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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #37「前後に動かして使う鉛筆削り」

波子

私が人生で最も鉛筆削りを使っていたのは小学生の頃で、今から40年も前のこと。
当時の鉛筆削りは今はもう手元にないけれども、鉛筆の軸を固定する金具がギザギザしていて木軸に食い込み、削った鉛筆の軸に噛み跡のようなへこみができるのがやや不満でした。それでも買い換えることなく、学生時代が終わるまで使っていたのです。

あの頃は、卓上型の手動式鉛筆削りを使うのに何の苦労もありませんでした。
でも今の私は、鉛筆を穴に刺したあと、本体を片手で押さえつつもう一方の手で固定具を(レバーをつまみながら)引き出すのはちょっと難しいだろうなという自覚があります。ハンドルを回すのも、もしかしたら苦手になっているかも。

かと言って、持ち運びやすい小型の鉛筆削りが使いやすいかというとそうでもありません。
削るために細い鉛筆を握って回すのは、意外に力が要るからです。

とはいえ、手動式鉛筆削りとはそういうもの。
…と思っていた私にとって、驚きの鉛筆削りが登場しました。

プラス「ハシレ!エンピツケズリ!」

202103namiko1.jpgプラス「ハシレ!エンピツケズリ!」。本体カラーはレッドの他にブルー、イエロー。




今年2月に発売された、プラスの「ハシレ!エンピツケズリ!」は、自動車の形をした手動式鉛筆削りです。
最初にインターネットで写真を見たとき、私は「変わった形の鉛筆削りだなあ」と思っただけでした。初めて鉛筆削りを使う小学1年生が楽しく勉強できるための入口、そんな風に微笑ましく感じていました。
でも、その使い方を見て、これは私のためのものでもあるぞ、と意識が変わったのです。

だって、本体を前後に動かすだけで鉛筆が削れるんですもの!

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202103namiko3.jpgパッケージには使い方が解りやすく説明されている



この発想はすごい。
ハンドルで刃を回すのではなく、タイヤで回す。
タイヤが不自然でない形、それがこの自動車型だったわけですね。
…いや、発想としては逆なのかも知れませんが、この際それはいいんです。
「卓上型鉛筆削りの固定具を引き出しにくい」「ハンドルを回すのが苦手」「鉛筆の軸を回しにくい」私にとって、こんなに使いやすい鉛筆削りを作ってくださって、ありがとうございますプラスさん…!

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202103namiko8.jpg緩やかな流線型のラインは、手のひらにちょうどフィットする



前述のとおり、手動式鉛筆削りというのは意外に手の力とコントロールを必要とする文具です。
難なく使えていた頃には私も気づかなかったんですけれども。

以前、児童向けの小型鉛筆削りとして、ハンドルがついたタイプのものが登場したとき、これなら扱いやすいのではと思い試してみたことがあります。
でも、残念ながら私には合いませんでした。
左手で鉛筆を宙に握ることはできるんです。
でも、その鉛筆にハンドルつき小型鉛筆削りを装着し、宙で持ったまま右手でハンドルを回してみると、思った以上に左手で固定する力が必要でした。それが私にはとても難しく、また鉛筆の軸が不安定なままでは右手で小さなハンドルをうまく回せなかったのです。

油性ペンのキャップが開けにくいのとちょっと似ていると感じました。
きっちり固く閉まった油性ペンのキャップを開けるとき、「キャップを外す」力だけでなく、もう一方の手で「ペン軸を固定する」力も必要です。そのためには握力だけでなく、腕や体幹の筋力も必要となるんですよね。
児童向けの小型鉛筆削りなのに使いにくく感じたのは、握力だけなら10歳女児と同等でも、おそらくほかの筋力が不足していたのでしょう。

両手どちらにも力とコントロールが要る動作が苦手な人にとって、この「ハシレ!エンピツケズリ!」はすばらしい鉛筆削りだと思います。

鉛筆を挿したあとロックするためのレバーはややかためですが、丸みを帯びているので指が痛くなることはありません。また、横にスライドさせるだけでロックできるので簡単です。
削りくずを捨てるときは黒い鉛筆固定カバーを外します。グレーの開閉ノブは指先で引っかけやすく、楽に開けられました。

202103namiko9.jpgロックが解除されているのを確認して鉛筆を挿す。ロックしたレバーは、鉛筆が削られて短くなるにつれ前方へ移動する



本体を前後に動かすスペースさえ確保できればバッチリです。
しばらく鉛筆とはご無沙汰していた私ですが、柔らかい芯の鉛筆なら筆圧が弱くても使いやすいので、久し振りにヘタなスケッチでも再開してみようかなと思った春なのであります。

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前でも後ろでも削れる「1wayギア機構」のお陰で、手をのせて前後に動かすだけで削れる。机や床にタイヤをしっかり当てる必要はあるが、さほど強い力は要らない。芯がとがると「カチカチ」音で知らせてくれる




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先が丸くなった鉛筆を削るのはあっという間だった




202103namiko14.jpg鉛筆固定カバーは簡単に外せる




202103namiko16.jpg削ったのは使用済み鉛筆だったのでくずは少なめ。刃は小型の鉛筆削りと同様のもので、替刃2個つき(うち1個は装着済み)




※「ハシレ!エンピツケズリ!」の使い方や仕組みを解説した編集長 文具王の動画はこちら。
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/04/013436/

※文中で触れた「油性ペンのキャップが開けにくい」を解決した記事はこちら。
#3「軽い力で使えるノック式油性ペン」
https://www.buntobi.com/articles/entry/series/namiko/007616/

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて連載「車いすでみるなら」2015年2月~2019年5月、全70回。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」http://nam-kid.hatenablog.com/

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