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【『ざんねん? びっくり! 文房具のひみつ事典』発売記念】ヨシムラマリさん&文具王スペシャルインタビュー

文具のとびら編集部

講談社から、『ざんねん? びっくり! 文房具のひみつ事典』(四六判・128 ページ、税込1,540 円)が2024年5月30日に発売された(関連記事)。「そうだったんだ!」と驚く文房具の“ひみつ”を63点紹介しており、子どもから大人までみんなで楽しめる一冊だ。同書の発売を記念して、著者でライター/イラストレーターのヨシムラマリさんと、同書を監修した本サイト編集長の高畑正幸文具王、さらには担当編集者の澤有一良さんにも加わってもらい、スペシャルインタビューを行った。

ヨシムラマリさんプロフィール
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『ざんねん? びっくり! 文房具のひみつ事典』(講談社)。本サイトで「パイロット指輪物語」(全12回)の連載も行った。

ヨシムラマリ.png

文房具には人間の知恵と工夫の歴史が詰まっている

――まずは、本の出版の経緯からお話しいただけますか。

【ヨシムラ】この本の編集担当者の澤さんとは、ライター塾の交流会で接点を持つきっかけがありました。その時に、「児童書の企画で、文房具は切り口としてありえるんじゃないか」ということでお声がけいただきまして、「じゃあ、本にするならどういう企画がいいか」と2人でちょっと話し合いながら詰めていった結果、この本ができました。

――今回の『ざんねん? びっくり! 文房具のひみつ事典』はどんな本なのかというのを、簡単にご紹介いただけますか。

【ヨシムラ】文房具の歴史とか成り立ちみたいなものを。イラストと文章で楽しく紹介した本です。

【澤】最初からガッチリとコンセプトが固まって制作に入ったわけではなくて、ヨシムラさんと私がお会いして、「子ども向けの文房具の本を作りたいですね」となったのがスタートなんです。練り上げていく中で、単純に「こんな面白い文房具があるよ」という雑学的な本ではなくて、何かしら子どもたちにとって学びがある本にしていた方が良いだろうっていうことで、子どもたちにとって身近な文房具からも、ある意味では人類の道具の創作の試行錯誤の歴史がなんとなく振り返られるような本になったのではないかなと思っています。

【ヨシムラ】読んで役に立つとか、勉強に役立つという要素ももちろんあるんですが、単純に楽しく読んでもらうというところも結構大事にしました。今の子どもたちから見ると、「昔の物ってここがちょっと変だよね」みたいな感じでツッコミを入れるような内容だったりとか、「昔のものだけど、今見てもすごくない?」みたいに感じてもらえるようにというのは心がけました。最終的に、楽しく読んでもらっているうちに、さっき澤さんがおっしゃっていたような、文房具に代表される工業製品には、人間の知恵と工夫の歴史が詰まっているというのを感じてもらえるといいなと思います。

――この本には文房具のエピソードが 63 個載っていますが、これを選ぶのは結構大変だったと思うんですが、どのように選んだんですか?

【ヨシムラ】本の大体の方向性が決まった時点で、私と文具王で思いつく限りわーっと出していって、そこから澤さんにも入っていただきながら、全体のカテゴリーとしてのバランスが取れるようにとか、お話の中身としてバランスが取れるようにみたいなところとか、あと「これはちょっと事務用品ぽいから子どもは興味ないかもしれないね」みたいなところで外していったりみたいな感じで、最終的にこういう感じになりました。

――取り上げているエピソードも、一つひとつ調べていったわけですよね?

【ヨシムラ】そうですね。そこは文具王が頑張ったところで(笑)。「こういう話がこう言われているけれども、取り上げるにあたって本当か?」 みたいなのを文具王が調べてくれました。文具マニアとか詳しい人の間ではまことしやかに言われているけれども、「本当にそうだったのか? 」みたいなところを、改めて文具王がウラを取ってくれた感じです。

――「巷ではこう言われてるけども、それは本当なのか?」を検証するいい機会でもあったということですか?

【高畑】まあ、そうなりますよね。この 63 個の中には、雑学としてはちょいちょい出てくる話も多いんですね。たまにテレビとかでも取り上げられたような話題とかもあるんですけど、調べてみたら「どうもそうでもないらしい」みたいなことが分かってきたりすることもありました。「これは、ちょっとそういう感じでは載せられない」とか、言い方を変えなきゃいけないとか、あるいは「世界初です」って言い切れない場合があったりとか、そういうのは調べてみると案外色々とあるので、やっぱり本として出す以上はしっかり調べないといけない。僕は、そのウラ取りみたいなところをやりました。

――監修者として、そこら辺をしっかり調べたんですね。

【高畑】歴史的なところとかをウラ取りするみたいな感じです。

――エピソードの選定に関しても、監修者としてかなり関わっていたんですか?

【高畑】出典資料も含めてヨシムラさんと僕がお互いにネタを出し合いながら、「こんな話あるけど、とかこれどう?」みたいな話をいっぱい投げて。実際は63とかじゃなくて100ぐらいはあったのかな? 何かいっぱいありましたよね。もうゆるくふわっとしたものまで入れると、結構かなりの数まで出したんですけど、その中で「じゃあ、これはちゃんとやろうか」っていうのを、ヨシムラさんの著書なので、ヨシムラさんが面白いって思うっていうところがキーにはなっていると思うので、僕の方はどちらかというと「こんなのもあるよ」っていう材料提案ぐらいかな。

【ヨシムラ】最終的には、澤さんが編集のさじ加減でバランスを見て調整していただいたという感じですかね。

【澤】そうですね、内容があまりニッチというか、玄人向けになり過ぎないようにというか(笑)。

【ヨシムラ】その辺は、読者目線で選んでいただきました(笑)。

【澤】あまり文房具を知らない人間の目線から「面白そう」っていうものを選びました。

――確かに、ヨシムラさんも高畑さんも、ものすごく詳しいですものね(笑)。

【高畑】ちょっとオタクなので(笑)。

【ヨシムラ】面白がり方がおかしくなっちゃうから(笑)。

――ごく普通の人から見て、「そこまでマニアックにならなくてもいいんじゃないか」と抑えるというか、澤さんにはそういう役目があったということですね。

【ヨシムラ】多分、澤さんが一番一般の感覚に近いので、その目線で。

失敗があるから成功が生まれる

――この中で特に気に入ってるエピソードはなんですか?

【ヨシムラ】この間の文具王の YouTube ライブでも話したんですけど、修正液の話が私は結構気に入っています。まさに、この本のコンセプトを一つ体現するような話なのかなと思っています。本のコンセプトというか方向性を考えていくときに、「今の子どもたちって自信がなかったり、すごく慎重な子が多いよね」みたいな話が出ました。今の子どもたちは、失敗を極度に恐れるみたいなところがあって、「失敗するぐらいだったら、そもそも挑戦するのもやめちゃおう」みたいになってしまうようなところもあるよねみたいな話もしていて。でも、こういうモノの歴史を見ていくと、いきなり成功するっていうことは絶対なくて、「失敗があるから成功が生まれるんだよ」と。

修正液を発明したベティさんは、まさにそういうのを体現しているような女性だなと思うんです。元々タイピストで、ミスタイプをしてしまうというところから始まるわけですが、日本人的な感覚だと「ミスをするのは私がまだ能力が足りないからだ」とか、「もっと努力しなくちゃ」という感じになりがちだと思います。でも、「ミスはするよね」と認めた上で、そこに対してネガティブになるんじゃなくて、「じゃあどうすればリカバリーできるのか」と発想して、修正液というものを考えて、結果的に大成功したというのところが面白いなと思っていて。
1.jpgベティさんがめっちゃ優秀なタイピストで全然ミスしない人だったら、修正液って生まれてないと思うんですよ。その必要がないから。考え方次第だなというところが面白いなと思っていて。一見ネガティブな要素っていうのが実はそういう発明につながるっていう。なんか、ちょっと一つそういうのを私は一番自分としては感じるエピソードがあって結構好きだと思ってます。

――これに関しては、「絶対入れたい」って最初から思ってたわけですか?

【ヨシムラ】そうです。結構入れたかった話の一つです。

――他にも何かありますか?

【澤】同じ方向性だったら、意外とセロハンテープも好きなんですけど。

【ヨシムラ】私も結構好きかもしれないです。

――これも、「やってみたらできちゃった」という話ですね(笑)。

【ヨシムラ】セロハンって裏表がないから、重ねてはがしたときに「どっちにのりが付いているのか分かんないじゃん」みたいに思われていたので、「テープにはできないよ」と言われていたんだけど、リチャード・ガーリー・ドルーさんという人が、「そう言われてるけど、とりあえずやってみるか」でやってみたら、何でか分からないけどできちゃったっていう(笑)。そういうのも、やってみないと分かんないなみたいなのも結構面白いなと思って。自分で確かめてみることの大切さみたいなことも感じられて、これも結構面白いですよね。

【澤】今普通にみんなが使ってるものも、偶然とか、本当にたまたまできたことが結構あるんだなっていうのは思いましたね。

【ヨシムラ】強力な接着剤を作ろうとしたらくっつかないのりができちゃって、それの使い道が最初なかったという「ポスト・イット」の話は有名だと思うんですけど、私のこだわりとしてはその次のページの「出したけど、売れなかった」っていうところです。これを入れるというのは、自分の中ではちょっとこだわりでした。

新しすぎるものって、すぐ受け入れられるわけじゃないっていうところで、今はあるのが当たり前すぎて想像もつかないですけど、ポスト・イット的な貼ってはがせる付箋みたいなものが全くない世の中に自分が生きていたとして、それをいきなりポイって渡されて、「これ便利だな」って初めから思える人はいないと思うんですよ。それがこれだけ世の中に普及したっていうのは、もちろん発明した人もすごいんですけど、営業した人がいるっていうのはやっぱり伝えたかったっていうのがありました。

モノ自体を発明するっていうのも素晴らしいことなんですけど、メーカー出身者として、そういう人たちだけで成り立ってるわけじゃないというのが実感としてあるので、じゃあその良さとか便利さをどう伝えるのか。そういうところにも役割はあるっていうところが分かるエピソードだったので。発明する人がどうしてもアイドルになりがちなんですけど、それをどうやって良さを分かってもらうのかみたいなところも結構頑張り甲斐があるところだなっていうのが分かるので、この話も結構好きです。

【高畑】「これがあったらいいのにね」とみんなが思っているものを作って、それが結果的に「できました」という商品になっていうのはもちろんあるけど。

【ヨシムラ】万年筆なんかは、多分まさにそういう製品ですね。

【高畑】常にあるものを改良する先として、みんながイメージしてるものがあって、それをちょっとずつ改良していって「良いものができました」っていうエピソードは分かりやすいんだけど、案外世の中にあるものって、適当にやってみたらできたとか失敗だと思ったらできたとか、できないと思ってたけどやったらできたけど、それを何に使っていいか分からないものがあっりとか。実際、すごい便利なものが出来上がるんだけど、欲しいという発想すらなかった状態でポンってモノが出てくると、それをみんなに知らしめるのもまたなかなか難しかったり。そういうのが、文房具の周りだけでもいろんなエピソードが出てくるというのは面白い。

【ヨシムラ】多分、他のものにも通ずる話なのかな。iPhoneも最初出てきた時に、「何がいいの? ボタン全然ないし、使えなくない?」みたいな感じで(笑)。

【高畑】結構、批判的な人も多かった。

【ヨシムラ】「こんなもの絶対普及しないよ」とかね。ワープロなんかでもよくある話になりますけどね。

【高畑】それこそさっきのヨシムラさんの話でいくと、今は失敗するといけないと思っていたりとか、みんなが欲しいものをちゃんと作るというのも大事なんだけど、そうじゃなくて、失敗したところからのリカバリーでめっちゃ面白いものができたりとか、誰もが思ってなかったものができたりするので、いろんなところに興味を持ってもらいたい。

――「失敗したけど実は成功だった」というポスト・イットのエピソードは割と知られていますが、そこで話が終わらずに、「実はそれが最初は売れなかった」というエピソードも加えたところがミソなのかなと思うんですけど、そういったこだわりはあるわけですね。

【ヨシムラ】ありましたね。

【高畑】ポスト・イットには、日本で売りたいから、日本のだけ端っこに色付けたりとかして日本の付箋に合わせたみたいな話とかもあったりします。「みんな知ってるじゃん」っていうエピソードだけにならないところが面白いのかなと、僕は横から見ていて思いましたけど。知ってるところから入るけど、さらにその先が実はあって、知らない話が出てくるのが面白い。

複雑な面白さをいかに平易に伝えるか

――イラストやマンガも全部ヨシムラさんですよね。全て一人で手がけるのは大変だったと思うんですが?

【ヨシムラ】シンプルに大変でした(笑)。文章を先に書いて、文具王に渡してチェックしてもらってる間に絵を描くみたいな感じだったんですけど、子ども向けに書くのが初めてだったので、文章も最初苦労しました。感覚がつかめるまでなかなか筆が進まなくて。やっと書き終わったと思ったら、まだ絵を1枚も描いてないわと思って、1回絶望しましたけどね。

――コラムとか年表とかも載せてますけど、全部作られたんですか?

【ヨシムラ】年表は、文具王が作ってる資料をもとに澤さんが結構まとめてくれたんですけど、そこが講談社の校閲部からめちゃくちゃ突っ込まれるっていう。「誰だ、年表入れようって言ったやつ」「私だ」みたいな(苦笑)。校閲って、初めて受けたんですけど、すごかったです。

――まあ、そこはちゃんとしないと(笑)。

【ヨシムラ】「本文では何年って書いてあるけど、年表では何年になってます」みたいなのを言われるんですけど、文具王が過去に書いた本とかも引っ張り出してきて、「文具王の過去の本ではこう書いてあるのに、年表と違う」とか言われて(苦笑)。

【高畑】すごいしっかりしたチェック入ったので。あと、「一般的にはこう書かれているWeb ページが多いですけど」とか、この本だけを読んでるわけじゃなくて、いろんな本も広く調べてくれたりして、そこから「これは本当に正しいですか?」とか、「この説を取りますか?」っていうのをいちいち指摘してくれるので、本当にすごいなと思うんですよね。

【澤】88 ページに載っているくさび形文字のイラストですね(笑)。

【高畑】くさび形文字の話が面白かったですね(笑)。

【ヨシムラ】私は最初、「まあ、どうせ誰も読めないんだから」と思って、結構雰囲気で書いてたら、「これは何て書いてあるんですか?」と言われたりして。

【高畑】「何て書いてあるんですか?」じゃなくて、「こう書いてあるように読めるんですけど、この文字間違ってませんか?」ぐらいの勢いだったんですよ(笑)。

【ヨシムラ】ちゃんと文献まで引っ張ってきてくれるから。「初めてのくさび形文字」みたいな本まで持ってきてくれたので(笑)。私はそれで反省して。雰囲気が伝わればいいと思って書いたけど、これを読んだお子さんの中には、同じように解読を試みる子がいるかもしれないと気付かされて。その子が解読したときに、何も書いてなかったらがっかりするだろうなって思ったので、助言に従って解読できる内容に直しました。

2.jpg――何て書いたんですか?

【ヨシムラ】それは内緒です。調べて下さい(笑)。

――イラストを描くのも結構大変だったんですか? 正確に描かないといけなかったりもするし。

【ヨシムラ】そうですね。そこは文具王がチェック入れてくれたところもあって。

【高畑】複雑な機械とかもあるしね。

【ヨシムラ】万年筆とか。

【高畑】ああ、万年筆の構造の話。

【ヨシムラ】私が最初、空気穴を下側にも描いてたんですよ。

【高畑】ヨシムラさんが、万年筆の断面図を描いていて。

【ヨシムラ】文具王が「今の万年筆では下側にも空気穴があるのが一般的だけど、ウォーターマンが最初に万年筆を出した時は、まだそっち側には空気穴がないんだよね」と言われて(苦笑)。

――じゃあ、ここに載ってるのは昔の万年筆の断面図ということですか?

【ヨシムラ】ここではウォーターマンの話を載せているので。ちゃんとその昔の絵を載せています。

――細かいですね(笑)。

【高畑】絵がかわいいかどうかに関しては全然これでいいし、絵の雰囲気は全然いいんですけど、ただその原理を説明しているところで間違いがないかっていうのだけ、僕は細かく見ています。

【ヨシムラ】あと、昔のものだと文献として文章が残っていてもその写真がないものとかもあったり、あるいは載っていても、その本の中で小っちゃく白黒でしか載っていないのでどういう色をしてるとかが分からないものもあって。そこは結構、文具王に頼んで、昔のカタログの写真を送ってもらったりとか、実物の写真を送ってもらったりして描いたのもありますね。

【高畑】家に現物がある場合もあるので、「そこ細かいところはこうなってるよ」という感じで、その部分を拡大した写真を撮って送ることができるので、そこは資料とかコレクションがいっぱい家にあって良かったなって感じです。

【ヨシムラ】一応簡単な絵ではあるんですけど、構造を理解しないと描けませんから。「ここがどうなっているのか」というのを納得して、解決できていないと描けないことがあるので、自分が持ってるものは描けますけど、そうじゃないものはいろいろと資料を見せてもらったりして描いたのが、大変といえば大変ですかね。

――でも、この本に関しては、監修の高畑さんと校閲の方がものすごくしっかりチェックしたので、事実関係に関してはかなりしっかりとした本と言えるでしょうね。

【ヨシムラ】そうですね。自分一人だったら、ここまで自信を持って出せなかったと思います。ちゃんとそうやって見ていただけたので、今自信を持って出せています。

――そこはもう、「文房具の勉強をするにはこの本で間違いない」とはっきりと言えそうですね。

【ヨシムラ】結構そこもバランスが難しくって、校閲の方とか文具王から事実関係の話はバーっとくるんですけど、それをそのまま書くとなんか言い訳ばっかりになって、読み物として面白くないので(笑)、そこをどうバランスを取るかっていうのは、ちょっと苦労したところではあります。とはいえ、事実として間違ったことや嘘は書いちゃダメなので。

【高畑】僕だと、大人向けだったらいっぱい注釈を付けたりしちゃうんですけど、ヨシムラさんの文章は短くて、しかも平易な日本語で書いてあって、かつある程度言い切らなきゃいけないところもたくさんある中で、間違いはないようにしないといけないから。読むと簡単な文章になっているんだけど、書く方としてはこのちっちゃい文字数の中に何を詰めるかですごく悩まれているのはあって。泣く泣く「このエピソード切るか」みたいな話だったりとか、「この文章はちょっと回りくどいから、この話はこうしよう」みたいなのをすごく言っていましたね。

――限られたスペースで必要な情報を載せなきゃいけないってのは、すごく大変だったなと思います。そういう意味では、いい経験をされたのかなという気がします。

【ヨシムラ】本当にそうですね。

【高畑】子ども向けにちゃんと語れるというのは、結構大事かなという気がしました。

【ヨシムラ】鍛えられました。難しいことや複雑なことを難しい言葉とか複雑な言葉で語るのは簡単なんですけど、いろんな背景とか歴史とか事情があるっていうその深み、複雑さ自体が面白さの一端だと思っているので、そのエッセンスを極力残しながら、いかに子どもも違和感なく読める文章にするかっていうのは、すごく普段のライティングに関してもなんか生かされるというか、すごくいい修行になったっていう感じがします。

【高畑】僕が横から見ていてすごく思ったのは、ヨシムラさんは文字と絵の両方を自分で書くから、文字で書けなかったら絵で描くとか、絵が描けなかったら文字で書くっていうのを相互に、自分で塩梅を決められるということですね。あと、文章のトーンと絵の雰囲気がすごく同じというか、同じ人が同じように書いているから、雰囲気がすごく似た文章と絵だなという気がしました。絵だけ他の人に依頼するんじゃなくて、本人がやっているから、そこはすごく読んでいてスムーズかなという気がしました。

【ヨシムラ】そこは、編集者の方にもありがたがられるところです。「一人だけに頼めばいいというのは、めっちゃ楽ですよ」って(笑)。

【高畑】僕が前に出した『文房具語辞典』(関連記事)は、違う人に絵を描いてもらっているので、やりとりを何度もしながらやりたい方向に合わせていくという作業があったんだけど、ヨシムラさんだとその作業は基本ないので、それがないのはすごいなと(笑)。

【ヨシムラ】一人で両方やんなきゃいけないっていう大変さはあるけど、コミュニケーションによるロスみたいなのはないですね。

文具マニア以外の人にも興味を持ってもらいたい

――基本的に子どもに向けて書いていると思うんですが、もっと幅広い人たちに読んでほしいという気持ちは当然あるわけですよね。

【ヨシムラ】それもありますし、やっぱり子どもだましは良くないっていうんですかね。大人が読んで面白くないものは、子どもが読んでも面白くないと思うんですよ。そこは澤さんのお考えでもあると思うんですけど、「この程度なら子どもは満足でしょ」みたいな感じだと、それが伝わっちゃうと思うので、自分自身が読んだとしても面白いよなって思うような内容じゃないと。むしろ、ごまかしが効かないっていうか、お子さんも楽しくないと思うので、そこはもちろん心がけました。

あと、子ども向けと言いつつ、私たちは普段、文房具マニアみたいな人ばかり相手にしてますけど、「自分はすごい文房具オタクだけど、家族はあんまり興味ないんだよね」というところにちょっと興味持ってもらうきっかけになるようなものとしても、すごくいいんじゃないかなと思います。実際に売れ行きの話を聞いても、意外と「大人が買っているんじゃないの?」みたいな場所でも売れているって聞いてるので。

【高畑】東京駅で売れているっていう話が…。

【澤】東京駅の駅ナカの書店で、何故か一番売れているっていう話です。

【ヨシムラ】しかも、子ども向けの本だと、土日が売れるらしいんですけど、平日も売れているらしいです。

【高畑】新幹線で読むのにちょうどいい本だなっていうのは、確かにある気がする。

――子どものお土産に買うというのもあるんですかね?

【ヨシムラ】自分で読んでみて、面白かったらそのまま子どもにあげちゃえばいいしみたいなのもあるんでしょうね。

――読者の反響はいかがですか?

【ヨシムラ】Amazonのレビューで、「普段、本を読まない子が読んでます」というのがありました。あと、発売前にゲラを読むサイトみたいなのがありましたよね?

【澤】発売前にゲラを公開している「NetGalley」というサイトで、レビューは結構集まりました。

――どんなものがありますか?

【ヨシムラ】「文房具って嫌いな人がいるんでしょうか?」みたいな感じの感想がありました。めっちゃ詳しいっていうわけじゃないけど、好きな人って多いんだなっていう印象ですね。「意外と知らないことが多い」みたいな意見もありましたかね。

【澤】NetGalleyは会員登録が必要なんですが、図書館関係者とか教育関係者、書店関係者の方とかが色々とレビューを書いてくださっていて。本読みの玄人の方たちが読むことが多いので、レビューを見ていて「あっちゃんと意図を読んでるな」っていう感じがしたんですよね。ただ単純に「面白い文房具を集めました」という本じゃなくて、さっき話していたような「今、私たちが当たり前に使っている文房具が、どういう経緯を持って生まれてきたのか」ということについて、「ありがたみが増すなぁ」とか、「成り立ちを学ぶきっかけになる」とか。

【ヨシムラ】「初めから上手くいっていたわけじゃないんだ」とか。

【澤】単純に「面白い」というだけではなくて、そこら辺のこともちゃんと読み取ってくださっている方が多いという気がしました。

【ヨシムラ】一つ筋を通すというか、軸を通すみたいなのを意識していたので。

【澤】それがちゃんと伝わっていて良かったです。

――結構好意的なレビューが多いということですね。この記事を読んで、興味を持ってくれる人が多いといいですね。

【ヨシムラ】そうなってほしいですね。

ものづくりに興味を持ってほしい

――この本に込めたメッセージというか、読者に伝えたかった事を教えていただきたいんですが。

【ヨシムラ】今回のこの本に限らず、普段から思っていることではあるんですが、この本の「はじめに」でも書いていることですけど、私たちの身の回りにあるものって、必ず誰かが考えて作ったものなんですよね。そこには、関わった人たちの知恵とか工夫とか苦労とか、いろんなストーリーがあるなと思っていて、その一端に想像を巡らしてもらえると嬉しいなと思います。

この本に載ってるものもそうですが、ここに書ききれなかったような話とかもいっぱいあります。あと、ここには載っていない、文房具以外の世の中にあるものとかも同じようにストーリーがあるので、これが一つの入り口とかきっかけとなって、そういうものに興味を持ったりとか、想像を巡らしたりしてもらえるようになるといいなと思っています。

――文房具に限らず、ものづくり全般的に、もっと子どもたちに興味を持ってほしいということですね。

【ヨシムラ】そうですね。そういうところから、「じゃあ、次は自分に何ができるんだろう」という感じで将来につながっていけたらよりいいですけどね。まあ、「自分にも何かできるんじゃないか」と思ってくれたらいいなと。

今あるものも、いきなりその状態でできたわけじゃないですよね。文具王とかもよく言っていますけど、万年筆もウォーターマンがいきなり発明したわけじゃなくて、その前に前身みたいなものを作っていた人がいて、その前には付けペンがあって、羽根ペンがあってみたいな。いきなりすごいものが突然変異で現れるっていう事も、まあなくはないんですけど、基本ほとんどなくて。目の前にあるものを見ながら、みんながちょっとずつちょっとずつ、ほんのちょっとずつ良くしていったことの積み重ねが今なので。そのつながりの中で今生きてる自分には、どんなちょっとしたプラスができるのかというように、前向きに捉えてもらえると嬉しいです。

――すごく良いメッセージが込められてるんだなっていうのを改めて思いました。この本読んで、ものづくりにも関心持ってもらって、立派な大人になってもらえるといいですね。

【ヨシムラ】まあ、日々の生活の中で、自分が便利になるように工夫してみるとかでもいいんですよ。ノートをちょっと改造してみるとか、ペン立てをちょっと改造してみるとかね、そういう方向でもいいんですけど。自分の手で何か変化を加えられるという事に気付いてほしいなという感じなんです。

――高畑さんは何かありますか?

【高畑】ヨシムラさんが伝えたい事が非常に明瞭だったので。ただ、子どもが最初に読むものなので、そこは誠意を持って、なるべく正しい知識とか、誤解のない知識を持ってもらいたいなと僕は思っています。なので、1 行書くためにいろんな本を読んで調べるみたいなことをさせてもらいました。子ども向けの本は、その時その時で多少紆余曲折がある。例えば、恐竜なんか学説が変わっちゃったりとかすることもあるけど、その時に本気で学者が考えたことが、ちゃんと反映されているっていうのは結構重要だと思います。そういう意味では、子どもに知識を与えるというのは責任もあるので、僕としては面白おかしいだけではないところに行ければなと思いました。

【ヨシムラ】積み木を積むときに、最初が歪んでるとずっと歪んじゃうからっていう感じですよね。

【高畑】そうですね。子供の時にあんまり間違った知識にならないようにというのはあるので。僕も完璧かっていうと、これから調べていったら何か見つかるかもしれないんだけど、今考えうる限りで「こうじゃないの」っていうことに関しては、なるべくしっかり調べたつもりです。

――最後に、何かメッセージがあれば。

【ヨシムラ】子ども向けの本にしていますが、参考文献がすごく充実していて。事典という性質上、1個1個のものに関してはどうしても使える紙面が限られているので、本当はもっともっと面白い話があるんだけど、本当にその一部しか入れられていないというのがあるんです。だから、ちょっと興味のあることがあったら、参考文献を載せているので、新刊書店にはないかもしれないけど、図書館に行けばあると思うので、どんどん自分で調べてもらったりすると面白いかなと思っています。

――夏休みの自由研究で取り上げてもいいぐらいですよね。

【ヨシムラ】自由研究めっちゃいいと思います。鉛筆の話だけで作れると思いますよ。

【高畑】ここにあるエピソードの周りを深掘りすると、十分自由研究ネタにはなると思います。

【ヨシムラ】興味持った方向に、いくらでも拡げようがあると思うので。それこそ、シャープペンの話から「JISって何だ?」みたいな方向に拡げてもいいし、「何でJISが必要なんだ?」みたいなことに拡げてもいいし。ぜひ、自分の興味を育ててほしいなと思います。

――この記事が載る頃は、ちょうど夏休み時期になると思うので。

【ヨシムラ】自由研究にぜひ(笑)。

【高畑】文とびを見ている方は、お父さん、お母さんだったりする方が多いと思うので、自由研究とか自主学習のネタ本として見てもらってもいいし。大人の方自身にも読んでいただいて、周りの子どもとか、いろんな人に読ませてあげることで、文房具好きが増えてくれると嬉しいなと思います。

――ヨシムラさんも同じ気持ちですか?

【ヨシムラ】営業マンの方なんかは、雑談のネタに使えると思うので、アイスブレイクとしてご活用いただければ。

――大人の方にもどうぞということですね。今日はありがとうございました。

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