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世界唯一のプロペンスピナー Kayさんが語るペン回しの奥深い世界
「うわっ、まるで生き物のようだ!」。
まるで命を吹き込まれたかのように、彼の手のまわりをコマのようにグルグルと回っていたボールペンは、やがて手を離れ体全体を跳ね回るように躍動している。
ボールペンを自在に操る彼の名はKay。日本、いや世界で唯一だというプロのペンスピナー(ペン回しを嗜む人)だ。
学生の頃、誰もが一度はチャレンジしたであろうペン回し。それを華麗なテクニックで、見事なエンターテインメントへと昇華させたのがKayさんだ。学生時代にペン回しに夢中になり、やがて「ペン回しのイメージアップをしたい」とプロになることを決意したという。今は、プロのペン回しパフォーマーとして各地でパフォーマンスを披露しながら、ペン回しの普及に努めている。
今回は、プロペンスピナーになるまでの道のりや、想像以上に奥深いペン回しの世界についてKayさんに伺った。
「プロペンスピナー Kay」が誕生するまで
Kayさんがペン回しと“出会った”のは、中学3年生の冬のこと。
「友人が教室でたまたまやっていたのを見て、自分もやりたいなと思って挑戦したのですが、その時は難しくてできませんでした。帰宅してネットで調べたら、いろんな技がいっぱい出てきてビックリしましたが、その日のうちにやり方をマスターして、その後いろんな技にも挑戦するようになりました」。
その当時、ペン回しの動画がネットに多く出回っていたが、「それがめちゃくちゃかっこよくて、衝撃を受けました。“自分もやりたい”と強く思いました」という。
kayさんの手から繰り出される華麗なテクニック!
高校でも技を磨いて精進し、それに加えジャグリングも始め、大学に入学してジャグリングのサークルも作ったという。そして、大学1年生のときにはペン回しの全国大会で準優勝している。
プロになったのは、まだ大学在学中の21歳のときだが、プロになりたいという気持ちは高校生の頃に芽生えたようだ。
そのきっかけとなったのは、ペン回しの技を学校で友人たちに披露していたときのこと。「そのときに、冷ややかな視線を感じることがありました」とKayさんは当時のことを振り返ってそう話す。確かに、ペン回しには“勉強をサボってやるもの”といったネガティブなイメージがつきまとっている。
「このネガティブなイメージをどうにか変えられないか、と考えるようになりました。当時はペン回しでメディアに出ている人もおらず、イメージアップに繋げられる人もいませんでした。常々、“誰かがやらねば”と思っていたのですが、大会で準優勝したことで“自分がやらねば”という気持ちが強くなりました」。
その頃、パフォーマーを募集しているある事務所の存在を知り、「次の大会で良い結果が出たら応募しよう」と決意したそうだ。そして、次回も準優勝という結果になり、その事務所に応募して所属が決定。そこからプロのペン回しパフォーマーとしての活動がスタートする。その後、別のパフォーマー集団の下でもパフォーマンスを磨き、大学を1年間休学してパフォーマンスの修行に励んだそうだ。
大学卒業後に一度は就職したが、半年で会社を辞めて、その後はペン回し一筋の道に進み今日に至る。2014年には世界大会で団体戦チャンピオンに輝くなど、ペン回しパフォーマーとしての地位を不動のものにしていく。2016年には東京都のヘブンアーティスト(東京都公認のパフォーマンスライセンスおよびパフォーマンスの資格)の審査にも通り、今は都内を中心に精力的にパフォーマンスを披露している。
ペン回しに最適なペンとは?
Kayさんに、愛用するペン回し用のペンを教えてもらった。
「2つあるのですが」と前に差し出されたペンは、一つはパイロットの「ドクターグリップ」で、Kayさんが愛用しているのは今は発売されていない旧モデルだ。握りやすいソフトなラバーグリップが付いたおなじみの太軸のペンだが、太くて安定感があるので回しやすいようだ。また、旧モデルの場合は、ペンを回すときに障害となるクリップがないのもポイント。
そしてもう一つは、ニトムズが展開する文具ブランド「スタロジー」の低粘度油性ボールペンで、このペンが最も回しやすいという。「ドクターグリップ」よりもスリムで、軸のまわりにラバーが張ってある至ってシンプルなかたちのボールペンだ。そのシンプルなかたちがペン回しに最適なようで、ペン軸に凹凸がなく、しかもラバーがあるので、回していても滑らない。さらに、口金もノック部もどちらにもそれなりに重さがあり、重量がちょうど真ん中になるので、バランスが絶妙なのだという。そして、クリップは取り外し可能になっている。
ペン回しに最適な「スタロジー」のボールペン(手前)と「ドクターグリップ」(旧モデル)
また、ペン回し大国である中国の玩具メーカーで作られた専用ペンも。中には、ボールペンとしてのキモの部分、つまり筆記機能は省かれたものまである。日本でも、10年ほど前には玩具メーカーから専用ペンが発売されたことはあったが、今は作られていないそうだ。
このほか、ボールペンをつなぎ合わせたり、クリップが取り外せない場合は削り取ってしまうなど、ペン回しに最適になるように改造したものもいくつかあった。「改造するのは楽しいです」とKayさんは言う。
クリップをカットして回しやすく改造したペン
改造はどの程度まで許されるのかを伺ったところ、使用するペンの基準などに関して、国際的なルールなどは決まっていないそうだ。つまり、どんなに改造しても構わないと解釈してもいいのだろうか。ただし、日本ではペンの長さだけは規定があるそうだが、それは「全長が25㎝以内のペン」というもの。25㎝も長さがある市販のペンなんて滅多にお目にかかれないだろう。
ペンケースの中はペン回し用のペンでぎっしり!
ペン回しの華麗な技を拝見!
最後にKayさんにペン回しのパフォーマンスを披露してもらった。言葉ではとてもじゃないが表現しきれないので、動画をご覧いただきたい。
*きだてたくさん撮影
冒頭で述べたように、まるで命を吹き込まれたかのように動き回るペンの姿にただただ驚嘆するのみである。途中、ペンがふっと消えたのでビックリしたが、そうした手品もはさみながらパフォーマンスを披露しているそうだ。
Kayさんによると、ペン回しの技は現在500種類以上。どうしたら技をマスターできるのかと伺ったら、「ただただ、ひたすら練習するのみです」と言われた。
Kayさんは現在、主にショッピングセンターや大きな公園などで実演している。ショーは大体30分ほどで、かつてはペン回しだけでなくジャグリングも組み合わせた構成になっていたが、「最近、内容を見直して、ペン回し1本の構成にしました。ペン回しだけでいいショーを作りたいです」という。
また、パフォーマンスと並行して、ワークショップも行っている。ワークショップでは、親指のまわりをくるんと回る“ノーマル”といわれる基本的な技を教えているが、「指のまわりを回る感覚が気持ちいいので、その感覚を多くの人に味わってほしいんですよ」とKayさん。
ペン回し初心者に教えるために最近考案したのが、シリコン製のチューブを使った練習方法。直径30㎝弱くらいのゴムホース状のチューブを、指ではなく手首のまわりをクルッと一回転させるのである。これで感覚をつかんでからペンを回すと上達も早いようだ。
Kayさんが考案したゴムチューブを使った練習方法
「ペン回しの認知度を上げるためにも、ワークショップもどんどんやっていきたいです。いずれは、ペンスピナーのみんなが“趣味はペン回しです”と胸を張って言えるようにしたいですね」。
日本では、10年ほど前に「日本ペン回し協会」が発足し活動していたが、2012年に解散してしまったとのこと。そこで、2017年に再び「日本ペン回し連盟」として新組織が発足。Kayさんもペン回しの普及のために精力的に活動している。
ちなみに海外はというと、「日本ペン回し連盟」発足と時を同じくして「World Pen Spinning Alliance (略称:WPSA、世界ペン回し連合)」が中国のペンスピナーを中心に発足したという。ペン回しの認知度を向上させるための取り組みは、ようやくスタートしたばかりのところだ。
色々とお話を伺って、ペン回しに対する認識が大分改まったような気がする。しかし、ペン回しの地位向上のためのKayさんの挑戦は、まだまだ始まったばかり。これからの活躍を大いに期待したい。文とび読者のみなさんも、街角でKayさんのパフォーマンスを見かける機会があったら、ぜひ足を止めてしっかりとご覧いただければと思う。
プロフィール
Performer Kay
手元だけでなく体全体を使ったり、指先の動きと連動させたりと、その世界でも類を見ないスタイルを持ち、ペン回しをショーとして確立した第一人者であり、世界唯一のペン回しパフォーマー。また、クリスタルや8の字型のリングをまるで空中に浮遊しているかのように指先で操る技、コンタクトジャグリングにおいても高い実力を誇る。さらに指先を使った細やかな技術を数多く習得している指先のエキスパートである。アートコアと呼ばれる曲に合わせて上品かつ勢いのある世界を作り出す。
2010・2011年ペン回し全国大会準優勝、2014年ペン回し世界大会団体戦優勝、2014・2015年ペン回しバトルイベント優勝。YouTube再生回数200万再生を突破。メディアへの出演も多数。
【公式サイト】
http://penspinning.jp/
また、Kayさんの詳細なプロフィール、技や歴史などペン回しに関する様々な情報は、kayさんが運営するサイト「ペン回し教室オンライン」をご覧下さい。
http://waza.penspinning.jp/
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