【連載】文房具百年 #69「単語カードと暗記器・記憶器」
忘れていた記憶用文具
古い文房具を集め始めた初期に興味を持っており、その後忘れてしまっていたものがある。興味を持つと集中して集めるので、比較的短期間にある程度集まってしまい、その後新顔が見つからないと、次第に注目度が下がり、休眠状態に陥ったりする。
単語を覚えるための「単語カード」や「暗記器・記憶器」は、まさにそんな感じで何年も私の中で休眠していた。だが、先日一つの商品を見つけたことで、休眠から目を覚ましたので今回はそんな単語カードと暗記器・記憶器について紹介しよう。
カード式英語暗記器 エヂソンネモニック
先日、通販サイトで興味深いものを見つけた。「カード式英語暗記器 エヂソンネモニック」だ(名称が長いので以降は「ネモニック暗記器」とする)。私の古い文房具への興味は、古い時代のデザインや見た目が好き、というところから始まっているが、こういった癖のある見た目や商品名も大歓迎である。
*エヂソンネモニックのパッケージ。
「試験に必ず合格させる」という大言壮語も、現代では使えない表現である分振り切っている感が面白い。「エヂソン」を出してきているが、おそらく具体的な関連はなく、イメージ的な利用だろう。パッケージのイラストの人物もエジソンではない。ちなみに「ネモニック(mnemonic)」は英語で「記憶術」の意味だ。
このインパクトのあるパッケージだけでもワクワクするが、中にはネモニック暗記器本体の他に予備のカードや説明書も残っている完品であるのがうれしい。以前より使用済みのカードだけ持っていたが、本体がなく残念な思いをしていた。
*エジソンネモニックの箱を開けたところ。黄色い箱に本体が入っている。イラストや色合いもかなりユニーク。
さて、そもそも「暗記器」とは何か。英単語の英語表記とその意味といった、何か対になっているものを覚えるために使う道具だ。暗記したいことを書いた用紙やカードの片方を見えないようにして、その後簡単に答え合わせができるような形状や仕組みの道具である。ネモニック暗記器については、中にセットしたカードの右半分と左半分に、別々に動くシャッターのようなものが付いており、それを少しずつずらして確認する仕組みになっている。
*ネモニック暗記器の本体。シャッター部分はかなり薄く、劣化も進んでいるためうまく動かない。
*本体の裏側。
素材はセルロイドで、個人的にセルロイドが好きということもあり、この頼りなくもおしゃれな質感にグッと惹かれるのである。
暗記器は、外国語の単語を覚えるために使われていることが殆どだが、利用方法は多種多様で、例えばこのネモニック記憶器の特許申請の図では、百人一首の上の句と下の句が使われている。
*ネモニック暗記器の特許申請書画像。
暗記器・記憶器の遷移
ネモニック暗記器のような「暗記・記憶するための道具」は実はいろいろな種類があり、時代も大正時代から確認できている。「暗記器の歴史」というほどの内容はないが、調べて見つけた主な「暗記器・記憶器」を紹介しよう。なお、名称は定まっておらずメーカー毎に「暗記器」「記憶器」「暗誦器」といった名前が付けられている。
■英語通信学校 暗記器
暗記器の類で見つけた中で、最も古いものは、大正5年の「英語通信学校 暗記器」だ。これは、英語通信学校へ入学するともらえる特典だったようだ。資料を見ていると、大正5年からこの暗記器をプレゼントするという広告が多数掲載されており、昭和に中学〇年生等の教育雑誌の定期購読申込みに万年筆などのおまけがつけられていたが、教育+おまけの勧誘は、大正時代からあったのだ。
英語通信学校については詳細が不明だが、場所は「本郷大学正門前」とあるので東大の赤門の近くにあった語学の学校であろう。
*英語通信学校の広告。出典:『実業の世界』13(9),実業之世界社,1916-05-01. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/10292942 (参照 2025-09-23)
この「英語通信学校 暗記器」を偶然持っていた。ブリキのケースで、左右の窓が上下に開閉するシンプルな形だ。左のレバーを動かすと、窓の目隠しが左右入れ違いで上下する。右のつまみを回すと、中に巻き込んである紙が回転して、次の単語が出てくる仕組みだ。余談だが、この英語通信学校の暗記器はコレクションの中に2つあった。どういうモノだかよくわからずに入手していて2つあったのだから、高い出現率である。おそらく当時は相当数配布された人気アイテムであったのだろう。




■カード式英語暗記器 エヂソンネモニック
昭和初期になるとネモニック暗記器が登場する。少年倶楽部などに広告が掲載されるようになり、それとともに「英語通信学校 暗記器」は徐々に存在感を失っていったようだ。
ネモニック暗記器の特許は大正11年に登録されているので、そこから大々的に売り出すまで数年のブランクがある。なお、ネモニック暗記器のメーカーは「ネモニック社」で日本の会社だが、創業者であり「ネモニック暗記器」の発明者である志賀政男は、もともとタイプライターの修理をしており、そこから上海でタイピストの学校を始め、語学も教えていたとのことなので、このネモニック暗記器が必要とされる環境であったといえよう。
その後昭和10年代まではネモニックの広告を確認できるが、次第に消えていったようだ。

*ネモニック暗記器の予備カード。このパッケージの写真はエジソンだろうか。
■その他の暗記器・記憶器・暗誦器
その後、昭和33年に特徴的な暗記器「オートメモ」が登場する。オートメモの前にそれ以外の暗記器、記憶器を紹介しよう。その他としては大きく分けると2タイプの暗記器が存在していた。一つは「英語通信学校 暗記器」や「ネモニック暗記器」のように、どこかしら動く作りになっており、それによって暗記対象の単語などを隠したりするタイプのもの。もう一つは、カードケースタイプで、それ自体は特にどこも動かない。どちらも暗記器、記憶器という名称で、同じ「器」という字を使っているが、動く器械とカードを入れる器といった違いを感じる。
ここでは、カードケースではないほうの暗記器、記憶器で、私が所有しているものをいくつか紹介しよう。

*左:「メモテスト」東光社、昭和30年頃。右:不明。

*「ワードホルダー」。メーカーは不明だが「ニコライ学園教材部」の表記有。戦前。
*左:「ワードフレンド」、花菱。昭和30年頃?。右:「ワードケース」、サンスター文具。昭和40年代頃?
■旺文社「オートメモ」
この「暗記器・記憶器」の類で、最も面白いのは、旺文社の「オートメモ」だと思う。片手で握るような動きをするだけで、中にセットしたカードが切り替わっていく。カードの紙の厚みを利用している仕組みなので、カードがスライドせず詰まってしまうなどうまく動かないこともあるが、動きが面白く初めて見たときには驚いた。
中のカードは下の部分に送られるが、順次上に戻る仕組みの「回転式」だ。暗記をするための道具としては複雑なつくりの方で、大変よくできている。




*上部を押下することで、中のカードが下に移動し、回答部分が表示されるようになる。
*本体の後ろの丸い穴は、カードが詰まった時の調整用。
https://youtube.com/shorts/z-cWsFPWgGA
*オートメモ用のカードは、印字されたカードと自分で書き込める白カードがある。
オートメモは1958年に「書籍型単語記憶器」という名称で実用新案登録されている。同時期に旺文社の雑誌「中学時代」で広告が始まり、1980年頃までオートメモの広告を確認することができるので、この手の道具としては、かなりのロングセラーだったのではないだろうか。
消えていった理由はわからないが、結局リングのついたただのカードが使いやすいということに落ち着いたのではないかと思われる。オートメモだけでなく、「暗記器・記憶器・暗誦器」といったたぐいの道具はこのころ、あるいはもっと前に姿を消していると思われる。
なお、旺文社は、オートメモの前に、他メーカーも出していたような中の紙を手動で回して切り替えるタイプも作っていた。「オートメモライザー」という商品だ。これ自体は特別な特徴はないが、オートメモの前身の記録として紹介しておこう。
*「オートメモライザー」
箱型記憶器や単語カードは次回で
その辺はまとめて次回に紹介したい。

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