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【連載】『小粋な手紙箱』 #84・ゆらめくインク
(社)手紙文化振興協会認定・手紙の書き方コンサルタントの田丸有子さんは、子どもの頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの手紙好き。コンサルタントとして手紙文化を広めるために活動している田丸さんに、手紙の書き方のコツや手紙に関するトピックなどを毎月紹介してもらいます。
手紙で気持ちを伝えよう!
こんにちは。どこからともなく、ほのかにただよう沈丁花の馥郁とした香りに春の到来を感じる今日このごろ、いかがお過ごしですか。
近ごろ気に入っている万年筆のインクは、セーラーの『ゆらめくインク』です。ニブ(ペン先)を紙につけ、したためた文字が乾くまでの間に刻々と色が変化していきます。色はくすみ系のバリエーションで14色出ていて、それぞれに想像力を掻き立てられる名前がついています。狐日和(きつねびより)、雨催(あまもよい)、白夜(びゃくや)、極夜(きょくや)、極光(きょっこう)、凍空(いてぞら)、寒暁(かんぎょう)、夕(せき)、宵(よい)、花心(はなごころ)、数奇心(すきごころ)、伊達心(だてごころ)、心隈(こころぐま)、戯れ心(ざれごころ)。
『ゆらめくインク』は友人から「狐日和(きつねびより)」をお裾分けしてもらってその存在を知りました。最初は、手紙を書くにはちょっと薄くて読みにくいのではないかと思いましたが、最後まで書き上げてから見直したとき、文字の濃淡が表情豊かでなんとも名状しがたい趣のある手紙に仕上がっており目を見張りました。“心”を伝える手紙との相性はむしろとても良いと感じます。それ以来このインクの虜になり、無くなるとボトルをすぐに買いに行くほど気に入っています。
先日、新たに「花心(はなごころ)」を購入しました。これからの季節、花信をしたためるにふさわしい色味です。本格的な春の訪れに合わせたインク選び。今年はどんな色を選びますか?
手紙トピック
先日、友人の勧めで「須賀敦子の手紙 1975-1997年 友人への55通」を読みました。イタリア文学者であり、翻訳家、随筆家でもある須賀敦子さんが友人に宛てて書いた手紙を一冊の本にまとめた書簡集です。
この本の素晴らしいところは、須賀敦子さんの直筆の手紙が写真で掲載されており、読みにくい部分はテキストになっているところ。つまり直筆とテキストの両方で読めるわけです。私は人が書いた文字を見るのが好きなので、直筆の方を読みました。須賀さんの書かれる文字にはチャーミングな人柄が滲み出ています。お会いしたこともないし、私宛の手紙でもないのに、読んでいると気心知れた友人であるかのような錯覚に陥ります。
紙モノにも当然目がいきます。相手は外国に住んでいたので、懐かしいエアログラム(2023年に日本郵便は取り扱いを終了)がよく使われていますが、お菓子を包んでいたきれいな紙に書かれていたり、飾っておきたくなるようなセンスの良い絵はがきを使っていたり、見るだけでも楽しい。切手も然り。
多忙を極めていた須賀さんは、返事が遅れることがたびたびあったようで、手紙の冒頭はそのお詫びから入るのが常でした。たとえばこんな感じ。
「夏にすばらしいFIRST PRIZEのサヤインゲンの手紙をもらってどうしてもこれにふさわしい返事を書かなくてはと壁にあれをとめて毎日眺めているうちに夏が終わり秋が来て、となりの家の柿の実がすっかり色づいてしまいました。」
書けなかった時間の経過もこんな風に季節の移り変わりで表現すれば風流に感じられ、しかも相手をその間ずっと忘れずにいたこともちゃんと伝えられています。お詫び文がこんな爽やかに感じられるのも須賀さんのお人柄によるところが大きいでしょう。
読み物として面白く、手紙の書き方として参考になる部分も多く、そしてなにより須賀さんのユーモアと思いやり溢れる人柄に触れることのできる一冊です。
今月のマキシマムカード
テーマ: しましま
切手:動物シリーズ 第3集
風景印: 島々郵便局
お知らせ
★手紙やメールの書き方の基本について通信講座があります。
忙しい人でも自分のペースで学べます。
楽しく学んで手紙上手になりましょう!
【入門講座 /通信講座「手紙の書き方講座」】
【ビジネスメール講座 /通信講座「仕事で差がつく!メール・文章の書き方講座」】
【美文字講座 /通信講座「仕事で差がつく!実用美字・美手紙講座」】
★ 体験講座も有ります!
月に一度、オンラインで手紙の書き方講座を開催中。
みなさまのお申し込み、心よりお待ちしています!
【(社)手紙文化振興協会 体験講座スケジュール】
プロフィール
田丸有子(たまるゆうこ)
(社)手紙文化振興協会認定・手紙の書き方コンサルタント
子供の頃から「手紙魔」と呼ばれるほどの文通好き。でも手紙の何がそこまで自分を魅了するのか、深く考えたことはありませんでした。講座を受けて一番良かったことは、手紙が私の憧れを実現する手段であると気付いたことです。自分を表現することで人に喜んでもらいたい。叶えるために出来ることは何かずっと探してきました。その表現方法こそ私にとっての手紙であり、魅かれる理由なのだと気付いた瞬間、「やっと見つけた!」そんな気持ちになりました。
また、郵趣のコミュニティに参加したことで、手紙にも色々な楽しみ方が有ることを知りました。私が今夢中になっているのは、葉書と切手、消印をコーディネートするマキシマムカード。いかにセンス良く仕上げて個性を出すか、考えるだけでワクワクします。
ブログ「手紙魔Yukoのお手紙ライフ」
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