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【連載】車椅子ライターから見た 弱い力でも使いやすい文具たち #7「書きやすい筆ペン」

波子

[毎月25日更新]

私は元々さほど筆圧が高かった訳ではないのですが、力が弱くなってからは明らかに筆圧が落ちてきました。
幸いなことに、今はボールペンでもサラサラぬるぬる滑るように書けるペンがたくさん登場していますが、長時間の筆記はやはり疲れます。

書くときにあまり力が要らない筆記具も、実はいろいろとあります。
そのひとつが、筆ペン。
今回は、私が今もっとも愛用し、信頼している筆ペンをご紹介します。

呉竹「くれ竹 美文字 完美王」

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呉竹の「くれ竹 美文字 完美王」を初めて購入したのは、2014年10月でした。
それまでも呉竹の筆ペン「美文字筆ぺん 毛筆中字」を長く愛用していたのですが、何やら新しい筆ペンが発売されたらしいと聞いてとてもワクワクしたのを憶えています。

当時発売されたのは、「中字」。
手に取ってみてまず驚いたのは、軸の太さ。まるで本物の毛筆を持つような感覚で運筆することができるのです。
力が弱くなると、細い軸の筆記具を使うのが苦手になります。安定感が悪くなるんですね。
完美王は、そんな私に「運筆の心地よさ」を思い出させてくれました。


20180925namiko2.jpg指3本で軽く挟むようにして持っても書ける。少々ふらついた運筆も「味」に見せてくれるのが完美王


次に驚かされたのが、穂先のコントロール力(りょく)と安定感。
どんな風に運筆しても、最後には穂先の細さがするりと元通りになります。
つまり、どういうことかと申しますと、自分の実力以上の文字が書けるのです。

当時の私はツイッターで「字がうまく見えるように筆ペンが動いてくれます。明らかに私じゃない美文字力が働いています。下手な部分は私の力不足であって、きれいなのは完美王の力なのです。でも、書いた後ものすごく気分がいいです。」と興奮気味に書き込んでいます。
運筆をうまくアシストしてくれるんですよね、完美王が。

軸が太いので、指で軽く挟むように持つだけでも筆記できます。味のある文字がすらすらと書けるので、本当に気持ちがいいんです。
軽く挟むだけで書ける大きな理由が、この筆ペンの最大の特徴である「カートリッジ式なのに本体を押さなくても自然にインキが流れる」ことにあります。
軽く手に持って運筆するだけで、たっぷりとしたインキが紙の上にのってくれます。
また、普段ほかのペンを持つのと同じように持っても、違和感なく書けるのも魅力。
完美王は、持ち方を選びません。

穂先がすぼむように細くなっているので、小さな文字もある程度は書けます。
年賀状の宛名をすべて筆ペンで手書きしてきた私にとって、100枚を超える宛名書きは毎年それなりに疲労していましたが、完美王と出会ってからは格段に楽になりました。
太い軸を軽く持って書ける、穂先が安定している、インクがたっぷりと出てくれる。
結果として、宛名書きでは住所の小さめな文字と名前の大きな文字が両方しっかりと書けました。
出会ってから3年間、「完美王 中字」は私の強い味方でした。


昨年の秋、「完美王 極細」「完美王 太字」を購入しました。
中字では少々書きづらかった便箋も、極細なら問題なく書けます。この頃の私は万年筆(軽い力で筆記できますが、ペン先の向きに縛りがあるため持ち方が制限されます)で文字を書くのが難しくなってきていましたので、極細の発売はとても嬉しいニュースでした。
そして太字。これまで使っていた中字よりもずっと太い線が容易に書けるので、年賀はがきの一面にでかでかと新年のご挨拶を書いても様になります。
太さが三種揃ったことで、年賀状の宛名書きでは住所に極細、名前に中字、裏面の挨拶は太字、と使い分けることが可能になり、いっそう書くのが楽しくなりました。

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文具王がよく「文房具はひとの機能を拡張してくれる」と仰いますが、本当にその通りで、書きやすいペンを使うと実力以上の筆記ができます。
私にとって「完美王」はまさにそういう筆ペンです。
少々持ち方が不安定であっても、しっかりサポートしてくれる頼もしい味方です。
純粋に「文字を書きたい」という意欲が湧いてくるくらいに。
これからもずっと愛用します。


20180925namiko4.jpg右から「太字」「中字」「極細」で書いた。太字でもある程度の細さ、極細でもある程度の太さが出せることも魅力のひとつ


20180925namiko5.jpg私が毎年の年賀状宛名書きで苦労する地名のひとつ「醍醐」。中字でも書けるが、極細だと難なくクリアできた



20180925namiko6.jpg太字は思い切り太く書くのが気持ちいい。穂先が自動的に整ってばらけないため、力を抜いて筆を動かしてもきれいに仕上がる。また、小さめのかな文字も書ける

プロフィール

波子
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2006年に杖歩行となり、2012年から車椅子、2014年12月から簡易型電動車椅子を使用。便利な道具や文具が好き。
奈良県奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
産経新聞奈良版および産経WESTにて「車いすでみるなら」連載中。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」 http://nam-kid.hatenablog.com/

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