【連載】月刊ブング・ジャム Vol.25 その1
これが平成元年の未来文房具だ!
テゼットSV(シヤチハタ)
――平成ももう間もなく終わりなので、「平成が始まったときの一番思い出」となる文房具を紹介してもらいます。
【高畑】平成元年の僕らの思い出文房具ね。
【きだて】ところがさー、この頃って実は俺の人生の中で一番文房具と縁の薄かった時期でもあるのね。
【他故】ええっ、そうなんだ。
【きだて】平成元年だと俺は高校生なんだけどね。小学生の頃はイロモノ文具でクラスの人気者になりたいからって色々と集めて、中学生になるとシャーペンなんかに凝り出して。
【他故】それで、高校では?
【きだて】中学までに、自分の持ち物はあらかた固まってしまって、高校の頃は何だろう?
【他故】大分静かな状態?
【きだて】そう、文房具的に凪の状態。
【他故】凪だったんだ。
【きだて】『ビー・ツール・マガジン』(当時発売されていた文具系情報誌)も、リアルタイムでは読んでなかったくらいだからね。
【高畑】実はね、その頃は商品もあんまり出てなかったから。平成一ケタの時代は、新製品ってそんなにないからね。
【きだて】ノー! それはノーなんだ、文具王。
【高畑】何が?
【きだて】文具王的にはそうかもしれないけど、イロモノ文具的には、昭和末期から平成初期にかけてがマックスいい時期だったんだよ。
【高畑】ああ、そうか。「エスパークス」とかってその頃だものな。
【きだて】あの時代にそういった文房具を買ってなかったというのが、今になってものすごく効いてきてるの。
【他故】うわぁ~。
【きだて】ボディーブローのように、ものすごく俺を痛めつけてるんだよ。
【高畑】「あの時に買っておけば」って。
【きだて】またあの当時のものって文房具屋さんのデッドストックも少ないので、もうネットオークションで集めるぐらいしかなかったりしてね。文房具に対して凪いでた高校生の自分が許せないぐらい。
【高畑】あ~、そうなるよね。
【きだて】それで、凪の時期だったとはいえ、当時から欲しかったものが一つだけあって、それがシヤチハタの計算機付きボールペン「テゼット」。
【高畑】あ~「テゼット」ね。後から買ったの?
【きだて】そう。平成元年には電子手帳タイプの「テゼットSV」が出てたのかな。
【他故】あ~、はいはい。
【きだて】最初の「テゼット」は、その2、3年前に出てるのね。
【高畑】何ていうのかな、あの当時の未来感が…。
【他故】未来感あったね。
【きだて】あの当時は、デジタル機器を何と身近なものにしてやろうという感じでさ。
【高畑】電子手帳っぽいものもちょこちょこ出てたし。
【きだて】そうそう。カシオとシャープが電子手帳で覇権を争っていた時期でもあり。
――システム手帳の全盛期ですよね。80年代後半から90年代にかけては。
【きだて】そう、ファイロファックスあたりがバカ売れしていた時期で。それと同時に、電子手帳もすごく売れていたんだよね。
【他故】日本では電子手帳だったんだよ。
【高畑】携帯電話とノートパソコンが普及する前夜だった感じだよね。
【きだて】まだ全然だよね。ワープロがようやくドット液晶からCRTに移行したかな、という時代で。
【他故】ワープロを仕事で使うようになったぐらいかな。
【きだて】フロッピードライブ搭載のワープロが一般的になってきたぐらい。
【他故】家庭に入りはじめた頃じゃない。
【高畑】88年、89年ぐらいで。その頃『ビー・ツール・マガジン』もワープロの特集がどんどん増えちゃって、それで迷走して廃刊になったんだよね。そこら辺で、みんなの関心が最新デジタル機器の方にいきつつあった。「OA」(オフィス・オートメーション〈Office Automation〉の略)って言われてたよね。
【きだて】そうOA。
――懐かしいですね。
【他故】久々に聞いたよ。
【きだて】そんな中で、文具メーカーもデジタル機器に寄り添わないといけないんじゃないかというので、プラスとかシヤチハタが商品を出したりして。
【高畑】当時は、まだパソコンが持ち歩けないから、デジタルな単機能のもの。例えば、高度な電卓みたいなものを小さくして、それを手帳と一緒に持って歩くのがまだ主流だった。
【きだて】そうだね。
【他故】それの最たるものが、電子アドレス帳だったわけだね。
【きだて】そうね。「テゼットSV」は、その電子アドレス帳がボールペンに付きましたという商品だったわけ。
【高畑】「何でやねん」っていう(笑)。
【きだて】本当に「何でやねん」だよ。
【高畑】これがまたすごいな~。
【他故】何度見てもいいよ。開くとキーボードっていう(笑)。
【きだて】これ、オークションで買ったんだけど、買ってしばらくは生きてたんだけど、ここのキーボードの部分が死んじゃって。
【他故】そうか~、死んじゃったか。
【きだて】電源は一応入るんだよ。
【高畑】俺が持っているやつも動くかどうか分からないな。俺のは液晶が焼けてるんだよ。
【きだて】そうなんだよ。簡単に焼けるんだよ。
【高畑】いや~、いいね。当時のさ、スピードライマーカーで描いたレンダリングが見えてくるよね。何か「プロダクトデザインスケッチ」みたいな。
【きだて】はいはい(笑)。
【高畑】そして、そっちは古い方の「テゼット」ね。
【他故】電卓だけのやつだ。
【きだて】まだこっちの方が動くね。
電卓が付いた「テゼット」初代モデル
――初代のモデルは、まだ昭和だった頃に発売されたわけですね。
【きだて】そうですね。「テゼットSV」が出る2年前だったかな。その頃、近所の百貨店の文具売り場にこの「テゼット」があって、「うわっ、未来!」って思った。
【高畑】うわぁ~、分かる、分かる。
【他故】この光った感じが空山基みたいで(笑)。
【高畑】ボタンが並んでいる感じがね。
【きだて】そうだよね、これ空山タッチだよね。
【他故】空山タッチだよ。
【きだて】初代「テゼット」の頃はまだ中学生でギリで文房具から離れてなかったので、文房具屋に行ってはいろんなものを見ていたんだけど、それでこれを見て「ああ、かっこいいー!これ欲しい」と。でも中学生が買える値段ではなかったから。
【高畑】なかったよね。
――いくらぐらいだったんですか?
【他故】8,000円とか9,000円だっけ?
【きだて】冷静に考えたら、俺は中学の頃からバイトしてたから、買おうと思えば買えたんだよな−。
【高畑】でもさ、電卓が付いたボールペンに9,000円を出すかという話だから。
【きだて】そうなんだよ。
【高畑】そのあとの使い道を考えたらさ。
【きだて】その頃はパソコンが欲しくて、新聞配達のバイトをして貯め込んだのよ。
――こっちもオークションで入手したんですね?
【きだて】そうです、両方ともオークションで。やっぱりね、今見てもカッコいいんだよね。
【高畑】だから、今シド・ミードを見るような感じじゃん。
【きだて】そう!
【高畑】こういう未来に憧れていたわけじゃん。
【他故】あきらかにシド・ミードラインだよ。
【高畑】この当時に、僕らが思っていた未来だよ。このクリップ削り出しだぜ。
【他故】すごいよ。これ、ちゃんとはさめるの? ただ上からかぶせてあるだけ?
【高畑】これ、スイッチにもなってるんでしょ?
【きだて】いや、連動してない。
【他故】液晶を隠すのと、クリップという機能なんだ。
【きだて】そう、それだけ。
――なんか、ソリッドな感じがしますね。
【高畑】このクリップの感じがね。
【きだて】ボールペンって、普通は円筒形じゃないですか。そこへ、平面であるべきはずの計算機の盤面をよく配置したなと思って。そこにまず驚きがあるじゃないですか。無理矢理搭載したというところに。
【他故】無理矢理(笑)。
【きだて】その当時の俺からみると、無理矢理ではなくて、「こんな解決方法があったんだ!」って(笑)。
【他故】あ~、はいはい(笑)。
【きだて】これを考えた人は天才だと思って、超絶あこがれたんだよ。
【高畑】あ~、分かるなぁ。
――これは、今の視点から見るとイロモノになっちゃうかもしれないですが、当時だとこれはもうすごかったわけですね。
【きだて】だって、計算機自体が「持ち運べるようになりました」というのも、その当時でほんの何十年か前なんだもの。
【高畑】何十年もしないよ、ほんのちょっと前だよ。
【きだて】「カシオミニ」で15年前くらい?
【高畑】カシオミニはもうちょっと前だけど、カード電卓がその頃だよ。
【他故】80年代半ばに出たんだよね。
【きだて】その頃に太陽電池もメジャーになって、それでカード型が出てということだね。それで、計算機が手軽に持ち運べるようになったのが最近の話なのに、そこからわずかな時期なのに、ボールペンにまでなるんですかという(笑)。
――ちょっと興奮しちゃいますよね(笑)。
【高畑】このスタイルでさ、持っているものの中に液晶画面とボタンがあって、しかも開くとキーボードが出てくるというのは、これはもうちょっとしたスパイ映画のグッズじゃない。
【他故】そうね。
【きだて】これくらいの、電子ブックとか電子手帳と言われているものは、もう普通に手帳サイズぐらいのものがあったじゃない。
【他故】手帳サイズのもあったし、機能が限定されていれば本当のカードサイズのものもあったからね。
【高畑】でさ、このパーティングの割り方あたりが、当時僕らが好きだった、SFに出てくるロボットのギミックなわけですよ。
【きだて】そうなんだよね。うわ、ディテールが。
【高畑】ここの筋彫りなんかがそうじゃない。それで、持てないかというと、持てるんだよね。
【きだて】そうなんだよ。書けないかというとちゃんと書けるし。ここにグリップが付いているんだよね。
【他故】あ~グリップ付いてるね(笑)。
【きだて】「親指をここでホールドしなさいよ。それならちゃんと持てますよ」というのがあるんだよ。
【高畑】これ、昔サンスター文具が出していた「バインダーボール」っぽい感じがするんだよ。
――あ~、確かに。
【高畑】あんな感じ。だから、持てなくはないんだよ。
【他故】これは、電子手帳ごっこをする子どものおもちゃですよね。デザイン的な感覚としては(笑)。
――それで、これにアドレスを入力するわけですか。
【きだて】そう、162人分まで入ります。だから、今思えばメモリはショボいよね。
【高畑】いや、当時の162人分だとしたら…。
【他故】個人のアドレス帳だったら充分だよ。
【きだて】もちろん、充分だったと思うよ。
――このキーボードで入力するのは大変そうだな。
【高畑】その頃のプラスは、60秒も録音できるレコーダーとか出してたからね。
【他故】「何と60秒も!」って言ってたからね。
【きだて】あった、あった(爆笑)。
【高畑】でもデザインだって当時真面目にやり尽くしてるから、今見てもそんなに手抜き感がないじゃん。
【きだて】手抜きはないよね。
【他故】かっこいいよね。
――これは、「あ」を押すとあ行の文字が順番に出てくるわけですね?
【高畑】これ、入力は超絶面倒くさいし、指で押しにくいので、棒の先とかで押したくなる。
【他故】これを当時みんな得意気に使ってたんだ。
【きだて】これをシヤチハタが出したというのも面白いし。
――これ、いくらぐらいだったんですかね。前のモデルが、8,000円とか9,000円だったら、1万円超えてたんでしょうね。
【きだて】1万円超えてたと思うな。さらに高いバージョンでペン後端に印鑑が付いているやつもあったよ。
【他故】あ~、シヤチハタだからね。
【きだて】シヤチハタのアイデンティティとして、印鑑は付けざるを得なかっただろうね。
――印鑑付きは全体的に丸みがあるんですか?
【きだて】いや、印鑑のところだけポコッと円筒になってるの。
――ああ、ネームペンみたいな感じですね。
【他故】今、もう一回やらないかな?
――今だと、ここに何を付けますか?
【高畑】でも、入力はスマホからになっちゃうだろうな。
【きだて】液晶の表示だけなの?
【高畑】いや、分からないな。このボタンで入力するのは、今はちょっとあれでしょ。
【きだて】まあ、嫌だよね。
【他故】何だろう。スマホで呼び出されると震えるペンとか。
【きだて】それは、スマートウォッチのペン版だよね。
【高畑】そうだね。液晶にメールの着信のお知らせがきたりして。
【他故】ポケベルみたいだな。
【高畑】う~ん、だから今だと成立しないんだな。
【他故】付けるものが見当たらない。物自体はカッコいいんだけどな。
【きだて】液晶が付いて、電話番号が登録できて、メモもとれるという…。それ、スマホじゃん(笑)。電話がかけられないけど。
【高畑】そうなんだよ。スマホでできちゃうんだよね。せいぜい録音機能は付けられるだろうけど、違うよなぁ。
【他故】ズバリ電卓でも面白い気がするけどな。
【きだて】電卓付きペンは、これ以降にもいくつも出ていて。
――電卓付きペンは、今だったら中国にいっぱいありそうじゃないですか。
【きだて】中国の電卓付きペンは、うちに10種類以上あるよ。でも、一番最近のやつでも7、8年前だな。それ以降は少なくなってるかも。
――ペンに付けるとしたら、せいぜいUSBメモリくらいですかね。
【きだて】電卓付けてもそんなに便利じゃないっていうことに、みんな気付いちゃったんだね。あこがれはするけど、使ってみたらそんなに便利じゃないじゃんって。
――でも、「テゼットSV」が発売されたということは、電卓付きの最初のモデルが売れたからですよね。
【きだて】だって、こんなにカッコいいんだもの。
【高畑】当時は、これとファイロファックスのシステム手帳を持っていたわけでしょ。カッコいいに決まってんじゃん。
【きだて】ねえ。
――当時のビジネスマンは、これを持っていたわけですね。
【高畑】当時は、スマホもガラケーもないし、ノートパソコンもないんだから。そしたらさ、こんなのがカッコいいに決まってるじゃん。
【きだて】カード型電卓を持つか、「テゼット」を持つかという感覚だと思うよ。
――これを持つのがステイタスだったのかな。
【他故】そうでしょうね。「手帳にもはさめる薄さ!」みたいな感じで(笑)。
【きだて】実際にね、オークションでも「テゼット」は色々と出てるんだ。でも、「SV」が出ない。
【他故】出ないんだ。
【きだて】あんまり売れなかったんじゃないかな。
【高畑】数がないんだ。
【他故】そうだね、「テゼット」の方が数はあるだろうな。
【きだて】「テゼット」は、オークションでなんぼでも出てくる。
【他故】これは、今でも芯を替えて使うことはできるの?
【高畑】替え芯は何かあるんじゃない。多分そんなに特殊なものは使ってないと思うよ。
【他故】4C芯っぽい雰囲気だけど。
【きだて】(芯を取り出して)ああ、やっぱり4Cだね。
【他故】4Cいけるんだったら、今でも通用するかな。
【高畑】全然問題ないんじゃない。だから、あえて今使うんだよね。
【きだて】そうだよね。
【高畑】これでちゃんと動いているのがあったら、カッコいいよ。
【きだて】だから、「SV」の完動機を改めて探してるんだけど、出てこない。
【高畑】俺、あれ持っているよ。カシオの計算機が付いている腕時計。下にキーがついているやつ。えーと、データバンクだ。あれの初代のモデル。
【きだて】おお~、いいね。
【高畑】あこがれるのは分かるよ。当時買えなかったから、大人になって買うみたいなね。
【きだて】そう。その当時のルサンチマンが、今の原動力になるわけじゃん。
【他故】すごいよく分かる。
――じゃあ、イロブンの原点みたいなものですかね。
【きだて】実際、そうだと思いますよ。
【高畑】そうか。イロブンといえばイロブンだしな。
【きだて】確認したら、ネットオークションをやり始めた初期の頃に手に入れているから、かなり欲しかったんだと思う。
――それは、デパートで見たときの原体験が残ってたんですか?
【きだて】イロモノ文具を改めて集めだしたときに、「あれを手に入れなきゃ」って思ったから。
【他故】そうだよね。
【高畑】それをこじらせちゃったから、俺らはこうなっちゃったんだよ。
【他故】わはは(笑)。そうだね。
【きだて】それは否定しない。こじらせた。
【高畑】でも、こじらせるぐらいカッコいいよね。
【きだて】うん。
【高畑】俺もそれは分かるよ。
【きだて】やっぱり、ここに未来があったというのは間違いないんだよね。
【他故】本当に、あの当時のデザインだものな。本当にこういうやつだよ。
【きだて】ソリッドだしさ。
【他故】直線で黒くて、グレーでラインが入っていてさ、丸と四角と三角でさ。
【高畑】フラットなところに線が入っていて、パカッと開くという。
【他故】いかにも。
――当時のデザインですよね。
【他故】本当に大好きな、80年代後半から出てきた、直線で生かせるデザインですね。直線でカッコいいやつって、今はなかなかないんですよね。
――同時代にどんなデザインのものがあったんでしょうね?
【きだて】これより前だと、角が柔らかく丸いんですよ。
【高畑】丸っこいプラスチックの塊みたいなものが多かったけど、それとは別のところで、電子手帳とかはまっすぐな感じのものが段々出てくるんだよね。プラスチックの丸っこいのと、金属の薄いのがあって。
【きだて】86年発売の「チームデミ」は、どのパーツも曲線構成でプラの丸い手触りという感じだったんだけど、そこからデジタルものに移行するとソリッド&シャープになるんだよ。
【他故】電気使うとソリッドになるんだよな(笑)。
【きだて】本当に、空山デザインとかそういう方向に行っちゃうんだよね。今まで散々丸いのが出てきて、そろそろ食い飽きたなと思ったときにこういうのが出てきて、「カッコいい」となったわけだ。
【高畑】何か小さなところにものすごい高密度に何かが詰まっている感じってカッコよくない?
【きだて】その集積率というかね。
【高畑】ものすごい高度なものがギュッて詰まっているというのが、「テゼット」にはすごく感じるよ。
【きだて】これよりちょっと前になるけど、「LSI」っていう言葉がカッコよかった時代があったじゃん。
【他故】あ~、あったね。
【高畑】ICからLSIに替わる頃だね。高集積になってくる。
【他故】そうそう。
【きだて】その密度感のアップというのがさ、体感できる時代に生きていたわけだからさ。その中のある意味神髄だったかなという気がする。
【高畑】その電子機器をモバイルで持つというのが、当時の最先端じゃないですか。
【きだて】できるサラリーマンというかさ。
【他故】サラリーマンじゃなくてビジネスマンだよ。できるビジネスマンってやつだよ。
【きだて】それこそ、『右曲がりのダンディ』とかあの時代ですよ。バブル期の。平成元年ってまだバブルじゃん。
【他故】まだまだね。
【高畑】ピークです。
【きだて】こういうのに、大人も子どももあこがれて。それで、あこがれた子どもの方は、長じてこのようにこじらせるという。
【他故】わはは、いや~よく分かるな(笑)。
【きだて】そういう意味では、罪なアイテムではあるよね。でも、久々に引き出しから出して眺めていても「ああ、いい」ってなっちゃったので。
――これで酒が飲めますよね。
【きだて】飲めるね。
【他故】充分ですよ。
【きだて】我々世代は、全然これでいけるよね。
【他故】これで2時間じっくりいけますよ。
――これでちゃんと動いてくれたら盛り上がったのに。
【高畑】生きてたらよかったのにね。
【きだて】アドレス入れちゃうよね。
【他故】それで、表示させて「おー」って盛り上がるよ。
【高畑】これ今でも、商談中に「ちょっと待って下さい」って取り出して、使いたくなるよね(笑)。
【きだて】逆にカッコいいよね。
【高畑】「何すかそれ?」ってなるよ。
――得意気に使っている人の姿が目に浮かぶな(笑)。
【きだて】30年前のものだと思えないじゃない。
【他故】30年前だとは思わないね。
【高畑】30年前にしては進んでいるし、今ではなかった世界線につながってるじゃん。そこが面白いよね。ある意味分岐した世界線にいるんだよ、これは。
【きだて】SFの中にスチームパンクっていうジャンルがあるじゃん。蒸気機関が進化した時代の。
【高畑】それそれ!
【きだて】80年代から分岐した未来って、何かフィットする言葉がないかなと前から思ってたんだよ。
【高畑】スチームパンクみたいに、電卓パンクがあるはずなんだよ。
【きだて】そう! LSIパンクかな、何と言えばいいんだろう?
【高畑】単色液晶で、ゴムのボタンが付いている未来があるはずなんだよ。
【きだて】そうそう!
【高畑】分かるわ~。その世界観って、SFではあんまり見ないものね。でも、俺らには絶対刺さるよね。
【きだて】ドはまりするよ。
【他故】『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』っていうSF小説があって、アメリカが日本に分割統治されているという話なんだけど、その中でみんなが使っている携帯の名前が「電卓」っていう名前なんだよ。
【きだて】あ~、その感じいいな。
【他故】そう。あっちは電卓が進化している世界なんだよ。
【高畑】しかし、こういう話をしてもう一回見ると、やっぱりカッコいいよな(笑)。きだてさんと僕は同世代じゃないですか。その当時は、買うにはやっぱり高すぎたよね。
【きだて】中高生が買える値段ではなかった。
【他故】大学生でも買えないよ。
【高畑】もちろん、大人だって気軽に買えるものではないけど、僕らから見ると“大人”っていう世界があって、まだもうちょっと遠かったじゃん。
【他故】あ~、なるほど。「あの人たちは使ってるんだ」という雰囲気はあったかもしれないね。
【高畑】その当時は、買おうとは思わなかったんだよね。ちょとした別世界だったから。
【他故】そりゃそうだよね。
【きだて】今の中高生に言いたいことは、「欲しいものがあったら我慢せずに買っておけ」ということだよ。
【高畑】そっちか(笑)。
【他故】わははは(笑)。
【きだて】30年後に、「ちゃんと買っておいてよかった」と思えるようになるから。でないと、こじらせるぞ。
【高畑】大人になってから買っちゃうからね。
【きだて】ルサンチマンはためないほうがいい。そういうドロドロとしたものと無縁でいた方が、人生は楽しいと思う。俺たち苦しいから(笑)。
――その気持ちはよく分かります。
【きだて】苦しいし、無駄な金を使ってるから(笑)。
――その時の心のすき間を埋めようとして浪費しちゃいますからね。
【高畑】あ~、それよく分かる。
【きだて】30年前の当時モノって現物が少ないんだよね。もっと古いと、昭和骨董というジャンルになって流通量が増えるんだけど。
【高畑】このジャンルは難しいよね。
【きだて】80年代、90年代のアイテムは、本当に手に入らないので。
【他故】デッドストックを持ってて、何かの事情で放出するとかがない限り、なかなか出てこないよね。
【高畑】バブルの頃なので、前に前に進んでて、古いものをどんどん捨てていった時代だから。
【他故】使わずに取っておく人はまずいないくらいだよ。
【高畑】機種変更で新しいワープロを買ったら、前のはもうガラクタになるという時代だったものね。
【他故】歴代全部という人は、場所がないといけないから。手に入りにくいよね。
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談6』も発売。
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