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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #66「指先が筆になる...! 握力ゼロでも使える筆」

波子

随分と前に購入したまま、なかなか使わずに置いてある文具ってありませんか?
「いま使っているものがまだ残っているから」とか、「特別なときに開封したいから」とか、いろんな理由があると思います。…ありますよね?
私の場合、それらに加えて「使うための準備が手間取りそうだから」というのも理由のひとつに挙げられます。例えば(今はもう使えませんが)万年筆もそうでした。好きなインクを入れて使いたい、と思って購入したのに、ゆっくりインクを吟味して入れる時間がなかなか取れず、長らく本体を眺めているだけ…ということがかつてあったんですよね。

今回は、ずっと連載で取り上げたいと思っていたのに「これから撮影する文具」の箱に入れたままにしていたもの。
ご縁があってイベントで扱わせていただいたので、この機にご紹介いたします!

墨運堂「ポップコーン(ゆび筆)」

202311namiko1.jpg墨運堂「ポップコーン(ゆび筆)」。キャップはサイドをがま口のようにひねって開ける



202311namiko2.jpg左から、幼児用サイズの小筆、中筆、大筆、大人用サイズの小筆、中筆、大筆



墨運堂の「ポップコーン(ゆび筆)」は、指先にはめて使う筆です。
つまり、指先がそのまま筆になると言っても過言ではありません。
筆の軸を持つ必要がないため、握力がなくても使うことができます(ただし、指にはめるときにはもう片方の手にある程度の力が要ります)。

202311namiko3.jpg人差し指に幼児用の小筆を装着



202311namiko4.jpg中指に大人用の小筆を装着



ポップコーンという名前は、この指にはめる本体の形がポップコーンに似ているから、ということで名付けられたそう。公式サイトには「開発物語」が掲載されていて、この形になるまでに試行錯誤されたことがうかがえます。
【墨運堂 公式サイトより「ポップコーン開発物語」】
https://boku-undo.co.jp/yubifude/story.html

11月18日に奈良県田原本町で開催された「奈良県福祉フェア」に「波子の文房具ワークショップ」で参加したのですが、そのときにこのポップコーンを墨運堂さんからご提供いただいたんです。
会場となった県営福祉パークの「福祉住宅体験館」には、常設で様々な「自助具」の展示コーナーがあり、そこにポップコーンも試せるように置いてあるんですね。そこで、イベントでぜひコラボさせていただきたい…と施設の担当者さんを介してお願いしたところ、ご快諾くださったのでした。

ワークショップといっても、おいでくださった方に文具をお試しいただくだけだったのですが、墨運堂さんがお持ちくださった「水書き半紙」に子ども達が自由に落書きする様子がとても楽しそうで、お願いして良かったです!
と同時に、私がこれまでなかなか使えていなかったポップコーンを、この水書き半紙でなら手軽にうまく撮影できるのでは? と思い至ったのでした。

ポップコーンは、ゆび筆穂首が3種(大筆、中筆、小筆)、本体が2種(大人用、幼児用)2色(黄、青)あります。
私の場合は人差し指に「大人用」をはめると少しぶかぶかしたため、「幼児用」をはめてみました。ややきついですが、ぶれないのでいいかなと感じます。
中指には「大人用」でちょうど良い感じでした。親指にもはめられます。


202311namiko5.jpg人差し指に幼児用の大筆を装着して書いた。水書き用紙は緑



202311namiko7.jpg中指に大人用の中筆を装着して書いた。水書き用紙は赤



文字を書こうとすると、一般的な筆よりもやや大ざっぱな書き味になります。穂先が少し暴れるような感覚がありますが、これは慣れるとかなりコントロールできるだろうと感じました。
ただ、コントロールできなくても、これはこれで味になる、とも思います。きっちり書くというよりは、遊ぶような、とにかく気持ちが自由になるんですね。

202311namiko9.jpg穂先はばらけにくい。指が押し戻されるので運筆がふらつきがちだが、慣れるだろうと感じた



絵を描いたり、水彩色鉛筆で描いたものを水でなぞったりするときには、親指で使うのもありだなと感じました。
私の場合、人差し指の力が弱めで不安定なので、中指や親指に「大人用」をはめて使うことになりそうです。

202311namiko10.jpg

親指に大人用の大筆を装着し、黒の水書き用紙に書いた。私の場合、筆先を細かく動かすなら親指がやりやすく感じた



ゆび筆ならではの使い方として、複数の指にはめてかくことができます。
親指と他の指にはめると、紙の上でつまむような運筆もできますし、絵を描くのにも様々な表現ができるのではないでしょうか。私は…絵心はありませんが…。

202311namiko13.jpg


インクや絵の具、墨汁を扱うのは、立ってものを運べない私にはかなり面倒ではありますが(後片付けが大変なので)、固形水彩絵の具と水ならまだ扱いやすいかなと思いますし、これから色々とチャレンジしてみたいです。

軸がない分、収納スペースが少なくてすむのもありがたいですね。
濡れた穂先を乾かす方法がやや悩みどころではありますが、公式サイトによるとPP製のスタンド(ポップコーンを下向きに差しておける)もあるようなので、うまく活用していきたいです。

握力ゼロでも文字や絵がかけるのは本当に頼もしいですね!
この先、筋力がもっと落ちていくだろう私の未来にも、ずっと寄り添ってくれることでしょう。
かなり気持ちが楽になりました。

また、3色(黒、緑、赤)の「水書き半紙」も便利です。
消えゆく刹那の文字を書き散らかすのも楽しめますよ。

202311namiko15.jpg墨運堂「水書き半紙」。500回使用できる



ワークショップでは、50cm×70cmの「水書き用紙」も使用しました。大きな用紙に子ども達が本当にのびのびと落書きしていて、今後もこうしたワークショップを開催したくなりました。

202311namiko16.jpg小指以外の指4本にゆび筆を装着。いろんな遊びが楽しめそう

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて連載「車いすでみるなら」2015年2月~2019年5月、全70回。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」http://nam-kid.hatenablog.com/
初の著書『弱い力でも使いやすい 頼もしい文具たち』を2022年10月25日に小学館から発刊


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