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【特別寄稿】「ゆず文房具店」が伝える文具の魅力

ゆず文房具店 ゆず店長

好きを発信するとは ーコンセプトは「架空の文具店」ー

「どうもこんにちは、ゆず文房具店 店長のゆずです」。現在私は、YouTubeで文房具・手帳の情報発信をしています。このあいさつは、チャンネル開設当初から変わらず用いているものです。
ゆず店長と名乗る私ですが、3歳の頃には既に文具好きで何処に行くにもノート・筆記用具を持ち歩く程だったそうです。以前は理学療法士として医療・介護の現場で働いていました。患者様と関わり「患者様本人の幸せ」に向き合っていると、「私の幸せ」について考えることが増え、自分自身の幸せがわからず鬱に苦しむ時期もありました。その時に出会ったのが鬱の克服と相性が良いとされた日記です。元々文房具好き、字を書くことも好き、せっかく書くのであれば見栄えが良い方が良いだろうとインスタグラムの「ほぼ日手帳」という一大ジャンルに出会ったことで、ズブズブと大人の文具沼へ沈むことになりました。

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日記を書くことで、自分自身の何にも変え難い楽しみが、「文房具に触れている時間」だということに気づき、主人の勧めもあり動画投稿を始めることになりました。
あの時の主人の「文房具代は文房具で稼いでください、動画編集も投稿も全部やるから撮影だけやって」という言葉がなければ、今の私はありません。私の好きを生かせる形にシフトさせてくれたことに感謝しています。こうして生まれたのが、長年の夢だった「自分自身が文房具屋さんをするとしたら」をコンセプトにした「ゆず文房具店」というチャンネルです。私は架空の文房具屋さんの店長なので、自分自身が良いと思ったアイテムを紹介することにしています。そのチャンネルも今年で6年目となり、現在では、手帳をベースとしたコンテンツで動画作成を行っていて、商品紹介の依頼を請け負うことも増えてきました。

現在では、中小企業制作の文房具などのクラウドファンディング告知なども行っています。依頼を受けて紹介したアイテムの達成率が3,000%を超えることもありました。こうして、ご縁をいただいた商品がたくさんの人に認知され愛用されていく過程を見て、私の動画を経て商品と出会ったというお声を直接いただけることが何よりうれしく、活動の動力源となっています。
私自身は小売業として活動をしていませんが、大好きな文房具や手帳といったアナログな時間を楽しむ文化に貢献できることは本当に幸せなことだと感じている毎日です。

売り手と買い手の中間 どちらにも公平な立場で

前項で述べたように活動する私ですが、大事にしていることがあります。それは、できる限り「中立の立場で発信する」ということです。現在、小売店も全盛期と比較すると圧倒的に少なくなりました。居住地域によっては新商品を店頭で試してから買えないため、オンラインショップで購入する方も多いようで、私のような個人が発している忖度のない情報にもアンテナを張っているようです。買い手(動画視聴者)からは「店頭で試せなかったからデメリットも含め知れて良かった」という言葉が多かったことに驚きました。

y1.jpg現在、素晴らしい文房具は世の中に溢れていますし、毎月何点も新商品の販売が始まっていきます。そして中には、気軽に買うには躊躇する値段のものや限定品なども存在しています。食品や生活必需品の価格上昇もあり、買い手側のお財布事情も余裕があるとは言えません。それでも大好きな文房具費を削りたくはない我々ユーザーは思うのです。「買い物に失敗したくない…」と(失敗というと聞こえが悪いですが、自分自身の想定した使用と商品の特性がマッチせず一軍としての使用が難しい場合のことを指します)。最近ではSDGsなどもあり、今まで以上に物を大事にすることに対する関心が高いのではないでしょうか。買ったものを最後まで大事に使いたい、使い捨てるものよりもできるのなら長く使い続けたいという買い手も多いのではないかと考えます。

そういった買い手のニーズと私の発信のスタイルがマッチしたのが「来年の手帳選び企画」でした。特に手帳は店頭で実物を見たとしても試し書きすることはできません。来年1年間を共にするアイテムで絶対に失敗したくない買い物なのに、自分の用途や一軍筆記用具とマッチしているかは使ってみないとわからないのです。だからこそ、今は売り手の情報だけでなく実際のユーザーの体験が貴重な情報となっているのではないでしょうか。この動画を始める以前、私自身も度重なる「手帳会議」(来年の手帳を何冊買って、どう運用するか楽しみながらも苦悩する手帳ユーザーの楽しみ)を行いつつも、通年使い続けられる手帳を探し求めていました。私に限らず、手帳好きな人は自分自身が使いこなせるかどうか買うまでわからない状況に困っているから「手帳会議」をするのではないか?と。そしてたどり着いたのがたくさんの手帳を紹介する本企画でした。
過去に、「ほぼ日手帳」の全フォーマットの比較や新旧商品での筆記用具との相性チェックを行いました。その他、いろは出版の「SUNNY手帳」の全フォーマット紹介、オンライン限定や店頭購入可能なアイテムの比較をしています。特に筆記用具やスタンプとの相性を紹介する部分が好評で、店頭で書き試しできない手帳の、買うまでわからない部分のお悩みを解消することができたのではないかと考えています。

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開発され、販売まで来た商品は絶対に誰かの不便を解消するために設計されています。その本当に必要な人に商品の情報が届き、長く愛されるアイテムになってほしいという想いで動画を作っています。そのため、私はより中立な立場からの発信を心がけるようにしています。気をつけていても、私自身も一人の文房具愛好家。私自身の使用環境に合う合わないももちろん存在しています。そういう時には、「私にとって〇〇はデメリットだったけれど、~な人には使いやすいと思う」と使用者の環境によってメリット・デメリットが異なることを強調して伝えるようにしています。 そういった動画作りをしているため、最近では視聴者から自分自身の手帳の運用目的や使用筆記具との相性など相談を受けることが増えました。具体的には「〇〇の手帳を購入しようと思っている。現在手帳には~のような項目を記載していて、使用したいペンは~です。この手帳1冊で管理できそうか、またペンの裏抜けについて意見を聞かせてほしい」といったような相談を受けます。そのような場合には相手の求めるものをより深く聞き、商品の特性を踏まえた上での相性の良い部分と判断が難しい部分などをお伝えするようにしています。実際に私が試し書き、試用をしてみたうえでの感想も伝えると、その後報告なども届きます。こうして私のアドバイスが役に立てたのがわかることが楽しみでもあります。

これは小売店でも同じだと思うのですが、お客様は自分の目的と商品が一致するか心配な中、相談をされてくることでしょう。オンラインショップで買い物ができる昨今、ただ買うだけであれば自宅から出ずに完結するオンラインの方が断然便利です。それでも、相談できる・実際に商品に触れることができる、そういったメリットは小売店でしか得られないことではないでしょうか。最近では文房具メーカーをはじめ、小売店もSNSを運用しており、新商品の紹介や店員の雰囲気なども店頭に行く前に知ることができます。そのままオンラインで注文してしまうこともできる状況だからこそ人という付加価値をもっと重視していただいても良いのではないかと思います。店内POPがかわいいことや、親身に対応してくれる・知識が豊富な店員さんがいるなど…そういった場面でお客様に還元できる情報収集の一環として当YouTubeチャンネルなども活用していただけたなら本望です。

長く使える製品に注目 よりサステナブルなアイテムを

以前、医療従事者として働いていた際には「安い・使いやすい・汚れてしまっても諦められる」という部分に重きを置いて文房具を選んでいました。現在では丁寧に使えば長く使い続けることができ、頑丈で飽きのこないシンプルで機能性の高い物を好むようになりました。
そう思えるようになった、大きなきっかけは万年筆に出会ったことです。私がお世話になっている万年筆の神様ことThe Nib Shaperの長原幸夫さんに「最大のメンテナンスは毎日使うこと、自分だけの書き味に育てる楽しみがある」ということを聞きました。今までは壊れたら捨てるという選択肢しかなかった私に、大きな衝撃を与えてくれました。ペン先を調整してもらった万年筆の書き味に今ではすっかり虜になっていて、特にパイロットコーポレーションの「キャップレス」シリーズのシンプルな外見と、ノックや繰り出しで使い始められる機能性の高さが手帳との相性もよく重宝しています。

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最近はインクも豊富な種類がありますが、手帳と相性の良いブルーブラック系やブラックを愛用しています。パイロットの「強色」martさんの「【   】 ーunknownー」など…最近では大手文具メーカー以外にも個人作家さんのアイテムも増えてきているため、色の豊富さはもちろんですが、容器の美しさなど文房具愛好家たちもうれしい悲鳴が止まらない状態だと思います。
そんな私ですが、朝仕事を始める前にお気に入りの万年筆でジャーナリングを行うようにしています。ジャーナリングとは書く瞑想とも呼ばれ、自分自身を内省することができるとても大切な時間の一つになっています。無意識に眠らせていた自分の気持ちを書き出すため、摩擦が少なくぬらぬらと書き進められる万年筆が最高の相棒だと思える瞬間です。この時間があることで、一日のスタートが心地よいものになります。

他にも、最近は存在している文房具をワンランク上の使い心地にするなど、カスタマイズすることができるアイテムに魅力を感じます。海外製のボールペンを購入した際に、インクフローが気になったりすることがあり、できるなら国産メーカーの替え芯を使いたいと感じることがありました。しかしそこで発生するのはペン芯の規格の問題です。4C規格のものであれば、互換性があるため国産メーカーに変更することも可能ですが、好きな書き味の替え芯に対応していない場合があります。そんな時に便利なアイテムがUNUS PRODUCT SERVICE.の「ボールペンリフィルアダプター」です。これを使うことで、軸が好みの海外製ボールペンに国産メーカーの替え芯を使用することもでき、筆記を大変快適にすることができます。

y5.jpg逆に、書き味が好みの筆記用具をカスタムするアイテムもあります。ヒカリの「LUCE Pen Fit」です。本革製のペンカバーで、既存のペンに被せることで握り心地と経年変化を楽しめるよう見た目をカスタムし、ペン本体の傷や汚れを防ぐことができます。ネックストラップを取り付けるDカンも付属しているため、すぐに使えるという機能性も向上します。既存商品をさらに便利に機能的にカスタムする楽しみも、たくさんの人に認知されてほしいと最近ではしみじみと思っています。

最後に、私は文房具が今後も多くの人に愛され、さらに発展していくことを心から願っています。文房具は単なる道具以上の存在で、日常に彩を加えてくれる大切なパートナーです。私のような文房具愛好家のSNSでの発信が、より多くの人に伝わり、文房具の魅力を広めることに貢献できたらうれしく思います。

※(編集部注)本記事は「旬刊ステイショナー」2024年7月25日号掲載の「<寄稿>「ゆず文房具店」が伝える文具の魅力」を編集して掲載しています。

プロフィール

y6.jpgゆず店長
1989年生まれ、宮崎県出身、鹿児島県在住。「ゆず文房具店」の店長として、文房具、手帳の魅力を広める事をモットーに活動中。現在登録者2万人。文房具好きはほぼ年齢、手帳歴は13年目。自身の生活を穏やかに楽しく送るための手帳術を模索中。手帳制作監修が夢。
YouTubeチャンネル「ゆず文房具店」(https://www.youtube.com/@yuzu_stationery_store)

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