日本で買えるんだったら、その方がいいよね。でも、クラッシュメトリックってこれしか商品がないんだよね。これの銀色のやつと、「新商品出ました」って言ってホログラムという(笑)。

【きだて】でも、ホログラムバージョンもきれいでかっこいいよね。

【高畑】かっこいいんだけど、「そこか」っていう。ここの凹む模様が違うんだったら、絶対にすぐに買うってなるけど。

【他故】あ~。

【きだて】アーティストさんの作品自体は、いろんなかたちがあるんだよね。

【高畑】そうそう。あれはやっぱり難しいんだろうね。

【きだて】シンプルに直線だけで作れるかたちじゃないと難しいんだろう。

【高畑】あのアーティストおかしいよね、爪でやるんだよね(笑)。

【他故】爪?

【高畑】アルミ缶を指でしごきながらかたちを作ってくんだよね。

【他故】あ~はいはい。

【きだて】全部手作業でやってるのね。

【高畑】全く下書きとかけがきもなくて。爪でグイーってやってかたちを作るっていう。暇つぶしが仕事になりましたみたいな感じだよね(笑)。

【他故】暇つぶし(笑)。

【きだて】やってることは、それこそ宴会芸の一種だもの(笑)。

【他故】宴会芸か、確かに。

【高畑】これは、あの作品をペンにするためだけに設立された会社なんでしょ。すごいよね。

【他故】うん。

【高畑】そういう、汎用性のない起業ができるのが面白いよね。

【他故】ははは、汎用性(笑)。

【高畑】汎用性が全くない、ボールペン一つを売るためだけに会社が存在しているという。

【きだて】でも、要はクラファンでそれだけ売れたから、それだけのことができたわけで、まさにクラウドファンディングの良い側面でもあるし。

【他故】うん、そうだね。

【きだて】なかなか面白い仕組みだよ、クラファンは。みんなもガンガン投資するといいよ。しょうもないものに(笑)。

【他故】ははは、しょうもないものに(笑)。

【高畑】最近は、単なる先行発売になりつつあるから、もっとチャレンジングなものを出してほしいよね。

【他故】出てほしいね。

【高畑】こういうのをもっと見たいよね。文房具で、これまでになかったチャレンジをすること自体がさ。今は、みんなもっと手堅いところでものづくりをするじゃん。きだてさんが面白いと思うものが出てくる世の中こそが豊かな世界だっていう。

【きだて】そうそう、そうなのよ。こういうのがガンガン出てくれないと困っちゃうのでね。

【他故】本当にそうだよね。

【高畑】ある意味、書けるボールペンは完成したじゃんって思うわけですよ。

【きだて】はいはい。

【高畑】書けるかどうかじゃなくってさ、というところに文房具は来ているんだけど。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】だから、「もう要らない」じゃなくて、だからこそ、今から「遊ぶ」だと思うんですよ。これからは文房具にとっての老後なので。老後がつまらない人と楽しそうな人がいるじゃないですか。役割を解かれた途端に面白くなる人っているわけですよ。

【きだて】はいはい(苦笑)。

【高畑】別に、リフィルがちゃんとしてれば書けるんだからさ。何ならリフィル交換すればいいんだから。

【他故】全然書けるね。

――中のリフィルは普通の油性なんですか?

【他故】ゲルインクですよ。

【高畑】ゲルの共通規格だから、ゼブラとか入れても入るんじゃない。

【他故】多分、ゼブラとかパイロットとか入るんじゃないかな。

――じゃあ、その辺は自己責任で。

【他故】自己責任で(笑)。

【高畑】今回が「夏」というテーマだったけど、夏っていう感じがするね。

【他故】あー分かる。

【高畑】涼しげな夏っぽい感じがすごくするので、割と好き。いや、イロモノは基本的にきだてさんに任せようと思ってるんだよ。でも、この爽快感は、久しぶりに見た気持ちよさがあったので、これは買おうと。

【他故】これはいいよね。

【高畑】これは面白いし、持ちたいと思ったので。これ系の衝撃の中では、純度の高い衝撃を受けた。

【他故】はいはい(笑)。

【高畑】純度の高い驚きというか、これまでに見たことのないような感覚があったので。なかなか、こういうのはたまにしか見られないな。

――今、このサイトを開いてみてるんですが、ここに載っている動画をずっと見ていても飽きないですね。

【高畑】あとね、これを作ってるアーティストのページがあって、缶をちょっとずつ凹ませていく動画があるんですけど。印刷されていないアルミ缶を、爪で印をつけながらちょっとずつ凹ませてアートを作るんだけど、この動画をぼんやり見ちゃうんだよね。なかなかいいよね。

【きだて】わかる。

【高畑】缶を凹ませるだけアーティストってすごいよ(笑)。でもね、凹ませるバリエーションはめっちゃあるんですよ。いや、何が仕事になるか分からないね。多分、最初は凹ませて遊んでただけでしょ。何か話をしながら、手持ち無沙汰でさ。

【きだて】そんな感じだよね。

【高畑】レシート折り曲げて犬を作りましたというのと同じじゃん。

【きだて】アートと言えばアートなんだろうけど、本質としてはすごい一発芸に近いような。

【高畑】それがこうやって注目されて、1ジャンルとしてアーティストとしての地位を作るに至っているわけだし。それをペンにしようって思った人が誰なのか知らないけど、考えた人は偉いよね。あのアートを見てこのペンが作れると思って、この構造を考えた人はすごいよ。あの缶を知ってても、あれはできないよ。

【きだて】だと思うよ。

【高畑】中をちょっと縮めてあげれば、このかたちになるとかさ。

【他故】そうだね。

【高畑】そのためだけに会社を作ってさ、そのためだけに生産をはじめるというのがさ。リスクの取り方が面白いよね。こういうのが見られるようになったのがいいよ。

【他故】いい時代になったね(笑)。

【高畑】だから、「もっと出てこい」って感じですね。

――見ていて飽きないので、いいんじゃないですかね。

【高畑】きだてさん的には、何かに投資していて待っているものってあるの?

【きだて】今はない。

【他故】ないんだ?

【きだて】ここ最近はねー。海外でも驚くようなのはこのクラッシュメトリック以外は見てないかな。

【他故】ああ、そうなんだ。

【きだて】昔ほどの破天荒さが失われてきたというか、それ中国の通販サイトで見たぞ?みたいなのが増えて。昔は超コンパクト超音波カッターみたいなすごいのもインディーゴーゴーで買ったんだけどな。

【高畑】僕も前は、インディーゴーゴーやキックスターターでちょこちょこ買ってたりしてたけど、最近はほとんど買ってなかったんで。あと、日本で売ってないものを海外のサイトに行って買うというのも減ったと思うのね。普通に日本のお店で売られることが多いから、大抵のものは日本でも手に入るというのもあるし、Amazonでも取り扱ってないようなものをわざわざ買うのも面倒くさいと思っているんだけど、その敷居を越えてでも今回は買ってみようかと思ったぐらいの力はあったので。また出てきてくれるといいなと思う。

【きだて】今回のは、久々のヒットだったよ。

【他故】本当にそう思うよ。

【高畑】それが、他にない面白さだったので。

【きだて】チェックしてないと、こういうのは見逃してしまうので。この「スイッチペン」も一回見逃してたので、ちょっと油断できないなと思って、最近はまた改めてちゃんと見るようにしてる。

【他故】改めて(笑)。

【きだて】やっぱ、サボっちゃダメだね。

【他故】そうか~。

【高畑】これ、キリンとコラボしてくれるといいけどね。「氷結」とか「ファイア」とかやってくれるといいのに。

【他故】ドリンク6本セットで買うとこれが1本付いてくるとか、そういうのをやってほしいね。

【高畑】多分、この軸の中に印刷すればできると思う。

【他故】これできるか?

【高畑】これ、フィルム巻いているだけなんだよ。それを筒状にしているだけだから、平たい状態の銀色のフィルムに印刷してから切れば、多分作れると思う。

【他故】行けるか?

――でも、これはキリンのノベルティでいいんじゃないですか。

【高畑】そうそう、ノベルティでね。

【きだて】多分、行けると思う。

【高畑】まあ、面白いものを手に入れたので、スッキリ涼しい感じが夏っぽいかなと思いました。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が好評放送中。ラジオで共演しているふじいなおみさんとのユニット「たこなお文具堂」の著書『文房具屋さん大賞PRESENTS こども文房具 2022』が発売中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


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