- 文房具ラボ
- 【特別寄稿】音声で届ける文房具の魅力
【特別寄稿】音声で届ける文房具の魅力
2020年10月、30分間文房具の話題のみをお送りするラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」がスタートしました。ラジオでは群馬県の一部でしか聴くことが出来ない放送ですが、電波が届かない場合、インターネット環境に繋がるパソコンやスマートフォンを使用することで聴くことが出来ます。リスナーは北海道から沖縄まで日本全国に広がっていることがわかっています。
商品を見せることが出来ない「音声メディア」である「ラジオ」で文房具を語るに至った経緯や楽しさ・魅力・難しさ、そして私の実体験を元にしたノウハウの一部をご紹介いたします。
文房具の話しかしないラジオ番組の誕生
ラジオパーソナリティのふじいなおみです。30歳目前に昔から憧れていたラジオの世界に飛び込み、気付けば10年以上が経ちました。FM局付属のラジオDJ養成講座受講をきっかけに録音番組担当、生放送番組担当を経て「トーク」、「収録」、「編集」など番組を1人で作り上げるスキルを身につけました。現在は30分間文房具の話しかしないラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」(以降「ブンボーグ大作戦!」)のパーソナリティを務めるだけでなく、制作工程も担当しています。
番組の立ち上げは2020年6月。「文房具にテーマを絞ったラジオ番組を作りたい」とインターネット上に書き込んだことから始まります。当時の私は万年筆インクをたくさん集めてはいたものの、文房具全般に関しては「興味はある、でも語ることはできない」という状態でした。そこへ知人を介して出会ったのが、文房具に関するトークライブなどを通じて文房具の啓蒙活動を続けている「ブング・ジャム」のメンバーでもある、現在の番組パートナー他故壁氏さんでした。
ふじいなおみさんと他故壁氏さん
「ラジオ番組制作スキル」を持つ私と「文房具に関する知識」を持つ他故さんが意気投合。急ピッチで準備を進め、同年10月より群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE(沼田エフエム放送)」にて放送を開始しました。
まず、番組の目指す姿として次の2つを掲げました。①「文房具メーカー」、「文具店」、「消費者」の三者が嬉しくなることをする②オンライン上に「文房具ファンが集まり楽しめる空間」を創造する(最終目標は実際に集まって楽しめる空間を作ることではあります)。時は一度目の緊急事態宣言が解除されてすぐ。楽しみにしていたいくつものイベントが中止になり、人と会うことはおろか外出をすることすら難しくなっていました。他故さんと訪れた老舗の文具店では感染症の影響でいくつもの文具店が廃業していることを耳にし、胸が苦しくなったことも理由の一つです。
「ブンボーグ大作戦!」の番組内では、①文房具メーカーの方や文房具ファンをゲストに迎えるインタビューコーナー②新製品や使用してよかった文房具の紹介コーナー③文房具の話題のみを受け付けるお便りコーナー。という文房具に関連する話題のみを発信しています。なお、企画・制作からゲスト交渉、リスナーへのプレゼント送付まですべての作業を私と他故さんの2人だけで手分けして運営しています。
言葉だけで文房具を伝える
ラジオでは絵を見せる事はできません。文房具を紹介するなら動画や紙媒体が適していると今でも思います。でも、やり方によっては「ラジオで」、「言葉だけで」文房具の魅力を伝えることができるとわかってきました。
キーワードは「リスナーに絵を伝える」です。これは恩師である先輩DJがいつも口にしていた言葉です。
私がマイクの前で意識しているのは「実家の母親に電話をかけて、伝わるような話し方をする」ということです。具体的には次の4つのことをしています。
①商品の大きさ・形・色などを身近にあるものや想像しやすいものに置き換えて紹介すること。「成人男性の握り拳大」、「真横から見ると正方形の上に三角形がのった『きのこ』のような形」など。
②専門用語をなるべく使わない・使う場合は補足すること。「万年筆のニブ。万年筆の先端の部分の名前ですが……」というようにです。私はラジオの世界に入る前、システムエンジニアとして働いていました。専門用語の多い世界ですので、それを一般のユーザーへ伝えるためにはとにかく言い換える・噛み砕くことが必要でした。今でも「これはわかりづらいかな?」と感じると、自然に言い換え・噛み砕きを行うことができます。
③耳で聞いてすぐに文字が浮かばないものは、どう書くのかまたは意味を補足すること。「小巻のテープ、小さく巻くと書いて小巻、直径が小さいタイプのテープですね」、「子どもの創造力を養う。物を造りだす『創造』の力です」。日本語には同音異義語が多くあります。漢字を見れば一発でわかっても音だけではわからない言葉は意外と多いのです。
④コーナー最後に紹介した商品の情報を復唱すること。リスナーは必ずしも最初から最後まで聴いているとは限りません。途中から聴き始めてその商品が気になった人に疑問を持たせたままにしないようにしたいという気持ちを込めています。
そもそもラジオは、家事や育児、仕事・勉強など何かをしながら聞き流す・聞き流せるメディア。でも、聞き流しながらも気になるキーワードは耳に残るものです。そのため「ブンボーグ大作戦!」ではリスナーが番組で紹介した内容を調べられるようにちょっとしたお手伝いもしています。番組のツイッターとインスタグラムのアカウント(どちらも「@sakusen765」)では放送とほぼ同時に「メーカー名」、「商品名」、手元にある場合は「撮影した商品写真」、「商品に関する公式ウェブページのアドレス」を情報として発信する試みをしています。
企画段階では正直不安でした。そんな時、文房具メーカーに勤める知人からの言葉にハッとさせられました。「ラジオショッピングが成立するのだから、文房具の話をするラジオ番組もできない事はないよ」。実際、ラジオショッピングは私が生まれた約40年前にはすでにあり、現在でも放送されています。私もよくラジオショッピングを耳にしますが、人間の想像力はとてもたくましくて、食べ物ならば美味しさ、家電製品ならば便利さが痛いほど伝わってきます。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り見ないとわからない事は確実にあります。ですが、特に自分が使用して感じたこと・便利だと思った気持ちは間違いなく言葉で伝えることができます。あとはその気持ちをどれだけ声に乗せて発信できるかではないでしょうか。
ブング・ジャムがゲスト出演したときの収録風景(2020年12月撮影)
音声メディアで情報を発信するということ
巣ごもりの日々が続く中、文具店や文房具メーカーが動画配信を行っているのを多く目にします。中には何百人もの視聴者が集まる生配信、何十万回もみられている配信動画も存在します。そんな中、私たちは「ラジオ」を選びました。
ラジオはパーソナリティとリスナーの距離が近く、マスメディアでありながら一人一人に語りかけているメディアです。その裏付けの一つとして、ラジオ番組で話し手がリスナーに語りかけるときには「みなさん(不特定多数の)」ではなく「あなた(オンリーワンの)」という言葉を使うのです。距離の近さからリスナーはパーソナリティへ信頼感を持つことも多いと一般的に言われており、私たちの番組にも「紹介されていた商品を見つけて買ってきました!」という嬉しい声が届くことがあります。
逆にラジオ番組ならではの難しさもあります。
①即時性が低いこと。収録・編集・局への音源搬入・局担当者による内容確認という工程が必要なため、どうしても情報にタイムラグが発生します。その点では生放送・生配信には勝てません。
②ラジオ局で放送する以上、放送法などの法律を守らねばならないこと。でも、だからこそ情報を信頼していただけると考えています。
③放送される時間が決まっていること。週に再放送を含めて2回、1回30分と決まっています。ただ、毎週時間が決まっているからパーソナリティとリスナーもしくはリスナー同士が同じ時間を共有しやすくなるのではないでしょうか。
「ブンボーグ大作戦!」では日曜日夜7時30分から30分間の番組放送中、ツイッター上でハッシュタグ「#ラジブン」をつけてツイートを行う「実況大会」を開催しています。メッセージでは得られない、ツイッターだからこそ教えてもらえる感想もたくさん伝わってきます。
コロナ禍も番組に影響を与えました。いつも収録を行っている施設が2021年1月に発出された緊急事態宣言の影響で3カ月ほど閉館になり、その間は自宅からのリモート収録を余儀なくされました。しかし、そのときに得たノウハウを以って、遠方に住む方をゲストとして番組にお招きすることができるようになりました。
そして、私たちもスマートフォンアプリを利用した配信やウェブページ上での番組コーナー再配信といった挑戦も行っています。
◇ ◇ ◇
さて、ラジオとネット配信での一番大きな違いは何でしょうか? 答えはたくさんありますが、私が感じる一番は「音楽の使用可否」だと思っています。ラジオ番組は局単位で音楽著作権料他を支払っているため、番組内で多くの有名楽曲を使用することが出来ます。一方、多くのネット配信では使用することができません。現在では商用フリーの無料音楽ダウンロードサイトが多く公開されていますので、私も用途に合わせ、利用規約を確認した上で使用することがあります。
私たちは番組制作を始める上でいくつかの機材・パソコン用ソフトをそろえました。録音装置を兼ねたミキサー(収録時に音量調整を行います)、マイクが1人1本割り当たるようにし、付随するアクセサリー類もそろえました。音声編集には「アドビオーディション(Adobe Audition)」という音声編集ソフトを使用しています。ですが、例えばお店や会社でネット配信・ポッドキャストを始めようとしたときに前述のすべてが必要なわけではありません。パソコン用の音声編集ソフトに関しては無料のものがいくつもあります。録音から編集、公開までができるスマートフォン用の音声配信アプリもあります。よく見かけるインスタグラムの動画配信も多くの方がスマートフォンから行っているのではないでしょうか?
「ブンボーグ大作戦!」は日々試行錯誤をしながら前進しています。常に「気になったら試してみよう」、「失敗したら次に生かしていけばいい」と言い聞かせています。この10月には番組1周年を記念していくつかのプロジェクトを実施します。すべては「文房具メーカー」、「文具店」、「消費者」の三者が嬉しくなることをする、オンライン上に「文房具ファン」が集まり楽しめる空間を創造するという目標のためです。
日曜の夜、私たちの声があなたの元へ届くことを楽しみにしています。
プロフィール
ふじいなおみ
1979年北海道札幌市生まれ。ラジオパーソナリティ/文房具プレゼンター
FM OZEで放送中のラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」のパーソナリティ及び制作・技術を担当。
他故壁氏さんとユニット「たこなお文具堂」として、文房具の楽しさを伝える活動を開始。
万年筆インク(中でもご当地インク)コレクターであり、2015年生まれの娘とともに学童文具の観察を行う。
現在「文具のとびら」にて、「他故となおみのブンボーグ大作戦!Bootleg」を連載中。
【他故となおみのブンボーグ大作戦!】
群馬県沼田市のコミュニティFM「FM OZE」にて放送中の30分間文房具の話題だけをお送りするラジオ番組。
パーソナリティーは他故壁氏&ふじいなおみ。
放送時間は毎週日曜日19:30~20:00/毎週水曜日 14:00~14:30(再放送)
ラジオ(群馬県沼田市周辺のみ)の他、パソコンやスマートフォンでも局のホームページに設置されたプレイヤーやラジオ聴取用ソフト・アプリで聴くことができる。
詳しい聴き方は番組Webページへ
https://daisakusen.net/howto/
【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう