1. 文房具ラボ
  2. 【鼎談】お気に入りボールペンを選ぶ「第7回OKB48選抜総選挙」を語る

【鼎談】お気に入りボールペンを選ぶ「第7回OKB48選抜総選挙」を語る

OKB48選抜総選挙」は、メーカーの枠を超えて選抜された48本のボールペンの中から、お気に入りのボールペンを選んで投票する選挙型エンタティンメント。毎回、実際にボールペンの試し書きができる「握手会」を全国各地の文具店などで実施しており、その場で投票を行う。また、公式サイトからの投票も可能で、これらの票を集計して順位を決定している。

7回目となる今回も、本サイト編集長の文具王・高畑正幸氏を個人スポンサーに迎え「文具王杯」として開催。2017年10月4日~12月31日までのおよそ3カ月にわたり投票を受け付けた。

総投票数1731票(握手会737票、Web994票)の中から1位に輝いたのは、これで7連覇となる「ジェットストリーム(スタンダード)」。2位は、前回まで3年連続で「ジェットストリームプライム」だったが、今回は「サラサクリップ」と順位が入れ替わるという結果となった。

*第7回OKB48選抜総選挙結果はこちらから。

OKB48総合プロデューサーの古川耕さんと、劇場総支配人の岩崎多(まさる)さん、そして高畑編集長の3氏に、今回の講評などについて語ってもらった。

「ジェット」が盤石の7連覇! 2位には「サラサ」が浮上!

――今回の総選挙の結果が出たわけですが、いかがですか?

【古川】顔ぶれがガラッと変わったとか、劇的な展開があったわけではないですが、細かく見ていくと、興味深い動きがいくつかあるなという感じです。

――どんな動きですか?

01ジェットストリーム.jpg
7連覇の「ジェットストリーム」

【古川】一つ目は、今まで「ジェットストリーム スタンダード」と「ジェットストリーム プライム」が3年連続でワンツーフィニッシュだったんですけど、今回それが初めて崩れて、「サラサクリップ」が2位に入って、「ジェットストリーム プライム」が3位になりました。これは、実際に試し書き会場に来て投票してもらう「握手会」票と、ネットで誰でも投票できる「Web投票」があるんですが、今回は握手会の会場が今年は少なく、投票が伸びなかったんですね。ということは、実際にペンを触って試し書きをしたというよりも、自分が普段使っているとか、記憶に残っているものを選びがちで、あまり高額なものは敬遠されちゃうとか、いろんな理由があって、「ジェットストリーム プライム」が若干伸び悩んだのではないでしょうか。実際に書いてみたら、みんな「いいね」となるペンなんですけど、そうじゃない限りは、値段だったりとか、「使ったことがない」「見たことない」「よく分からない」といった理由から敬遠されてしまい、それで地滑りを起こしたのではないか。逆に、「サラサクリップ」は本当に安定した人気を保ち続けているので、それが浮上するかたちになったというのはあると思います。

――なるほど。「サラサクリップ」はすごいですね。

30サラサクリップ.jpg2位に躍進の「サラサクリップ」

【古川】もう一つは、去年も話したかと思いますが、ゆっくりと世代交代が始まっています。もちろん、「ジェットストリーム」の盤石な強さは変わっていないんですけど、それ以外の部分では、ゆっくりゆっくりと変わっていて、その象徴が「ジュースアップ」ですよね。前回は初登場の「ジュースアップ」が10位で、「これはすごいね」という話をしていたら、今回は6位ですからね。これは明らかに、細字ゲルの定番品としてもう定着しつつあるんだなというのが見えてきたので、細字ゲルに関しては世代交代がほぼ完了しつつあるのかなという傾向がみえてきましたね。あと、「サラサドライ」(8位)なんかもありますが、こうしたゲル系のものに関しては、血の入れ替えが行われつつあるなと感じました。

【高畑】「シグノRT1」と「ジュースアップ」って、似たようなところで闘っている感じがするんですけど、後から出てきた「ジュースアップ」がものすごい勢いで抜いていったというのがあって。今回は、試し書きでは差がつかない状況だったんですけど、それにもかかわらず「ジュースアップ」がこの順位まで来たというのは、今回に関してはすでに知っている票が多いと考えると、かなり短期間で認知されたわけで、普及したスピードはすごいなと思います。それは「サラサドライ」もそうで、この2つの伸びがすごいなと。

【岩崎】この2つはすごかったですね。

22ジュースアップ.jpg32サラサドライ.jpg人気急上昇の「ジュースアップ」(上)と「サラサドライ」(下)

【高畑】「サラサクリップ」と「エナージェル」(4位)と「シグノ」(7位)に関しては、長いことかけてつくってきた信頼というのがあるから。特に「サラサ」は、学生のときに使う人が多いので。この総選挙は黒で勝負しているけど、実は色数が多い「サラサ」が、そうした横の広がりのすごさもあってすごく強い。「ジェットストリーム」は、名実ともにキングなんだけど、「サラサクリップ」「エナージェル」「シグノ」の3つは、これまでの地道なファンづくりの成果が出ているし、「ジュースアップ」と「サラサドライ」は短期間でののし上がり方がすごい。そして、いろんなものが動いている中で、全く動かないラミー「サファリ」があるという。

【古川】これ、すごいよね。ずーっとこの順位だものね(笑)。

【高畑】ずーっとここにいる。他が浮き沈みしているのに、ここだけ凪みたいな(笑)。全く波風が立たない感じで。

【岩崎】本当ですよ。

――ずっと、この辺りの順位ですか?

【岩崎】第1回目だけ11位ですけど、あとは4~6位の位置にいます。

【古川】ある種、理想の順位だよね。

【高畑】1位にはならないけど、ずっと神7の中にいるしね。しかも海外製で、この辺りの順位のものでは一番高価なんですよ。

【古川】先ほども言ったように、今回は握手会票が減ったので、ミドルクラスのボールペンが若干受難の年でもあったんですよ。書いてみて初めて分かるタイプのペンが多かったので。

【高畑】「リバティ」は、前回ものすごく良かったのに、今回ちょっと下がっているじゃないですか(前回6位→今回10位)。全体的に、高いものはみんな下がってるんですよ。値段が高いものは、それだけ触る機会が少ないので、握手会が少ないと不利です。

【古川】その中で、この「サファリ」の安定感はすごいんですよね。

【高畑】もちろんその可能性はないんだけど、何らかの陰謀すら感じてしまうという(笑)。

【古川】「サラサクリップ」に関しては、「SRS46カラフル総選挙」(サラサクリップ46色の中で最も人気のあるカラーを決定する総選挙)という姉妹イベントもありましたが、イノベーションは起こっていないけど常に火が入り続けているというか、メーカーが常に新しい動きを仕掛け続けているので、この安定した好位置を保っているんだと思います。

【高畑】中高校生にものすごくイメージを植え付けていくサラサの強さ、というのがありますね。中高生はメインはシャープペンだけど、手紙書いたりとか彩りのためにゲルペン使うじゃないですか。「コレト」とか「スタイルフィット」のような組み合わせ系か、それ以外でゲル単体だとサラサが圧倒的に強い感じです。

【古川】そこに関しては、ほぼ一強ですね。

【高畑】みんな、それになじんだ後に大人になっていくので、すでに知られている強みというか、それが2位にまでに上り詰めた要因なのかなと思います。

――何で、そこまで強いんですかね?

【高畑】1本100円(税抜)という安さで可動式クリップやラバーグリップも付いていて、色数も46色ある。全部入りで100円という親しみやすさがあるけど、その割にカチッとしてて、書き味もなめらかじゃないですか。

【古川】全く減点要素がないという感じですよね。ここまで知名度があると、周りがみんな使っているから触れやすいですよね。まさにこれは、デファクトスタンダードじゃないの。

【高畑】「サラサクリップ」と「ジェットストリーム」は定番としての位置付けで、「キャンパスノート」とかマルマンの「図案シリーズ」のスケッチブックなんかと一緒で持っている何かみたいなものがある。

【古川】浮き沈みを超えた域に入ってきている感じがしますよね。

【高畑】それまでは、「ジェットストリームとそれ以外」というイメージで見ていたのが、そうじゃなくて「ジェットストリーム、サラサとそれ以外」という感じが、ちょっとしますよね。「エナージェル」は、まだそこまで来ていないかな。

【古川】3位と4位の間に壁があるような感じがしますよね。

【岩崎】「エナージェル」は、票が割れているのが原因の一つかもしれませんね。「エナージェルユーロ」(12位)も結構票が入ってますから。

【古川】まあでも、「エナージェル」も結構強いですよね。これも常に火を入れ続けているから。「エナージェルフィログラフィ」があって、今回の透明軸の「エナージェルインフリー」があって、何年かごとに必ず新風が入ってきているので。

【岩崎】「ジェットストリーム」「サラサクリップ」「エナージェル」があって、そこに波風が立たない「サファリ」があるという構図ですね。あとは、前回入ってきた6期メンですか(笑)。

【高畑】「ジェットストリーム」と「サラサクリップ」は、よほど強力な新人が現れない限りそう簡単に負けない実力を持っているけど、「エナージェル」はまだ絶対的な強さは持っていない。4位~10位はまだ変動の余地があるし、今回「ジュースアップ」と「シグノ」4ランクアップなんですよ。大分ポンと上がってきているので。ここに関しては、これからの動向を見なきゃなという感じはするし。「エナージェル」は、定番としてはいいと思うんですが、最近は「ジュースアップ」のようなスタイリッシュなボールペンがどんどん上がってきているじゃないですか。

【古川】そうそう。

【高畑】そういうところに関して、「エナージェル」は長いことかたちも変わっていないし、というところで、今回スポットで透明軸の「インフリー」が出たじゃないですか。

【岩崎】それって、限定品ですか?

――そうです。数量限定ですね。

【高畑】この透明軸がかっこよくて、あまりに話題になっているけど、これに関しては今までスタイリストが付いていなかったという感じで(笑)。

【古川】「素材の良さだけで勝負してた」的なアイドル。

【高畑】写真集出したら「こんな感じだったけ?」と見違えたという(笑)。服とか化粧を変えて、垢抜けた感がある。

【岩崎】確かに、化粧を変えた感じですね。

【高畑】何割かは、見た目の推しというのもあるし、単に「なめらかだからいい」だけじゃないじゃないですか。透明軸はスポットなので、投票の対象にはならないけど、ポテンシャルはすごくあることが今回分かった。

【古川】「エナージェルクレナ」っていうビビッドな色遣いのものもありますよね。女性向けのもので。

【高畑】外側にプリントが入っているやつですよね。

【古川】そうそう、幾何学模様のプリントが入っているやつ。

【岩崎】すごいファミリーがいるんですね。

【古川】そう、細かく新風は入れてきているんだよね。

【高畑】今のところ、それがあくまでイベントとして登場してきているんだけど、この際本体の方が変わってもいいのかなと思うぐらい、姉妹ペンのデザインがおしゃれになってきている中で、考えるべきかなとは思いますね。

24ノック式エナ—ジェル.jpg限定品が注目を集める「エナージェル」

【岩崎】香り付きをやっているのは「サラサクリップ」ですか?

【高畑】やってるやってる。「チュッパチャップス」のにおいとか。

【古川】あとは、ディズニーなんかのキャラクター系。ああいうのは意外と重要で、「ブランドがまだ生きてますよ」というのを醸し出すのに必要なんだよね。

――カスタマイズペンなんかは、完全に軸デザインでの勝負になってますよね。

【古川】もう完全に、どのキャラクターの版権をとってくるかという話で。

【高畑】どちからというと、カスタマイズペンの方がそんなに広がりを見せていないので。芯を替えるのは当たり前にやっているけど、軸もバリエーションで使い分けてもらいたいので。元々、交換するのを楽しんでいる人たち向けの商品なので、柄ものとの相性はいいんだよね。

「見た目のよさ」も重要!?

――話は変わりますけど、「サファリ」は使っている人が投票しているんですかね?

【高畑】持ってなくても好きという人は多いと思いますが、持っている人もそれなりに多いと思います。使ってみて悪くないんですよ。すごくいいですよ。

【岩崎】握手会票も上位ですよ。

――普段使っていて、この結果なのかどうなのかと思ったので。

【高畑】他のとは違う、ヨーロッパの空気というか、明らかに風情の違いがあるので。やっぱり、好きな人は好きですね。

44サファリ.jpg毎回安定感のある「サファリ」

――日本人はラミー好きですよね。

【古川】ラミーの、しかも特に「サファリ」が好きですよね(笑)。

【岩崎】ラミーだけ突出してますよね。

【高畑】この中では高齢になるんですよ。

――老舗ですよね。

【古川】老舗だし、高いし。

【岩崎】握手会で3位ですね。

【古川】やっぱり、現物の見た目の良さというのもあるんですよ。

【高畑】持った感じの良さはありますよ。「サファリ」は、発売された当時から、すごい未来を見ていたところがあるので。

――握手会票が減って、プライム系のボールペンが軒並み順位を下げている中で、安定した順位にいるというのはすごいですよね。

【古川】デザインの力が、ずば抜けて高いですよね。

――デザインの力ですか。

【古川】昨年は「握り心地とか重心のバランスなんかも性能だよね」という話をしたと思うんですが、今年はそれとはちょっと別に、「見た目のよさ」という話をしたくて。一つ象徴的なのは、「ジュースアップ」の強さと、その裏側に「ユニボールR:E」の最下位というのがあると思っているんですよ。

【高畑】はい。

【古川】「エラベルノ」にも言える話だと思うんですが、普通の見た目にすることで、「日常的に普通に使ってもらおう」という戦略を見て取ったんですが、その戦略って実際にはどこまで有効なのかな? というのがあって。

【岩崎】なるほど。「エラベルノ」もそんなに上位じゃないですからね(エアリーゲルが21位、シルキー油性が26位)。

【古川】もちろん、「エラベルノ」は健闘したと見ることもできるんだけど、この見た目がもっと違っていたらどうだったのか。「ジュースアップ」って、やっぱり見た目はすごく大きいと思うんですよ。「シグノRT1」もそうですよね。「今のボールペン」の空気をまとった見た目じゃないですか。こういう外見って、ある種のシグナルにもなっているというか、若い子たちに「今のボールペン」と思わせている。逆に、「今のボールペンじゃない」と思われているデザインもあるはずで、「R:E」はひょっとしたら、「これは私たちが使うものじゃないよね」って弾かれているんじゃないの? と思ったんですよ。普通のデザインに落とし込むという戦略が裏目に出てしまっている場面もあるというか。

【岩崎】それが逆にすごいんだみたいな話だったんですけど。

【古川】会社なんかではこういうデザインの方がいいのかもしれないけど、少なくともこういう人気投票では、有利には働かないです。

11アールイー.jpg「ユニボールR:E」は今回の新人の一つ

――でも「R:E」は、「フリクションボール」と同様に、書き心地云々ではないので。

【古川】「フリクション」はそもそもOKBでは勝てないんだよね。(*前回の鼎談を参照)

【高畑】「フリクション」は、最初2位で登場しているんだよね。

【岩崎】それは、「フリクション」が「消えるボールペンってすごい!」って言われていた頃ですよ。その次に4位になって、第3回で12位になって日常のペンという存在になっていった。

【高畑】これは別に悪いことではなくて、機能的に特化した商品だから。「エアプレス」なんかと同じで、特徴がはっきりしているので、それが必要な人たちが持てばいいから。だから、15位に落ち着いているのは全然悪くなくて、「消える」という能力自体はかなりフラットに見てくれるようになってきたから。「フリクション」って最初にキャップ式が出てきた時って、個性的だったんですよ。あれは、「違うものだよ」というのを主張してたと思うんですよ。

――デザインが少し派手な感じでしたよね。

【高畑】「消せるのが当たり前だよ」といって出てきた「R:E」は、むしろスタイリッシュで売るというとか別の打ち出し方があったのかなという気はしなくもない。

【古川】素人目に見ても「攻めてるな」というデザインだったらどうだったかなというのはあるので。

【高畑】いい意味で個性を主張する。個性が強すぎるとなかなか難しいものもあると思うんですけど、「無難だけどかっこいい」みたいなそこら辺りのバランスですよね。

――「ジェットストリーム」は、書き味はもちろんダントツなんですが、見た目的にも支持されているんですか?

【古川】これが正解かどうかは分からないですが、「モードが変わったんですよ」というのは主張していると思うんですよね。それは、特に「ジュースアップ」が象徴的だし、「フリクションボールノック」も「RT1」も今までのボールペンとモードが違うというのは主張していると思うんですよ。

【高畑】「ジェットストリーム」は、低粘度油性ボールペンの顔みたいな風になってしまったので。実力ありすぎるとこうなっちゃうというのは、例えば「カップヌードル」がそうで、「ジェットストリーム」もそういう感じになっちゃったから。

【岩崎】先駆者の1人として。

【高畑】全くなかったジャンルを拓いたものに関しては、その力が強ければその定着してしまうことがあるので、今から「ジェットストリーム」のかたちを変えるべきかというと、これは変えなくていいのかもしれない。

【岩崎】「MONO消しゴム」みたいに象徴しているものになっているんですね。

【高畑】「ジュースアップ」がかなり後から入ってきたのにもかかわらず、スパーンと順位上げてきたのは、見た目もあるなと思うので。

【古川】「サラサドライ」とか、「シグノ307」なんかは、モードが変わったあとの新製品という感じがするんですよ。

【高畑】「シグノ307」は14位なんだけど、デザイン的にクセが強いので。これは、「セルロースナノファイバーを使った新インクだよ」というのを表現するのに、ボディが普通じゃダメだったんだろうなと思いますね。

【岩崎】それを表現しているんですね、このボディは。

【高畑】何か違うものにしないと。普通のボールペンと同じにしてしまうと、「インクが違う新商品だよ」というのが分からないので。「ユニボールエア」なんかもそうじゃないですか。「全く新しいものだよ」というのを伝えるようにしないと。今までと違うという上でカッコよくしないといけないのは難しいけど。「ビクーニャ」(20位)なんかでも、「ジェットストリーム」に影響されているように見えちゃうじゃないですか。この、ナナメに切っているボディのデザインで、低粘度系インクだというのが分かるんですよね。そういうのがデザインの流れであるので、その文脈から外れているところが、まああえて外したんでしょうけど、そこのところが難しかったのかなという気がします。

――今回の新顔で、気になっているボールペンはありますか?

【古川】「エラベルノ」のこの順位をどう評価するかは、どっちの見方もできるなと思います。健闘とも言えるし、「もっと上に行けたんじゃないの」とも思えるし。

【高畑】「エラベルノ」って実は発売日が投票開始日だったんですよね。だから、投票開始直後は持っている人ってそんなに多くなかったはずなんですよ。

【岩崎】これは、Web投票では不利ですね。

【高畑】そう、Webは不利なはずなのに、この順位なんですよね。それを考えると、期待値も含めてのかなり高い人気なのかなという気がしますね。

42エラベルノ_エアリーゲル.jpg

41エラベルノ_シルキー油性.jpg

今回初登場の「エラベルノ」はエアリーゲル(上)とシルキー油性(下)の2種類

――ゲルの方が順位が上なんですね。

【高畑】これはどうなんでしょう? 使い勝手や書き心地でいうと、どちらもちょっと描線が太めなんですけど、「なめらかで書きやすい」という観点からいくと、優等生かな。書き心地に関しても、ちょっと大人かなとは思うんですよ。カリカリと細く書くタイプではないので。どれも、なめらかでヌルヌル書く系でちょっと太いという感じなので、大人相手なのかなと思います。

【古川】来年あたり、どの位置に来ているのか気になりますね。かなりイレギュラーな入り方をしてきているので。

【高畑】そうですよね。コクヨが久しぶりにボールペンに本格的に再度参戦するにあたって、自分たちが新たに入ってきたんだよというのをどういう風に主張していくかといったときに、この組み合わせワザというか。インク開発で筆記具メーカーがこれだけしのぎを削っている中で、コクヨとしてはそこだけの性能で戦うのは難しいと考えてボディ交換式にしてきたと思うんですけど。

【岩崎】そうやって、インク入れ替えたりする文化は根付いているんですか?

【古川】もう、カスタム系が根付いているというのは、当然のことで。

【高畑】多色じゃなくて、単色でやってきたというのは、他がやっていなかったということもあって、それをウリにしている。低粘度油性を拓いた「ジェットストリーム」みたいな感じで、「単色系で持ち心地を選んで組み合わせるペン」の最初をやりたいというのがあると思うんだけど、向いている方向が大人なので、デザインが無難なのかな。

【古川】このコンセプトがそれと相性がいいのかということだよね。

【高畑】そうですね。トリッキーに行かずに、割と大人しく作ってきた。すごい大人なつくり方で。

【古川】そもそも、大人がそこまでカスタムするのかというのが分からないんですよね。だから、来年どこまで行っているのか、または今後商品展開をどのようにしていくのかというのを見ないと分からないですね。

【岩崎】若い人バージョンを作るべきですか?

【古川】多分、女性向けの展開を増やしていくような気はしますね。

【高畑】実は、このボディは3タイプあるんですけど、グリップしか違わないんですよね。ということは、今後グリップだけ変えて出してくることはできるし。やりようはまだありそうだし。リフィルの軸も印刷かけてきているじゃないですか。だから、リフィルのデザインまでできるという、いろんな可能性があると思うので。あとこれ、中にどのリフィルを入れているのかが分かるように軸に窓が開いているので、不透明軸も成立するんですよね。

【岩崎】リフィルに油性の「Y07」とか書いてあるのが、窓から見えるんですよね。

【高畑】スポット商品はともかく、メインのラインはまだしばらくデザインは変えないと思うんですよ。この組み合わせていくのが、どこまでいけるかの勝負になっていると思う。

――握り心地が選べるんですよね。D型グリップの位置も調整できるし。

【古川】狙いどころは全く悪くないと思うんだけど。

【高畑】以前だと、グリップ自体が変形するものだとか、人間工学的にどうだというものもあったんですけど、要は個体自体もものすごくクセが強くなるのと、価格が高くなるというのがあったのを、ボディ100円、リフィル100円という普及品の中でそれをやるという切り口自体が、分かってしまえばアリなんだけど、これが伝わって広がるかどうかだよね。

【岩崎】好事家には分かるんでしょうけど。

【古川】そこそこのリテラシーが必要とされるものを、王道として売ろうとしているから。そこを埋めるだけの文房具リテラシーが世間に高まっているのかどうかだね。

世代交代が進む中、ベテランも存在感を発揮!

【高畑】これまで7回総選挙をやって見えてきたものは、特殊な機能を持っているものはあまり上位に入ってこなくなったかなということ。「パワータンク」(31位)や「エアプレス」(46位)とか、「マルチボール」(40位)とか、そういう系のものが。純粋にボールペンを楽しむようになってきているのかな? 何年も参加してくれている人もいると思うんだけど、その人たちが成熟してきている感じがしなくもない。

【古川】そうですね。

【高畑】あと、新製品が上にちゃんと上がって来ていて、従来品をちょっとずつ押し出している感じがしていて。その新製品が、目新しさだけでポンと出てきていずれ消えるのかというと、そうではなくて割と実力を持って出てきている。「ジュースアップ」みたいに、6期で登場して、そのまま上位に居座るということが、普通に起こっている。「サラサドライ」ももそうだし。

【古川】「シグノRT1」もそうですね。これも比較的新しいですから。

【高畑】今ちゃんと確実に開発されているものが、世代交代しているというのがありますよね。新陳代謝がちゃんとされている感じがすごくする。

――その中で「シグノ」が7位で、また上位に来たんですか?

【高畑】これも長いですよね。この中で見ると、「シグノ」もどちらかというとベテランですよね。

――前回だと11位ですね。

【岩崎】その前だと7位なので、Webと握手会の投票の比率によってその辺りは変わるかもしれませんが。

03ユニボールシグノ.jpg

根強い人気の「ユニボールシグノ」

【古川】「シグノ」は、「サラサ」ほど仕掛けが多くないはずなので、シグノはシグノでやっぱり強いんですけどね。

――根強いんですかね?

【古川】根強いですね。

【高畑】「サラサ」はどちらかというと汎用品なんですけど、「シグノ」は絵描きの人とか、ノートをきっちり取りたいような人とか、そいう細かくきちんと書きたい人たちにずーっと応え続けてきている。昔は「シグノ」対「ハイテックC」だったんですよ。

【古川】ありましたね。

【高畑】それが、ライバルが入れ替わりつつ、ここの位置にずっといるんですよね。これは、どちらかというとベンチマークになっているんですよ。

――しかも、ノック式じゃなくてキャップ式だし。

【高畑】未だにね。それで「シグノ」のすごいところは、自分の手先からボールの先までのブレない感じがものすごく強い筆記具なんですよ。これで絵を描いているイラストレーターっていっぱいいるので。今はほとんどノック式だけど、シグノはそういう強みを持っていてファンも多いのかなと思う。

【古川】OKB総選挙で各ボールペンの説明文は全部僕が書いているんですが、「シグノ」の説明では初期の頃は必ず「タイト」とか「堅牢」という言葉を使ってましたよ。硬いんだよね、極端に。上位陣の中では実はかなり特徴のある書き心地をしているというか、全然違う指向性を持っていますね。

【岩崎】上位で、キャップ式の細書きはこれだけです。

【古川】だから、キャップ式の細書きで最高峰だと思いますね。

【高畑】図とか絵とか、正確にそこに落とし込みたいときとか、小さい文字を書くにしても、流さない。だから、そこは立ち回りが一つだけ違う感じがする。

【岩崎】そんな特徴があるんですね。

【古川】そういう特徴がウケていると思わざるを得ない。

【高畑】これで漫画描いている人もいるくらいだから。

――そうなんですね。

【高畑】これをみると、上位に入っているペンのファン層ってはっきりしているよね。「サラサドライ」も、「サラサクリップ」とはまた別のファンをすでに持っているし。

【古川】あと、見た目に関していうと、「サラサ」や「シグノ」は経年劣化しない見た目をしているというか、余計な味付けを発売当時からしていないので、古くて一昔前だなという感じがしない、ちょうどいいところなんだよね。ここは見事なんだと思いますよ。

【高畑】そうだよね~、完成度が高いよね。その最たるものが「サファリ」だよね。

【古川】それが一番エイジレスというか。

――なるほど。エイジレスですよね。

【高畑】「ZOOM505」なんかもエイジレスな感じがするじゃないですか。いつまで経っても「懐かしい感」に持って行かれない。それと、実用的なバランスが、上位のペンにはありますよね。楽に書きたい人には、「ドクターグリップ Gスペック」(9位)もあるし。ドクターグリップもよくできてるよなぁ。

【古川】何が得意なペンなのかが、見た瞬間に分かるというか。

【高畑】そうですね、そこが上位に残っているペンの良さでもありますよね。

13Drグリップ.jpg

こちらも毎回人気の「ドクターグリップ Gスペック」

――ロングセラー品と新興勢力がバランス良く上位に来ているという感じですか?

【古川】う~ん、どうかな。個人的な見立てでいうと、「もっとこれは上位に来てもいいんじゃないの」というものもあるし。例えば「ボールサインノック」なんかは、現物を触れば「いいね」となると思うんですけど、Web投票が中心になるとそういうものは伸びないですよね。

――「ボールサインノック」は44位ですか。あんまり伸びなかったですね。見た目もインパクトあるし、書き味だって悪くないし。

【古川】書き味は全然悪くないですよ。

【高畑】Webに写真を載せると、黒だけじゃないですか。「ボールサインノック」は、カラーがきれいだったりするので。

――かたちもそうだし、現物を見るとあの小ささにもビックリしますけどね。

【古川】そうなんですよね。そいうところがWebのサムネイルの写真だけだと分かりにくいのかもしれません。

【高畑】Webの写真だけだと、持ち心地が伝わらないのがちょっと残念ではあるね。何とか握手会票を増やしていきたいとは思っていますが。

――岩崎さんは何か気になっているものはありますか。

【岩崎】10位に入っている「リバティ」ですね。6期メンバーの中では、あまり取り上げられてない気がしますが(笑)。

【古川】新製品じゃなくて、前からある商品だから。

【高畑】OKBで発掘されたものって多いじゃないですか。やってみたら、すごい良かったものって。

【古川】「リバティ」は、その最たるものかもしれませんね。

【高畑】前から、「このペンは入れないのか」とか色々言われるんですが、この48本が限界だと思うし、その48本が段々と入れ替わってきているので。

【古川】それが面白いですよね。

【高畑】ボールペンというのは、みんなが買って使うことでしか存続できないので、そこは応援してあげてほしいなと思います。

【岩崎】本当にアイドルみたいですね(笑)。

【高畑】一度廃番になると復活するのは難しいので。書き味を再現するのは難しいんですよ。だから、そこは使い続けてあげないと。

【古川】7回もやると、色んなものが見えてきて面白いですよね。世代交代している局面を見続けていますからね。

――次回に向けて気になるボールペンはありますか?

【古川】さっきも言いましたが、気付いたら「エナージェル」系が結構出ているんですよね。「インフリー」とか「クレナ」とか、「フィログラフィー」もまだOKBには入れていないので。まあ、どう取り上げるのかは難しいですが。

【高畑】僕は、最近発売されたばかりの「アクロ300」ですね。

――今後も色々と新製品が発売されるでしょうから、その辺がどう絡んでいくのか楽しみにしています。本日はありがとうございました。

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう