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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.28 その2

「ブング・ジャム的文具大賞」を発表!

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左から他故さん、高畑編集長、きだてさん


本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.28では、ISOTで行われたブング・ジャムのトークショーで発表した「ブング・ジャム的文具大賞」について詳しく掲載します。

第2回目は、他故さんが選んだ北星鉛筆の鉛筆削り器「634」です。

鉛筆屋が作った鉛筆にやさしい削り器

PSX_20190728_091958.jpg「634(ムサシ)」(北星鉛筆) 鉛筆メーカーの北星鉛筆が作った芯が折れない鉛筆削り器。鉛筆を二段階で削ることで、芯をとがらすときに必要な力が半減するので、軽い力で回すことができる。世界初の鉛筆の削っているところが見える構造で、あえてストッパーを付けないことで、芯先に意識が集中し、自然とゆっくり丁寧に削るようになる。また、削る部分から、ガイドとなる鉛筆の入口までの距離が長くなっている構造で、上下のブレを最小限にとどめる工夫がされている。替え刃付きで税抜1,200円。

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【高畑】次は他故さんだね。

【きだて】「634(ムサシ)」だ。

【他故】僕は、鉛筆が好き、削り器が好きと言ってますけど、これはもう3月に買っているので、世の中にはあるものなんですが。

【高畑】僕も買ったよ。でも、今年の文具大賞だから、全然問題ないよ。

【きだて】俺ももちろんゲット済み。

【他故】元々、鉛筆削りの不満の一つとして、削っているうちに芯が折れちゃうじゃんというのが、ここには出てきているんですね。

【きだて】カール事務器のXSHARPENER(エクスシャープナー)も、芯が折れない鉛筆削りだけど、あれが出たときも「削っている間に芯がひねって、はがれちゃって折れる」みたいな話をしていたんだよね。

【高畑】「エクスシャープナー」は、落としても芯が折れないという話だったけど、「634」は、削っている途中で削り器の中で折れちゃうのを防ぐという視点だから。

【きだて】そうか、そうか。

【高畑】北星鉛筆は鉛筆メーカーだから、クレームが来るんだって。「最初から芯が折れてた」って言われるみたいだよ。だけど、それは最初から折れていたんじゃなくて、削っている途中で、自分でひねって中の芯を折っちゃったんじゃないのっていう話で。

【他故】だからこの削り器では、一番最初の段階で、芯に触れないでまず薄く削る。そこから先は、本当に必要なところだけ芯を出すという発想にしていて、芯に力をかけないようにしているんだよね。そこら辺はすごいなと思うし、多少中心がずれているダメな鉛筆でも上手く削れるというのがなかなかすげーなと思う(笑)。

【きだて】国産鉛筆では、さすがにそれはもうなくなっていると思うけど。

【高畑】新品の状態だと、思いっきりざっくりと円錐状に削るじゃないですか。その時に、まわりを削る力で、芯を同時に削らなきゃいけないわけで、結構力がかかるんだけど、それを子どもの力でやろうとすると、どうしてもこじてしまう、ななめに力がかかってしまうというのは、確かにあるなと思う。

【他故】これの面白いところって、今までのシャープナーは、比較的トガって削れるとか、速く削れるとか、そういうところで勝負してきたのに、これは「ゆっくり削ろう」と言っているんですよね。

【きだて】あ~。

【他故】鉛筆を大切にするていうのは、そういうことじゃないよと。今までの考え方とはちょっと違って、ゆっくり削りましょうと。一段階目も二段階目も「スピーディーに削れ」とは一言も書いてないんですよね。「ゆっくり、丁寧に削りましょう」と。

【きだて】実際にやってみると、二段階分で結構手間がかかるんだよね。

【他故】手間もかかるし、よく考えると一段階目はスピードかけられないんだよ。この段階ですごい抵抗がかかっているので。「どこまで削れるかな」と言いながら段々とやっていって、突き当たってから初めて二段階目に入るというのは、かなり時間がかかるけども、それに対して、「鉛筆はこれだけ大切に使うものなのだよ」というのも含めてやってきているなというのがあって、ものすごく好感が持てるんですよ。

【きだて】鉛筆屋さんが、自社商品を大事にして作ったんだなという気がして、すごく心がほっこりするんだよね。

【他故】自分たちで鉛筆を作っているんだけども、「自分たちの鉛筆が折れないようなものが欲しいよね」と思っちゃった、というところがあるんじゃないかな。そりゃ、いろんな鉛筆削りがあって、すごい性能のものももちろんあるんだけども、自分たちでもそれを極めてみたかったという感じがしているので、そこがものすごく好感が持てた。

――なるほど。

【他故】あとは、太い鉛筆でもパーツを替えて、「鉛筆が太くても削れますよ」という工夫がしてあったり、フタを閉めておけば、持ち歩いてもカスがでなかったり、それで、比較的高価なパッケージなんですけど、ちゃんと替え刃が入っていて、刃が悪くなったら付け替えられるとか、かなり考えられている製品でもあるので、鉛筆を普段使っている人に使ってもらいたいなというのは確かにあるんですよね。

【高畑】名前が「634」だけど、宮本武蔵の“ムサシ”なんだよね。「二天一流」というのは、2つ穴があって二段階で2つの刃を持っているというのを言っていて、まあそこはダジャレでいいとしても、「634」というのは、六角形、三角形、四角形の鉛筆が削れるからなんだよ。それが何で大事なのかというと、どの鉛筆も最初に入れたときはブレるんだよね。特に、三角や四角の鉛筆って丸から遠いから。丸い鉛筆はきれいに削れるんだけど、このかたちだとガタガタするじゃないですか。

【他故】そうね。

【高畑】それを、外側を削る一段目の穴に入れて、どんな鉛筆でも、直径5㎜の円筒形状にするんだよ。

【他故】そう、丸にしちゃうんだよ。

【高畑】それで、ブレないようにしてから削るから。二段階目はどの鉛筆でも同じ形状で削るので、安定感はあるんだよ。

PSX_20190728_092422.jpg【きだて】条件を揃えるっていう、そういう考え方はなかったな。

【高畑】何のために2回削るのかというと、一回目で半分削ってるので、2回目で削るのは楽なのね。それで力をかけないというのもあるんだけど、もう一つの意味としては、いろんなかたちの鉛筆を、いったん丸にすることでピッタリ穴にはまるようになってブレないということがある。

【他故】そうだね。

【きだて】三角や四角の鉛筆をゼロの状態からちゃんと円錐のかたちにトガらすために、相当ガタガタと中で暴れるわけじゃない。そりゃ折れるわ。

【高畑】特に、子どもが削ると折れやすいよね。それをさ、これ加工の基本みたいなものなんだよ。旋盤のテクニックみたいな話なんだよ。

【きだて】分かる、分かる。

【高畑】精度が高いかたちに削ろうとしたときに、加工手順として、じゃあどこから攻めるとなったときに、いきなりこのかたちに削らないよな、というのがここにあるので(笑)。

【他故】わはは(笑)。

【高畑】もう一つ、中の削り器の刃が逆向き、つまりうつぶせ状態に付いていて、削ったら削りカスが下に落ちていくんだよ。これもちょっと面白いよね。どこまで削れているかが上から見えるから、「無理に削り過ぎないでね」という優しい削り方ができる。

【きだて】そういえば、今までの鉛筆削りで、この風景は見えてなかったな。

【他故】見えなかったんだよね。必ず刃で隠れているから。

【高畑】しかも不透明だし。

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【他故】これに関しては、“トガるストッパー”みたいな機能はないんですよ。自分の目で見て確かめろというところがあって、だからゆっくり回すしかないよね。そういうところも含めて安心で、それで鉛筆そのものにも負担がかからない。

【きだて】作るに至った思考もストイックだし、ユーザーにも割とストイックを求めるというところが、武蔵っぽいといえば武蔵っぽい(笑)。

【高畑】そう。

――剣豪って感じがしますよね。

【きだて】正座して削りたくなるよね。

【他故】筆で書くときに最初に墨をするようなイメージで、最初に精神を統一して鉛筆を削るところから始まるんだよ(笑)。

【きだて】面倒くせえな(笑)。

【他故】それがいいんだよ(笑)。

――作務衣か何か着て削るんですよね(笑)。

【高畑】気になるのは、削ったかたちが特殊っぽいじゃん。「こんな特殊のじゃなくて、普通のでいいんですよ」って思うかもしれないけど、この首のところは削っているうちにこんなに長くならないし。

【きだて】ここまでしなくていいんだよね。

【他故】ここから先は、頭が短くなってくるからね。

【高畑】とにかく、「そんなに特殊なかたちじゃないんです」というのだけは強調したいんですよ。普通の鉛筆を普通に削るのを、今まで何で気が付かなかったんだろうという形ではあるんだけど、これは全然特殊な用途用ではなくて、これで削ると本当に芯が折れないし、普通に気持ちよく書けるから、全然特別な人用じゃないですよ。

【他故】みんなに使ってほしいな。

【きだて】ただね、ユーザーの作業自体は増えちゃうので。

――二段階ですからね。

【きだて】そこで、「こうじゃなくていい」と言う人はいるんだ。

【高畑】だから、何秒で削れるというのもあるわけじゃないですか。それはそれで、その良さもあると思う。

【他故】うん、そうだよ。

【きだて】どうもね、俺はそっちの方を「すてき」って思っちゃうタチなので。書くことに対して、精神性を見出してないので。

【他故】精神性(苦笑)。

【高畑】でも、実際にね、中折れというのが、自分でもやることがあるんだけど、この削り器の手回しでありながら抜群の安定度というのは、案外気持ちいいというのはあるんだよね。

【他故】そうそう。

【高畑】そこは、好みもあるとは思うんですが。

――これは、基本的に、使っていて短くなったら、二段階目の方で削っていくわけですよね?

【高畑】どんどん削っていけば、この山がどんどん下がっていくから。

【他故】その山が短くなって上手くいかなくなったら、1段階目に戻ればいいので。

【きだて】最初から、この一段階目をもっと短くしておけば、見た目はちょっと段差がいているかなぐらいで収まるんだけど。

――確かに、授業中に短くなったときに、二段階で削れというのも手間なようにも思いますけどね。

【高畑】そういうときは、一度削ると3、4回分は大丈夫なので、そういうときは、他の鉛筆削りで削るよりは、軽くてすぐに芯が出せるから。

――芯を出すだけなんですね。

【高畑】よくあるのが、先に芯だけ出しておいて、あとからトガらせるやり方があるけど、それとは考え方が違うんだよ。

【他故】違うよね。

【高畑】きだてさんが言うように、効率良く・速くというところからみるとあれなんだけど、ただ芯が折れないことによって、安定感というか、このムダのなさは、僕も実際に使ってみたけど、ほぼトラブルが起こらないのよ。

【他故】削っていて芯が折れて、詰まっちゃったというのは今のところ一回もない。他のやつだと、1回は芯が折れて詰まってしまって困るというのはあるけど。それが今のところないので。

【高畑】よく考えられている製品だけど、ちょっと見た目が特殊過ぎて、普及には時間がかかりそうだけど。なので、遊びでもいいから使ってみてほしいな。

――これ、1,200円するんですね。替え刃が付いているからかな。

【きだて】替え刃2個付いているんだっけ?

【他故】ユニット1個で、替え刃が1個だよ。替え刃が付いているのは安心だなと思うけどね。1,200円で使い捨てはきついもん。

【高畑】鉛筆を大事にしようというのは「TSUNAGO」みたいな考え方もあるじゃないですか。短くなったのを、後ろから継ぐという考え方もあるんだけど、これは鉛筆が本来持っている普通の「折れずに最後まで書け」というだけのことを言っているから。

【きだて】鉛筆のポテンシャルを100%引き出す削り器という考え方もできるのかな。

【他故】そうだね。最後までムダなく使えるという意味では。

【高畑】削るときもさ、平にしてから先端を削るじゃん。だから、ムダに削れないのさ。他のいろんな削り器があるけど、普通の状態から芯を使い切る度でいうと、これはバツグンにいいと思う。

【他故】これにしてから、鉛筆の減り方が少なくなったんですよ。削る数は変わらないかもしれないのに、明らかに減り方が違うんですよ。

【きだて】ほ~。

【高畑】ムダには減らないね。だから、1本、1本をきちんと使おうということだけを考えているんだよ。

――北星鉛筆って、今まで削り器を出したことありましたっけ?

【きだて】ないと思う。多分これが初。

【他故】初めてでいきなりこれを出してきちゃったから。

【高畑】もうちょっとしたら、これのカジュアル版も出てくるかもしれないし。

【他故】そうだね。

【きだて】それも売れればの話だから、売れればいいね。

【高畑】削り器屋が考えたムダにしない削り器として、「TSUNAGO」があるわけじゃないですか。それに対して、鉛筆屋が考えたムダにしない削り器がこういう感じで、お互いの思想の違いが出ているのも面白いじゃないですか。

【他故】そうそう。

【高畑】同じ「ムダにしない」というコンセプトなのに、アプローチが全然違う。

【きだて】しかし、鉛筆屋としてみれば、すぐに芯がグズグズに削れる削り器の方がいいだろうにね(笑)。

【高畑】それは北星鉛筆も、「こんなの作らなくて、芯が減った方が鉛筆が売れていいんでしょうけど」と言ってた。でも、北星鉛筆は、鉛筆を作るときに出たおがくずですら粘土にして売るとか、ムダが嫌なんだよ。その優しさはあるよね。

【きだて】しかも、ちびた鉛筆は自社の敷地内にある「鉛筆神社」に奉納しちゃうしね。

【他故】そうだよ、供養までするところなんだから。

【高畑】ちびた鉛筆を何本か持っていくと、新しい鉛筆を1本くれるんだよね。

【きだて】そうそう。「ご祈祷鉛筆」と替えてくれるね。

【高畑】そんなのをやっているメーカーさんなわけじゃん。

【きだて】本当に鉛筆好きだなと思うからね、あの人たち。

【他故】本当にそうだよ。

――好きすぎて作っちゃった削り器なんでしょうね。

【きだて】だから、これも信用できるよ。信用に足る鉛筆削りだと思います。

【高畑】そういうことだよね(笑)。「みんなで大事にしよう」という気持ちがね。

【他故】結構いい値段なので、これも消費税が8%の間に買っていただければ(笑)。


〈明日はジオのメモ「東京書けるレタス」を紹介します〉

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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