【連載】月刊ブング・ジャム Vol.09前編

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.09前編では、相次いで気になるアイテムが登場しているはさみについて熱いトークを繰り広げました。
ダンボールの開梱にぜひ一丁!

――2017年最後の「月刊ブング・ジャム」は、最近何かと注目の商品が発売されてきているはさみを取り上げたいと思います。まずは、今一番売れているであろう「ハコアケ」から取り上げたいと思いますが。
【きだて】売れているらしいですね。
【高畑】売れすぎて生産間に合わないという話を聞きましたよ。
――売り場を見ると、ディスプレイだけあって、商品が全くないというところもありますからね。
【高畑】だって、きだてさん家に、生産量の半分があるんでしょ?
【きだて】そんなにあるか(笑)、三つだよ。
【高畑】でも、三つもあるんだよね(笑)。
【他故】三つはすごいな。
【きだて】でも、うちは4部屋あるんだよ。
【他故】いや、待て待て(笑)。
【きだて】だから、置いてない部屋があるんだよ。
【高畑】あっ、そうか。じゃあ、まだ足りてない?
【きだて】最低でももう1本置く場所はある。そもそもうちは夫婦揃って通販をヘビーに使うから。嫁さんは基本的に引きこもりだしね、仕事が。
【高畑】まあ、漫画家ですからね。
【きだて】で、俺もやっぱり元々は部屋仕事な人間なので、外へ買い物に出るよりは通販を使うわけですよ。で、まず届いた荷物をその場で開けるために玄関先に1本置くじゃない?で、二人の仕事部屋で開ける場合もあるので、そこに2本目でしょ。あと、嫁さんに見られたくない系の荷物が届いた時のために、自分の部屋でこっそり開ける用に3本目が必要なわけですよ。
【高畑】見られたくないっていうのは、どれ系だよっていう(笑)。
【他故】妙にリアルな感じになってきたぞ(笑)。
【きだて】いやいや(笑)、あの~、いやらしい話ではなく、例えばアメリカから通販でちょっと大きめのおもちゃが届いたとか。
【高畑】ちょっと高級目の荷物が届いて後ろめたいんだ?
【きだて】高級というか、「あんた、それどこに置くつもりよ?」っていう、大きいやつとかね。
【高畑】ああ、大きいやつだったんだ。それ、箱の時点でバレるだろ(笑)。
【きだて】そんなの、箱はもう速攻でたたむよ。
【高畑】「前からあったでしょ?」ぐらいの勢いなんだ(笑)。
【他故】じゃあ、自分で受け取ればOKなんだ。
【きだて】そう。それが、ちょっと最近難しくなってきているから。
【高畑】自分が、毎日昼間いないからね。
【きだて】そうそう。まあ、そんな感じで、宅急便を開けるケースというのは時と場合によって違うじゃない?ということは、やっぱり1部屋に1本はあったほうがいいんじゃないかというのが、俺の主張です。
【高畑】あるいは、自分専用も必要なんだね。
【他故】一人に一つまでなら分かるわな。
【きだて】オフィシャルで家庭内で使うものと、自分用というのはあってもいいよという話じゃん。
【高畑】でも、2人なのに三つあるけど、4部屋なのに三つだという。
【きだて】そうそう。まだ置けるわけだよ。一つは玄関だから、まだ2部屋分は置けるよ。
【高畑】いやいや~。これが売れているというのは、きだてさんほどではなくても、「やっぱ、ダンボールは開けるよね」というところの共感はすごかったんだね。
【きだて】「へー、これを使って開けたらいいのか」というね。今までだと、カッターはともかくとして、はさみを大きく開いてテープに突き刺してビリビリッて引く人が多かったと思うんだ。でも、それって刃物をすごくラフに使ってる状態なので、やっぱり危なっかしいんですよ。
【高畑】なんやかんやでケガする場合があるからね。
【きだて】危ないんだよ。そういう意味では「ハコアケ」は安全性がすごく高い。
【他故】そうね。
【高畑】カッターナイフは、危ないというか箱の中身を切る可能性があるから。俺も、何度か箱の中身を傷付けたことがあったので。
【きだて】俺もある。ダンボールに入っていた米の袋をカッターで切っちゃって、ダンボール箱の中に米があふれたことがあるよ。
【他故】あ~、米櫃が1個追加になっちゃったんだ(笑)。
【高畑】キャンプに行ったときに、缶ビールが入ったダンボール箱を開けようとした人が、中の缶まで一緒に切っちゃって、ビールがブワーッと吹き出してたよ。
【きだて】壮絶だな、それは。
【高畑】アルミだから大丈夫だと思って、カッターでジャーッと切ったら、意外と切れるのね。
【きだて】突き刺してから引くと切れるんだよね。
【高畑】アルミ缶も、中身が入っていたらなめるように切っても切れるんだよ。
【きだて】切れるんだ!
【高畑】箱を上下に切ろうとして、缶の横を切ったんだよね。それでブシューっと。
【きだて】横だとそれでも切れちゃうんだねぇ。
【他故】横は弱いんだ。
【高畑】やっぱり、安全性もそうだけど、中身が傷つく可能性があるから、やっぱりカッターは使いたくないね。
【他故】そうね。
【きだて】ただね、この「ハコアケ」は安全性を考慮視し過ぎて刃が出なさ過ぎなので、若干使いづらいところがあって。あと、2、3㎜は出てほしい。
【他故】もうちょいなんだ。
【きだて】梱包テープ貼った上からフタの合わせ目に刃を入れて引き切りしたいのに、1㎜しか刃が出てないから、上滑りして逸れちゃったりするんだよね。
【他故】あ~、なるほど。
【高畑】もうちょっとだけ出ててもいいよね。
【きだて】あと、フタの縁のとこも切りにくい。
――これは、安全性を重視して、1㎜しか出さないと決めたんですね。
【きだて】コクヨの人に聞いたら、試作品ではもうちょい刃が出ていたと。
【高畑】ダンボールの厚み以上に刃が入るのは避けたいところなんだろうね。
【きだて】でも、あと2㎜はいけただろうと思うんだけど。
【他故】まあ、テープの厚さが切れればというところの限界なんでしょ。
【きだて】まあ、そうなんだろうね。
【高畑】ダンボール薄いのもあるからね。でも、よく使ってるんでしょ?
【きだて】使ってる。今までは、面倒くさいから手でバリバリやってたこともあるけど。
【高畑】布テープと紙テープはそれで開くんだよ。透明のテープが開かないんだよ。
【きだて】またね、海外からの荷物は大体ビニールテープで梱包しているんだよ。
【高畑】そうなんだよね。日本は割とクラフトテープが多いけど。
【他故】強力なやつでガッチリ固めて来るからね。
【きだて】そう。しかも、グルグル巻きにしてあるから、切らないと話にならない。
【高畑】雑なのに、厳重に梱包してあるやつってあるじゃない。ピッチリと貼ってないんだけど、何回も巻いてあるの。
【きだて】ビニールテープのミイラみたいなやつ。
【高畑】そう、あれな。
【きだて】やっぱり、そういうのは切らないと話にならないわけで。でも、カッターは怖いし。カートンオープナーみたいなのがあるじゃない、ダンボールノコみたいなやつ。
【高畑】ありますね。
【きだて】あれもやっぱ、刃は長いので、中身を傷つけちゃう可能性はなくはない。その中で、今一番何が安全かというと、俺はこの「ハコアケ」だと思う。
【高畑】あの、ダンボールのカッターみたいなやつは、もうちょっと用途が広いじゃん。
【きだて】そう、ダンボールの解体とかね。
【高畑】これは、完全に開梱以外は考えていないじゃん。だから、そのあとダンボールを解体するということじゃなくて、とにかくきれいに開けると。
【他故】玄関先に刃物が置いてあるのって、多少物騒な気がしますよ。
【高畑】あ~、そうね。
【他故】カッターがずらりと並んでいる家って、怖いじゃないですか。
【きだて】防犯意識高いね(笑)。
【他故】防犯意識高すぎだろ。何で、戦わないといかんのだ(笑)。
【きだて】意味分からんね(爆笑)。
【他故】はさみは置いていていいけど、はさみじゃ切れないねというところがあって、上手い商品になったなという気がします。
【高畑】うちは、玄関の下駄箱の中に、宅急便セットが置いてあるんですよ。小さい箱の中に印鑑と宅急便のメンバーズカードとか、いくつかの必要なものを入れて置いてあるんだけど、そこに「ハコアケ」を入れてある。それで、すぐ開けられるのはいいかなと思います。
【きだて】あと、ポイント高いのは、はさみとしてもちゃんと切れるんだよね。
【他故】ああ、そうだね。
【きだて】とりあえず、必要十分という。
【高畑】ガムテープののりがくっつかない、「サクサ」と同じ仕様になっているじゃない。
【きだて】「3Dグルーレス刃」ってやつね。
【高畑】だから、開梱だけじゃなくて、梱包のときも使う用途があるわけじゃない。ガムテープを切ったり、貼ったりとかで。まあ、手で切れたりはするけど、はさみ使うときもあるので。まあ、便利は便利。
【他故】便利だよ。
【高畑】「サクサ」と一緒なので、よく切れるから。そこは問題ないし。
【きだて】問題ないね。
【高畑】この指あてが、小技効いてるじゃん。
【きだて】使うときはここに指を置くんだな、で安全な使い方が視覚的に分かる。
【高畑】面白いのは、このキャップが指あてをちゃんと避けて、そこを通るときに開くんだよね。それで、この指あてがキャップのロックになっているんだよ。
【きだて】そうだね、そこでカチッと止まるようになってる。
【他故】この、カチッがまた気持ちいいんだ。
【きだて】…でも面倒くさいから、キャップ捨てちゃった。
【他故】捨てたか~。
【きだて】使わないわ~。
【高畑】なしで平気な人はそれでいいからね。
【他故】うちはなくされたわ~(笑)
【きだて】子どもに(笑)。
――キャップは、そうやってよくなくされますよ。
【高畑】まあ、外に刃が露出しているわけではないからね。押さないと出ないから。他の刃物系に比べると、扱いやすいかな。
【他故】そうだね。すぐにズバッと出ないところがいいよね。
【高畑】独特の刃先で、長方形なんだよね。
【きだて】そう、「箱に突き刺して使うんじゃないですよ」という。あと、「これは特殊な仕事ができるハサミなんですよ」と、他とはひと味違う感も出てる。これはいいデザインだと思うな。
――これは、わざとそうしているんですかね?
【きだて】何も考えずにこの形にはしないですよ。
――確かに、先が鋭利だと使いずらそうですね。
【きだて】あとね、ハコアケモードに切り替えるのが、説明しないとちょっと分かりにくいかな。
――あ~、使い方がすぐ分からないかもしれませんね。
【高畑】自分で買った人ならまだ分かるけど、家に置いてあって他の家族が使う場合なんかは、何のためのものなのかがちょっと分かりにくいかもしれないね。
【他故】そのまんま、ガーッとやっちゃいそうだよね。
【きだて】うちも、ちゃんと嫁さんに事前レクチャーしたもの。「これは、スイッチを押しながらハンドルを握る」って。
【高畑】それは、みんなの家にきだてさんがいるわけじゃないからね。
【きだて】説明書を見ても、若干分かりにくいところがあって。
【他故】まあ、これ以上書きようがないんですけどね。
【きだて】書きようがないんだけど、やってみないと分からないところがあるんだよ。
――動画とかないんですか?
【他故】多分、パッケージのところにあるQRコードから動画に行けるんですよ。
――あ~、なるほど。
【高畑】「文とび」で僕の動画も見て下さい(笑)。
――お願いします(笑)。
【高畑】まあ、3丁置いて活用するぐらい、使う人は使うということで。
【他故】置いてあるはさみは、みんな同じバージョンなの?
【きだて】1本だけチタン刃があります。
【高畑】チタンじゃなくても十分に使えるけどね。
【きだて】全然問題ない。チタンである必要を感じないくらい普通に切れるよ。
【他故】いくら値段が違うの?
【きだて】300円だったと思う。
――きだてさんは、「ハコアケ」を買う前は何で開けてたんですか?
【きだて】手か、ダンボールノコです。
――今は、完全にこっちにシフトしたんですね?
【きだて】シフトしました。応用性の低いダンボールノコよりは、はさみの方がいいかなと思って。猫用のトイレ砂とか重いのがPPテープ巻いた状態で届くんだけど、それもはさみ形態で切ったりとか。
【他故】そうね。
【高畑】どっちもできるから。
【きだて】そういう意味では、何にでも使えるというのは強いなと。
【他故】うちも、割と通販で買い物をするから、「これいいぞ」って言うんだけど、ちゃんとやってくれないので、今度レクチャーしようかな。
【きだて】あ~、それは授業するべきだね。
【他故】でも、そうすると、息子がおもちゃにしてどっかへ行っちゃうんだけど。
(一同爆笑)
【他故】やっぱり、うちも一人1個は必要かな(笑)。
【高畑】一人1個! 文具リテラシーの高い家だよな(笑)。
【他故】娘だと、自分宛の荷物を玄関では開けないから。
【高畑】あ~、だから自分用が必要なのね。
【他故】そうなると、自分用があった方がいいんだよ。
【高畑】じゃあ、きだてさんのところみたいにね。
【きだて】そう。お年頃の娘さんは、色々あるじゃない。BL本とか(笑)。
【他故】嫁宛の荷物も、僕が開けたら嫌がられるだろうし。
――なるほど。
【高畑】これが今めちゃ売れしているというのは、ネット通販とかメルカリみたいな個人売買も含めて、宅配便で荷物が届く頻度が激増しているんだよね。
【他故】そういうのがあると知っていると、家に置いておいてもいいと思うし、荷物を送った先に「こういうのがありますよ」と言ってあげることもできるから。差し上げるところまではいかなくても、教えてあげることはできるから。
【きだて】そうだね。
――これも一緒に送ってあげるとか。
【他故】それじゃ開かないじゃん(笑)。
【きだて】でも、コクヨは今ちょうどみんなが欲しがっているものを出したなと思うよ。
【高畑】これは、マーケティング主導の商品っていう感じがする。
【きだて】うん、するね。
【高畑】今の、個包装輸送の増加に合わせて作りましたというね。どちらかというと、起点がマーケティング寄りの発想だよね。
【他故】20世紀だったら、業者しか買わないようなものが、今は個人にバンバン売れてる。
【きだて】そうだね。開梱ツールなんて業者じゃんという話だもね。
【他故】これも、こんなナチュラルな色じゃなくて、黄色と黒みたいな色で売っていたものだろうし。
――はさみとカッターが一緒になった商品ってありますよね。
【きだて】ドラパスの「おもしろはさみカッター」とか。
【高畑】サンスター文具も出してる。ドラパスのは刃が外れないやつで、サンスターのはキャップがカッターになっている。あれも、倉庫作業とかで使う人向けだけど。
【きだて】あれも海外で人気があって、パチものとか出回っているみたいだけど。
【他故】便利そうだものな(笑)。
【高畑】まあ、今っぽい商品だね。
【他故】非常に今っぽいよ。
【きだて】コンセプト明確だから、記事書きやすくてさ。
【他故】ああ、そうだね。特に、主婦層に当たりそうなパッケージ感だし。
【高畑】これAmazonなんかは、ハンドルを茶色にしてロゴを入れたこのはさみを作って、ポイント貯まった人にプレゼントとかにしてあげればいいんじゃないの。
【きだて】そうだよね。
【高畑】あと、オレンジ色のカウネットバージョンとか。あの箱のキャラ印刷して。
【他故】いろんなところの通販業者が、自分のところのカラーで出したら面白い気がしますけどね。
【高畑】そのために、そっち経由でいっぱい買わなきゃいけないやつだよね。
【他故】全色揃えようなんていうと、大変なことになって(笑)。
【きだて】俺、そのままハコアケコレクターになりそうで、怖いわ。
【高畑】まあ、そういうことで良いんじゃないでしょうか。
――名前も分かりやすいですし。
【高畑】ああ、分かりやすい!
【きだて】「ハコアケモード」っていいね。
【他故】「ハサミモード」っていうのが、なかなかグッとくるね(笑)。
【きだて】「お前はそもそも何なんだ」っていう(笑)。次世代のスタンダードはさみ

――次もコクヨで「サクサ」です。
【高畑】「ハコアケモード」がないやつだよ。
【きだて】「ハサミモード」オンリーというやつ。
【高畑】「なんだ、ハサミモードしか使えないのか」っていう(笑)。
【他故】それじゃ足りないみたいじゃん(笑)。
――前のモデルが「エアロフィットサクサ」ですね。
【高畑】「エアロフィットサクサ」が「サクサ」になって。
【他故】エアロなしになった。
【きだて】手の大きい人間にとって、「エアロフィットサクサ」のこのハンドルはよかったんだよ。痛くなくて。手がよじれたときも、大分フィット感があってよかったんだけど。
【高畑】長いこと使うと、耐久性の問題があったからね。これ、「エアロフィット」が「エアロフィットサクサ」になって、めちゃくちゃ人気になったんだよ。で、「むしろ『サクサ』でよくない?」ってなって、「サクサ」が生き残って「エアロフィット」がなくなったという。
【きだて】なんかね、逆説的というかね。
【高畑】そう、本来後から付けたものが人気になって、後から付けたものにシフトしていくという。なんか、面白いよね。
【他故】面白いよ。
――「エアロフィット」自体も、ハンドルよりもグルーレス刃の方に注目が集まったんですよね。
【高畑】そうそう、本当はハンドルがウリのはずだったのに、グルーレスブレードがめちゃくちゃ人気になったから。
【きだて】エアロフィット好きなのに~。
【他故】エアロフィット派の人がいる(笑)。
――こっちの握り心地はどうなんですか?
【きだて】まあ、普通ですよ。「ザ・普通」じゃないですか。見た目も何もかも。
【他故】「ザ・普通」(笑)。
【高畑】そうなんだよ、「普通」のはさみなんだよ。で、「これさえあればいいんでしょ」っていうはさみになったんだよ。
【きだて】デザイン的には、アレックスの事務はさみの後継を狙ってるんじゃないかというぐらいザ・普通なんだよ。
【高畑】アレックスは事務用はさみな感じだけど、「サクサ」は家庭用一般はさみとか雑はさみとしての極普通っていう感じじゃん。
【きだて】逆に普通過ぎて、見た目的に100均のはさみとの差が見つけられないぐらい普通。
【高畑】でも、グルーレスで刃がネバネバにならなくて、ハイブリッドアーチ刃だから先端でもよく切れて、グリップもちょっといい具合になってますよという感じで。
――刃は、前のモデルから変わらないんですかね?
【高畑】刃は変わらないね。
【他故】あ~、でもよく切れますわ。
【高畑】刃が全体的になだらかなのが「フィットカットカーブ」で、先端でグイッと切りたいときは「サクサ」という気がする。
【きだて】そうね。
【高畑】先端の食いつきは確かにいいんだよね。
【きだて】あとは、柔らかい物も結構ちゃんと切れるので、これでプチプチなんかも普通に切れるし。「フィットカットカーブ」は意外とプチプチが苦手なんだよ。巻き込んじゃうから。
【他故】そうなんだ。
【高畑】あと細かい話なんだけど、カシメが奥にいくとちゃんと閉まるようにできているんだよ。
【きだて】そうそう、クッと閉まるような感じでね。
【高畑】何かそつがないよね。
【他故】そうね。
【高畑】普通に、これが置いてあったらいいよねという感じで。会社で大量にはさみを用意する場合は、これでいいのかなと思う。
【きだて】「今後の標準はさみはこれでいい」というレベルのはさみだよ。
【他故】そうだよね。もう本当に、気が付いたらあるというはさみだよ。
【高畑】もちろん、こだわりどころは色んなはさみがあるけど、会社の備品として何丁も置いておくみたいな場合なんかはこれで特に問題ない。
【きだて】そうだね。それ以上言うことがないくらい、普通のはさみだなぁという(笑)。よく切れる普通のはさみ。
【高畑】でも、どうせ普通のはさみだから何でもいいわけじゃなくて、「すごくちゃんとした普通のはさみを買っておこうよ」という話だよ。
――そう考えると、「普通のはさみ」のレベルが上がっちゃいましたよね。
【高畑】そうなんだよ。
【きだて】はさみ全体の底上げになってる。
【他故】上がりましたね。
【きだて】使う前は「この3Dグルーレス刃って本当に効くのか?」と思うんだけど、意外とちゃんと効くんだよね。
【高畑】要は、こすれる間にのりが入っちゃわなきゃいいんだよ。
【きだて】フッ素コーティングでのりが付かないとかやっていたけど、「ああ、こんだけでも全然効くんじゃん」って。すごいシンプルでいい回答だったなと思うよ。
――フッ素コーティングは、いずれはがれちゃうこともありますからね。
【きだて】そうそう。これは絶対はがれないですからね。ずっと使えるという意味でも。多分、これもアレックスの事務用はさみと同じく、10年使うはさみなんだろうなという気はする。あのまま家に10年あり続けるという。
【高畑】はさみが使えなくなるというのは、もちろん刃こぼれもあるんだけど、多くの場合はベタベタとかサビにやられるんだよね。ベタベタにやられなければ、切れ味が落ちても、こすると切れるから、気にしない人にとっては普通に使えちゃうんだよ。
【きだて】そう、無理すれば切れちゃうから、気にせず切っちゃう。
【高畑】2枚の板の間に粘着剤が入ってしまうと、摩擦がめちゃくちゃ大きくなるんだけど、それが付かない。粘着が付かないのはもちろんいいんだけど、もし付いちゃったとしても平気というのが、これのいいところだよね。
【きだて】付くとしても、ここのフチのところに付くだけなので、ちょっとぬぐってやればすぐに取れるし。
【他故】まあ、内側が汚れてもそんなに関係ないしね。
【高畑】背のところ同士だと、当たっても面積がせまいから。
【きだて】そうね。
【高畑】本当にそつがない、「田中一郎」みたいなはさみでさ。
【きだて】コクヨが今後10年を見据えて出したはさみなんじゃないか、っていうぐらいのザ・標準。
【高畑】「キャンパスノート」みたいに、普通であり続けるというか。
【他故】「サクサ」っていう名前が、家庭用はさみのスタンダードになるかというところだね。
【高畑】「サクサ」っていう名前の「田中一郎」感っていうか、「あれ、誰だっけ?」っていう(笑)。その名前の空気感も含めて普通だよね。
【きだて】ただ、2012年に「フィットカットカーブ」がバカ売れして、まだ5年しか経ってないから使えているんだよね。それが、買い換え時期にきたらどうなるか。
【高畑】でもね、はさみっていうのは不思議なもので、何でか知らないけどみんな買うんだよね。
【他故】はさみって買うよね。前も言ったけど、はさみってなくならない?
【きだて】ごめん、それはなくならないな(笑)。
【高畑】普通の家でも、引っ越しとか大掃除をすると、何でか知らないけどはさみがゴロゴロ出てくるんだよ。
【きだて】ほぉ~、そう?
【高畑】どこかに、猫の墓場みたいにはさみが行くところがあるんだよ。
【きだて】ええ~(爆笑)。
【他故】はさみの墓場があるんだと思うよ。
【きだて】そう?
【高畑】意外とそういう家は多い。で、何でか知らないけど、はさみを買っちゃう人って意外といて。
【他故】複数人で住んでいると特にそうだと思う。自分で置いたはずの場所にないっていうことがあるんだもの。
【高畑】そもそもはさみって、他の道具に比べてもダメになりにくいじゃん。使おうと思えば、使えちゃうじゃん。なのに、今の日本で販売しているはさみの本数を考えたら、おかしいんだよ。
【きだて】まあそうか、そうだね。
【他故】何故こんなに売れるんだっていう。
【高畑】人口比で考えたら。
【きだて】だから、「ハコアケ」一人で3本買ったりとか(笑)。
【高畑】そういうことだよ。他のはさみもあるんだろ?
【きだて】あるよ。うち、はさみ何丁あるんだろう?
――何年か前にもその話になりましたよね。「何で、はさみがこんなに売れるのか」って。
【他故】絶対、はさみの墓場があるんですよ。
――あるんでしょうね。だから、どこかへ行っちゃうんでしょ(笑)。
【きだて】俺は床に落ちてるはさみで足に大怪我したことあるから、はさみをどこかへやることに対して恐怖があって。
【一同】あ~。
【きだて】いまだに、冬場になると痛むぐらいの傷なんだよ。子どもの頃の話だけど。
【高畑】ありゃ。
【きだて】だから、はさみは使ったら必ず戻す。ペンはよくなくすけど(笑)、はさみやカッターなんかの刃物類はなくさない気がするね。
――そういう過去があるから。
【きだて】そう、痛い目をみると人間そうなるね。
もしもの時に頼れるすごいヤツ

【高畑】じゃあ、次いきましょう。
――次は「携帯マルチはさみ」ですね。
【きだて】マルチはさみ、すごくいいんだけどね、惜しいことにハンドルが小っちゃい。俺の手だと指が痛え(笑)。
【高畑】きだてさんの手からすると、ちょっと小さいのね。
【他故】携帯できるのがメリットだからね。
【きだて】そうなんだけどさ。
【高畑】俺は割と入っちゃうけど。
【他故】俺も入るな。
【きだて】指が太いとダメ。一応、そういうのを回避するために、ハンドルの縁を削ってあったりと気遣いは感じるんだけどね。
【高畑】そういうことだよね。ここのかたちはちゃんとしているんだけど。
【きだて】それでも、やっぱりつらい。
――携帯はさみだと、ハンドルのないスティック型のほうがいいんですね。
【きだて】小さいはさみは、そのほうが使いやすい。でもこれ、よく切れるんだわ。
【高畑】よく切れるね。これで「サクサ」より板厚が厚いんだよね。
【きだて】これ、厚さ3㎜あるものね。
――後で紹介する「エクスシザース」と同じ厚さだと言ってましたよ。
【他故】そうそう、結構分厚い。
【高畑】こんな分厚いのかよ、と思うくらい。
【きだて】これはね、番線が細かったら針金も切れちゃうんだよ。
【高畑】そうなんだよ。
【きだて】一応、針金用のカッターがここにあるんだけど。
【他故】あっ、後ろにね。
【きだて】でもね、こっちの刃でも切れちゃう(笑)。
【他故】つよいよね~。
【きだて】刃こぼれもしないよ。
【高畑】まあ、普段ワイヤーは切らないけどね。
【きだて】えっ、切らない?
【高畑】いや…、きだてさんは切るだろうけどね(笑)。
――ダンボール切る用のギザギザも付いているんですよね。
【高畑】だから、これもある意味“ハコアケモード”なんだけどね。
【きだて】そうそう。先端が段ボールノコギリみたいにギザギザになってて。
【他故】これは、男性用でいいんだよね?
【きだて】基本的には男性用なんだけど、男性の手には結構つらいような。
【高畑】だから、携帯してしっかり使いたいと思ったときに、大きさとのバランスでどこに落としどころをつくるかというところだよね。あまり大きくすると、今度は持ち運びが悪くなっちゃうからね。
【他故】そうだよね。
【高畑】同じデザインフィルが出している、「XSシリーズ」っていうミニツールキットがあるじゃん。あれに入っているはさみだと、持ち運び性は圧倒的にいいけど、パワフルに切れないじゃん。
【きだて】そうね。
【高畑】あれも、前よりは切れるようになったけど、それでも全然切れるものが違うじゃん。これはシートベルトも切れるから。
【きだて】工事現場にある黄色と黒のトラロープも切れました。
【他故】アウトドアでヘビーデューティー。そんな感じだよね。
【高畑】これは普段使いするかというと、携帯用なので、非常持ち出し袋に入れているよ。
【きだて】ああ、そうだね。そういう使い方はいいかもしれない。
【高畑】これ、ヒモ付けられるじゃん。非常持ち出し袋にヒモ付けて、それでカチッと留めておくみたいな感じ。それで普段使っているかというと、安心感なので、僕の場合は家に他のはさみもあるからさ。
【きだて】さもありなん。
【高畑】家では、他のはさみを使うことが多いけど、他のはさみを非常持ち出しで使うかといったら、それはでかいじゃん。
【他故】そうね、大きいよね。
【高畑】これだったら、ロープなんかも切れる強さがあるから。
【きだて】そうか、俺もこれ非常持ち出し袋に入れよう。それは、いいことを聞いたな。
【高畑】これは、災害用持ち出し袋に入れるミニはさみとしては、多分最強クラスなんだよ。
【きだて】そうだよね。このサイズで、ここまでいろんなものを切れるはさみってなかったからね。
【高畑】他のゴツくて何でも切れるはさみがあるじゃない。ああいうのになると、バッグに入れておくのにはちょっとね。
【きだて】ああいうのは、力を入れやすいようにハンドルもまたゴツいから、大変だよね。
【高畑】それでいくと、このはさみと、ニチバンの「コンパル」っていう小さいガムテープとかが入っているといいような気がするんだけどね。今のところ、まだ活躍する機会がないんだけど、持ち出し袋にはコンパクトだけど本格的にちゃんと使える物を入れておきたいよね。
【他故】そうだね。なんかあったときに「こんなんじゃ」というものを入れておいてもしょうがないし。だからといって、バカでかいものじゃ危なくてしょうがないからね。
【高畑】「スティッキールはさみ」みたいなものもあるけど、災害時のことを考えるともっと頼れる感が欲しいよね。
【他故】うん、それ分かる、分かる。
【高畑】というのがあるので、私はそれ用に入れてます。
【きだて】このケースもアウトドアな用途を想定して、水で濡れた刃をそのまましまっても大丈夫なように水抜き穴がちゃんと付いているのよ。そういう細かいところも、ヘビーデューティー仕様で作ってあるという。
【高畑】このキャップは、非常用でホイッスルとか付けてもいいかもね。
【きだて】ありだね。
【他故】そこから先のバリエーションとして、あって当然だよ。
【高畑】「XSシリーズ」のヘビー版があってもいいよね。これ1個で緊急持ち出し用のセットができるよ、というのを作ってくれたらね。
【きだて】それはいいね。
【他故】いいね。そういうのが揃っていたら、かっこいいよね。
――見た目が男のはさみですよね。
【きだて】この刃厚3㎜というのが全てですよ。このいかつさ。
【他故】すごいですよ。
【きだて】豆タンクみたいなはさみだよね。
【高畑】板厚があってカシメがしっかりしているから、硬いものを切ったときに逃げないんだよね。
【きだて】折れない、ぶれないで、ガッツリ切れるよ。
【高畑】あと、一応カーブしている刃になっている(笑)。
【他故】そう書いてあるね。
【きだて】片方がフラット刃で。両面がカーブ刃だと、トラロープみたいなのが切れないんだよ。あれ、滑って逃げちゃうから。
【他故】そうか、そうか。
【きだて】まっすぐな方に乗せて、カーブ刃で切るんだよ。
【他故】なるほど。
【高畑】これは、「スティッキールボーテ」と一緒だよ。
【きだて】ああ、あれも片面カーブ刃でもう片面がフラット刃だったからね。
【他故】そうか、そうやって用途を聞くとちょっと欲しくなるな。
【きだて】とりあえず、これ1本あれば使い道はあるね。
【高畑】そういう感じかなって思う。
【他故】「厚紙やカードが切りやすい」って書いてあるね。カードも切りやすいって?
【きだて】クレジットカードも、ザクッといくよ。
【他故】へぇ~、そういうことか。
【きだて】まぁ、最近のはさみだったらだいたいはプラのカードは切れちゃうけどね。
【他故】でも、そんだけ刃が厚かったら、間違いがない気がするね。
【きだて】刃渡りがこれだけ短いから、何度もザクザクと切り込まなきゃいけなくて面倒なんだけど。
【他故】そこは、携帯用だから(笑)。
【高畑】携帯用のバランス感としてはありだな。
【他故】いいじゃないですか。
刃の切れ味を堪能する
エクスシザース(カール事務器) 切り“落とす”をコンセプトに従来の2倍に当たる厚さ3mmのステンレス鋼板を採用したはさみ。職人が一本一本水研ぎ作業で丁寧に刃付けしている。ハンドル部まで鋼板を伸ばしたクールなデザインフォルムで抜群の切れ味を表現している。税抜7,000円。第26回日本文具大賞機能部門グランプリ受賞。
――次は「エクスシザース」です。
【高畑】おっ、来た!
【きだて】同じ板厚3㎜のゴツいやつだけど、さっきの「携帯マルチはさみ」みたいなヘビーデューティーばさみではなくて、よく切れるはさみのすごい版なんだよね。ちょっと分かりづらい表現だけど。
【高畑】はさみって、切るものによって全然違ってきて、硬度だけの問題ではないんだよね。革とかね。
【きだて】それにしても、刃が鋭い。刃をなぞると分かるけど、ナイフなんかと同じ感触なんだよ。
【他故】恐っ! こんなのはさみの刃じゃないよ。はさみの刃じゃないというのは変だけど、紙を切るはさみでこんなに鋭いのはないよ。
【きだて】裁ちばさみとかそのくらい。
【高畑】そんな感じだよね。元々切れる刃で作っている。はさみは刃の切れ味がそれほど高くなくても意外と切れるんだけど、刃がちゃんと切れると、もっと切れるので。まあ、裁ちばさみなんかの布用系のはさみとか、理髪店が使っているようなはさみは、元々刃が切れるから。
【他故】そうね。
【きだて】これ、コピー用紙を何枚も束ねて切ったときが面白くて。一般的なはさみは、コピー用紙が10枚を超えるとやっぱダメなのね。だけど、これは刃先だけで切れる。
【他故】(試し切りをしながら)ちょっと力は要るかな。
【きだて】力は要るけど、力が入れられるという。
【高畑】「携帯マルチはさみ」と同じで、板厚があるから、切ったときに刃が逃げないんだよ。あと、板厚があることで、カシメも横揺れしないからね。
【きだて】カシメ、これはネジ留めなんだけど、ネジ締めるのも職人さんがやっているんだよね。
【高畑】そうなんだよね。そこも、1回叩いて留めるんじゃなくて、ネジでちょうどいいところまで締めて留めているので。
【きだて】普通のはさみと切り比べてみたとき、ダンボールで割と違いがはっきり出た。
【他故】ほぉ。
【きだて】普通のはさみだと、まだ切りきれてない内から挟んでいっちゃうから、切り口が潰れちゃうの。「エクスシザース」はスパッと切ってるから、切り口がほぼ潰れてない。
【高畑】(試し切りをしながら)切り心地がすごいいいよね。
【きだて】刃がちゃんと入っていく感じが分かるよね。
【他故】フニャっていう感じが全くないね。なるほど。
【きだて】もちろん、日常用のはさみに対して7,000円を出せる人が世の中そんなにいるとは思えないんだけど、でも「いいはさみが欲しい」という人には、7,000円出せるならおすすめするよとは言っている。
【高畑】カールさんの「Xシリーズ」は、とりあえず切れ味が一定以上の水準を超えていることとか、いくつか条件があるんだよね。
【きだて】社内基準がそれぞれの製品ごとにあって、はさみは従来の2倍の切れ味と言っていたよ。2倍って何だよ(笑)。
【高畑】まあ、従来の何と比較しているかにもよるから。
【他故】厚み?
【きだて】それじゃなくて、剪断力2倍。
【高畑】厚みだったら、どんどん分厚くなっちゃう。
【他故】まあね(笑)。
【高畑】とにかく、自社内で切れ味自慢のものを出すよと。それで、「エクスシャープナー」が出て、「エクスシザース」が出て、それで今度は「エクストリマー」が出てということで。
――専用箱は、刃を入れるところがマグネットですね。
【高畑】箱にもこだわりがあるところが、面白いかな。
――デザイン的にはどうなんですか?
【きだて】「カクカクし過ぎでしょー」ってカールの社長に言ったら怒られたよ(笑)。
【高畑】「後ろまで刃が通っているよ」というのをね。
【きだて】そういうのを見せたいというわけだよね。それも、実際効いている感じはするんだよ。硬いものを切ったりすると。
【高畑】よく手前までで止めたりするけど、それに比べたらね。これ、「日本文具大賞」でグランプリなんだよね。
【きだて】機能部門のグランプリ。これ、まだ一般発売してないですよね。来年の1月からかな。
――そうですね。
【高畑】まだ俺も持ってないですよ。はさみもいろんな切れ味があるんだけど、しなやかに行くんじゃなくて、結構剛にいくんだよね。進むのを止められない感じの、真正面から進む感じがするんだよね。それがまた、切れ味がいいから、押したら押した分だけ前に進む感じの切り方なんだよ。そこが、はさみの特徴としても、特異な感じがするね。
【きだて】やっぱね、「切り落とす」という感じがする。イメージとして。
【他故】なんかこうね、刀のような感じで。
【きだて】「よく切れる鎌のような感じ」と言う人がいて、うまいなと思ったんだけど。「ズバン」と切り落とす感じが、よく切れる鉈みたいで。
【高畑】真っ直ぐいく感じがなんかね。
【きだて】「ネバノン」とかのよく切れるはさみって繊細じゃん。
【高畑】そこはちょっと違うんだよね。
【きだて】「大事に切らなきゃな」というのがあるんだけど、これはそんなに気にせずに切れるという。
【他故】剣豪だね(笑)。
【高畑】「ネバノン」は若干、鋼のバネ性を利用して、薄い刃をちょっと強めにカシメてあるんだよ。だけど、こっちはそうでもないんだよね。そこら辺は、こすっている感じではなくて、真正面から刃が真っ直ぐ入っていく感じがするのは、ちょっと面白い。
――これが、たくさん売れたらすごいですね。
【きだて】いや~、この10分の1の値段のはさみでもちゃんと切れるんだから。
【高畑】そういう意味では、どちらかというと嗜好品に近いかな。
【きだて】本当に、趣味のはさみという気がするんだけど。これ、手芸用で使いたい人にはちょっとゴツ過ぎるんだ。
【高畑】用途別にいくと、それぞれやっぱりあるので。これは、一般はさみの高級版だから。目的が決まっていると、それに合わせてはさみってできちゃうので。これは特に目的を限定していないのに、ここまで切れ味と重たい感じを出すというのは、ちょっとあれなので。
【きだて】過剰(笑)。
――これはキャップないですね。
【きだて】ないです。そんな、いちいちキャップを使うようなウブなネンネちゃんには使わせないぞという明確な意思を感じる(笑)。
【他故】これは、使った後に「箱にしまえ」と言っているんじゃないですか。
【高畑】これが事務はさみの延長線上にあるというのは、形状で分かる。刃先が丸いじゃん。しかも、刃渡りが短いんだよね。で、全長で160㎜くらいでしょ。だから、基本的なシルエットは、事務用はさみなんだよ。
【きだて】そうだね。
【高畑】真上から見ると事務用はさみなんだけど、横から見ると厚みが倍以上あるという(笑)。ちょっと変わった感じだよね。
――事務用最高級という感じですかね。
【高畑】別に、これってアウトドアでも何でもないし、普通のはさみなんだけど、ある種特別な切れ味を楽しむはさみだよ。
――豪快なはさみですよね。小技じゃないんだな。
【他故】小技じゃないですね。
【高畑】豪腕な感じはするよね。上段から構えて真っ向斬りみたいな感じの。
【きだて】技巧派というイメージはないね。
【高畑】ただ、切れ味がすごいので、力でねじ伏せる感じではなくて、かけた力そのまま真っ直ぐ出しちゃうんだよね。その感じはすごくあるね。
【きだて】本当に切っているという感じ。
【高畑】意味もなく、革のベルトみたいなのをずっと切りたくなるね(笑)。
はさみの置き場は“ココ”ね!

――最後は「ココネ」。
【きだて】この流れで、何で最後にイロモノなん?
【高畑】ニッケン刃物ですね。ここは「日本刀はさみ」とか作ったりしているという。
【きだて】つい先日、関の刃物まつりの取材に行った時に買ってきましたよ。刃物まつりで先行発売してたんですよ。
――これ、切れ味的にはどうなんです?
【きだて】まあ、ニッケンさんだから、見た目はイロモノでも普通にちゃんと切れますよ。
【高畑】中身は普通の事務用はさみだものね。
【きだて】さっきまで言ってた、7,000円のよく切れる感ではないけど、普通に切れますよ。
【他故】全く問題ない。
【きだて】ただもう「かわいい」という。でも、このハンドルは使いづらいな(笑)。
【高畑】このはさみは、使っているときの切れ味じゃなくて、使っているとき以外の刃物を置いておく場所というのに、あんまり恐い感じを持たせたくないなというのがあるじゃないですか。
【きだて】それこそ、これを玄関に置いといたらかわいいっていうはさみじゃん。クリップを置いておくスペースもあって。
【高畑】あとは、ペン立てみたいになってて。
――これは、他故さんは買ったんですか?
【他故】いえ、僕はまだ。でも、定位置があるっていいですよね。はさみの定位置って、どうしてみんな守ってくれないんだろうって思っているので。これだったら、「ああ、ここだ」って誰にでも分かるから。
【きだて】「ここに入れなきゃ」っていう気分になるしね。
【他故】本当の意味で、「ここね」って言えるから。
【きだて】何かね、このはさみが普通に転がっている姿は“無残”。葉っぱ引き抜いたみたいになるので、無残に見える。やっぱ、この鉢に入れなきゃという気分になるよね。
【他故】情操教育的に「いかんだろ」って言えるという(笑)。
【きだて】これ、花のバージョンもあるんだよ。そっちの方がもっと無残だよ。
――「元に戻そうね」という気になりますよね。
【他故】なりますよ。
――他故さん家はこれいいかもしれませんね。
【他故】これでもなくされた日には、どうしようかと思いますよ(笑)。「葉っぱどこにやったんだよ(怒)!」って。
――これ、刃が細いですかね。こんなものですかね?
【きだて】いや、事務はさみにしたって細いと思いますよ。
【高畑】まあ、紙中心のデスクワークなら充分に切れるけどね。特に今流行りの特徴があるようなものではなくて、普通にはさみ。
【きだて】コピー用紙4、5枚切れれば日常用として何の不満もないよね、というはさみ。
【他故】家の中で、ちょっと糸を切るとか、お菓子の袋を開けるとかのレベルのもので全然いいわけですよ。
【きだて】かわいいのが欲しければ、これを買っても全然使えるよという話ですからね。
――結構、ギフトにいけそうな感じですかね。
【きだて】だと思う。
【高畑】「cocone Japan」って書いてある(笑)。「関の刃物」って言いたいんだね。こう見えて、日本の刃物産業の一つのね。
【他故】ウリになっているからね。
――発売日が11月8日なんですけど、「いい刃物の日」なんですね。
【高畑】ゲン担ぐな~、みんな(笑)。
【他故】そこにかけてたんですね。
【きだて】あと、これパッケージもかわいいしね。店頭で置いた状態で目をひくし。
【他故】やはり、はさみ恐い、刃物恐いという方もいるかもしれないし。刃物に見えないというのがいいかもしれないね。
【きだて】刃物恐いという人が、こんな変なハンドルで変な持ち癖ついちゃったら、余計恐いよという気がするんだけど(笑)。
【高畑】道具の使っているときのあり方と、使わなないときのあり方というののバランスの取り方だと思うんだけど。
【きだて】そうだね。
【高畑】使わないときのあり方を考えると、こういうのもあるよということだね。
――殺伐としたオフィスに、これがあればいいですね。
【きだて】グリーンの潤いと、花の潤いがあって。
【高畑】「観葉はさみ」だよ。「観葉文具」という新しいジャンルが。
【きだて】「エクスシザース」も価格帯としては観賞用でおかしくない。
【高畑】要は、それのテイストが違うだけで。まあ、そういうところはちょっとあるね。「エクスシザース」は、目的がなくても切るのを楽しむというのがあるけど、こっちは置いておく観葉なので。
【きだて】盆栽と陶芸趣味ね。
【高畑】きだてさん昔、「ペン栽」をやってたじゃん。
【きだて】確かに、ペン栽にしたらいいよね。葉っぱ型のペンとかあるからね。
【他故】「ついに、ペン栽用の鉢が出ました」という感じで。
【きだて】ああ、いいかもね。「ペン栽スターターキット」だ(笑)。
【高畑】そしてここに、花になっているペンとか入れていくわけだ。
【きだて】そうそう。それいいな、やってみよう。
【高畑】活けるための最初のベースとして。
【きだて】いいと思うよ。
――では、「ペン栽」という結論が出たということで(笑)。
*Vol.9後編はこちら
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。東京・京橋の文具店・モリイチの文具コラムサイト「森市文具概論」の編集長も務める。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
【森市文具概論】http://shop.moriichi.net/blog/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。「森市文具概論」で「ブンボーグ・メモリーズ’80s」を連載中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。購入はこちらから。
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