1. 文房具ラボ
  2. 入門編からステップアップまで 銀座・伊東屋がおすすめする万年筆

入門編からステップアップまで 銀座・伊東屋がおすすめする万年筆

デジタル化が進む中にあって、超アナログなツールである「万年筆」が再び脚光を浴びつつある。東京・銀座にある伊東屋本店の万年筆売場の張替(はりがえ)英行さんも、「以前は来店されなかったような新しいお客様が増えています」という。張替さんは、万年筆の修理などを受け付ける「ペンケアルーム」を担当しており、万年筆の相談事にも応じているという。そんな張替さんに、初心者に最適な入門編から、本格的に万年筆を使いこなしたい人向けのステップアップ商品まで、おすすめの万年筆を教えてもらった。


万年筆を選ぶために

0.jpgG.Itoya3階の高級筆記具売場

伊東屋本店の万年筆売場は、2016年9月のリニューアルで別館K.Itoyaから本館G.Itoya3Fに移転。対面販売式のガラスケースが並ぶそれまでの売場から、気軽に商品を見て歩けるような回遊性の高いレイアウトになった。

「今回のリニューアルでは、お客様の幅が広がりました。以前は、常連の方が目立ちましたが、今は初めてご来店いただくような方が増えたと思います」。

海外からのお客も増えたそうで、その中には中国などアジアからのお客も少なくないという。「中国からのお客様には、セーラー万年筆の長刀研ぎの万年筆が人気です」と張替さん。

長刀研ぎは、通常のものよりもペンポイントが大きくて、それが長刀のように長くなっているというセーラー万年筆独自のオリジナルペン先で、筆記の角度によって描線の幅を変化できるというもの。“長刀”という言葉が中国の人にもなじみ深いためかこのペン先を付けた同社の万年筆が人気とのこと。そんな事情もあり、今はかなり品薄の状態となっているようだ。

また、「若い方のご来店も増えました」と張替さん。「初めてという方は、雑誌やインターネットで事前に情報を仕入れてからご来店される方が多いですね」という。

1.jpg
ペンケアルームで作業を行う張替さん

ペンケアルームは同フロアのレジ横にあり、お客が気軽に万年筆の相談事を持ちかけられるようになっている。張替さんがよく受ける相談事は「万年筆をステップアップしたいんです」ということだとか。

「入門クラスの万年筆を使っている方から、“これ以上のものはありますか?”というご質問を受けることがあります。そういう場合には、万年筆のクラスがどう違うのかをご説明して、それでご判断いただくようにしています」。

例えば国産メーカーの場合だと、入門編はスチールペン先になるが、5千円以上の商品になるとペン先は小さいけれど金ペンの商品も出ている。そして、1万円クラスになると、その金ペンも大きくなり、外観も丈夫でしっかりとしたつくりになる。

「そうしたことを一通りご説明しますが、今お使いのもので満足されているのであれば、ステップアップする必要はないのではと思います。どのクラスの万年筆であっても、満足できるものがあれば、それがその人にとって最高の万年筆ではないでしょうか。もちろん、商売ですので高い万年筆が売れた方がいいのですが(笑)、それ以上に“気持ちよく万年筆を使ってほしい”という思いの方が強いです。そうして、一人でも多く万年筆を好きになってほしいと思っています」。

万年筆を選ぶ上で大事なことは、「自分なりの使用シーンをイメージすること」。

「クルマの場合、軽自動車、普通車、大型車などがあり、その中から自分の目的に合ったクルマを選んでいます。万年筆にも同じ事が言えるのではないでしょうか。目的を明確にすれば、ステップアップの必要性も判断しやすいでしょう」。

そうした話も踏まえて、張替さんに教えてもらった各クラスのおすすめ万年筆は次の通り。(*表記の価格は伊東屋での販売価格で、すべて税抜です)

入門編でのおすすめは

2.jpg右からカクノ、ペリカーノジュニア、サファリ

入門編の万年筆として、パイロット「カクノ」(1,000円)、ペリカン「ペリカーノジュニア」(1,600円)、ラミー「サファリ」(4,000円)の3点をあげてもらった。いずれも万年筆としては手頃な価格だが、書き味には定評がある。「カクノ」や「ペリカーノジュニア」は、元々子どもが使うファースト万年筆として発売されたものだが、大人にもよく使われている。

「書き味という点では、この中で一番安価な『カクノ』でも十分過ぎるくらいです」。

「サファリ」は毎年、その年の限定色が発売されて人気だ。今年も5月下旬から限定色の「ペトロール」が発売されて大きな反響となっている(*こちらの記事を参照)。「サファリは色違いを一人で何本も持っている方が多いですね」と張替さん。

ステップアップしたい人におすすめの万年筆

3.jpg

左から「エキスパート」、「ソネット」(スチールペン先)、「ソネット」(金ペン)、「カスタム74」


「ステップアップするとしたら?」という場合におすすめしているのが、上写真の万年筆。いずれもオーバー1万円クラスの本格的な万年筆だ。「外観もグレードアップして丈夫なつくりになっていますし、書き味も向上しています。このクラスになると、ずっと使えるものになってきます」と張替さん。

海外ブランドでは、特に男性におすすめなのが、ウォーターマンの「エキスパート写真の商品は16,000 円。ビジネスシーンでも使えるデザインで、ペン先はスチール製だが、さすがにエントリークラスよりもしっかりとした書き味だ。

女性におすすめなのが、細身で持ちやすいパーカーの「ソネット」。バリエーションが多彩で、スチールペン先のタイプ(写真の商品は15,000 円)のみならず、金ペン先のタイプ(写真の商品は35,000 円)もラインアップしている。

「金ペンとスチールペン先の違いは耐久度にあります。金ペンは劣化しませんので。国産ならば、その金ペンの万年筆が1万円で手に入ります。それ以上のものになると、いろいろな付加価値が付いてきますが、実用品としてはこれで十分ではないでしょうか」。

写真では、パイロットの「カスタム74」(10,000円)を載せているが、セーラー万年筆ならば「プロムナード」、プラチナ万年筆ならば「♯ 3776 センチュリー」が「カスタム74」と同じく1万円で金ペンの万年筆になる。

さらに上級を望む人に

4.jpg
左から「ラミー2000」、「スーベレーンM800」「同M600」「同M400」

さらに上級ということで、ボトルからインクを吸入して使う吸入式の万年筆を紹介してもらった。おすすめとしてあげてもらったのはペリカン「スーベレーン」シリーズとラミー「2000」。

ペリカンは、ドイツの名門ブランドだが、「あらゆる人に合いやすい万年筆だと思います。感覚としては、国産万年筆に近いのではないでしょうか」という。スーベレーンシリーズは、M300からM1000まで5種類のサイズがあるが、中でも「M400」(35,000円)、「M600」(40,000円)、「M800」(55,000 円)の3サイズが使いやすいのではとのこと。

一方、ラミー「2000」(30,000 円)は、「サファリなどラミーが好きという人のステップアップ万年筆としていいんじゃないでしょうか」という。

ちなみに、ボトルからインクを吸入す
る際は、「ペン先を拭いてから吸入した方が良いです」と張替さんは言う。「ペン先に手のあぶらやホコリなどが付いていることがありますが、そうした不純物がインクに混じってしまう心配がありますので」とその理由を説明してくれたが、目からウロコが落ちる思いがする。ボトルインクを使っている人はそこまで気を配って使った方がよさそうだ。

ここで紹介してもらった万年筆は、比較的オーソドックスなものが中心。「もっといろいろな万年筆に興味がある」という人は、実際にお店で商品を見ながら試してみてはいかがだろうか。「気になることがありましたら、ぜひご相談ください」と張替さん。

【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう