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【舘神龍彦の手帳講座・2019春】手帳の根本と活用の基本 Vol.2

舘神龍彦

新年度がスタートする4月は、手帳デビューする人が多い時期。社会人としての第一歩を踏み出すフレッシュマンはもちろん、「今まで手帳をちゃんと使ってなかった」という人も手帳を使い始めることが少なくないようです。そこで、“手帳王子”こと手帳評論家の舘神龍彦さんに、手帳を使うための基本なことを全3回で解説してもらいます。

第2回目となる今回は、「手帳とスマートフォンの違いと使い分け」について教えてもらいました。

Vol.1はこちら

手帳とスマートフォンの違い

前回は手帳とはそもそも何で、どう活用すればいいのかについて解説した。

今回はスマートフォンとの違いとその使い分けについて説明しよう。

手帳がスマートフォンと根本的に異なるのは、その自由度だ。

たとえばスマートフォンの予定管理アプリには予定以外のことは入力しにくい。

いや、そこに日記を書いてもいいし、そうしている人もいるかもしれないが、少数派だろう。それはデジタルツールの根本的な性格と関係がある。

デジタルツールは、最初に定義された目的以外のことがしにくいのだ。

「このソフト(アプリ)はこういう目的のために使うもので、この部分にこういう作法で、こういう種類の情報を入力してください」。いわゆるパソコンやスマートフォン用に作られているソフトウェアはこういうことが前提としてまずある。

「でも、Excelを使って絵を描いている人はいるよ」という反論はあるだろう。あれは例外と言うべきだ。Excelが世に出てから三十年近くたっているから、使う側がこなれてきたからだとも言える。またそもそもExcel自体がいろいろな機能が盛り込まれた多機能なソフトであることの結果だとも言える。

そしてとくに予定管理ツールとして最初から役割が決まっているGoogleカレンダーや、スマートフォンの予定管理アプリは、せいぜい日記に使えるぐらいで、たとえばネタ帳として使う人はほぼいないだろう。

手帳ならば、ネタ帳に使うことに抵抗がある人はいないはずだ。これがなぜなのかはいろいろな理由があるだろう。

まず、そういう使い方をするのに、技術的な問題がまったく存在しないことだ。手帳の表紙に「ネタ帳」と書けばネタ帳になる。それが手帳の自由度だ。

またネタ帳として使い、書いたものをあとから見直すのも簡単だ。これがスマートフォンで、たとえばiPhoneのメモアプリに1ネタ1メモで記録すると、画面を何回もスワイプして切り替えないといけないが、手帳ならばパラパラとめくるだけでいくつものネタを確認できる。つまり構造の違いが参照するときの簡単さの違いにつながっている。もっとも、あとで、iCloudを使ってパソコンで確認することはできる。これはiPhoneを純粋な入力手段として使う方法だ。パソコンを日常的に使う場合はこの方法もアリはアリだ。

だが、手帳の場合は手帳だけで簡単に記入でき、再三の参照もむずかしくはない。

予定の周辺に関連情報を簡単に書き込めるのは、手帳の大きなメリットだ。例えば、資料の所在や、概略、関連する書籍の書名などを、その面に集約しておける。

これもデジタルツールには実現しにくいメリットだ。

そしてこれが予定管理やタスク管理、目標管理、ログなどの各種目的別に考察され、ユーザーごとに編み上げられたものが、いわゆる手帳術というわけだ(時間軸がないノートの場合はノート術だ)。

予定記入欄と時間軸に対して、関連する情報をどのように記入するか。それが手帳術であり、そこにはユーザーの数だけのルールがある。

そしてこれは、スマートフォンのアプリではなかなかやりにくい。スマートフォン用アプリでもメモとか日記の機能を持つカレンダーアプリはある。つまり、ユーザー側はそのアプリが定義した役割のためにそのアプリを使うことになるわけだ。

スマートフォンに入力すべき事柄とは

さてでは、スマー卜フォンの予定管理アプリでやりやすいことやメリットがあることとはなんだろうか。

それは、手書きで入力するのが面倒な情報だ。また入力すると他のアプリとの連動がやりやすく便利になる情報がそれだろう。たとえば、住所や移動経路の情報がそれだ。

Googleカレンダーの「場所」の欄に、住所を入力しておくとスマートフォンでそこをタップしたときに、地図アプリが起動する。同様にURLをメモ欄に書いておくと、そこをタップすれば、内蔵のWebブラウザが起動する。

こういう、情報それ自体が他のアプリの起動のきっかけになるようなものを簡単に含んでおくことができるのが、スマートフォンのメリットであり、それと連携するパソコンでの入力のメリットの一つだ。

つまり、クラウドを介したデータの連係や、情報をきっかけとした他のアプリの起動など、他との連動こそが、手帳にはないデジタルツールのメリットの一つなのだ。

また、Googleカレンダーは入力した限りの情報を蓄積できる。これをスマートフォン上から検索可能だ。だから、過去の予定の検索が簡単。特定のクライアントの担当者と前回はいつあったか、数年前にはいつミーティングしたのかも簡単にわかる。

手帳ならではのメリットは

手帳にしかできないことは、ではなんだろうか。

一つはすぐに開いて簡単に参照・追記ができることだろう。

スマートフォンも、たとえば音声でメモができるし、予定を入れることもできる。

例えばiPhoneならば、ホームボタンを押しながら(X系機種ではサイドボタンを押しながら)「来週水曜日の五時から会議」と話せば、標準のカレンダーにその予定が入る。だがその前後の予定を確認するには、カレンダーアプリを開く必要がある。

手帳の場合ならば予定を記入する時点でその時刻・日付の前後も参照することになる。つまり、その前後の流れなどについても目に入ってくる。

もちろん、スマートフォンでも逐一カレンダーアプリを開いて入力するのならばそこは同じだが、スマートフォンならではの機能を活かそうとすると、手帳との違いがどうしても出てくるわけだ。

収納機能も手帳のメリットだ。手帳型ケースもスマートフォンにはあるが、何枚ものカード類を収納するのは非現実的だ。それよりは手帳のポケットを利用する方がいい。

とくに診察券や割引券といった雑多な紙類は、関連する予定が記入された手帳のカバーの内側に管理しておくのが都合がいい。

もっとも最近のポイントカード類は、スマートフォンアプリになっているものもたくさんあるからそういうものは、スマートフォンの中に入れてしまってもいいだろう。

あるいは、お薬手帳や診察券をはじめとする医療機関関連の各種のツールを収納できる「エムディーエス お薬手帳 A6」のようなアイテムも登場している。手帳ではなく、そういうものを使ってもいいだろう。

素早いメモは手帳の方が得意だろう。iPhoneには音声入力でメモする機能もある。音声入力したものはテキスト化されて標準の「メモ」アプリに保存される。

だが、ページにタイトルと日付を入れて、一カ所に情報を蓄積するようなやり方が得意なのは、紙の手帳だ。

また、複数の面のそれぞれにテーマを割り当てて情報を蓄積していくのにも紙の手帳は向いている。人によってはこれはメモ帳でも充分だろう。

手帳とスマートフォンの併用

素早い記入と参照確認は手帳にメリットがある。またユーザーが自由に目的を設定してその用途のためにつかうのにも手帳がよい。カバーの内側にちょっとした紙片などを挟んで保管するのにも手帳は優れている。

デジタルツールは、データによる他のアプリ、例えば地図やWebブラウザとの連携に優れている。また情報を蓄積しておき、検索できるのは、デジタルツールならではのメリットだ。


このように、デジタルツールとアナログの手帳には一長一短がある。

賢いのは併用することだ。すなわち細かな予定や関連事項はアナログの手帳でおこない、デジタルツールには単純な事実を中心に入力しておく。また住所やURLなど連携させたい情報も入力しておくと役立つ。

プロフィール

舘神龍彦(たてがみたつひこ)
アスキー勤務を経てフリーの編集者/ライター。デジタルとアナログの双方の観点から知的生産について考え、著作を発表。主な著書はiPhone手帳術ふせんの技100』『手帳の選び方・使い方 』(いずれもエイムック)、『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)、『システム手帳新入門!』(岩波書店)、『手帳進化論』(PHP研究所)、『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(枻出版社)、『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)、『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)、『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『最新トレンドから導く 手帳テクニック100』(枻出版社)、『iPhoneの凄い設定』(出版社)。最新刊の『手帳と日本人』がNHK新書から好評発売中。

また、「Yahoo!Japanクリエイターズプログラム」で、文具・手帳・ガジェットの紹介や活用法について動画で配信中。
https://creators.yahoo.co.jp/tategamitatsuhiko


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