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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.56 色にこだわった気になる最新アイテム(その3)
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。
今回は、色にこだわった気になる最新アイテムを紹介します。
第3回目は、自分で作るスタンプパッド「いろづくり」(シヤチハタ)です。
(写真右からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2021年11月9日撮影
*鼎談は2021年10月29日にリモートで行われました。
作って楽しい! 捺して楽しい!
――次は「いろづくり」です。
【高畑】ナガサワ文具センターが「インクの空き地」というスタンプパッドを作ったんだよね。
【他故】空っぽのやつ。
【高畑】万年筆のインクを吸わせるんだけど、万年筆インクだから半日ぐらいしたら乾いちゃうんだよね。こっちはスタンプインクで、白いパッドに好きなようにインクを垂らして使えますよということなんだよね。
【他故】そうそう。元々「いろもよう」というインクパッドのシリーズがあって、それが何色もあるんだよね。それに対して、これは「混色できますよ」というのをウリにしてるんだよね。
【高畑】シヤチハタだと、色が混ざってる朱肉があったじゃない。
【他故】ああ、「わたしのいろ」だ。
【高畑】あれも、出る度に瞬殺で売り切れるんだよね。すごい人気で。ああいう色がまだらになったものって、捺すとすごい雰囲気出るじゃん。
【他故】出るね。
【高畑】それが、自分の好きな色の組み合わせでできますよというのはすごく分かる。
【他故】この「いろづくり」に入れられるインクが、「いろもよう」の補充インクなんだよね。
【高畑】そうそう。
【他故】何色あるんだろう? 29色か。
【高畑】これ、29色全部あるの?
【他故】29色分の補充インクがあるので、それを「いろづくり」に入れて、好きな色にできます、ということだね。
【高畑】他は万年筆用のインクを使うから、すぐに乾いちゃったりするけど、これは、元々スタンプ用のインクで作るので、カスタムで作るけどちゃんとしたスタンプパッドなんだよね。そこはやはりシヤチハタの安心感はあるよね。
【きだて】うん。
【高畑】最近流行っている、カスタムで色を作れるのって、メーカーからしてみたら、作っている途中の部品をバラバラに売っているだけと言えばそうなんだけど。
【他故】ははは(笑)。
【きだて】多いよなあ(笑)。
【高畑】でもこれはシヤチハタなので、ちゃんとスタンプ用のインクが付いていくる。スタンプ用の補充インクってさ、普通売ってるのは黒と赤と青ぐらいしかないところなんだけど、シヤチハタが「いろもよう」でやっているニュアンスがある色を補充用インクで出すというのが、それができるメーカーだからすごいよね。
【他故】そうそう。
【高畑】色をDIYしたいというのは、トレンドとしてあるよね。
【きだて】混色に関しては、思った色を出そうとすると難しいじゃない。
【他故】それは難しいね。
【きだて】なんだけど、そもそも「わたしのいろ」というのが先行して出てるからさ。色がまだらになってても面白いよね、というのが分かったうえで使うと楽しいんだよな。
【他故】そうそう。それは本当にそう思うね。
【高畑】「わたしのいろ」を使ってみて分かったのは、「何じゃこれは」と思うようなまだら色の模様になんだけど、スタンプで捺してみるといい感じになるんだよ。
【きだて】そうなんだよね。あれが面白いもので、なかなかの発明だなと思ったんだよ。
【高畑】例えば、「絵を描きなさい」と言われたらすごく難しいんだけど、スタンプで捺すとそのまだらがいい感じに見えるんだよね。
【きだて】しかも、一度捺したものと同じ色配置にはまずならないでしょ。それがまた楽しかったりさ。「それは売れるやろ」と思ってたんだけど。
【高畑】それで、適当にやった下手くそ感が出ないんだよね。それがいい感じの味に見えちゃう。そこがやっぱりすごいよね。
【きだて】何だかんだでそれっぽくなるのが面白いよね。それは多分、元の色の良さもあると思うんだけど。
【他故】うん。
【高畑】「わたしのいろ」の“暁”と“月夜”という2色を持ってるんだけど、月夜なんてそれが上手い組み合わせかどうかなんて分からないよ。だけど、これで普通のスタンプで捺すと、それっぽく見えるんだよね。不思議。だから、このまだら模様が案外悪く出ないから不思議だなと思って。スタンプパッドって、必ずしもきれいなグラデーションである全然必要はないんだよね。
【他故】そうそう。スタンプパッドの面がきれいな必要は全然なくて、でも捺してみるといい感じという不思議な状態になるんだよね。
【高畑】適当にやってみたら、適当にきれいになるという、これもちょっとしたマジックがあるので。
【他故】今回作ってみて、すごく楽しかったですよ。こんなに楽しいんだと思うくらい。印面を作る段階でむちゃくちゃ楽しかった。
【きだて】染み込ませるの楽しいね(笑)。
【他故】楽しい。それで、思った通りにいかなくても全然関係ないしね。捺したときに良かったら。
【高畑】そうなんだよ。この時点で上手いかどうかも分からないし。だから下手くそというのが出ないんだよね。子どものときの「ねるねるねるね」みたいなお菓子があるじゃん。
【きだて】知育菓子系の。
【高畑】あれで、ポタポタ落として色んな色を着けて固まるようなのがあったじゃん。
【きだて】やっぱ、実験感とかさ。
【高畑】そうそう。「科学と学習」の付録を組み立てるみたいな。
【他故】あーはいはい。分かる、分かる。
【きだて】これも、インクじゃなくて「1の液」「2の液」という名前にしたら面白かったんじゃない。
【他故】ははは(笑)。
【きだて】「1の液と2の液、3の液を適度にスタンプパッドにたらします」みたいな。
――それは、女子は食いつかんでしょ。
【きだて】女子は食いつかないか、ダメか(笑)。女子はインクにステキ名前が付いてないとダメなのか。
【高畑】「デザインセンス試験液」って書いてあるんでしょ(笑)。
(一同爆笑)
【きだて】恐くて使えないわ。その試されてる感嫌だわ(笑)。
【高畑】でも、その実験感があるよね。ポタポタやる実験感が楽しいので。
【きだて】ある程度考えながらというか、多少苦労しながらインクをたたき込むじゃない。できたものにケチのつけようがないんだよね。
【他故】ああ。
【きだて】捺す事前準備に手間をかけている上に、結果としてはどうやってもそれなりに良い感じで収まるでしょ。だからどんな状態でも「うん、これはこれで良し」になる。失敗しようがない体験型ホビーなんだ。
【高畑】文字や絵を描いたら「俺は下手だな」というのが分かっちゃうけど、スタンプは買ってくればいいわけだし、捺す色の感じは上手いんだか下手だか分からないし、やったらそれっぽい雰囲気になるから、この失敗しない感はいいよね。
【他故】これ、何が良いって、スタンプパッド自体は作品ではないので、別に恥ずかしくも何ともないんだよね。
【きだて】そうそう。
【他故】これで完成なら考えるかもしれないけど、これで絵として完成じゃないからさ。
【高畑】案外変な色になるじゃん。
【他故】なるなる。
【高畑】そうなるのに全然問題ないところがすごいよね。これは不思議。
【他故】面白いな、これ。
【高畑】逆に、インクが余るからさ。このパットだけいくつか買ってきて、色々と作ればいいんだよね。
【他故】そうだね。色の組み合わせをちょっと変えるだけで、大分印象も違ってくるし。
スタンプパッドの作成例
――これは、先日の文具女子博のインク沼イベントに出品して、秒殺で売れたらしいですよ。
【高畑】これもインク沼の一種だよね。結構な勢いでインクを消費させる、なかなか面白いツールではあるよね。
【きだて】消費するか、これ?
【高畑】いやだから、パッドを作るためにインクをポタポタとやって、また新しいパッドを作るためにポタポタとやってとか。このインクがカスカスになるまで捺したりしないじゃん。
【きだて】まあね。そうだと、インクを消費させるというより、パッドを消費させるんじゃないのか。
【高畑】ああ、そうかもしれないね。
【他故】パッドは貯まるよね。
【きだて】パッドっていくら?
――税込440円ですね。
【きだて】あっ安い!
【高畑】実験みたいにポタポタやるのを楽しみたいとなると、インクもパッドもどんどん消費していくわけじゃん。それが捺されるかどうかはともかくとして。
【他故】これは、消しゴムはんこ系の人にはすごくウケるんじゃないですか。
――いいんじゃないですかね。
【他故】今までにない、自分の色が作れるわけだから。
【高畑】こんだけ色があって。29色あるじゃん。好きな人って、29色全部揃えてからやろうとするじゃん。29色のインクと、パッドを5、6個買うじゃない。こういうのを色水商売っていうんだけどさ。
【きだて】呉竹もシヤチハタも、良くないことを覚えたなぁ(笑)。
【他故】みんな頑張ってるんだよ(笑)。
【高畑】「あれ欲しい、この色もいい」とか言っていて、気が付いたらレジでびっくりする系でしょ。
【他故】まあね。
――これ、キットだとインク3色入ってますけど、必ずしも3色で作るとは限らないですよね。
【きだて】それ以上使うととんでもないことになると思うよ。
【他故】グラデーションというか、マーブルっぽく作りたいんだったら、もうちょっと色があっても面白いかもしれないね。僕も今回、3色でどんなモチーフがいいのか混ぜてみて、結局仮面ライダーアマゾンになってしまったんだけど(笑)。
(他故さん撮影)
【きだて】それがグルグル回って「ウルトラセブン」って出るのかと思った。
【他故】実は、セブンの後期のオープニングの砂絵にするつもりだったんだけど(笑)。
(一同爆笑)
【高畑】ほんと他故さんだな(笑)。
【他故】あれをやりたいんだったら、色が6色欲しい。
【高畑】欲しくなっちゃうよね。
【他故】やってみたい。
【きだて】これ、色を合わせてドイツ軍の迷彩とか色々とできそうじゃん。
【高畑】そうそう。迷彩とかは全然できるよ。
【きだて】都市型迷彩とかも作れるじゃん。
【他故】タイガーパーターンとかもね。
【きだて】俺はダックハント迷彩っぽく仕上げました。
【他故】分かる、分かる。
【きだて】これ、ハンコに捺すのも楽しいけど、パッドそのまま紙に押しつけるのも楽しいんだよね。
【他故】はいはい、いいね。
【きだて】そういう楽しみもあって、これは色々と楽しめたよ。
【高畑】それで導入して楽しんだら、もう1回インクとパッドをちゃんと見たいなと思って。あと、実験的に楽しむんだったら、どうしてもインクの色を揃えたいとなっちゃうよね。いや~これは恐ろしいやつだ。
【きだて】インクこれだけ使っちゃうと、混色も試したくなるじゃない。
【他故】なるね。
【きだて】大分危ないキットだね。
【高畑】危ないキットだよ。案外色々と揃えちゃって。だから、これもインク沼ではあるんだよね。沼に引きずり込む系のアイテムではあるよね。
【他故】そうだね。
――これは「いろもよう」を持っている人は確実に欲しいでしょうね。
【きだて】そうだろうね。
【高畑】自分が持っている色は分かるから、「この色とこの色で作りたい」というのはあるんじゃないかな。
【他故】段々と、1色のスタンプパッドがつまらないものに見えてきちゃった。
【きだて】ははは(笑)。
【他故】「毎回違っていいよね」って思いながら捺しているから、たまに普通の黒とか朱で捺すと「つまんない」ってなっちゃう(笑)。
【きだて】分かる(笑)。
【高畑】「いろもよう」にはかわいい色がいっぱいあるじゃん。それを使ってると、黒いスタンプパッドは、本当に黒だなと思っちゃう。それはあるよね。
【きだて】普通の黒のスタンプパッドや朱肉に対して、「芸がないな」と思う日が来るとは思わなかった。
【他故】そんな日が来るとは(笑)。
【高畑】それで、家のローンなんかのハンコをこれで捺すとかね。
【他故】ははは(笑)。
【高畑】誰かが言ってたけど、ピンクのスタンプパッドを使っても、法的には問題がないんだっけな。前にネットで話題になってたと思うんだけど。
【きだて】朱が一般的、ってだけだもんね。
【高畑】あと、実印にデザインハンコを使っても構わないんでしょ。
【きだて】そうそう。登録してあれば問題ない。
【高畑】ここのところ、ハンコがあれだったじゃない。コロナ禍で、世の中の事務作業がはかどらない諸悪の象徴みたいに言われてたじゃない。
【他故】ああそうね。
【高畑】「ハンコがないとダメ」という頭の固い上司がいることは確かだし、そういう仕組みを作っちゃってるんだけど、今シヤチハタがすごい苦労しているのは、ハンコが何に使えるのかとか何が楽しいのかをもっともっと考えなければいけなくなったわけじゃん。「マニアの人がいっぱい買ってくれるよね」という話をしてたけど、ハンコ自体を普通の人が使わなくなりつつある中で、「ハンコを捺すの楽しいよね」というのをやっていかないといけないよね。
【きだて】ハンコが生き延びる途の模索の一つなわけじゃん。それを思えば、シヤチハタも大変だなと思うけど。
【高畑】でも、「わたしのいろ」が瞬殺で売り切れたりとか、インクパッドがイベントであっという間に売り切れちゃったりというのをみると、まだまだね。それこそ、万年筆だって機能だけでいえばすでに終わっちゃってる筆記具だし、筆ペンもそうだろうし、スタンプもそうなんだろうけど、上手く遊ぶ方法はちゃんとあるんだろうね。
【他故】そうだろうね。
【高畑】やっぱり趣味にはなってくるよね。単なる認証だったらデジタルでいいやとなっていきそうだから。これは、ハンコそのものをどう遊んでいくかというのを柔軟にやっていかないと。
【きだて】DXだなんだ騒がれてる現状だと、生き残れる率はかなり低まってるよね。
【高畑】ゼロにはならないと思うけど、大半のことはデジタルにしましょうとなっちゃってるからね。
【きだて】これからは、ホビーとして生きるか、仮面ライダーの変身アイテムとして生きるかの二択だよね。
【他故】ははは(笑)。あっちもスタンプだよな。
【きだて】とりあえず俺は、今回「いろづくり」で作ったスタンプパッドで、「請求書在中」のハンコを捺して送りました。
【高畑】うん、そういうことだ。
【他故】それでいいよ。
【きだて】そうやって使っていかないといけないな。
【他故】そうそう。
【高畑】消しゴムはんこのときにすごい思ったんだけど、ただ絵を描いたのと、描いた絵をハンコにして捺したのって、別に量産の必要がなくても、ハンコを捺したものの持っている独特のかわいらしさというか、雰囲気って何かあるじゃん。
【他故】あるね。
【高畑】スタンプラリーのスタンプってさ、手描きとは全く違う、フォーマットとしての美しさというか、面白さがあるじゃない。ハンコの面白さってあるよね。きだてさんは落款なんかも作っていて、そういうのもいいよね。これで色んな色の組み合わせがいくらでもできるのが分かったので、いろんな遊び方ができるよね。
――これだけブング・ジャムのみなさんが楽しんでおられたので、いろんな人が楽しめるものだということが分かりましたよ。
【高畑】案外楽しい。
【他故】これ楽しいっすよ。
【きだて】インクを染み込ませるのも、意外と失敗しないしね。
【他故】しないね。恐る恐るやってたけど大丈夫だったね。
【きだて】インクパッド1個で「エモットペンシル」2本と考えればいいんだよ(笑)。
【他故】2エモットだ(笑)。
【高畑】こういう、失敗しない手作りの楽しさだけを味わえるというアイテムは良いよね。
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE」で好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
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