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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.43 ブング・ジャムおすすめの最新手帳便利グッズ(その3)

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回はブング・ジャムのみなさんがおすすめする最新手帳便利グッズを紹介します。

第3回目は高畑編集長おすすめのゼブラ「ウェットニー」です。

写真左から高畑編集長、他故さん、きだてさん) *2020年6月25日撮影
*今回の鼎談は9月28日にリモートで行いました。

手帳にも便利なノック加圧式ボールペン

ウェットニー1.jpgゼブラ「ウェットニー

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――最後は高畑編集長ですね。

【高畑】僕は「ウェットニー」を紹介します。加圧式ボールペンは他社からも出ていて最後発になるんですが、ゼブラも出してきたぞというところですね。使ってみたんですけど、なかなかいいよ。ノック加圧式のボールペンで、どこで使っても調子いいぞというペンですね。元々は「スペースペン」とかじゃないですか、NASAのやつ。

【きだて】国産だと、「パワータンク」が加圧式ペンで一番古いのかな。

【他故】そうなるんだろうね。「エアプレス」の方が後になるかな。

【高畑】「パワータンク」は常時加圧式なので、あれはあれですごい強いんだけけれども。あと、パイロットからも「ダウンフォース」も出ているけど、加圧式ボールペンって使ってみると、外使いをする人にはすげーいいよという気がしますね。

【きだて】とにかくインクが出ないということがないので、慌てつつの書き出しとかにすごい強いのよね。

【他故】そうだね。

【高畑】「ウェットニー」という名前は、“ウェットにイイ”というきだてさんの大好きなダジャレ名前なんだけど(笑)。要は、「濡れているところに書いても大丈夫ですよ」という商品名なわけですよ。普通のボールペンで書くと水を巻き込んじゃうんだよね。これと同じリフィルを使っている「ジムノック」とかで書くと、全然書けなくなるんだけど、これが加圧式といってもノックしてる部分でちょっと空気で押しているだけなんだけど、全然違うのよ。同じリフィルで比べてみると、加圧しただけだけどやっぱり違いが出てきて、野外で仕事をするとか、ポケットに入れておいて湿りまくったノートとかに書くのに全然いい。

ウェットニー2.jpg【きだて】分かる。夏場とか、リュックに入れといたノートが背中の汗で蒸れて湿ってる状態ってたまにあるじゃん。

【高畑】あるある。

【きだて】あれもね、結構普通に書けなかったりするんだよ。

【高畑】そういう書きづらさがあんまりない。あとね、「ウェットニー」にはK芯というリフィルが入ってるんだけど、ゼブラの一番安くて普通の芯の一つなんだよね。今はエマルジョンだとか低粘度油性とか、色々なリフィルが出てきている中で、前からある一番普通なやつだけど。

【きだて】普通のネットリ、モッタリしたやつだよね。

【他故】そうそう。

【高畑】だから、ザ・油性ボールペンなんだけど。それをこれに入れるだけで、書き心地も良くなるし、黒く出るし、どんな状況でも書けるようになるんだけど、使ってみた感じでは、他の低粘度油性みたいに書き心地がすごい向上したかというと、そうではなくて、これは乾いたところで書いても、水の中で書いても、湿った紙に書いても、どこで書いても「普通」。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】周囲の環境を問わず、常に自分の普通ポテンシャルを引き出せると考えれば、実はそれってかなり大したものなんだよね。

【高畑】それなのよ。どんな大舞台に立とうが、どんな苦境に立とうが、「いつも通りです」という。使った感動がむしろないというか。

【きだて】分かる(笑)。

【高畑】「ジェットストリーム」を最初に使ったときの、「うわっ、軽い!」じゃなくて、これは普段書くと普通のボールペンなんだけど、これが水を張った容器の中に紙を沈めてそこに書くじゃん。「あっ、普通のボールペンだな」って(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】この状況でいかに普通であるのが難しいかを忘れてしまうぐらい普通なんだよ。

【他故】はいはい。

【高畑】2万人の聴衆の中で、「緊張せずにしゃべれ、しゃべっている事は普通でいいから」と言われても、僕らにはそれができないじゃないですか。

【他故】うん。

【高畑】あるいは、地面に引かれた白い線の上は歩けるけど、それがビルとビルの間に渡された平均台だったらそれは歩けないというのがあるじゃないですか。これはどこでも普通なんだよね。だから、そういうのに動じないというのがあるんですよ。

【きだて】何だろうね。ある意味、達人の平常心というか。

【他故】そうだね。

【高畑】だから、いつもできることは、ごく普通なんですよ。でも、いつもできることは、どんな状況でもできるんですよ。とにかく、あまりに変わらなかったので、それが面白くて。水の中の紙に書いたときのあまりの変わらなさ加減がちょっと面白かったなと思って。

【きだて】「普通」も極めるとエクストリームになるという感じだよね、これ。

【他故】うん、分かる。

【高畑】これ、どこででも使えるということに対してはこだわりがあって、実は日本で売られる前にアメリカでで「X701」という名前で売られてたんだけど、その時からアメリカ人が好きそうな米軍スペックというやつで。

【きだて】「ミルスペック」ね。

【高畑】そう、ミリタリースペックといって、軍の調達基準を満たしていって書いてあるんだけど、その基準は何かというと、4フィート(1.22m)の高さからどんな角度で落としても使えるという(笑)。1.22mというと、ちょうど僕らが手帳持って立っている高さだよね。

【他故】うん。

【高畑】ぐらいの高さから落としても壊れないぜという話ではあるんだけど。だから、これは、泥水の中に落とそうが何をしようが平常心で使える。それと、替え芯がなくなったときに、専用の加圧タンクの替え芯ってあんまり売ってなかったりするじゃん。

【他故】ああ、そうだね。

【高畑】でも、これはどこにでも売っている普通のリフィルが使える。そういうのも含めて、あまりに普通というのが、面白いと思ってさ。

【きだて】すごく分かる。

【高畑】手帳で外で書くときって、普通に手帳を持って書くという動作だけでも、ペン先が上を向いちゃうというのは、よく言うじゃないですか。

ウェットニー3.jpg

上向き筆記が可能


【他故】あ~はいはい。

【高畑】そんなのもそうだし、ゼブラもアンケートをとったみたいですけど、外で作業をしている人に訊くと、雨が降ってきて紙が濡れてしまうと全然書けなくなるのがすごく嫌だというのがあるみたいで、それも普通に書けるし。今回のテーマは「手帳と」というのがあるんですが、そういうエクストリームな状況でも普通に手帳に書けますよということかな。

【きだて】俺も以前からノック加圧のペンが割と好きで、トンボ鉛筆の「エアプレス」をペンケースに常備してるのよ。書き出しでミスらないとか、どんな状況でもとりあえずメモが取れるっていう安心感って意外と重要なので、保険の意味合いでも持っておくと気持ちが強いんだよな。

【他故】確かにそうかもね。

【きだて】そんな加圧式の中でも「ウェットニー」は最後発なわけじゃない。すでに「ダウンフォース」とか「エアプレス」という強いライバルがいる中でゼブラがどういう方向に持ってくるかと思ってたら、ミルスペックだった。それはさすがに予想外の方向だったと思って、ちょっと面白かったんだけど。

【他故】まあそうだね(笑)。

【高畑】「ダウンフォース」が割と近いところでかぶるんだけど。「エアプレス」は現場用ということで、見るからにかたちもとんがっているじゃないですか。

【きだて】そうね。ちょっと太めの軸でとか色々とあるけど。

【高畑】それに比べると、「ウェットニー」自体は意外と普通なんだよね。ボディも真っ直ぐだし。

【他故】昔ながらの「ザ・ゼブラ」っていう感じだよね。

【高畑】「エアプレスが好き」という人は、全然「エアプレス」でいいんだけど、あれだと太くて短くて、ボディが特殊だから、普通のボールペンに近いかたちがいいなという人には、「ウェットニー」もありかなという感じだね。

【きだて】ノック加圧ペンが3社揃ったから、この際いろいろと比べてみようと思ったんだけど、機能的には特にハッキリとした差はないね。どれも強い。

【他故】そうだね。

【高畑】やっぱり、加圧されているという底上げの部分はみんな効いているので。これもさっきの吸取紙と一緒で、まず加圧式ボールペンというのがあるというのを知っておいてほしいなというのがある。

【他故】ああ、それはそうだね。

【高畑】三菱鉛筆なら「パワータンク」だし、ゼブラならこの「ウェットニー」だし、トンボ鉛筆なら「エアプレス」で、パイロットなら「ダウンフォース」。国産のペンなら、この辺がいいと思うんだけど。

【他故】そうだね、うん。

【高畑】そういうペンだと、野外でメモをとる人や、あるいは冷凍庫内とかすごい寒いところで仕事をしている人も含めて、いろんな人が使える。そういうところでもインクが固まりにくいので、すごくいいとかあるじゃないですか。野外派の人は1回試してほしいね。

【他故】うん、分かる。

【高畑】あと、防災袋とかに入れておくペンは、普通のよりもこういう方が、いざという時に書きやすい可能性が高い。

【きだて】そういや、加圧式ボールペンは低温下でも使えるってのがひとつのウリになってるけど、逆に高温環境だとインク吹き出しやすくなるとかはないのかね?

【高畑】一応ね、このアメリカ版の「X701」は、100℃以上で使っても大丈夫と書いてあるんだよ。

【きだて】へぇー。

【他故】確かにそう書いてあったよ。

【高畑】華氏250°Fと書いてあるのよ。華氏250°Fって、摂氏だと大体120℃ぐらいなんだけど、それでも使えると書いてあるので、大丈夫なんじゃない。

【きだて】ふ~ん。

【高畑】さすがに、気温120℃のところに行かないからさ。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】120℃って、熱湯のような感じでしょ。

【他故】まあ、熱湯を超えちゃうからね。

――サウナとか。

【高畑】低い方が華氏マイナス30℃超なんだけど、そんなところに居たら、まず俺が耐えられないけどね。

【きだて】とりあえ、それこそサウナに持って入れるというのは確実だね。

【高畑】サウナは大丈夫なんじゃないですか。高温と低温環境はそういう場所がないから試してないんだけど、サウナならば100℃近くになるんだよね。

【きだて】大体90℃から100℃ぐらい。

【高畑】多分、サウナの中で紙がシオシオになっていても書けるはずなので。サウナに入りながら新しいことを思い付く人にはいいと思う。

【きだて】サウナで考え事するのは推奨できないけど(笑)、まぁ使えるし。

【高畑】これ、本当にペン先が水没してても書けたので、僕らが大丈夫な環境だったらこれも大丈夫という感じはするね。

【きだて】人間が棲息できる環境下だったらいけるという。

【他故】棲息環境(笑)。

【高畑】ペンが書けても俺が死んでたらダメじゃんみたいな話なので(笑)、俺が死なないぐらいの環境だったら大丈夫だと思う。ペンの方が全然丈夫なので。本当に安心感があるよね。

【他故】うん。

【高畑】でも、素っ気ない感じのデザインで、これ昔のゼブラだよね。

【他故】そうそう、本当に昔のゼブラのかたちだよね。

【高畑】80年代のゼブラの感じ。

【きだて】そのぐらいだよねと思った。その雰囲気は。

【他故】でも、このグリップは樹脂だよね。

【高畑】うん、樹脂。

【他故】ここが金属のローレットだったら完璧だったのにって、ずっと思ってて。

【きだて】ああ~。

【高畑】ウヌスプロダクトで作る?

【他故】また狭い製品を(笑)。

【高畑】専用のリフィルだと、普通の芯と比べられないじゃん。今回のゼブラはK芯があるから、それで比べてみたら、たった1㎝半ぐらいしか押してないんだけど、そんだけで性能がかなり違うのかというのが分かってビックリした。

【きだて】ただ、最近は逆にK芯買いづらくなってない?コンビニで売ってないし。

【高畑】コンビニにはあまり入ってないかもしれないね。

【きだて】ないね。

【高畑】普通の文具店に行けばまずあるけど。

【きだて】昔は「ジムノック」とか大体のコンビニにあったじゃない。

【高畑】今はどっちかというとエマルジョンインクを推してるじゃん。そういう意味では、メインではなくなりつつあるインクだけど。でも、エマルジョンインクは水に入れると溶けると思う。粘度低くするために色んなものを入れているから。水中で使うんだったら、普通の油性の方がいいと思う。

【他故】そうだろうね。

――手帳にも便利ですけど、台風シーズンに入っているので、ちょうどいいですよね。

【きだて】防災グッズとしてもいいと思うよ。

【高畑】防災グッズでも全然いいし、どこででも普通に書けるという安心感をどこかに持っておくというのはいいと思いますね。

――軸がスリムに見えますが、手帳のペンホルダーにも入りそうですね。

【高畑】グリップがラバーじゃないからペンホルダーには入るけど、細いっていうほど細くはないんだよ。

【きだて】グリップもストレートだし、摩擦がある感じでもないので、スルッと入るんだよね。

【高畑】太さ11㎜ぐらいなんで、多機能タイプよりはちょっと細いぐらい。すごく細くはないけど、多分「ダウンフォース」よりは若干細いかな。

【他故】やっぱり、若干細いよね。

【きだて】ああ、そっか。

【他故】軸が金属製だから、少し細くできたのかな。

【高畑】中にはメカがゴチャゴチャ入ってるんだろうけど、この枠が細いんだろうね。

――写真で見ると細く見えますけど、実物はそこまで細くはないんですね。

【高畑】そこまで細くはないですね。

【きだて】まあ、本当に「普通」って感じよ。

【他故】普通のボールペンと並べちゃうと、やっぱり太さは違うね。

【高畑】普通のボールペンと比べると若干太い。直径にして1㎜ぐらい太いだけなんだけど、でも1㎜太いとだいぶ太く見えるね。

【きだて】でも、その辺はタフなイメージと差し引きでちょうどいいんじゃないの。

【高畑】うん、そんな感じ。これは「ドクターグリップ」みたいに、「太いですよ」という太さじゃないけど、という感じ。だから、細いとはいわないけど、太いという感じもしない。あと、グリップがスベスベなので、手帳のペンホルダーには入る。あと、現場で使う場合は、クリップの横に穴があいていて、ヒモを付けておけば落とさないので、そういう使い方もできるから、いいと思いますね。

【きだて】それはそれとしてですよ、ネーミングに関してだけど。

【高畑】あ~そうだ(笑)。かつてゼブラには「ジムニー」というボールペンがあったけど。

ウェットニー4.jpg

【きだて】そう、“事務にイイ”から「ジムニー」というのに対して、“ウェットにイイ”から「ウェットニー」じゃん。文房具業界は全体的にそういうのが多いけど、ゼブラはその系譜というかラインがあるじゃん。

【高畑】まあ、好きだよね。

【きだて】「デルガード」とか、「モジニライン」とかは確実にそのラインじゃん。「ブレン」だってそうだよね。ほんと、ゼブラはそういうの好きだよなーって(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】そうね、ダジャレ名前が好きというのはあるね。

【きだて】まあ、分かりやすいっちゃ分かりやすいんだけど、もうそろそろさ、「ジムニー」の時代から何年経っているんだというね(笑)。

【高畑】ある種の原点回帰とも言えなくはないんだが。いやでもね、こんな普通の芯を使っていて、悪状況の中でも平気でいられるのは、なかなかちょっと面白いというか、素敵だな。何か、久しぶりに力強さを感じましたね。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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