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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.25 その2

俺たちの平成元年・思い出文房具

ジャム.jpg
左からきだてさん、高畑編集長、他故さん


本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.25では、平成がスタートした1989年にまつわる、ブング・ジャムのみなさんの思い出文房具を紹介してもらいました。

2回目は高畑編集長の思い出文房具を紹介してもらいます。

Vol.25 その1はこちら
Vol.25 その3はこちら

文具王の原点がここに!!

文具王1.jpgゲージパンチ(カール事務器)とガチャック(オート)

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【高畑】次は僕が話した方がいいかな。きだてさんと同じ世代で、ちょうど僕も中学3年から高校に上がる頃だから、お金の持ってない具合も同じだし。それで、平成元年の頃を調べてたら、「すばらしき道具たち」を書き始めたのが平成元年なんだよね。

【きだて】お~。

【高畑】つまり、文房具についての評論というかエッセイを最初に書いたのが、平成元年だというのが今回分かったんだよ。

【きだて】すごいな、それ。

2.jpg【高畑】そして、それが「ゲージパンチ」と「ガチャック」についてだったという。これらが発売されたのはその前なんだけど、俺にとっての平成は「ゲージパンチ」と「ガチャック」から始まっているんだよ。

【他故】はいはい。

【高畑】今、手元に当時の「ゲージパンチ」と「ガチャック」がなかったんだけど、文具を語り始めた原点はこの2つなんだよ。

【きだて】これか。しかも平成元年から。

【他故】すげーな。

【高畑】そうなんだよ。これ以前にも「文房具が好きだ」とは言ってたけど、こうやって具体的に書き始めてなかったから。

【きだて】う~ん。

【高畑】当時は「ゲージパンチ」の衝撃は大きかったんだよ。ノートにルーズリーフが留められるとか。

【他故】そうだよね。

【高畑】「ガチャック」だって、当時はもっと四角くて、1個ずつしか出てこないし。

【きだて】そうそうそう。

【高畑】だから、この「ガチャック」も当時は画期的だったんだよな。それにしても、まあへたくそな文章で。しかも友達と2人で書き始めたんだよ。僕が絵を描いて、文章は一緒に書いていたので。これが最初だったんだよね。平成元年だったので、ちょっとびっくりじゃないですか。

【きだて】絵のタッチが今と全然変わってないよね。

【高畑】基本は全然変わってないよね。

――これが高一ですか?

【高畑】いや、中3ですね。

【他故】中3でこれはできないですよ。

【高畑】いやいや、でも友達はマンガとか描いてたりしてたんだよね。

【きだて】文具王は中高一貫だっけ?

【高畑】そう。

【きだて】じゃないと、中3でこれはできないわな(笑)。

【他故】高校受験の時期に「そんなことやっててどうすんの?」って言われちゃうよね。

【高畑】その後に生徒会に入るんだよ。それで、生徒会報にこれを書いてたんだよ。

文具王3.jpg【他故】本当だ。

【きだて】うはは(笑)。そういうのをよく取ってあるな君は。

【高畑】ほら、「平成元年7月」って書いてある。生徒会で書記みたいな仕事をしてたので、生徒会報の空いているところにこれを書いていた。

【他故】空いているんじゃなくて、空けてもらったんじゃないの?

【高畑】その時は「誰も読まない生徒会報を作るのはやめよう」という話になっていたので、毎回こういうのを入れようとなってたの。

【きだて】読み物として成立させようとしてたんだね。

【他故】そういうのもあったんだ。

【高畑】役に立つ情報をというので、「僕は文房具のことについて書くから」と言って書いてた。だから、僕は今年で「文具王」20周年で、文具について書き始めて30周年なんだよ。

【きだて】今年は、結構記念すべき年だね。

――そっか~。

【きだて】今年は文具王20周年だし、「イロブン」20周年でもあるんだよ。

【他故】大アニバーサリーイヤーだね。

【高畑】何かアニバーサリーイベントをやらないとね。

【きだて】そうなんだよ。

【他故】何かかたちにしないとね。

――このゲージパンチとガチャックは平成元年生まれではないんですね。

【高畑】そうなんだけど、俺の平成はここから始まっているということで、この2つを持ってきました。

【他故】当時の原稿が、こんなかたちで取ってあるというのがすごいな。

【高畑】当時から断捨らない人だったからなぁ(苦笑)。

――生徒会報に載せて、何か反響はあったんですか?

【高畑】まあ、あったり、なかったり。生徒会報自体そんなに人気なかったから。

【きだて】結局、読まれるものを作ろうとしても、そんなに読まれるものではないんだよね。

【高畑】まあね。でもね、全校中に配るから、何人かには「見たよ」とか言われたし。当時はSNSってなかったし、初めてメディアっぽいメディアに載せたわけだよ。

――なるほど、数百人とはいえども、人の目にふれるものを初めて書いたわけですね。

【きだて】文具王のこれって、『ビー・ツール・マガジン』の読者コーナーが大元にあるよね。

【高畑】そう。その頃『ビー・ツール・マガジン』という文房具専門雑誌があって、「文房具面白い」と思っちゃったのがその前後で、そのときに投稿していたハガキ職人の富山さんの「便利・重宝・文明の利器」というのを読んで、「カッコいい」と思ったんですよ。

【きだて】こうやって文房具を絵に描いて説明してたわけでしょ。

【高畑】最初は、まるっきり真似なんだけどね。当時、友達で絵が上手だった子はマンガ描いてたんだよ。マンガのコピー本を作って、地方のコミケみたいなイベントで売ってたんだけど、俺はそうやって物語を作ったり、人物の絵を描いたりは全然できなかったから。この絵も図面っぽいじゃん。

【きだて】明らかに、線が45°と90°で構成されてるから(笑)。

【高畑】定規あてて線を引いてるじゃん。この当時は上手く描くのはすごい苦手だったんだけど。それから30年もやって、あんまり変わってないけどね。ちょっとビックリするな(笑)。ちょっと絵が上手くなって、ちょっと文章が上手くなったけど、基本構成は変わらないんだよ。人間ってそんなに簡単に変わらないね。

【他故】それは分かるわ。

【高畑】他故さんが今描いているイラストだって、多分他故さんが学生のときに描いていた頃から、美意識のバランスみたいなものがあって…。

【他故】変わらないね。

【きだて】多分、そうだろうね。

【他故】絵が上手くなったとは思わないもの。むしろ、大学の頃の方がたくさん描いてたから、そのときの方が上手かったかもしれない。

【高畑】大人になると、力が抜けてくるじゃん。その分書き慣れてくるんだけど、原点からあんまり外れてないというのは割とよくある。昔の自分の書いたものを見ても、文房具のおすすめポイントが変わってないもの(笑)。

【きだて】「クリップとは比べものにならないほど強く、紙をいためずに何度でも使用できるので、穴をあけられない書類からプリントの一時的な整理にまで、気軽に使えます」だって。今の文具王が原稿書いても雰囲気こんな感じだよね。

【高畑】はずかしいなあ…でも言い回しから変わってないでしょ。

【きだて】変わってないよ(笑)。

【高畑】そういう意味では、複雑な気持ちではあるけどね。全くここから離れられていないという。きだてさんが「テゼット」にあこがれていたときに、俺はこれを書いてたんだよ(笑)。いや~、こじらせるってこういうことなんだなって思うよね。

【きだて】なあ。

【他故】そうだよね。でも、これすごいわ。

【高畑】文具王もそうなんだよ。まさか平成と同時にこじらせてきたとは。

――平成とともに生きるみたいな感じですね。

【高畑】そうだよ。第1話がまさか平成元年だったなんて。

【他故】平成とともに大きくなってきたわけだね。

――今の中学・高校なら、こうやって文房具を取り上げたら注目されるのかしら。

【きだて】高校生ユーチューバ-で、文房具の話をしている人っているじゃん。

【高畑】そうだよ。もし、生徒会報で取り上げるとしても、今だったらもうちょっときれいに作るじゃん。そういうところにこういうコラムを載せたら、それはそれでウケそうな気はしますよね。

――すごい人気者になれそうですよね。

【高畑】今の学生さんだったら、すでにユーチューブでやってるからさ。

【きだて】発信はしてるんだよ。

【高畑】だから、僕らより早いかもしれない。今は、小学校の高学年からやっている子はやっているし。

【きだて】そういえば、89年はラジオドラマの台本を書いてたんだ。

【高畑】ええ~、そうなの?!

【きだて】放送部でね、NHKのラジオドラマの全国コンテストがあったので、それに向けての台本を書いてたりとか、オープンリールで編集したりとか、校内放送の構成をしたり。そういうのに熱中してたから、文房具はやってなかったのかな。でも、なんらかの情報発信はしてたんだよな。

【高畑】何かはやってるんだよね。

【きだて】結局、トラの縞は洗っても落ちんなという話だよ、我々は。

【他故】全くその通りだよ。

――「栴檀は双葉より芳し」ということにしておきましょう(笑)。

【きだて】まあ、そう言ってもらえればね。でも、今の子たちは発信が簡単にできていいな、というのはすごくあるしね。

【高畑】これだって、縮小コピーして生徒会報に載せて数百人に見てもらうのがいいところだったわけじゃない。今だったらいろんな発信方法があるし、これだって書いたのを写真撮って簡単にインスタにあげられるじゃない。

【きだて】ねえ。

【高畑】でも、当時からそういうのをやりたかったんだね。道具ができてきたから、今はこうやってネットでやったりしているだけで、結局は同じなんだよ。

――今、学生だったら、動画とかの方に行くんですかね?

【高畑】僕がそれをやっていたかどうかは、人前でしゃべれるようになったのはずっと後のことで、当時はすごく苦手だったから。

【きだて】発信したいという気持ちの方が強かったら、やっていたかもしれないよ。

【高畑】インスタみたいなのはやってたかもしれないね。商品の写真撮って、文章ちょこっと載っけてとかはやってたかもしれない。逆に不自由だったので手間のかかることをしていたから、こじらせたのかもしれない。手軽にできると、卒業しやすいじゃん。こういうのやると、ガッツリこじれるから。

【きだて】ここまでやっちゃうと、後に引けなくなっちゃうからね(笑)。

【高畑】このときに根をつめてやっていたのが、そのままこじれたんだろうね。

【他故】そうだよね。

――これをやっていたから、ISOT(国際文具・紙製品展)で作った冊子を配布してたんですよね。

【高畑】そうそう。これを大学までやって、ずっと手書きで書いてたんだけど、17回ぐらいで終わるのね。ここでまとめようと思って、コピー本に変わるんだよ。

【きだて】『究極の文房具カタログ』にいくわけだよね。

【高畑】これの16回ぐらいまでのやつをまとめてコピー本にして配って、その後『究極の文房具カタログ』にいくんだけどね。どんどんそうやって変わっていくんだけど、これを書いていた当時は、毎回フォントを変えていくというのが、自分の中でルールがあって。

【きだて】そういう無駄な凝り方が、変わってないなっていう(笑)。

【高畑】否定できない。本当に否定できない(苦笑)。でも、当時の説明画の描き方とか、こういうプロセスの書き方とか、あれこれ工夫したのって、生きてるは生きてるね。今でもそんな感じ。レイアウトの仕方の練習にはなったかな。

【きだて】生きてるというか変わってないというか(笑)。

【高畑】まあ、そうなんだけど。これをずっと持っていたのがすごいでしょ。

【きだて】文具王は、平成元年から文具王だったか。

――まあ、原点ですね。

【きだて】いい話ですよ。

【他故】本当に。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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