1. 連載企画
  2. 【連載】月刊ブング・ジャム Vol.51 これは便利! 最新アイデア文具をピックアップ(その2)

【連載】月刊ブング・ジャム Vol.51 これは便利! 最新アイデア文具をピックアップ(その2)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。

今回は、最新アイデア文具を取り上げました。

第2回目は、コクヨの「本当の定規」です。

写真左から他故さん、きだてさん、高畑編集長*2020年11月7日撮影
*鼎談は2021年5月24日にリモートで行われました。

より正確な長さが測れる定規!

1.jpg本当の定規」(コクヨ) 一般的な定規のように「太さ(幅)がある線」ではなく、幾何学の定義でいうところの線=「太さ(幅)がない線」で目盛りを表現した定規。等間隔に並べた面と面の間に生まれる境界線で位置を測ることで、より正確な長さを計測することができる。「コクヨデザインアワード2014」優秀賞を受賞した作品を2017年に商品化し、コクヨ公式オンラインショップ「コクヨショーケース」とコクヨ直営ショップ「THINK OF THINGS」だけで取り扱っていたが、このほど生産体制を強化し、全国での販売を2021年4月14日から開始した。15㎝定規で税込1,100円。

『本当の定規』を楽天でチェック

『本当の定規』をAmazonでチェック

――次は「本当の定規」です。

【高畑】「『本当の定規』は本当に本当の定規か」という動画をアップしたんだけど、それはこの定規がダメと言っているわけではないので。これは思考のある種の実験であって、今まで何でこんな定規がなかったのかということでもあるし、「全ての定規がこれに置き換わればいいじゃん」という単純な話ではないんだけどね。ただ、「こういう風に考えれば、定規はこっちの方が正しく表示できるんじゃないか」というのは、デザインアワードが提示すべきものは何なのかということなんだけど、これは面白いなと思ったのね。

【きだて】思考実験として面白いし。

【高畑】実際に使えるんだよ。

【他故】使えなくはないからね。

【きだて】俺も今まで、定規の目盛り線の太さに対して、イライラさせられてきたわけですよ。カッティングの線を決めるときに、例えば7㎜の位置でダンボールの両端に線を入れたい場合、目盛り線の太さで微妙にコンマ数ミリ傾いたりというのは、全然普通にあるじゃない。

【高畑】はいはい。

【きだて】そもそも目盛り線の太さやペンのチップの太さでどんどん狂ってくるので、せめて定規の線をバシッと決めるというこの考え方は、すごく面白いと思うんだよ。

2.jpg
【高畑】ぱっと見で位置合わせをするときに、ミリの単位でぴったり合わせたいというときには全然これでいいし、ミリでピッタリ合わせようとするときは、特にもう1個定規を持ってきて位置合わせをするときって、目測で合わせるんだったら「本当の定規」の方が合わせやすいというのがあって、多分モデラーの人とかが「合わせやすい」と言って一時期騒いでたのよ。それはよく分かる。手作業での目検討で一けた下の精度が出せるというのはあるんだよね。

【他故】ああ、そっか。

【高畑】だから、道具としても全然アリなんだよ。

【きだて】初めてこれを使ったときに、「うわあ、頭いい」って感心したのよ。

【他故】ははは(笑)、分かるよ。

【きだて】現状でもそんなに不満はないんだけどね。

【他故】別に不満はないよ。

【高畑】不満はないし、普通の物差しよりケタを上げて何かを見たかったら、ノギスみたいに副尺を使うとか、デジタルを使うとか、いろんな方法があるんだけど、この定規はあくまで、目盛りを目視で読み取るわけで、それならこれで充分に精度は出てるんだよ。後は、見やすいかどうかの問題だけなんで。最小単位が0.5㎜ぐらいでしょ。

【他故】1㎜測れる側と0.5㎜測れる側があるね。

【高畑】最小単位が0.5ぐらいだったら、全然その精度でいい。要は、モノの出来としては、精度が高すぎるぐらい高い。なので、道具としては全然使いやすいと思う。

――最初に世に出たのは結構前ですよね。発売は2017年ですね。

【高畑】THINK OF THINGSで「本当のノギス」も売ってたよね。



*現在は販売されていません

【きだて】出てたね。

【高畑】「本当のノギス」も見やすくて、ぴったり合わせやすいよというのがあったけど。

――ここに来て量産体制に入ったわけですね。

【高畑】まあ、普通のステンレス定規と目盛りが違うだけだから。本当に量産しようと思ったら、できるはずだけどね。

【きだて】全然問題はないでしょうよ。

――今これ売れすぎてて、本当に品薄みたいですね。それだけこの定規を欲しい人がたくさんいるということですかね。

【他故】ていうか、この定規があることをみんな知らなかったんですね。文房具店で売ってなかったけど、出てはいたわけですから。

――THINK OF THINGS以外でも販売するというこは、ユーザーから結構リクエストが来ていたということですか?

【高畑】それは来てたんじゃない。作っては売り切れを繰り返してたんでしょ。

――「Bun2」の読者から、この定規を取り上げてほしいというハガキがきたぐらいですからね。

【他故】みんな関心があるんですね。

――店頭での一般販売が始まったので紹介しても大丈夫なので。でも、30㎝定規の方は在庫がなくなったら販売終了になるそうですよ。

本当の定規.jpg15㎝と30㎝の「本当の定規」。30㎝は在庫限りで販売終了。

【きだて】俺は逆に、カッティング用に45㎝のが欲しいと思ってるのに(苦笑)。

――きだてさんは工作するから。

【他故】30㎝じゃ足りないよね。

【高畑】やっぱ合わせやすい?

【きだて】合わせやすいね。さっき文具王がコンマ一つ下の精度と言っていたけど、確かに体感でそれくらいいくのよ。ピタッと決まるというか。

【他故】はいはい。

【きだて】なので…本当のカッティング定規欲しいな。

【他故】ははは(笑)。これ、目盛りだけだったら、ステンレス定規じゃなくても作れるよね。

【高畑】それはプラ定規でも全然作れるんじゃない。

【他故】プラ定規でも、ある程度の精度があれば作れるわけだよね。それはそれで欲しいと思うけどな。

【高畑】極端な話、本当にそれができるんなら、これからは定規の1ラインアップとしてこれを作りますとかはあってもいいと思うし。だって、こんだけ商品足りないと言っているのが、どれくらいの数なのか分からないけど、それだけ市場があるんだったらアリだよね。

【他故】透明な樹脂で作って、片側にカッティングエッジを入れてくれたら絶対に買うよ。

【高畑】もっと言えば、これが本当に革命的ならば、「コクヨの定規全部これにします」ぐらいの感じで。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】「のりを全部四角くします」みたいな感じで、「定規の目盛りはこれにします」と(笑)。

【高畑】そうそう。

【きだて】JIS取れないから、さすがにそれでは仕事できないという人もいるけどね。

【高畑】でもね、JIS取った定規で測んなきゃいけない理由ってあんまりなくて。JISって最低限を揃えるためのルールなのね。あるところ以下の精度や性能のものが氾濫してしまうと困るという戦後の混乱期に作ったものなので。

【他故】ああ、はい。

【高畑】「ひでーぞ、これ」というものが生まれないために作っているものであって、これ以上に高い品質のものはJIS取っていようがいまいが関係ない。あとスケールは計量法というのがあって、物を測って売るみたいなときには、そういうのが必要だったりするかもしれないけど、基本ものを作るときには、「JIS取ってないから使えない」というのは全然違うと思う。だってある意味、JISが追い付いていない先のものを作っているわけでしょ。

【他故】まあ、そうだね。

【高畑】それはそれでいいんだよねと思う。

【きだて】うむ。

【高畑】ミリ単位で合わせやすいというのがすごくあるので、そういう意味ではもの作る系の人たちにとっては使いやすいと思う。

――ここで声を大にして言えば、45㎝の定規を作ってくれるかもしれませんよ。

【きだて】30㎝をもう作らないと言ってるのに、45㎝作るかね?

――それは分かりませんよ。

【高畑】これ今だとコクヨしか作れないでしょ。

【他故】そうだね。

【高畑】だったら、率先して作って、「これでもアリじゃん」という世界を作っていくのは、コクヨぐらいのメーカーだったら、それを使命としてやってくれても全然いいですよという話だと思う。

――これだけ売れたら「30㎝の定規も欲しい」という声も出てくるでしょうし。

【他故】それは絶対出てくるでしょう。

――復刻版で出す可能性もあるし、その時に一緒に45㎝も出してくれたら。

【きだて】ねえ、出してほしいな。

【他故】「欲しいから出せ」と(笑)。

【きだて】頼むよ。

【高畑】こういうことはコクヨぐらいしかできないし、やってくれることはすごい重要な話なのさ。評価をどうするかという問題とか、これが世紀の大発明かという話になってきたときに、僕みたいなひねくれ者がゴチャゴチャと言ったりすることはもちろんあるんだけど。ただこれって、思い付いたら作るかというと、コクヨぐらいしか作らないでしょ。

【他故】うん、そうだね。

【高畑】そもそも、まず作れないしね。こんなコンセプチュアルなものを、とりあえず作って世に出すというのができている時点ですごいと思うし。アイデアが面白くても、その市場性がどれくらいあってとか、実際に作るのにどのくらい困難があってとかを乗り越えて、世の中に商品として出すという難しさは分かるので。それをちゃんとかたちとして出すのはすごい。コクヨデザインアワードって、それ自体がグッドデザイン賞をとってるのね。

【きだて】うん。

【高畑】その理由をみると、デザインを募集して賞を与えるだけじゃなくて、それを実際に世の中に出すというところがすごいとなってる。僕らが実際に定規を手にできるところまで持ってきているのが、コクヨデザインアワードのすごさなんだよね。そこはなかなか真似できないわけですよ。

【他故】ふむ。

【高畑】だから、この定規が世に出ているというすごさ。しかもそれがコクヨから出ているところの面白さは、色々割り引いてもすごいんだよね。まあ、なかなかできませんや。

【他故】そうだろうね。まあ、この世にこれしかないすごい定規を、今息子が使っているわけですが、彼は何も思わずにこれをスラスラと使ってるんだなと思うと、何か面白いなと思うわけだよ(笑)。学校には持って行ってないと思うんだけど、学校に持っていったら、相当びっくりされると思う。「これ何?」って話になると思うんだよね。

【きだて】中学生で気付くか?

【他故】ちょっとでも違うと、「何これ」ってなると思うんだ。

――それは、渡すときに、この定規について説明しなかったんですか?

【他故】何も説明してないですよ。「30㎝定規をくれ」と言われたので渡しただけですから(笑)。

――「この定規はだな」とか言わなかったんですね(笑)。

【高畑】「説明が統一できないから、なんとかしてくれ」と学校で怒られるパターンだな。「指でつままなくても円が描けるコンパスだと、コンパスの使い方の説明ができません」みたいな感じで(笑)。

【他故】便利すぎて。

【高畑】そうそう、便利すぎて困るみたいな部分が学校ではあったりするけど。

――う~ん。

【高畑】いやでも、やっぱすごいわと思う。これの場合、印刷が違うだけではあるんだけど、でもできているものの完成度がすごいわ。本当に。実際に使えるところまでやって、そこそこの値段で出していることがすごい。

*次回は「プニュグリップ」です。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」が群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE」で好評放送中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2020年Bun2大賞を斬る!~」をnoteで有料公開中!!

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう