1. 連載企画
  2. 文房具百年
  3. 【連載】文房具百年 #53「アメリカの特許検索サイトの使い方」

【連載】文房具百年 #53「アメリカの特許検索サイトの使い方」

たいみち

嬉しいニュースと嬉しい発見

 年末に嬉しいニュースがあった。国会図書館のデジタルコレクション(インターネット上で閲覧可能な資料)が50倍になったというのだ。今まで国会図書館まで行かないと見ることができなかった資料が、大量にネットでみられることになった。文房具について調べるときに、国会図書館のデジタルコレクションをよく参照しているので、とても助かる。

 同時に似たような嬉しい事があった。アメリカの特許検索サイトがリニューアルされ、見つけやすくなっていることに気づいたのだ。いつ変わったのかがわからないが、1年以内のことだと思う。こちらも文具について調べる際に重要な情報源なので、非常にありがたい。そうだ、せっかく検索しやすくなったので、自分用に操作メモを残しておかなければ。よし、それを連載で紹介しておけば、自分でもいつでも見つけられる。

202301taimichi1.jpg

特許の検索とアメリカの特許

 アメリカの特許検索サイトについて説明する前に、アメリカの特許の特徴について補足しておこう。特許が登録されると番号が振られ、通常は「PAT〇〇〇〇〇〇〇」という形式で商品やパッケージに記される。日本も「PAT」や古いものだと「特許No.〇〇〇〇〇〇〇」または「実用新案No.〇〇〇〇〇〇〇」といった形で記されている。

 そして番号さえわかれば、比較的簡単に特許の内容をネット上で検索することができる。検索は、米国特許商標庁(USPTO)のサイトか、Google Patent search(https://patents.google.com/)を使っていた。

 だが、アメリカの特許は番号ではなく、登録日だけ刻まれていることがとても多いのだ。もしかしたら古い物だけかもしれないが、とにかく日付のみの情報だと途端に検索の難易度が上がる。Google Patent searchではまず無理、USPTOのサイトでは日付の検索もできたが、同じ日に登録された数百の特許が表示され、どれが何の特許なのか見当がつかない。一応各特許の内容を示す「分類コード」がついているのだが、調べたいものの分類コードがわからず、一つずつ見て行くのも膨大な時間と労力がかかるので、大抵断念していた。

202301taimichi2.jpg

*以前のUSPTOのサイトでの日付指定の検索方法についての自分メモ。あまり使えないが一応残していた。



 それが今回、USPTOのサイトリニューアルで、日付+キーワードの検索ができるようになったのだ。もしかしたら、英語が不得手で調べられなかっただけで、前のサイトでも簡単に調べる方法があったのかもしれないが、少なくとも、操作方法や分類コードのリストなどは簡単には見つけられなかった。それが今回、割と直感的な操作で、ガチャガチャいじっていたら検索することができたのだ。

 拍手!

 年末に一人で思わず拍手が出た。これで特許の番号を探してネットを放浪することが、激減するに違いない。

EAGLE PENCILの消しゴム装着具の特許番号

 操作を説明するに当たって、手元の「特許番号がなく、日付のみ刻まれた文房具」を調べてみよう。ちょうど先日入手したEAGLE PENCILの消しゴムを鉛筆につける道具の特許表示が日付のみだった。

 「PATENTED」「CLASP ERASER」「JULY 20 1886」とある。1886年7月20日に登録された特許だ。

202301taimichi3.jpg


202301taimichi4.jpg

202301taimichi5.jpg



 これをUSPTOのサイトで検索する。サイトを開くとTOPページはこうなっている。

(URL:https://ppubs.uspto.gov/pubwebapp/static/pages/landing.html




202301taimichi6.jpg



 まずは「Basic Search」を選択する。すると条件を入れる検索窓のあるページが表示される。

202301taimichi7.jpg




 一番上の検索窓は、番号がわかっている場合なので、下半分の検索窓を使う。

 左の検索項目を日本語翻訳表示で見ると「すべての」「申請者名」「担当者名」と並び、最後に「発行日」がある。そうそう、発行日しかわからないのさ。ということで、「発行日」(Publication Date)を選択して、消しゴム装着具に刻まれている1886年7月20日を入力して検索する。

202301taimichi8.jpg



202301taimichi9.jpg



 すると、検索結果が876件と出た。これは多すぎるので、キーワードを追加する。思いつくのはこの場合「eraser」だ。

202301taimichi10.jpg



202301taimichi11.jpg



 これで3件に絞られた。ここで3件の内容を確認するのだが、その時にプレビュー機能が便利だ。「Preview」をクリックすると、画像やタイトルが表示されるので、大体これで探しているものかどうかの判断ができる。

202301taimichi12.jpg



 なお、この3件の内容は「黒板消し」と「マーキングクレヨン」、それに「ポケットナイフ(鉛筆削り)」だったので、探している特許ではなかった。この3件もそれぞれ興味があるが、ここはスルーしてキーワードを変更して消しゴム装着具を探すとする。

 次に思いつくキーワード「pencil」で再検索をする。

202301taimichi13.jpg



 するとこのキーワードでも3件あった。1番目からPreviewをクリックしていくと、1番目のイラストが消しゴムを鉛筆に取り付けている道具だ。よし!見つけたぞ。これのようだ。

 それらしいものを見つけたら、次はPDFで全文表示をして確認をする。

202301taimichi14.jpg



202301taimichi15.jpg

 

 PDFを見ると「EAGLE PENCIL COMPANY」の文字も見える。これで間違いないようだ。そしてこの消しゴム装着具の特許の番号は「345865」だ。よかった、見つかった。

202301taimichi16.jpg

Google Patent searchの出番

 番号がわかり、特許の全文PDFもダウンロードできれば、最低限の目的は果たせたことになる。だが、英語がわからない身としては、PDFを見ても内容がわからない。イラストを見ると何となくわかるが、概要だけでも中身を理解しておきたいし、この特許の参照先や参照元も確認しておきたい。そこで番号が分かったら、Google Patent searchに移動して内容の確認をする。Google Patent searchでは、特許の内容がPDFだけではなくサイト上に記載されているので、日本語に翻訳することが可能だ。

202301taimichi17.jpg

 Google Patent searchを開き、検索窓に特許の番号を入れる。その際、頭に国を表すアルファベットを2文字入れる。アメリカはUSなので「US345865」となる。すると、検索マークをクリックするまでもなく、候補が表示されるのだ。

202301taimichi18.jpg



 候補のリンクをクリックすると、具体的な内容のページに移行する。左側は本文が書かれている。また、左上の画像をクリックすると、右側に原本が全文表示される。原本はUSPTOのサイトで確認済みなので、同じものであることを確認したら、本文を日本語に訳してみる。

202301taimichi19.jpg

202301taimichi20.jpg


202301taimichi21.jpg*本文を日本語に翻訳すると、おおよその内容がわかる。



 日本語翻訳がたどたどしいが、イラストと合わせて見ると大体の内容は分かる。この「消しゴム装着具」の特許のポイントは、消しゴムはクリップのような構造で挟まれており、鉛筆をはめることで消しゴムを挟んでいる金具が締まり、落ちないようになっている、ということのようだ。

202301taimichi22.jpg

202301taimichi23.jpg

*特許のイラストとは構造が異なるが、鉛筆を挿すほうの部分を握ると消しゴムを挟む部分が緩んで外すことができた。



 Google Patent searchの結果にはもう一つ、参考になることが記載されている。関連特許だ。表示している特許と似たものや参照した特許が掲載されている。私が特許を確認するポイントとしては、内容の確認と共に前後の関連特許の確認なので、この情報もとても有用だ。特許が登録されているからと言って、商品化されているとは限らないが「最初だったのか」「参考とした特許はあったのか」ということの参考になるのと、単純にイラストを見ているだけでも面白い。

 関連特許からまた別の関連特許を見て、さらにそこから別の関連特許へと特許サーフィンのようなことになってしまい、結構な時間特許のサイトを見ていた、なんてことがよくある。

202301taimichi24.jpg*消しゴム装着具に関連している特許。「鉛筆用消しゴムチップ」や「鉛筆」は内容を確認したくなる。

分類コード検索

 更にGoogle Patent searchの情報から、もう一つ追加で検索ができる。冒頭に特許の分類コードが表示されているのだ。消しゴム装着具の場合は「B43K29/02」で、内容は「筆記具とゴムを使用した他の物品との組み合わせ」とある。

202301taimichi25.jpg



 この分類でほかにどんな特許があるのかも興味が湧く。このリンクをクリックするとGoogle Patent searchでも表示されるが、なぜか古いものがうまく表示できないので、ここはUSPTOのサイトに戻って検索する。

202301taimichi26.jpg
 USPTOのサイトで、今度は「Advanced Search」を選択し、次の画面で右上の「Enhanced Search」へ進む。すると3分割された画面が開くので、中央の上の「Enter query text」にGoogle Patent searchで表示されていた分類コード「B43K29/02」を入れる。

202301taimichi27.jpg



202301taimichi28.jpg



 検索結果は987件も出てきてしまった。私が見たいのは古いものだけだが、期間指定の方法がわからないので、スクロールバーで一番古い部分を表示させる。

 すると最も古いのは1858年の特許のようだ。そこから1865年までの特許を見てみようと思い、見たい特許の数字欄にチェックを入れた。(正直なところ、ここの仕組みがわかってないが、何となくできたので、良しとした。)

202301taimichi29.jpg

 あとは、右側の窓の特許番号のリンクをクリックするとイラストが表示されるので、興味のあるものをチェックすればいい。次のドキュメントを表示させるボタンもあるので、チェックしやすい。

202301taimichi30.jpg



202301taimichi31.jpg

*分類コードから検索した特許の画像。サイトで簡単に確認できる。



 1858年から1865年の特許をざっと見ると、上記画像のような特許が続々と出てくる。イラストを見ているだけで面白い。 この分類コードで最も古いのは1858年もので、内容は消しゴム付き鉛筆の最初の特許となるリップマンのものだった。

 よく見ると「E.Faber」名義のものがある。FABER一族のEberhard Faberの特許で「PENCIL ERASER AND STAMP」というタイトルだ。Eberhard Faberなら商品化されていそうなので、現物を探したくなるし、ほかにも関連特許が出てきそうだ。

202301taimichi32.jpg



 以上がアメリカの特許検索の話だ。なお、ここまで来てこんなことをいうのもどうかと思うが、マニュアルなどを読んでいないので正しくない部分や、もっと適切な方法もあるのかもしれないが、素人がかんばってやってみたレベルとご容赦いただきたい。

 そして、検索が簡単にできるようになったことで、単に調べたいものが簡単に調べられるということだけでなく、興味を持ったところを広げて調べるのも容易になり、即ち調べることの面白さが手軽に体験できるようになったと改めて感じた。

 アメリカの特許の検索をする機会がある方が、どれだけいるかわからないが、もし調べることがあった際にこの説明を参考にして、「調べる」事を楽しんでいただければ幸甚だ。

お知らせ 文具マーケット出店

 ここで一つお知らせをさせていただく。2023年2月25日に東京・五反田で開催される文具マーケットに出店する。文具マーケットは文具及び文具関係のモノの販売やワークショップのイベントだ。私はコレクションのリサイクルというか、重複や不要になったものなどを中心に販売予定だ。

 古くて半端なもの中心になると思うので、そう売れそうにもないが対面イベントの参加が久しぶりなので、お時間あったら立ち寄って声をかけていただけると嬉しい。

文具マーケット(第2回)開催! 

http://www.small-light.com/bungu/

開催日/2023年2月25日(土) 10時30分~16時(入場受付は15時30分まで)

入場料/500円(ブース紹介パンフレット付/小学生以下無料)

会場/五反田TOCビル(東京卸売りセンター)ホールH

出店名:消しゴム屋たいみち

お待ちしています!

プロフィール

たいみち
古文房具コレクター。明治から昭和の廃番・輸入製品を中心に、鉛筆・消しゴム・ホッチキス・画鋲・クレヨンなど、幅広い種類の文房具を蒐集。
展示、イベントでコレクションを公開するほか、テレビ・ラジオ・各種メディア出演を通して古文房具の魅力を伝えている。
著書「古き良きアンティーク文房具の世界」誠文堂新光社
『古き良きアンティーク文房具の世界』をAmazonでチェック

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう