【連載】月刊ブング・ジャム Vol.03後編
究極すぎる逸品を披露
高畑編集長(右)と他故さん
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vo.03後編では、ブング・ジャムのみなさんが愛用する逸品について熱いトークを繰り広げました。
*きだてさんは今回も怪我で入院のため欠席です。
*Vo.03前編はこちら
触ると欲しくなる!? 究極の大型万年筆
「カスタムURUSHI」と「Pensemble (ペンサンブル)」ロールペンケース1ポケットロングタイプ(どちらもパイロットコーポレーション)
【高畑】「月刊ブング・ジャム」の中で、みんなのお気に入りの文房具を紹介するコーナーを作りたいと思って。「今ハマってます」とか「これがいいです」「前から使っています」というものを聞きたいなと。
【他故】なるほど、了解しました。
【高畑】まずは、他故さんのおすすめ文房具をお願いします。
【他故】では、「カスタムURUSHI」を紹介します。
【高畑】ちょっと触らせてもらっていい? (試し書きをして)いいねー、これ。
――でかいですよね。
【高畑】でかい。マンガに出てくる万年筆だよね。大きさの比率的に。
【他故】実際値にこんな大きな筆記具はそうそうないので。
【高畑】これ、大きいよね。触った感じが明らかに大きいよね。
【他故】キャップがでかいんだよね。とにかく。万年筆のかたちをした、あの…。
【高畑】スパイ道具!
【他故】そう、「カメラが入っている」とか。カリカチュアライズされた万年筆のかたちをしているという(笑)。
【高畑】そうそう、万年筆型の何かに見えるという(笑)。
――縮尺が上手くいっていない感じだ(笑)。
【高畑】そうそう、ここだけ縮尺の倍率が違う。1/144のところに、これだけ1/120みたいなさ。何で揃えなかったのって(笑)。
【他故】ちょっと違うという(笑)
【高畑】いやだけどさ~、何なのこの柔らかさは。
【他故】これがさ、ペンがしなって柔らかいのとはまた違うんだよね。
【高畑】違うね。
――これ、ペン先の大きさはどうなんです?
【他故】30号ですよ。
――でかいですね(笑)。ニブの太さはどのくらいですか?
【他故】Mです。FMとMとBの3つで、Fが存在しないんですよ。ペン先の大きさからいって、逆にFだとすごく研がないといけないかもしれないですけど。
――FMというのは中細ですね。
【他故】このぐらいの大きさになると、細かく字を書くんじゃなくて、割と大きめにおおらかに字を書くという方がいいんじゃないか。実際にFMとMを書き比べてみたんですよ。で、正直に言えば、FMとMってそんなに差はないんですよ。書いた字の印象としては。でも、Mの方がやや太めだったのというのと、実際にフォルカン(カスタム743)を使っているので、同じようなインクフローのものを買っても仕方がなかったというところもあって。で、フォルカンとの差が触ってみるまで分かんなかったんですよ。あっちはものすごく柔らかいのが分かっているペン先だったので、これの柔らかさがどんなものかと思ったら、しならないのに柔らかいという。
【高畑】しなっている印象はあまりないね。
【他故】ほとんどないよ。
【高畑】でも、紙に当たっているところの摩擦感が全然違うね。
【他故】当たりがすごく柔らかい。
【高畑】へぇ~。これって、調整が上手いとかの問題じゃなくって、これ自体が持っている特性なのかね?
【他故】それはよく分からないし、残念ながら技術的なことはちゃんと語れないのであれだけど。
【高畑】紙と摩擦したときの摩擦音とか、抵抗感が全然違うよね。
【他故】全然違うんだよね~。これを握って初めて分かったんだけど、ソフトというものをちょっと勘違いしてたのかもしれない。ペン先が柔らかければいいってものでもない。
――パイロットって、SMという柔らかいソフトなMのペン先がありますけど、これは普通のMなんですよね?
【他故】どこかでソフトタッチという言い方をしていたのかもしれないですけど、いわゆるソフトとは違うというか。
――「カスタム74」とかに付いているMとは違うわけですか。
【他故】全然違いますよね。
【高畑】僕はよくハガキを書くから、宛名書きには全然いいですよ。
――これ、Bまでいくとどうなんです?
【他故】どうなんでしょうね? かなり太くなるのかもしれないし。インクフローがいいんでしょうね。
――そうでしょうね、インクフローがいいんでしょうね。
【高畑】いや~、全然違うよね。
【他故】今まで触ったタイプのと違うんですよ。いろんなものを触ったわけじゃないですけど。
【高畑】僕も、ペリカンの「スーベレーンM1000」を使ってますけど、全然違うよ。
――これは、「カスタムURUSHI」専用のペン先になるのですか?
【他故】完全に専用ですね。このためだけに作られた。
――なるほど。ペンの大きさもあるのかな~。
【高畑】あとね、本体の太さも多少あると思う。
――ああ、そうでしょうね。
【他故】大型車にでかいエンジンが載ってて、サスペンションも極上のものを使っててという感じで、万年筆のいいやつって高級車に近いという表現をすることがあるんですけど、まぁ正直言って最高級車ですよね。ここまで来ちゃうと。
――でしょうね。
【他故】加飾によって値段が上がったわけじゃなくて、性能でこの値段なんだというのがすごく納得できる気がするんです。
――ですよね。だって、見た感じシンプルですものね。
【他故】他の10万円クラスの万年筆を使ったことがないので、本当の意味では分からないんですけど。正直言えば、このクラスの万年筆をもう買う理由が私にはないですよ。一生使って子どもに譲るレベルですよ。
――これ、漆塗りなんですよね。
【他故】表面は漆塗りです。
【高畑】えー、気持ちいい。
【他故】触ってみると、しっとりしているんですよ。エボナイトのむき出しと違って。
――キャップでかいな。
【他故】これ見たあとに、3万円の「カスタム743」を見ると、小さく見える(笑)。
――「カスタム743」が「カスタム74」にしか見えませんよ(笑)。
【他故】「カスタム743」もでかいペンのはずなんですけどね。
――「カスタム743」のペン先は15号でしたっけ?
【他故】そうです。僕のは、フォルカンという特殊なペン先を付けているので。
【高畑】この間フォルカンも買ったんだけどねぇ。
【他故】フォルカンもいいペン先なんだよ。日用使いはフォルカンなんだけど。
【高畑】フォルカンだと小さい文字も書けるからね。
【他故】町中をくるくる回るクルマは、フォルカンまでかなと思う。フォルカンは町中を乗るときの最高級のクルマなんですよ。
――「カスタムURUSHI」は普通のMじゃないですね。柔らかいですよ。
【他故】アウトバーンを快適に飛ばすクルマって、そういうものなのかなと思いますよ。カーブを曲がるときも、スーッと弧を描くようなイメージがあって。
――これがあれば、他はもう要らない感じですね。
【他故】要らないというか、比べる必要がないだろうと思いますよ。ここまでくると。
――そうですね。ここから上のレベルを目指す理由がないですよね。
【他故】ないですよ。ここから先は加飾の世界だと思っているので。いわゆるデザインものの世界だろうと。
――それこそ、ナミキの「エンペラー」とかそういうクラス(笑)。
【他故】そう。これに蒔絵師がすごい絵を描いているのなら仕方ないですけど。
【高畑】そこの価値を求めないのであれば、これでいいということだよね。これ、今まで触ったことなかったんだけど、これに触った数人の人に話をきくと、みんな興奮して話はじめる。明らかに何かに感染してるんだよ。
(一同爆笑)
【高畑】いや、話を聞くとね、みんな「今までの万年筆何だったの」くらいのことを言うからね。俺、ずっとハガキを書いているからさ…。
【他故】手紙やハガキを書いている人間がこれを持っちゃったら、他の万年筆に戻れないかもしれない。
【高畑】それって俺のこと(笑)?
【他故】日常の筆記、メモとかノートに書くというときには、ちょっと大きい感じがするから、小回りが利かなくなるんですけど、ハガキを書くとか、便箋で手紙を書くときは、これを使い始めると、他のに戻れなくなっちゃう。
【高畑】気持ちいいというか、楽だものこれ。
【他故】すごく楽。
――「エラボー」も結構柔らかいじゃないですか。
【高畑】「エラボー」は柔らかいけど、柔らかさをこっちでコントロールしてあげて、それで書き分けたりすると気持ちいいんだけど、でもあれとは全然違うね。
【他故】方向が違うね。ハンドルを切って、カーブを曲がるときの感じが全然違う。
――これいくらでしたっけ?
【他故】88,000円。消費税入ると95,000円になっちゃうんですよ。
――それはすごいな。
【他故】ほぼ10万円の万年筆ですよ。
――Bニブだとインクがヌルヌル出て気持ちいいですけど、その気持ちよさとは全然違いますよ。
【他故】インクがたっぷり出る出ないの話じゃないんですよ。そういうことじゃなくって、柔らかい。しかも、さっき言っていたように、ペンがしなって柔らかいわけじゃない。本当に当たり自体が柔らかいんですよね。
【高畑】はぁ~、何か書くのが気持ちいいね。
――これはコンバーター入れてるんですか?
【他故】これは元々コンバーターが付いているんで。「CON-70」ですけど、漆の万年筆はボタンのまわりが黒くなっているんですよ。
――専用なんですか。
【他故】そうなんですよ。
――この黒いのは漆だったりして(笑)。
【他故】漆だったかな? 違うと思いますけど(笑)。
【高畑】でも、やたらにきれいだよ。塗装されてるよ。
――ツヤツヤしてますよね。
【他故】漆の万年筆には、このコンバーターが入っているんですよ。
――かっこいいですよね。
【他故】だから、これ単体では市販されてないんですよ。
【高畑】いいね~。
【他故】機構とか機能とかの以前に、21世紀になって万年筆がまだこのようになれたかという気はしますね。万年筆が好きな人って、「昔の方がよかった」という人が多いんですよね。でも、工業製品として最高級の万年筆を作ったらどうなるのか? というのがこれじゃないかな。
【高畑】手作業が多いとしても、一応これも量産品なんだよね。
【他故】全くの量産品。これは何もいじってなくて、取って出しを買ってきているから。
――店で調整してもらってきたわけじゃないんですよね。
【他故】全然。むしろいじらない方がいいんじゃないかと思いますよ。
――でしょうね。
【高畑】いや~、これちょっと欲しい。
【他故】自分の手クセが付くまで、何十年もかけてでも使うべきじゃないかな。
【高畑】「すぐに買います」というわけにはいかないけど、次の自分へのご褒美にはアリな感じがするね。
【他故】いいんじゃない。みんなが買えるものじゃないし、「買ってくれ」とは言わないですけど、ただ本当に好きな人には1回試してもらって、正直な感想を聞きたいですよ、これは。値段がいいとかじゃなくて、「どうですか?」と聞いてみたい。
【高畑】軸の漆がという以前に、ペン先がこの大きさで金でできているからこの値段なんだろうね。
【他故】そうだよね。30号の金ペンでロジウム仕上げになっているんだから。
――前からすごい気になってたんですけどね。
【高畑】気にはなってたけどね。
【他故】割と万年筆マニアの間でも、「買った」という話を聞いたことがないんですよ。あんまり眼中にないのかな?
【高畑】いや、どうだろう。
――盲点なのかな?
【高畑】いや、まずいな。欲しくなってきちゃったぞ。この間、フォルカンを買ったばかりなのに(笑)。
【他故】これを買って、家から持ち出す気はなかったんですけど、何日か使っているうちに、手元に置いておきたくなって、しょうがないので一本差しを買ったんですよ。これもパイロットの「ペンサンブル」というシリーズで、この万年筆に合わせてでかいやつが出たんですよ。
――これは、専用みたいな感じですね。
【他故】ほぼ専用ですよ。今までのやつだと、これが入らないので。
【高畑】さすがにこれだと、「デルデ」に入れづらいな。
――「デルデ」にそれは合わないよ。入れちゃダメでしょ(笑)。
【他故】ギュッと入れて傷付いちゃったら嫌だしね(笑)。
【高畑】俺、「デルデ」に「M1000」を入れててみんなに怒られるんだけど。
――それは怒るでしょ。
【高畑】いや、だっていつも使わなきゃって思ってて。
――先日、専門店の人から「万年筆の外観にも気を遣いましょう」という話を聞いたばっかりだったので。
【他故】でも、普通に樹脂のやつは傷付いて当然だと思いますよ。いいと思うんですけどね。
【高畑】でもさ、万年筆好きな人だって、じゃあどんだけ使ってるの? MとかBとか使っててさ、「何書いているの?」って思うじゃん。
【他故】そうね。
【高畑】そう考えたらさ、年間600枚ハガキ書いているから、1日2枚は書いているんだよね。万年筆マニアでいっぱい持っている人と比べても、書いている方だと思うんだけどね。
【他故】書いている人だけじゃないからね。
【高畑】やっぱり、こういうのは使った感覚がいいね。
【他故】使わないと分からないし、使ったときにしっくりきたと思ったら、もう逃れられない。
【高畑】プラチナ万年筆の竹編みの万年筆あるじゃない。あれ、触り心地超いいなと思ったんだけど、あれは他のと同じサイズのペン先が付いているじゃん。でも、12万円ぐらいするんだよ。それを考えたら、お買い得な感じすらするよね。
【他故】ガワが地味な分だけお買い得な気がするよね(笑)。
【高畑】性能差の部分を考えると、外観の部分の値段差だから。
――日本のメーカーで、ここまで大きなペン先って、パイロット以外はないんじゃないですか?
【他故】ないんじゃないですかね。ちゃんとは見ていないんですけど、特殊ペン先はやっていても、でかいペン先ってないんじゃないですか。
【高畑】いや~、こういういいのを知ってしまうとね。もちろん、「DIME」の付録に付いている万年筆でも入門用だったら十分ですよ。とは思うけど、やっぱりいいものはいいね。値段だって100倍とかでしょ。
【他故】安いのが悪いわけじゃないからさ。好みもあるよね。デザインフィルのブラスの万年筆だって、最初はなめてたけど、めちゃくちゃ書き味がいいし。全然十分じゃんって(笑)。
――それこそ、「カクノ」だって全然いいですからね。
【高畑】「カクノ」は全然いいですよ。
【他故】ちょっと長くなりましたが(笑)、これが現状の私のイチオシです。
――ちょっと衝撃が強すぎて(笑)。
【高畑】本当に、ビックリした。
サクサク快感! 極上ハサミ
「スーパーシザーズシリーズ 50010」(ダーレ)と特注の革製ケース
――じゃあ、次は高畑さんですね。
【高畑】ちょっと、刃物にいこうと思ってるんですけど。「ダーレ」のハサミにしましょう。
【他故】いつ見ても惚れ惚れするね。
【高畑】これは長いこと使ってるんですけど、革ケース付きダーレの「スーパーシザーズ」シリーズの「50010」なんですけど。最近のハサミでも色々といいものがあるんですけど、僕が大学生のときに、初めて文具王になった頃に見つけて買ってから、これが自分の手にちょうど合うので、ずっと使っているやつなんですね。ダーレってドイツのメーカーで、シュレッダーとかも作っているんですが、ヘンケルスと刃物の工場が一緒なのかな?
【他故】そうなの?
【高畑】刃物の工場は共通なんだけど、かたちは同じモデルがないんじゃなかったかな。で、僕はこのハサミのかたちがすごい好きで、真っ直ぐなかたちで先端に向かって薄くなっていくので、割と細かい作業ができる。全体的に、裁ちバサミみたいに重くなるのが嫌なんだけど、これは軽いので。使い心地軽くてよく切れて、紙を切っているときのシャクシャクいっているときの感覚が、手に戻ってくるのが好きかな。これも紙専用で、他のものは切らないんだけど、気持ちいいので、これをずっと使っているんだけど、それ用に革のケースも作ってもらったのね。これも何年前だ? 20年前くらいかな。
【他故】そんなに経つんだ。
【高畑】99年くらいに作ったと思うから、17、18年前か。
【他故】確かに軽いね。
【高畑】自分はあまり力がないので、コントロールするには軽い方がいいから。それが目的化してもいけないんだけど、切るのが気持ちよくて。スクラップを学生の頃からやっていて、雑誌に載っている「面白いな」とか「きれいだな」というものを貼ってスクラップブックを作っているんだよ。それにずっと使っていて、これで切り抜くのが楽しくて、いまだにやっているんだけど。たまに油をさすぐらいで、全然いまだに使えていて、気持ちいい。
【他故】切れ味は変わっていないの?
【高畑】そんなに変わってないよ。
――20年ぐらい使ってるんですよね。
【高畑】そうですね。
――これ、切る音がいいですよね。
【高畑】そう、これが気持ちよくて。切る音が気持ちいいのは他にもあるんだけど、長く紙に当てていても正確に真っ直ぐ切れるんだよね。それがすごくよくって。最近のカーブ刃は、力を増幅する感はあるけど、これが苦手なんだよ。刃のカーブに合わせてちゃんと真っ直ぐに切るのは難しいんだよ。
――細かく細く切るのは苦手ということですね。
【高畑】正確に自分が切りたいラインの真上を通すというのが、このハサミはすごく上手にできる。俺の慣れもあると思うんだけど、切りたいラインの真上で切りたいというのがあるので。スクラップをやるときなんかは、線の真ん中を切りたい。だから、0.何ミリしかない線のど真ん中を切りたいとなったときに、線の上をちゃんと踏めるんだよね。両側に線が残った状態で切るというのが、これだと普通にできるんだよ。
――カーブ刃だとそこが難しいんですね。
【高畑】カーブ刃は、途中で曲面が変わったりすると調整ができないし、そもそも刃の厚みとかの問題もあるんだけど、狙っている線のど真ん中を切ることができるのは、まあ気持ちいいことという。切り抜きやっているのは、線の上を半分に切るのを楽しんでいる気もするんだよ。
【他故】それは気持ちいいだろうな~。
【高畑】平均台の上をシュッと行くとか、バイクで一本橋を渡るみたいな感じのって、そういうのは安定性がないとできないんだよね。
【他故】そうだよね。
【高畑】これがキワキワの精度で線を切るというのが気持ちいいなと思ってから、ずっとこれを使っている。予備でもう1本持っているんだけど、基本的に持ち出し用と、引き出しに入れておく用がある。
――うーん、なるほど。
【高畑】他故さんの万年筆も、書いているときの手触りの感覚じゃん。これも切っているときの感覚なんだけど、こればっかりはさ、道具の質によるよね。
【他故】まあ、そうだろうね。
【高畑】この手触りがあるから、文房具はやめられないというのが俺にはあるなぁ。その楽しさが分かるようになった最初のハサミなんで。あと、これ無理して刃を合わせる面の曲面を作っていないんだ。一応若干反っているんだけど、ほとんどそれがないのね。これが大きくなっていると摺り合わせが強くなるから切れるんだけど、それだと真っ直ぐ正確に切ろうとしたときに、摺り合わせのど真名を狙うのが難しいんだよね。これが刃が最小限しか反ってないのね。それが僕としては気持ちよくて。根元から先端まで、摺り合わせできつくやっていないから、すべる感じでストンと切れる。で、ちょっと硬いなと感じたら、最小限の油を差してあげる。昔おばあちゃんが針に頭皮の脂を付けたみたいな感じで、鼻の頭の脂を付けるぐらいで全然滑りがよくなるのよ。あまり油を付けすぎるとベチャベチャになっちゃうから。
【他故】まあね。
【高畑】切れ味フェチなんで。もちろん、日用の雑用としては最近のハサミは思ったよりもよく切れるんだよ。
【他故】うん。
【高畑】さっきの「カクノ」はよく書けるというのと一緒で、それで十分なんだけど、でもこういうハサミを使ってみると「はぁ~、気持ちいい!」というのがあって。
――これ、いくらなんですか?
【高畑】3,000円ちょっとくらい。思ったよりも高くないんですよ。
――でも、普通の日用ハサミのことを考えたら…。
【高畑】そう考えたら高いんだけど、美容師が使っているようなハサミってまた別格なんだって。
――そうでしょうね。
【高畑】あれは別物を切っているから、俺は持っていないけど、あれで5万、6万はするじゃない。
【他故】そうだね。
【高畑】いや~、でも気持ちいいっす。
【他故】違うだろうね~。
【高畑】でも、これも最高級クラスのはさみじゃなくって、中の上クラスのハサミなんだよね。普通にブリスターパックで売っているハサミなので。
【他故】あ~、はいはい。
【高畑】だからそんなに高級ハサミでもないんだけど。日本だと日本刀みたいに刃付けをしてあるハサミとかもあるじゃん。ああいう裁ちばさみの気持ち良さもあるんだけど、裁ちばさみだと重さがあって。俺的には、普段紙を切るときはこのハサミが良くて気に入って使っている。
――結構、ずしりと重いハサミもありますものね。
【高畑】重くって切れるハサミって、ビックリするくらい切れるので。裁ちバサミのいいやつって、大きな布を切ったときに「シュッ」「へぇ~」みたいになる。実家が縫製業だったから、触らしてくれないハサミがあるんだよね。それはよく切れるんだけど、まあ紙なんでそこまではあれだけど。今、日常の中で使うには僕は好きかな、これより高いハサミもあるんだけど、結局これを使っている。
――この革ケースは、特別に作ってもらったんですか?
【高畑】そうなんですよ。これは知り合いの方が革職人の人に作ってもらったというか、知り合いの文具店の人が自分用に作るときに一緒に作ってもらったんですよ。その人に、僕が「このハサミいいよ」って紹介したら、「私も使う」と言ってケースを作ったんですよ。それに合わせて僕のも作ってくれたので、それ以来ずっと使っているんですけど。これ、かなり味が出ちゃってますけど。
――エイジングが利いてていいじゃないですか。
【高畑】この歳になると、自分の中で10年、20年使っているものって出てくるじゃないですか。
【他故】出てくるね。
【高畑】20年使っている気持ち良さって、やっぱりあってさ。これは手放せない感じかな
肌身離さず持ち歩くカード
5×3カード(コレクトほか)とジョッター各種、手前左はカミテリアの「メモッタラプラス」
――じゃあ、きだてさんがお休みなので、他故さんにもう一品紹介していただきましょう。
【他故】この一品がというよりは、ジャンルになるんですけど。
【高畑】いいですよ。あー、「5×3カード」ね。来るよね~、分かる。
【他故】今日は、それぞれのカバンなり上着なりに突っ込んであるカードを全部持ってきたんですけど。日常使っているのでこれだけあります。ただ、数を持っていればいいというわけではなくて、結果的にいつでもどこでも紙がある状態になりたいから、色々試しているうちに枚数が増えちゃったというだけの話なんだけど。実際には、紙があればいいんですけどね。今の所は、この5×3カードが手馴染みがよくて、ムダなことでも書ける。何でも書くクセがついたのは、この大きさの紙だからだなという気がすごくしているんですよ。どんな場合でも、何でもいいから書く。本当にちょっとしたメモでもいいし、もちろん仕事の内容でもいいし、ToDoでもいいし、何でもまず書いちゃうと。書いたものをどこにしまうかは、また後で考えればいい話であって、ジョッターに入れておけば絶対になくならないし。どんなものでも、書いたものともう1枚裏に白いものを入れておけば、書いたものとそうじゃないものを必ず2面で持つことができる。書いたものを持ち歩くこともできますけど、基本は白い状態のものを持ち歩いて、どこでもいつでも書きたい。書くということをクセづけてくれた。ジョッター自体は最近使い始めたんで、そんなに経ってないんですけど、一番古いやつでも3、4年くらいかな。
【高畑】ジョッター使い始めたのって、3、4年前からなの?
【他故】それまでは裸だったから。
【高畑】5×3カードを使い始めたのは?
【他故】使い始めたのは大学生の頃だから、今から26、27年くらい前になるのかしら。とある本を読んで、「とにかく紙を持ち歩いて、何かを書くクセをつけるのはいいですね」というのがあって、それがすごくよかったのと、その頃はジョッターを使うという発想はなくて、書いたら左ポケットに入れていくことをしていた。
【高畑】それ読んだことあるぞ。何だっけ?
【他故】何ていう本だったかな? (スマホで調べて)ああ、これだ。『文房具―知識と使いこなし』、新潮文庫ね。
【高畑】それ持ってるよ、読んだな。市浦潤さんの本か。
【他故】これが大学生の頃のバイブルだったんですよ。
――1986年発刊ですか。
【他故】ちょっと古い本ですよ。今は新刊では手に入らないんじゃないですか。
【高畑】俺も学生の頃に読んだよ。
【他故】で、それを試してみようと。学生だから、そんなに思いついて書きたいことはあまりないんだけど、紙があること自体が安心だったことと、その頃からマンガ書いたり小説を書いたりするクセをつけていたんだけど、ネタを探して街を歩いているときに、ひらめいたりすることを書きたいんですよね。その頃は携帯もないし、録音できるものもないので、メモを取るとしたら紙とペンしかなくて、そんな場合例えばTシャツにジーンズでも紙とペンさえあればいいだろうとなったときには、右に白い紙、左に書いたものを入れておく。
【高畑】京大式派の人たちって、大きいのを使うじゃん。あれは6×4?
【他故】B6に近い。
【高畑】B6だっけ。で、5×3カードだとポケットに入るんだよね。僕は、学生の頃6×4派だった。
【他故】名刺だと小さくなっちゃって、持ち運びにはいいんだけど、満足に書けない。2、3個ワード書いて終わりになっちゃうので。
――なるほど。
【他故】それが21世紀になって小金が貯まるようになって、ジョッターなんていいものがあるじゃないかと(笑)。別に革製じゃなくてもよかったんですけど、いくつか試してみたいなというのがあって。
――これって、全部持ち歩いているやつですか?
【他故】1カ所に入れているというよりは、あのカバンに一つ、あの上着に一つというかたちで、分散して入れている状態で、あとは必要なときだけこれを持ち出す。これはカミテリアで出している「メモッタラプラス」ですが。
【高畑】白紙のカードをこれに入れているの?
【他故】半分くらいはカミテリアのに一緒に付いていた5㎜方眼のカードで、あとは私の大好きなコレクトの「補助6㎜」というやつです。「メモッタラプラス」が出てから、大容量で持ち歩けるようになったので、運用が変わったんですよ。取材旅行じゃないですけど、思い付いて小説を書きたいなとなったときに、ロケハンをすることがあるんですよ。そこでバーッとメモをとって、たくさん詰め込んで帰ってくるんですよ。
【高畑】書き終わったのはどうしてるの?
【他故】書き終わったのは、全部同じ箱に入れちゃう。今は専用のボックスを買っていないので、ティッシュケースを使ってます。ティッシュの上からポコンとかぶせるような金属の箱を雑貨屋なんかで売っているんですけど、あれが5×3カードの幅にピッタリなんですよ。で、400枚くらい入るのかな。今はそれが2個目になりました。書いたものはなるべく捨てないで、どんなものでも取っておくようにしています。
【高畑】ふーむ。
【他故】あとは、会社にもボックスが二つあって、そっちは会社のToDoが入っています。
――なるほど。基本は全部このカードですね。
【他故】そうですね、ほぼこれですね。とにかく、今一番使っている紙はこれですね。
【高畑】その中で、他故さん的なお気に入りってあるの? 「このジョッターが割と好き」みたいな。
【他故】一番好きなのは、旅屋で作ってもらった「2面ジョッター」。
【高畑】ああ、両面に書けるからか。
【他故】両面に書ける製品がこの世になかったので。
【高畑】大体のものは片側がポケットなんだよね。
【他故】書いたものも出しておくのが便利だろうと思っているんですよ。できれば、書いたものも見たいし。書いたものをポケットに入れるんだったら、白いものを入れるところも欲しいし。それで2面ジョッターを試作してもらって、それはほぼ私専用ということで、市販しているわけではないので。
――オーダーメイドで作ってもらったんですか?
【他故】試作で作ってもらったんですよ。私のロゴを入れて市販する予定だったんですが、革職人さんが忙しくなってペンディングになってしまったという。
【高畑】ここに他故さんのロゴが入っているものね。
【他故】別に、私のを売りたいからというんじゃなくて、便利だと思ったら旅屋さんでもどうぞということだったので。
【高畑】なるほど、5×3カードね~。
【他故】工夫というと変だけど、ペンと紙を常に持ちたいというのを常にやっている。
【高畑】どこからでも紙が出てくる状態を作っているんだね。
――今日は違うカバンを持っていくとか、あるいは違う上着を着ていったときに、「あっない」ということがないように、いろんなところに1個ずつ入れているわけですね。
【他故】そうです。最悪、スーツの外ポケットには、このカードが1枚入っています。ジョッターじゃない状態で。
――なるほど、徹底しているよな~。
【他故】とにかく、気持ち悪いんですよ。普段使うかどうかは別にして、書くものは持っているのに、書きたい相手を持っていないというのはすごく多かった。特に、営業をやっていた頃はそうだった。ペンを持っているのに書くものがない、という瞬間が結構あって。
――それで持ち歩くようになったんですね。
【他故】学生のときにやっていたことを、社会人になってどうしてできないのかということがあったんですよ。とにかく、これに関しては、どの製品がというよりはジャンルの話ですよ。本当の意味で、メインで使うんだったら、もっと色々とノートとかバインダーとかあると思うんですよ。大きい紙の方が便利なことはたくさんあるんですけど、肌身離さずというのをやりたいのであれば、こういうのもアリじゃないかということで。
【高畑】いいと思います。
――さすがです。ありがとうございました。
プロフィール
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。購入はこちらから。
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