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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.28 その3

「ブング・ジャム的文具大賞」を発表!

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左から他故さん、高畑編集長、きだてさん


本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.28では、ISOTで行われたブング・ジャムのトークショーで発表した「ブング・ジャム的文具大賞」について詳しく掲載します。

第3回目は、きだてさんが選んだジオのメモ「書ける東京レタス」です。

どう見ても野菜にしか見えない! リアルなレタス型のメモ

ジオ1.jpg「東京書けるレタス」(ジオ) ジオが展開するブランド「ジオデザイン」の新アイテム。レタスを丸ごとリアルに再現したユニークなメモで、1枚1枚葉をめくって書き込める。予定価格は税抜900円。


【きだて】では最後に、俺が信用に足るメモ用紙を(笑)。

(一同爆笑)

【きだて】「東京書けるレタス」ですよ。

――ISOTのブースで見たけど、どう見ても野菜にしか見えませんでしたよ。

【きだて】あ~、ジオさんのブース、ざわついてましたね。

【高畑】これはね、二度見するよね。

【きだて】展示ブースが、完全に八百屋の店頭で。トウモロコシとかニンジンに見えるタオルと一緒にレタスそっくりのこれが置いてあったから。

【他故】そうそう。

【高畑】だって、一瞬見ただけだとディスプレイか何かで商品だとは思わなかったもの。

【他故】このかたちだからこそディスプレーに見えちゃったんだよね。こういうものがあるのは分かっているけど、よもやこれが商品だとは思わないから。

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【きだて】俺も、噂で「ジオがレタスっぽいメモを作ってたよ」というのを聞いて、まずイメージとしてレタスっぽいメモというのを頭の中で考えて。それこそレタス型にダイカットされて、レタスの葉っぱが印刷されている程度かな、とか色々と想像して。で、行った結果がこれじゃん。想像以上にレタスっていう、あまりの衝撃で。

【高畑】ジオさんのこだわりはね、毎回ちょっと常軌を逸していると思う(笑)。

【きだて】ピーキーが過ぎるんだよね。

【高畑】前に、味付けのり型のふせんを出していたけど、あれも味付けのり用の機械でパッケージしてるから。

【きだて】ジオで一番メジャーになった商品で、豆腐のふせんがあるじゃん。紙質の違いで、木綿と絹ごしの違いがあるという、その異常さ。

【高畑】ジオさんがこだわっているのは、食品に似せた商品を作るときは、食品のパッケージは本物を使うんだよね。

【他故】そうなんだよね。

【高畑】今回も、包んでいるものは本物なんだよね。本当にレタスを包むやつで。

――同じ業者から仕入れてるんですね。

【きだて】本当にね、頭おかしいんじゃないかというのが、正直なところなんだけど(笑)。

【高畑】あまりにも衝撃的過ぎて、商品説明を忘れてるんですけど。

【きだて】これね、「まんまレタスに見えるメモです」としか言いようがないんだけど。

【他故】これさ、写真で伝わるかな。「まんまレタスです」で終わっちゃうじゃん。

【高畑】これは、レタスに見えるメモを多層に重ねてあって、真ん中を割りピンで留めてあるんですよ。で、クシャクシャってなっているけど、これが全部手作業で。

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【きだて】そうなんだよ。

【高畑】クシャクシャってしてあるから、ええ具合に丸いという(笑)。

【きだて】だから、レタス包み職人さんが、手作業で丸めているわけですよ。

――ええっ、そうなんですか。

【他故】だって、機械じゃやりようがないもの。

【きだて】しかも丸める前に、1枚、1枚レタスっぽくシワをつけないといけないわけでしょ。

【他故】そうだよね。ただの紙じゃないから。

【きだて】多分、紙をもんでシワをつけたあとに、レタス型に成型しているよね。

【高畑】ちょっとずつね。それも、一遍にやったんじゃダメで、1枚ずつ重ねていかないといけないじゃない。

【きだて】それがレタスとして正しいわけだから。

【他故】レタスとして正しい(笑)。

【きだて】だから、内側の玉と外側の玉がちゃんと折り重なって玉になっていかないといけないから。単にくしゃっと丸まっているだけじゃダメなんだよ。

【他故】開けたときに剥けなかったら意味ないからね。

【高畑】機械を使って、パチッときれいに折っちゃうと意味ないので。この自然な感じのクシャクシャ感を出すのが難しいと思う。

【きだて】紙も当然レタスなわけで、内側は小さく、外側は大きくというね。これも結構面倒くさいよ。

【高畑】メモ帳というと、積み重なっているのがみんな一緒に見えるけど、そうじゃなくて内側と外側でちゃんと違うし、印刷も当然違っていて、中にテントウムシがいたりして。

【きだて】虫食い跡もあるよ。

――そういういえば、発売時期未定だったような。

【きだて】でもね、「この夏出荷予定です」と言っていたから(笑)。

――これ、量産が大変でしょうね。

【きだて】死ぬほど大変でしょ。ISOTのレポート記事でこのレタスメモのことも書いたんだけど、「数は作れないから、見つけたら即買いでOK」で紹介文をシメました。

【他故】そうでしょう。これ、出荷単位はいくつなのかな。1個?

【高畑】いや、お店へ出すときは、大きい箱で行くんじゃないかな。

【他故】これじゃお店が一気に野菜売り場になっちゃうな。

【きだて】これ1個で税抜900円か。

【高畑】まあ、安くはないけどさ、手間を考えたら…。

【きだて】そう、全然安いんだよ。だって、メモを1枚、1枚手作業で丸めていると思ったら、その手間賃ぐらいは払うわ。

【高畑】これ40枚ぐらいだけど、40枚のメモ帳としては史上最もかさばると思う。

【きだて】そうだね。

【他故】中はほぼ空気みたいなものだ(笑)。

【きだて】その辺もレタスっぽいよね。

――ほぼ水です、みたいな(笑)。

【きだて】俺ね、「ゲージを極端に振り切ったもの」は基本的に信用することにしてるの。例えばロールプレイングゲームのキャラメイクで、30ポイントを体力:攻撃力:防御力に割り振るとしたら、それを10:10:10と振り分けるやつは信用できない。そうじゃなくて、1:28:1みたいなことをするやつを信用したい。それだけやりたいことがハッキリしてるわけだし、本気度が見える。

【他故】ほう。

【きだて】製品として発売されるメモ帳なんだから、書きやすさとか持ち歩きやすさみたいなステータスがあるじゃない。これはそういうのガン無視で「レタスっぽさ」にポイント全振りしてるわけ(笑)。

【他故】まあ、そうだね。

【きだて】それ以外の書きやすさとか他のステータスは全部1なんだよ。

【他故】ふふっ(笑)。

【きだて】だってさ、使おうと思って1枚ちぎるじゃん。その段階でさ、ただの葉っぱのかたちをしたしわくちゃの紙なんだぜ。

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【他故】そうだよ。書こうと思ったら、すでにしわくちゃ(笑)。

【きだて】本当にもう、床に落として踏みつけたのかと思うぐらいのしわくちゃで。

【高畑】踏みつけたってそうはならないよ。

――普通なら、紙がよれてたら商品にならないですからね。

【きだて】これ、書くのも書きにくいし、何より伝言メモとして人に渡せないじゃん。

【他故】これを渡すのはなかなかね。

【きだて】ちょっと失礼に過ぎるでしょ。

【高畑】この、手でもんだ自然のシワという意味では、俺は深澤直人を超えたと思うんですよ。

(一同爆笑)

【他故】「SIWA」以上ですな(笑)。

【きだて】あ~、分かる(笑)。

【高畑】「SIWA」では感じなかったことを、これでは感じたから。

【きだて】だって、このシワはレタスのシワという必然性があるじゃない。

【他故】レタスっぽさ全振りだからね。

【きだて】レタスにはシワが入っているから当然じゃんっていうやつだから。むしろ、シワが入っていないとレタスに見えないから、シワを入れましたという。

【他故】レタス色の紙だけではダメだからね。

【きだて】ただねー、表面はレタスの葉脈とかがっつり印刷してあるんだけど、裏面は使いやすさを考慮してドット罫線になってるんだよ。気を遣うのはそこじゃねえだろっていう(笑)。

【高畑】そこをやらないと、ただのレタス型のオブジェになっちゃうんだよ。そこにドット罫がなかったら、置物になっちゃうんだよ。そこがギリギリでね…。

【他故】紙のレタスになるか、メモになるかっていう(笑)。

【きだて】だから、「メモらしさ:1」の部分がこれなんだよ。

【高畑】だから、「メモじゃない」って言わせないところはちゃんとしてるんだよ。

【きだて】ただね、メモとしての使いにくさと、他人に渡せないというとこころを考えると、自分の自己満足で買う商品でしょ。

【他故】自己満足だね。

【高畑】でもさ、これ会社のパソコンのデスクに、これが丸のまんま置いてあってさ、誰かに「今度の件なんですが」とか言われたら、レタスをちぎってメモをするというのは、やってみたいよね(笑)。

【きだて】多分ね、それやってるのを上司に見られたら、1週間ぐらい休暇くれるやつだよね(笑)。

(一同爆笑)

【高畑】「大丈夫か君」ってやつだ。

【きだて】普通は、正気を疑われるよね。レタスだもん。

【他故】そうだよね。

【高畑】あとは、動物園のヤギの前でメモをとってみたいね。普通に喰われるけどね。

【きだて】本当は、ヤギに紙を喰わせちゃいけないけどね。

【他故】冷蔵庫に入れておくとかやってみたいな。

【高畑】冷蔵庫からメモを出すのいいね。

【きだて】それ、かっこいいね。

【他故】やってみたいよ。

――これだと、インスタに上げても大丈夫ですよね。

【きだて】これだと炎上しないかな。

【他故】インスタ映え(笑)。

【高畑】本当に映えているのか分からないけどね。

【他故】事情が分からない人だと、「レタスに字を書いてる、バ~カ」って言われちゃうかもしれないし(笑)。

【高畑】これが女子目線で映えているかどうかは別問題だけど。

【他故】別だね。

――これを冷蔵庫に入れて写真撮っても、理解できる人は少ないでしょうね(笑)。

【他故】ただのレタスだと思われちゃう。

【きだて】「東京書けるレタス」を知っている人だって、「うん、どっちだ?」って考えるからね。

【他故】でも、これは発見次第ゲットしたいです。

【高畑】あとさ、今気が付いたんだけど、チラシに「構想10年」って書いてあるよ。「ついに収穫の季節がやってきます」だって。これ、10年も温めてたんだよ。

【きだて】ああでもね、わざわざレタスっぽい質感の紙を探しましたと言っていたから。

【他故】じゃあ、思いつきで作ったんじゃないのね。

【高畑】う~む。「無農薬製造」って書いてあるよ。

【きだて】「無農薬だからテントウムシもいます」と言っていたよ。めくっていくとたまにテントウムシも葉にたかってるの。

【高畑】だからね、ちょっとやそっとじゃこんなにレタスっぽくならないんだよ。

【きだて】試作も相当しただろうと思うし。

【高畑】これ、価格は900円だけど、それでも元とれてんのかなって思うよね。

【きだて】今回のISOTでは、他の文具メーカーでは真似のできない専門的な技術で作った商品が割と出ていたけど、このレタスメモも同じように、余所はちょっと真似できないよね。

【他故】ていうか、しないわな。

【高畑】仮に思いついたとしても、「これはないな」と思って、自分でふふって笑って忘れるやつ。そこから先には進まないんじゃないの。そこからの大変さが分かるからね。

【きだて】それを商品化しちゃう本気度こそがただ1点、信用に足るという理由だよ。

【高畑】これは、ブング・ジャムが選んだ文具大賞だから、信用できるよ。

プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。

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