【連載】パイロット指輪物語/第9話「合格なるか?品質を確かめる試験の数々」
文・イラスト/ヨシムラマリ
※この記事は、横浜YAMATOのウェブサイトに掲載されたものを再掲載しました。
第9話「合格なるか?品質を確かめる試験の数々」
試行錯誤を繰り返すうちにわかってきたのが、高温処理と低温処理を繰り返す「温度」が重要なポイントだということ。ある温度からの低温処理で、微細粒子ができて結晶格子を歪ませて硬くなる「析出硬化」を適切なタイミングで実現する法則をついに発見したのだ。
硬度のコントロールはOK。次は脆さも含めた強度の確認だ。以前にも書いたが、「硬いと脆い」が一般的。結婚指輪にふさわしい品質かどうかを、さまざまな試験によって確かめなくてはならない。
最初は変形に対する強度をみる試験。機械で荷重をかけていき、何キロで変形するかを確認する。結果、見事に合格。人が試しにぶら下がっても、ビクともしないほどだ。
しかし静止状態の荷重で変形しなくても、瞬間的な衝撃では割れてしまう可能性もある。そこで次は、落下試験。指輪を持って3mの高さまで階段を登り、コンクリートの上に落とす。これを100回繰り返すのだが、階段を上り下りするのは人間である。地味でつらい仕事だ。担当者は両脚が筋肉痛になったが、指輪は割れなかった。落下試験も合格だ。
変形や割れは問題なし。だが宝飾品は輝きも重要。そこで最後は、摩擦によるキズのつきにくさをみる試験である。真鍮製のワイヤーブラシで表面を何度も擦り、状態を確認する。こちらも合格!いよいよ、指輪作りの最終工程、仕上げ加工の出番だ。
プロフィール
ヨシムラマリ
神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がける。
著書『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)
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