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【連載】他故となおみのブンボーグ大作戦!Bootleg #010 セーラー万年筆「ゆらめくインク 万年筆用ボトルインク」
30分間、文房具の話題だけをお送りするラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」のパーソナリティ「なおちゃん」こと、ふじいなおみです。
番組では毎週たくさんの文房具が登場します。その中から、他故さんとなおちゃん2人で選んだ商品をピックアップ。より掘り下げてご紹介していきます。
ゆらめくインク(左から「狐日和」「白夜」「極夜」)
今回は、2022年1月30日On Airの「オープニング」でご紹介した、セーラー万年筆の「ゆらめくインク 万年筆用ボトルインク」をピックアップします。
万年筆インク沼人を夢中にさせる「きっかけ」
万年筆インクに「沼」があることが世の中に知れ渡ってきた今日この頃。その沼にはもちろん浅瀬もあるのですが、中心へと進めば進むほど深くなり、そして底がなくなるとも言われています。初めは恐る恐るほとりからみている方が多いのですが、ある「きっかけ」で思わずダッシュしてしまい、その結果、深みにハマるというケースが多いようです。
その「きっかけ」こそ、万年筆インクに起こる不思議な現象です。
これにはいくつかのパターンがあります。
1.フラッシュ
インクが多めに塗られた部分に光が当たると、インクそのものの色とは別の色に光って見える現象です。青系インクが赤く光る「レッドフラッシュ」や茶色系インクが緑色に光る「グリーンフラッシュ」などが有名です。
ブルーブラックインクのレッドフラッシュ(インクは石田文具「函館トワイライトブルー」)
2.遊色(ゆうしょく)
1つのインクで筆記しているのに、いくつもの色が浮かび上がって見える現象。特定の紙でのみ見ることができる場合も多いので、万年筆インク沼の住人は紙にも詳しくなりがちです。
遊色するインク(インクは大丸藤井セントラル「夕染白群」)
3.経時変化
昔ながらの作り方のインクには、含まれている成分が酸化し長い期間をかけて徐々に色が変わるものがあります。それ以外にも、書いて数秒で色が変わっていく万年筆インク(染料インク)があります。例えば、「緑→青」や「紫→青」というように、です。
そのようなインクで文章を書いていると1つ前の行と今書いた文字の色が異なって見えるので、とても興奮します。
4.紙によって色が変わる
書く紙により異なる色に見えるインクも存在します。私が初めて出会ったこの種のインクは、ある紙では水色、別の紙では緑と全く違う発色をし、インク帳を作る際にも「どちらが本当の色なの?」と頭を抱えたことがあります。
このような現象は存在が確認されるとSNSで発信され拡散されて、人気商品となることが多いのです。
石丸さんは「揺色(ようしょく)」と表現した
セーター万年筆のインクブレンダーとしてとても有名な石丸治さんは、イベント「インク工房」を全国で開催し、数えきれないほどのお客様の理想のインクを生み出してきました。その石丸さんは前述の現象をすべて含めて「揺色」と呼んでいらっしゃいます。
2021年10月にブンボーグ大作戦!で開催したトークライブ「ご当地インクでSHOW!」で伺った話なのですが、インクに起きるさまざまな現象は人によって捉え方が異なる場合があるそうで、先ほど書いたような現象を広く括って「決して安定しているわけではない『揺れる色』→『揺色』」と呼ぶようにしたそうです。
ちなみに、「インクをどのようにブレンドすると揺色を生み出せるのか?意図的に生み出せるのか?」という質問にはこのような返答をいただきました
「ある程度メカニズムは理解できてるつもりなので、ある程度のとこまでは、『こうやればこうなるだろう』というところはわかっています。けれども、必ず絶対にこれがこうなるというふうには断言できないんで『やってみなきゃわからない』」。
石丸さんの開催するイベント「インク工房」でも「揺色」を希望するお客さんが多いそうで、ここでも人気の高さを感じ取ることができます。
「123」「162」そして「224」「252」「280」
さて、暗号のような数字をいくつか挙げました。これらはある共通するものの名前です……。
なぞなぞではないので答えを明かします。セーラー万年筆の100色インクのうち「揺色のインクの名前」です。
イベント「インク工房」で培われてきたノウハウやお客様の声を元に、2018年春に発売されたのが「万年筆用ボトルインク インク工房」(以下、100色インク)です。発売時には、100色ものバリエーションを生み出したその商品展開に万年筆ファンの間には驚きの声が上がりました。また、「123」や「162」のように数字3桁で記載された色名は、初めは違和感があったものの徐々に法則が見えてきて、無機質な3桁の数字に愛着が湧いてくるという不思議な感覚もありました。
そして100色インク発売から1年半経過した2019年9月、セーラー万年筆は出荷ベースの人気色ベスト10をプレスリリースとして発表します(記事はこちら)。100色の頂点を獲得したのは「123」。そして2位は「162」でした。どちらのインクも他の定番インクにはない色味のインクでした。
この2色については次のように記載されています。
SNS上では、発売直後より淡い色味のインクを中心に“今までにない色”として人気となりましたが、その中でも特に「123」「162」は“変色する”“紙によって色が変わる”とユーザーの間で話題になり、その口コミが波及していきました。
また、2020年8月には「123」「162」の人気を受けて生まれた100色インクの新色「224」「252」「280」が発表されました。この3色も淡い色味のインクで濃淡により違う色に見える特徴が挙げられました。
左「123」と右「252」
実際に5種類の紙に「123」と「252」を塗ってみました。紙は上からコピー用紙・グラフィーロ・バンクペーパー・iroful・ヌルリフィルです。1つのインクとは思えないほど様々な表情を見せるだけでなく、紙によっても異なる発色が確認できます。
ゆらめく = 揺らめく
「揺色」で万年筆インクファンの心をつかんだセーラー万年筆が、2021年11月30日に発売したのが、今回ピックアップした商品である「ゆらめくインク」です。
プレスリリースではこのインクの特長を次のように説明しています(記事はこちら)。
「濃淡や滲みなどに違う色が垣間見え、また時間の経過や書く紙によっても色彩が変化していくインクです。」
「ゆらめく」を漢字で書くと「揺らめく」。石丸さんが使用されている表現「揺色」としっかりつながります。
このインクの開発時のエピソードを石丸さんより直接伺う機会がありました。石丸さんと企画担当者がタッグを組み「石丸さんがインクをブレンドする」→「担当者がOK /NGを決める」→「石丸さんが次のインクをブレンドする」……という繰り返しにより選び出された9色とのこと。
加えて、今回のインク名はすべてが空に関連する言葉になっていて、響きがとても美しいことも魅力です。
色見本を作成(紙はヴァンヌーボ)
この中から、今回私は「狐日和」「白夜」「極夜」の3色を購入しました。
左から「狐日和」「白夜」「極夜」
筆記見本に使用した紙は先ほどと同様、上からコピー用紙・グラフィーロ・バンクペーパー・iroful・ヌルリフィルです。
なお、この3色を使用して筆記見本の作成とインク蝶によるクロマトグラフィーを行なっている動画を私のYouTubeチャンネルにて公開しています。
色の経時変化が起こる「狐日和」。
遊色が美しい「白夜」。
経時変化しつつ遊色が起こる「極夜」。
……と私は感じ取りましたが、あなたはいかがでしょうか?
ぜひ、実際にインクを手元に置き「揺色」を体感してみてください。万年筆インク沼の中からお待ちしています。
商品情報
セーラー万年筆「ゆらめくインク 万年筆用ボトルインク」
色(全9色):狐日和(KITSUNE BIYORI)/雨催(AMAMOYOI)/白夜(BYAKUYA)/極夜(KYOKUYA)/極光(KYOKKOU)/凍空(ITEZORA)/寒暁(KANGYOU)/夕(SEKI)/宵(YOI)
インク:水性染料インク
容量:20ml
価格:1,650円(税込)
ブンボーグ大作戦!こぼれ話
プロフィール
ふじいなおみ
1979年北海道札幌市生まれ。ラジオパーソナリティ/文房具プレゼンター
ナナコライブリーエフエムで放送中のラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」のパーソナリティ及び制作・技術を担当。
他故壁氏さんとユニット「たこなお文具堂」として、文房具の楽しさを伝える活動を開始。
万年筆インク(中でもご当地インク)コレクターであり、2015年生まれの娘とともに学童文具の観察を行う。
そして、きだてたくさんと色物文具をひたすら紹介する動画コンテンツ「イロブンの引き出し開けていこう」も配信スタート。
【他故となおみのブンボーグ大作戦!】
埼玉県朝霞市のコミュニティFM「ナナコライブリーエフエム」にて放送中の30分間文房具の話題だけをお送りするラジオ番組。
パーソナリティーは他故壁氏&ふじいなおみ。
放送時間は毎週日曜日19:30~20:00/毎週水曜日 11:30~12:00(再放送)
FMラジオ77.5MHz(埼玉県朝霞市・志木市・新座市・和光市とその周辺地域)の他、パソコンやスマートフォンではListenRadioのサービスを利用すると気軽に聴くことができます。
詳しい聴き方は番組Webページへ
https://daisakusen.net/howto/
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