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【舘神龍彦の手帳講座】第3回・手帳術って何だ?

2019年版の手帳・ダイアリーが店頭に並びはじめ、いよいよ手帳シーズンに突入。手帳シーズンを迎えるにあたり、“手帳王子”こと手帳評論家の舘神龍彦さんに、3回にわたって手帳について解説してもらいます。第3回目のテーマは「手帳術って何だ?」。

*「第1回・神社系手帳とはなんだったのか」はこちら
*「第2回・手帳を作るということの本質とは」はこちら

手帳術は内側と外側にある

本連載の第一回と第二回では、手帳やそれを規定する暦について、また手帳の自作などについてみてきた。今回は神社系手帳を例に分析して、手帳の構造に含まれた手帳術を考えてみたい。

本連載をお読みの方であれば、Kindle書籍『手帳術って何だ?』の三部作をあるいはお読みになっているかもしれない。そして今だから書いてしまうと、あの三部作には、手帳術とはなにかということがほとんど書かれていない。

書かれているのは“手帳とは何か”である。

では、もう一度問うてみよう。

“手帳術って何だ。”

そしてそれは手帳とどういう関係があるのだろうか。

結論から言えば、手帳術は手帳の内側と外側にある。

たとえば、「超」整理手帳の蛇腹式スケジュールシートでは、この構造により一般の月間予定欄よりも長い最大8週間を一望することができるようになっている。この構造が「超」整理手帳の特徴であり手帳術でもある。さらに、A4版と親和性の高いカバーによってA4書類のプリントアウトを四つ折りして携帯することなども、A4サイズの紙を四つ折りしたサイズのカバーを持つこの手帳で実現される手帳術の一つだろう(※1)。

また、アクション・プランナーでは、プロデュースした佐々木かをり氏の著作によれば、タスクリストを作るのではなく、見開き1週間のバーチカル式予定記入欄に直接タスクを記入する方法が推奨されている。これも手帳術だ。この方法はアクションプランナーでなくても実行可能だが、佐々木かをり氏の提案は、アクションプランナーの利用と渾然一体となっている。

最初の例は、手帳の構造がそれを可能にしている手帳術である。二つ目の例は、手帳術があり、その方法を提唱している人がすすめる特定の手帳がある。

つまり、このように手帳術とは、予定記入欄のレイアウトや構造であり、それらを利用した記入法(タスクの処理方法や時間管理の方法)なのだ。そして、ある手帳術はそれが前提としている予定記入欄のレイアウトやその物理的構造が同じ別の手帳でも、実践しようと思えばできる。

これが手帳術なのである。

この考え方に沿って読み解くのならば、各種の神社系手帳や自作手帳は、作った人が手帳遍歴の末に編み出した独自の手帳術が、プレインストールされている/実行しやすいような構造を持っているものだと言える。

それゆえに前回も触れたように、これらの手帳は、いわばセミオーダーのスーツなのだ。

※1 もっともスマートフォンの普及とクラウドの利用で、プリントアウトそのものを持ちはこぶ必要は人によっては低くなっているかもしれない。

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外側にある手帳術

構造と一体になった手帳術はいわば、手帳の内側にある手帳術だ。上述の例で言えば、「超」整理手帳で、数週間先を見通すのがそれだ。

これに対して、予定記入欄の構造やレイアウトが同じ物でも実行できるのが、手帳の外側にある手帳術である。アクションプランナーの活用法は、こちらだと言える。

最近、公式ノートも登場している、流行のバレットジャーナルの場合はどうだろう。

結論から言えば、あれは外側にある手帳術だ。

公式ガイド本『ロイヒトトゥルム1917ではじめる箇条書き手帳術』でも解説されているように、バレットジャーナル自体は、ノートという記録媒体に、思考や行動、予定などを記録する、一種の思考術である。そしていくつかのルールが決まっている。

バレットジャーナルの場合

公式ノートやバレットジャーナル用をうたったノートでは、このルールが最初からノート側に用意されている。ただそれは簡単に再現できる文言や、分割罫線というレベルであり、簡単に真似ができる。だからこれも手帳の外側にある手帳術だと言える。

メーカーの立場にたてば、手帳術は手帳の内側にとどめて、その手帳術を使いたい人たちを囲い込みたいところではある。だが実際には、予定記入欄やそのスタイル、また関連する文具などの構造や使い方を完全に知財や商標の面でブロックすることはむずかしい(※2)。

また、違う手帳の構造でも、他の手帳がすでに実現している機能をちょっと違った形で実装することは難しくない。例えばA4のプリントアウトを挟むのは、A5スリムの手帳ならば、プリントアウトを3つ折りにすることで簡単に実現できる。そしてもともとは、書類を手帳に綴じる・挟むのは、'80年代後半に流行したシステム手帳が、専用パンチを使って実現していたことでもある。

※2 その意味で最大8週間を一望できる「超」整理手帳は、蛇腹式シートを持つ「クリエイターズダイアリー」(D-BROS ※予定記入欄のスタイルは異なる)を除けば、競合する手帳がない、強力な手帳術を内包した手帳だとも言える。


4.jpg「ロイヒトトゥルム1917(LEUCHTTRUM1917)」とバレットジャーナルの記入例(2018年3月に伊東屋本店で開催したロイヒトトゥルム1917のPOP UPストアイベントより)。
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ジブン手帳の場合

また、周辺領域の文具が持っている機能を盛り込んで自らの手帳術としている例もある。たとえば、フィルムふせんで有名なカンミ堂には、「10ミニッツ」という時間管理用文具がある。これをもとにして10ミニッツ手帳も生まれた。

そしてジブン手帳(コクヨ)には、バーチカル式時間軸にぴったりな専用ふせんが登場し、この10ミニッツ手帳と同じような考え方で使うことができるようになっている。

他の製品ジャンルでもそうだが、手帳においても競合他社の動向を見つつ、それをうまく取り込むことがある。ジブン手帳の例はそれだと言える。

そしてユーザー側から見れば、新しい手帳が構造として実現している手帳術を、なんとかして手元の手帳でも実現できないかと考えるわけだ。

上述のジブン手帳用フセンでいえば、似たようなサイズ感の他社のバーチカル式手帳に応用することが考えられる。

ジブン手帳2019.jpg

2019年版「ジブン手帳」

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新刊『最新トレンドから導く 手帳テクニック100』では、上記のことも踏まえて各種テクニックを紹介しています。ご期待ください。

〈2018/10/11追記〉

というふうに思っていたら、NOLTYと「ココフセン」(カンミ堂)がコラボした商品が登場したらしい。
http://tool.jmam.co.jp/3386

このように手帳術と周辺ツールは、相乗効果的に、あるメーカーの動向が別のメーカーに波及・発展していく。これも外側にある手帳術と周辺ツールが結びついた例だ。

プロフィール

舘神龍彦(たてがみたつひこ)
アスキーを経てフリーの編集者/ライター。デジタルとアナログの双方の観点から知的生産について考え、著作を発表。主な著書はiPhone手帳術ふせんの技100』『手帳の選び方・使い方 』(いずれもエイムック)、『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)、『システム手帳新入門!』(岩波書店)、『手帳進化論』(PHP研究所)、『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(枻出版社)、『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)、『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)、『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『最新トレンドから導く 手帳テクニック100』(枻出版社)を2018年10月に発売予定。

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