【連載】月刊ブング・ジャム Vol.25 その3
左からきだてさん、高畑編集長、他故さん
今も変わらぬカッコよさ!
「ロットリング600」と「エアイン」(プラス)
【高畑】そして、他故さんはその時に…。
【きだて】その頃はすでに大学生で、一人だけステージ違うところにいたわけですよ。
【他故】ステージが違うというほどでも…。
【きだて】だって、財力も中高生と比べれば違うし。
【高畑】僕なんかは、バイトもできなかったし、親のお伺いを立てて買ってもらっていたわけだから、そこら辺は自由度が違うし。
【きだて】しかも、その時すでに東京にいたじゃん。
【高畑】その時は、香川だものなぁ。
【きだて】香川と滋賀だよ。対して他故さんは東京。そりゃ全てが違うって。
【他故】いやいやいや(苦笑)。その時僕は大学3年から4年になる頃だから、もちろん就職もどうのこうのという時期だったんだけど。元々趣味人なので、ずっと漫画を描くことをサークルでやっていて、結果的に手元にあったのはシャープペンシルだったなと思って。それで、平成元年の商品というとこれです。「ロットリング600」。
【高畑】元年発売だっけ?
【他故】そう。
【きだて】そっかー。
【高畑】意外な感じ。
【他故】その当時に、組み合わせて使っていたのが、「エアイン」消しゴム。これが平成元年発売。
【きだて】ほぉ~。
【他故】この組み合わせで、毎日のように漫画を描いていた時代だったな。
【高畑】「ロットリング600」はあこがれだったな。
【他故】これが特別だったからね。今まで、自分の中でのシャープペンシルって、100円、200円ぐらいのものばっか使っていて、そんなに高いものが欲しいって思わなかったんだけど、これは見た瞬間に「欲しい」ってなったので。
【高畑】カッコいい、フルメタル。これ、黒もあったよね。
【他故】黒もあったけど、目に入ってなかった。最初から銀だった。
【きだて】このソリッド感はね、やっぱり銀がいい。
【他故】そう。
【きだて】銀がいいよね、分かる。カッコいい…。
【他故】はっきり憶えているわけじゃないんだけど、確かお茶の水のトゥールズかレモン画翠で買ったと思う。商品を並べている什器があって、「絶対買う」と思ったからね。
【高畑】これ、いくらぐらい?
【他故】3,000円じゃなかったかな。その当時の3,000円は、そんなに安い金額ではないので。
【高畑】今だと「オレンズ・ネロ」とか普通に買っちゃうけどさ。でも当時、僕は『ビー・ツール・マガジン』(当時発行されていた文房具の情報誌)に載っているこれを見て「うわっ、カッコいい」とは思うんだけど、僕にとってのロットリングは、ペリカンと並ぶ遠い存在だったんですよ。
【きだて】分かる。手を伸ばしても届くもんじゃないなというイメージ。
【高畑】あと、これは製図をしているプロの建築家とかが持っている道具。ロットリングは製図ペンもやってるからね。そういう難しいものは「僕にはまだまだ」と思ってたんだよ。
【きだて】カッコいいんだけど、自分が使っているところを想像できなかったのね。
【高畑】他故さん大人。
【きだて】そこは、中高生と大学生の差がでかかったと思うよ。
【他故】僕が漫画を描いていたことがあったからだと思うんだけど、結局何でも画材、文房具だって画材だし、プロのものも画材なんだけど、漫画を描くのに落とし込んだときに、「ロットリングが最高峰だ」という人が周りにたくさんいたのね。
【きだて】あ~。
【他故】ロットリングでも、いわゆる針ペンのやつを使って絵を描いている人が何人もいて、感化されて何本か買ってみたりしてるのね。その中で「ロットリングはカッコいい、ロットリングは最高だ」っていうちょっとしたロットリング教みたいな人が周りにいるわけですよ(笑)。
――ロットリング教(笑)。
【きだて】ロットリング派とミリペン派があったでしょ。
【他故】ロットリング派とピグマ派に分かれてた。
【高畑】でも、ロットリングと並べちゃうとね。
【きだて】あの頃ロットリングはブランド力あったじゃん。
【高畑】だから、俺はピグマとかドラフィックスであれを書いてたんだよ。
【他故】その頃私はロットリングで書いてたわけだ。
【高畑】やっぱそこがね(笑)。
【きだて】大人だよ~。
【高畑】ピグマも高かったじゃん。
【他故】確か、当時150円だったからね。
【高畑】ドラフィックスがちょっと安かった。
【他故】100円ぐらいだったかな。
【高畑】あれで書くとグレーの線になるんだけど、ロットリングなら真っ黒な線が引けるじゃないですか。
【他故】ピグマの顔料インクも悪くはないんだけど、消しゴムをかけるとあっという間に薄くなっちゃって、下書きを消すことが前提の原稿では使えない。
【きだて】あっ、そうだわ。薄くなったね。
【他故】ロットリングは濃い顔料を使っているから、全然そういうのがないのね。「やっぱり1本持っておかなきゃ」という感じで買ったりして。そんな中で、これに出会ったのは偶然なんだけど、当時いろんなシャープペン使ってたはずなのに、今残ってるのはこれだけなんだよ。
――「ロットリング600」しか手元に残ってないんですか。
【他故】色々と使ってたはずなのに、1本も残ってないんですよ。
――そう言われれば、自分だってその頃使ってたシャープペンなんて手元にないですね。
【他故】自分の中で、どうやらバージョンアップがあったみたいで、その後「ドクターグリップ」が出た瞬間に、全部ドクターグリップに切り替わっちゃったんですよ。
(一同)あ~。
【他故】その当時から数年後に。その時に、これだけは高いから残してあったみたいで(笑)。
――高額だったんで生き残ったんですね(笑)。
【他故】そんな雰囲気だったんですよ。
【高畑】今から考えると、どうして取っておかなかったんだろうって思うけど、当時の自分にとっては、新しいのが出たらそっちに興味が移るものね。
【他故】しかもシャープペンシルの場合は、「何本もあっても」と思うからね。
【きだて】そうだね。
【他故】「メインの何本かがあれば」という感じで押し出して、代替わりしていったみたいで。
【高畑】引き出しとかには入ってるんだけど、それが引っ越したりしているうちに段々分からなくなってくんだよ。
【他故】これだけは、つけペンなんかが入っているケースに、別格という感じで入れてあったので、生き残ったというのもあるけど。
――今でも使ってるんですか?
【他故】今でもたまに使ってますよ。前にも言いましたけど、私はグリップがゴムになっているのがダメになってしまったので。
――あ~そうか、ラバーグリップ離れをしてましたものね。
【きだて】他故さんのラバーグリップ離れが(笑)。
【他故】だから、グリップがローレットになっているやつが大好きで、今はシャープペンもかなり製図用に近いのを出して使っているというのもあるんですけど。ただ、こんなにザラザラしているのは今はないですよね。
【高畑】あ~、そうそう。最近のはマイルドだよね。
【他故】これだと、爪も削れるぜっていうぐらい(笑)。
【高畑】皮膚片が付くんだよ。
【きだて】昔のデザインナイフも、これぐらいローレットが深かったよな。
【高畑】俺は割とそういうのが好きなんだよね。
【きだて】これだけ深ければ、ローレットも滑らなくていいんだ。
――きだてさんは、手汗かいて滑りますからね(笑)。
【高畑】ローレットは、滑らないためにあるんだよ。
【他故】そうだよ。
【きだて】違うんだよ。今のローレットは滑るんだって。
【高畑】滑らないために深くしてたんだけど、ユーザーの要望をきいてマイルドにしちゃったから、今のローレットは軟弱なんですよ。
【きだて】ただね、刺激が強すぎてペンだこが育つんだよね。
【他故】あ~そうそう。ガッチガチになるんだ。
【きだて】俺はデザインナイフでペンだこができちゃったクチだから。
【高畑】ああそうなのか。
【他故】僕は、握り方が悪い時期が長かったので、変形するぐらいペンだこができたことがあって。
【きだて】ペンだこできたと思ったら、このローレットでゴリゴリ削ればいいんだよ(笑)。
【高畑】かかとをこするやつみたいだよね。
【他故】本当に、爪やすりレベルだよね。今の600って、こんなにゴリゴリしてないのかな。
【きだて】どうだろうね。マイナーチェンジしてるのかな。
【高畑】微妙に仕様が変わったりするじゃん。
【他故】わずかにデザインが変わっているという話も聞いたんだけど、どこが変わってるのか分からないんで(苦笑)。
【高畑】でも、ドイツってすごいよね。発売から30年経ってるんでしょ。そんな気がしないものね。
【きだて】デザイン的にね。普通に「今年の新製品です」って出されても、カッコいいねって思っちゃう。
【他故】全く問題ない。
【高畑】600からフルメタルになったんだっけ?
【他故】そう600からだと思う。
【きだて】あれ? そうなんだっけ?
【他故】400はフルメタルじゃないし。
【高畑】400はプラ軸との混合でしょ。
【他故】600は当時のフラッグシップだったんじゃないかな。800が出るまではそうだった気がする。
【高畑】そうそう、数字上がるほどにグレードが上がるんだけど、600までが製図ペンの最高峰なんだよ。800はリトラクタブルじゃなかったけ?
【他故】そうそう。
【高畑】800はペン先が引っ込むんだけど、どっちかというと「スマッシュ」みたいなもので、製図ペンっぽいテイストの携帯できる一般筆記用という位置づけじゃないかな。
【他故】超高級シャープペンシルみたいな感じだよ。
【高畑】だから、600はガチ製図ペンの最高峰。
【他故】そのシャープペンと「エアイン」の組み合わせね。
【きだて】「エアイン」も平成元年だったか。
【他故】その時に、それまで使っていた消しゴムをすべて「エアイン」に切り替えた記憶がある。
【高畑】「エアイン」派はいたな。
【他故】ものすごく軽く消せる。漫画を描くときって、消しカスが細かくて刷毛でサッと離れてくれないと意味がないので、粘っこい消しゴムは使えないんだよ。
【きだて】はいはい。
【他故】その中でも、これはものすごく軽く消せて、消しカスが小さく粉みたいになるので。
2018年10月にブランドのリニューアルを行った「エアイン」
【高畑】「エアイン」はプラスでしょ。その頃ぺんてるが出していた消しゴムなんだっけ?
【他故】何だっけ。「ハイポリマー消しゴム」じゃなかったかな。
【きだて】あ~、そうだ。「ハイポリマー」だ。
【高畑】派閥があったんだよね。関西だと「レーダー」と「エアイン」と「ハイポリマー」派がそれぞれいたんだよ。
【きだて】俺は頑なにレーダー派でした。でも、それは「昔からこれがザ・消しゴムだ」という頑迷な思い込みだったから、もし一度でも「エアイン」使ってたら、そっちに転んでたかもな。
【高畑】俺は、当時は「ハイポリマー」派だったんだよ。
【他故】シャープペンの替え芯は「ハイポリマー」だったけど、消しゴムは「エアイン」を使ってみて「これだ」と思ったから。漫画を描くときにはこれしかないと。
【きだて】替え芯は俺も「ハイポリマー」だったな。
【高畑】「ハイポリマー」のケースのフタはパチンってはさむやつな。パチンってはさむのが好きで使ってたんだよ。
【きだて】あれをパチンパチンと鳴らしてるやついなかった?
【高畑】いた。うっかり閉めると指はさむんだよ。っていうぐらい、俺らはガチで使ってた時代だからさ。それで、シャープペンは「2020ROCKY(フレフレロッキー)」を使ってたんだよ。
【きだて】俺も。
【他故】俺は、あれが出たとき高校3年生ぐらいだったから、ちょっと乗り切れなかった。
【高畑】あとは、ミリペンの「ドラフィックス」ね。学生にとっての製図ペンというドラフィックスの立ち位置は、すごいあったんだよ。
【他故】うん、分かる、分かる。
【高畑】だから、ロットリングは別格だったんだよ。
【他故】ロットリングを使ったからといって、漫画が上手くなるわけでも何でもないんだけど、これに関しては本当に「見せびらかすか」というくらい大学に持ってきて、みんなの前で使ったもの。
【きだて】分かる。かたちから入るのは大事だよ。
【他故】それで、持たせてやると「こんな重いもので描けるか」というヤツがいたんだよ。
【きだて】考えてみると、「フレフレロッキー」もめちゃめちゃ重かったものな。
【他故】「フレフレロッキー」は結構重かったよね。
【きだて】思い返してみるたら、中・高・大と通して「フレフレロッキー」使ってるんだよ。だから10年以上使ってるんだ。
【高畑】俺も大分長いこと使ってた。
【他故】丈夫だからな、あれ(笑)。
【高畑】壊れないし、本当に丈夫だったし。
【他故】「色が派手だから嫌だ」と思う時期がこない限り、使い込んでもおかしくない。
【きだて】しかも、黒を使ってたから、そこはもう全然。
【高畑】あれ四角いんだよね。でも、それに慣れると意外とハマっちゃう。しかし、その頃に他故さんはロットリングを持ってたんだな。
【きだて】そうか、やっぱ一人だけ大人だな。ちくしょう。
【他故】絵を描くときに、細身のものじゃないと小回りが利かないというのを、手の中で憶えてたので、細身のシャープペンはずっと欲しかったのね。
【高畑】じゃあ、製図用というのは必然なんだね。
【他故】そう。だから、これと「グラフ1000」かな。当時使ってたのは。
【高畑】「グラフ1000」ってその頃だっけ?
【他故】「グラフ1000 フォープロ」が出たのはもうちょっと前だよ。確か86年か87年じゃないかな。それで「スマッシュ」が来るという頃だから、この3つは使ってたんだよ。でも、今手元にあるのはロットリングだけだからなあ。今でも、たまに取り出して使ってみると、当時のことを思い出して、すごく懐かしい気持ちになるよ。
「グラフ1000 フォープロ」(奥)と「スマッシュ」(手前)
【高畑】さっききだてさんが出していた「テゼット」も、当時は「未来だ」って思ったけど、今になってみたら、違う世界線にいってるじゃない。
【きだて】ああ。
【高畑】それに対して、今新製品と言われても何の違和感もない、ロットリングのど真ん中感ってすごいよね。
【きだて】何だろう、この世界線の未来というか。
【高畑】未来というか、もう時間にとらわれてない普遍性だよね。新しくも古くもないというか。ドイツがすごいなと思うのは、ラミーが1966年に「ラミー2000」を出したときは、2000年というすごい未来でもカッコいいペンを作りたいということで作ったんだけどさ。
【きだて】2019年でもまだカッコいいという。
【高畑】だから、ラミーとかロットリングとかペリカンとかの底力というのを、30年経って感じるよね。
【きだて】ドイチェデザイン強えなあ。
【高畑】今見ても全然カッコいいものね。
【他故】全然カッコいいというか、これ以上にカッコいいペンがあるかというぐらい。今でも本当に現役バリバリでカッコいいもの。
【高畑】本当にカッコいいよね。
【きだて】何だろうね、これは。
――これに、今の中高生男子はあこがれているわけですよね。
【高畑】そうだよね、未だに現役で。高級ペンだし、段々ステップアップしてここに来たい人もいるわけだから。日本のシャープペンもすごいし、昔から色々とあるけど、やっぱり今となっては違うじゃん。でも、ロットリングは変わってないというのがすごいね。
【他故】変わらないよね。
【高畑】「グラフ1000」は確かに今でも通用する名作だけど、「メカニカ」とか「ぺんてるシャープ」なんかは、今となっては一世代前の感じがしちゃう。
【他故】そうだよね。昭和の香りみたいなのが感じられてしまう。
【高畑】ロットリングは、その香りのしなさ加減がすごいよね。何だろうね。
【他故】未来ペンのようでもあり、現代ペンのようでもあり。
【きだて】何かね、当時の流行だとかそういったものがくっついてないんだよね。
【他故】研ぎ澄まされているというか、そぎ落とされているというか。
【きだて】余分な情報がないから、いつの時代でもいけるという、そんな雰囲気なんだけども。
【高畑】当時、これを作ったデザイナーがさ、道具としてすごいちゃんと見てたんだな。いや、こういうの見ると勝てないなという気がするね。この頃はガチで道具を作ってたんだよ。
【他故】そうだね。性能第一という感じで。
【高畑】ほかにもシャープペンあったけど、あこがれるのはこれだったよね。
【他故】ここが最高峰だと思ってたから。
【きだて】その当時は、上がロットリングで、下はセーラー万年筆とかの50円シャープがあったわけじゃない。
【高畑】僕らはせいぜい1,000円止まりだったな。しかし、30年の変わらなさぶりがすごいね。自分が30年経っちゃったということなんだけどさ(笑)。
【きだて】いや~、30年かあ(笑)。
――このシャープペンは30年の年月を感じさせませんよね。
【他故】俺がこれを持って描くと、30年前と同じ絵が出てくるというのがまたどうもね。「同じやん!」みたいな(苦笑)。
【きだて】これもそうだし、文具王のゲージパンチとガチャックも、多少のモデルチェンジはしつつも未だにあるじゃない。
【高畑】そうなんだよ!
【きだて】まあ、「テゼット」(その1を参照)だけがないんだけどさ(笑)。あれは別の未来のものだから、しょうがないんだよ。
【他故】世界線が違うからね。
【高畑】30年前だと自分の視点はそこにあったけど、30年後の離れた視点から文房具を見るのは面白いね。他のものも色々と並べてみると、何か見えてくるんだな。
【他故】だと思うね。
【きだて】機能面もそうだし、マーケティング的な話も多分見るものがあるじゃん。
【高畑】でも、アナログな文房具に関しては、30年前に完成してたということだよ。万年筆もあったし、ボールペンもシャープペンもあったし。ゲルインクが後から出てきたというぐらいでしょ。
【他故】ゲルインクがそのあたりで発明されたんだよね。
【高畑】ちょうどそこが境だから。当時のカタログにほぼほぼ全て載っていて、修正テープもその頃だし、アナログな文房具がほぼ完成した年なんだよ。
【他故】ほぼあったね。
【きだて】30年前の自分と文房具の話をしても、共通言語として成立するんだよね、多分。
【高畑】「そんなの見たことない」というのがあんまりなくて。
【他故】それがもっと進化したというのは言えるんだけど。
【きだて】そうそう。「これが機能アップしたんだよ」というのは言える。
【他故】でも、大元はその段階であるんだ。
【高畑】機能がアップしたのって、使う力が半分になるとか、綴じ枚数が倍になるとか、割とグラデーションで伸びている先にいるだけで、世代の違うものって、せいぜい「フリクション」じゃない。
【きだて】そうだね。俺も今それを思ってた。
【他故】なかったものが出てきたというのではそうだよね。
【高畑】俺は現在も実演販売でゲージパンチ紹介してるからね。
(一同爆笑)
【きだて】さっきの文面(その2を参照)と同じようなことしゃべってるんだろ(笑)。
【高畑】同じこと言ってる。
【きだて】成長のないことだよ(笑)。
【高畑】いや~、色々考えちゃうね。文房具はある意味成熟したとも言えるけど。
【他故】そうだね。
【高畑】成熟産業であり、逆にいうと停滞しているのかもしれないけど、前よりも性能を上げてきているんだろうね。だって、当時のゲージパンチと今のゲージパンチだと使い勝手が違うんだよ。
――平成の30年を振り返って、文房具はどうだったんでしょうね?
【きだて】やっぱり、ブラッシュアップを30年ずっと続けてきたので。
【高畑】「テゼット」なんかを見ていて思ったのは、文房具の立場が変わっちゃったんだよ。だから、僕らが平成元年のときに見ていたのは、パソコンや携帯電話がなかった頃の文房具なんだよ。
【きだて】そうだね。
【高畑】そこからデジカメができて、携帯電話ができて、スマホができてというのを経た今の立ち位置というのは、どちらかというと、当時は必要にかられていたところから、もうちょっとリラックスした道具にはなったかな。
【他故】う~ん。
【高畑】ガチで製図に使ってないじゃん。
【他故】そうだね。
【高畑】製図ペンがないと困るかというと、パソコンでできるようになってしまったから。製図ペンは、カッチリ書き味を楽しむ道具になってしまったので、そこに対する精度がどうこうという話では若干なくなってきているけど、古びてはいないし、その力は今でも持っているけど。
【きだて】どうなんだろう。さっきの話だと、もしLSIパンクの世界線に移行して、スマホとかがない世界だったら、もっと何かトガった道具に進化していたと思えるじゃん。
【高畑】それは、もっとトガっていたと思うよ。そこは、デジタルのおかげで要らなくなっちゃったんだから。
【きだて】正直、デジタルにアナログの未来を大分奪われてはいるんだよね。それがいいか、悪いかは別として。アナログな道具がまたどんどん尖っていった世界線に生きていたら、俺らはもうちょっと面白かったかもしれないよ。
【高畑】デジタルでできるところを譲ったあとで、残っている良さを宣伝しているのが今なんだよ。だから、恐ろしい数のふせんがあるじゃん。「当時はなかったけど」という進化はしているんだよ。だから、違う方向で広がりは見せているし、こんなに紙質にうるさくなるとは思わなかったじゃん。
【きだて】あ~。
【高畑】昔は、画用紙があって、ケント紙があってとは思ってたけど、こんなに紙の種類があるとは意識してなかった。
【他故】そうそう。だって、昔から考えると、ボールペンもこんなに色数があるなんておかしいもの。
【高畑】そうだね、ちょうど平成に入ってから増え始めるんだよね。そう考えると、文房具というものが、デジタルに効率化の部分を譲って、効率化以外で必要な部分を担っているわけだとは思うんだよね。
【きだて】ただ、それはメインストリームを奪われたということだと思うんだよ。
【他故】それはそうだよ。
【きだて】うわっ、デジタルにメインストリームを奪われなかった文房具の未来が見たくなってきた。
【高畑】それはちょっと見てみたいよな。でも、平成元年はまだそれが現実にあった時代だよ。
【きだて】どちらにでも行き得た時代。
【他故】そうね。
【高畑】「機械がまだ機械のたのしさを持っていた時代、科学が必ずしも人を不幸にするとは決まっていないころ、そこではまだ世界の主人公は人間だった…」っていうあれね。 (笑)。
【きだて】うわ~、カッコいい(笑)。でも、まさにそれだよね。
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談6』も発売。
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