【連載】文房具百年 #68「2015年『大正・昭和アンティーク文具展』ディスプレイ用動画」
片付け?発掘?
現在諸事情により、コレクションの大整理と片付けをしている。自宅の文房具保管エリアの棚にぎっしり詰まったものと、そこからあふれ出したものを確認したり見直したりしているわけだが、あふれ出したものの量が想定より多いことに辟易している。怪我の功名というか、不幸中の幸いというか、すっかり忘れていたものが出てきたり、以前探したときには全く見つからなかった物との再会を果たせると、なかなか嬉しい。(だが、多分また忘れるし、次に探すときにはまた見つからない。)
パソコンも新しいのを購入すると、そちらの起動で力尽きて、古い方を処分せずに放置したりしていたので、この機会にデータの確認と処分を進めている。
そんな状況のため、この連載用に何かを引っ張り出してきて写真を撮るのがちょっと大変なのだが、古いパソコンから懐かしいものが見つかった。今回はその紹介でお茶を濁させてもらう。
2015年八重洲の文具店モリイチ京橋店にてコレクションを展示
今から遡ること10年前、東京・八重洲の文房具店「モリイチ」にて、コレクションの展示をさせていただいたことがある。内容は、当時の自分のコレクションの中から大正・昭和の文房具・事務用品を幅広く紹介した。
本格的に古い文房具を集めだしたのが2010年なので、コレクション歴5年のタイミングだ。コレクションの量も幅も今よりだいぶ劣るが、今見ても「大好き」なものがたくさんある。そしてその展示の際に、会場に大きなディスプレイがあるので、そこで動画を流したらいいのではないかという話になり、頑張って作ったものがある。作ったこと自体すっかり忘れていたのが、今回のコレクション整理でパソコンのフォルダにあったのを発見した。
動画と言っても当時ちゃんと撮影や編集をする技術はなく(ちなみに今もない)、せっせと写真を撮ってパワーポイントに張り付けて紙芝居状のものを作り、アニメーション機能で動かしたものを動画にしたものだ。
画質もいま一つで、いかにも素人っぽいつくりだが、ボーっと眺める対象としてはなかなか楽しい。それにおそらく当時あまり見てもらえてなかったと思うので、このまま埋もれてしまうより、一度紹介させていただくことにした。
ディスプレイ用動画より
あとは動画を見ていただければ私としては満足なのだが、見るだけではよくわからないものも混ざっているのでいくつか簡単に補足をつけさせていただく。
まず、動画はこちら。
まず、全体の構成は以下の通り。各タイトル毎に少ないと1ページ程度だが、種類としては割と広くカバーしている。
「インク瓶」
「ブロッター(インク吸取り器)」
「吸取り紙」
「ペン先」
「墨汁」
「スタンプ台・スタンプインキ」
「朱肉・黒肉」
「クレヨン」
「絵具」
「キャップ」
「鉛筆削り」
「鉛筆・色鉛筆」
「消しゴム」
「筆箱」
「単語カード・暗誦器(単語ケース)」
「コンパス」
「組み合わせ文具(文房具セット)」
「事務用品色々」
「ラベル(インデックスシール、フォトコーナー)」
「テープ・割ピン・軽便綴り」
「のり」
「ステープラー」
「ハトメパンチ、一穴パンチ」
「2穴パンチ」
「おまけのノート」
「英語練習帳」
「グラフ用紙」
「便箋」
「奉祝ノート」
「大正時代のノート」
「キングジム 人名簿」
「コクヨ 和帳」
補足1:「墨汁」の墨汁の素
墨汁の素は粉末状の墨で、水と混ぜて使用する。メーカーの「堀江文海堂」は現在のぺんてるの創業当時の社名である。
補足2:「スタンプ台・スタンプ用インキ」のスタンプインキ
スタンプ台のインクが薄くなると、スタンプインキを足して使用していた。瓶の形が縦長なのは、ふたに筆状のものが付いており、スタンプ台に塗布できるようになっているため。
補足3:「朱肉・黒肉」黒肉
昔は朱肉の黒いものがあり、黒肉として販売されていた。用途としては黒いスタンプ台といったところであろう。
補足4:「クレヨン」軍用チョーク
チョークなのでクレヨンとは異なるが、動画を作成した時点でどういうものかよくわかっておらず、クレヨンの一種だと思っていた。ピンクとブルーの細いチョークで、コンパスのような形態のフォルダーに入れて使用する。戦場で地図上に戦術を描いたり、位置を記したりするのに使用された。
チョークなので、布で拭けば消える為、繰り返し書き込むことができる。
「ホマレチョーク」は地図メーカーの武揚堂の製品、「キットパス」は日本理化学工業の製品。日本理化学工業の現代の製品「キットパス」は創業時のこの軍用チョークの製品名から来ている。
補足5:「消しゴム」三田土ゴム
三田土ゴムは日本の最初期の消しゴムメーカー。写真の木の棒のようなものは中に鉛筆の芯の様に四角い消しゴムが入っている「消しゴム」だ。
補足6:「筆箱」サンスター アップダウン筆箱
セルロイド製ながら、仕掛けがあり中の歯車を回すことでトレイがアップダウンする。
補足7:「単語カード・暗誦器(単語ケース)」暗誦器
単語カードと言うと、リングが付いたものが一般的だが、以前は一枚一枚バラバラのカードをケースに入れたり、ロール紙を巻き取るような形でつかわれていた。

補足8:「コンパス」コンパスの細部
昔のコンパスは、形のバリエーションが多い。また、鉛筆や芯など記録をするものを掴む部分や、足の根元というか中心部分に細かい工夫が凝らされていたり、繊細な模様が施されていることが多い。

補足9:「組合せ文房具(文房具セット)」.:武井武夫画の組合せ文房具の箱
「コドモノクニ」などで有名な挿絵画家「武井武夫」によるイラストの組合せ文房具の箱。武井武夫は、三越と懇意にしており、個展なども開催している。その関係で、三越の文房具にイラストを提供したと思われる。
補足10:「組合せ文房具(文房具セット)」ホシエスのセット
ホシエスは現シチズンの前身。中のセットは魚雷型シャープペンシル、プロペラ型ペーパーウェイトなど、戦時下の時代が色濃く反映されている。
補足11:「ラベル(インデックスシール、フォトコーナー、他)」フォトコーナー
フォトコーナーは、アルバムに写真を張り付ける際に使うラベル。写真の角を挟んでアルバムに貼る。
補足12:奉祝ノート
現在の上皇陛下(2025年現在)が誕生された際にお祝いで作られたノート。裏表紙には奉祝歌の歌詞が書かれており、YouTubeにアップされている音源を見つけた。
https://www.youtube.com/watch?v=MH-UrzsqAtA&list=RDMH-UrzsqAtA&start_radio=1

補足13:「コクヨ 和帳」
コクヨは大福帳の表紙からスタートしており、帳簿類に力を入れて成長してきた。その中でも和紙をとじた和式帳簿「和帳」について、品質の良さや中の用紙が100枚あることで信用を築いた。和帳の綴じた部分に「百」とスタンプが押されているのは「正百枚」(中身が100枚あること)を表現している。
初心に帰る
今回、10年前に作った動画を見て、当時好きだったものやわくわく感を思い出した。コレクションを始めて5年ほど経過したタイミングのことなので、初心ではないかもしれないが、当時の「深く考えず、ただ見て愛でる」という単純な楽しみ方を最近は忘れがちだった気がした。
あの頃に戻るというのではないが、置いてきてしまったものを見直して、今やこれからにうまく混ぜられるといいなと思った。
とりあえず、コレクションの整理が終わらないと先に進めないのだが。そういえば9/13(土)開催の「文具マーケット」に久しぶりに出店する。今回のコレクション整理で手放すことにしたものなどを持っていこうと思うが、とにかくそれまでに片づけなければ。
(文具マーケット:https://bungumarket.com/20250913_009/)
何はともあれ、この連載の次か文具マーケットか、はたまた別のイベントか、何かでお会いしましょう。
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