【連載】月刊ブング・ジャム Vol.22 2019年新春スペシャル その2
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに「2019年の文具はこうなる!」という予測を語ってもらいました。
100円の油性ボールペンよどこへ行く(他故さん)
――次は他故さんお願いします。
【他故】去年は、「シャープペンシルをみんなで楽しもうよ」という話をして、結果シャープペンシルは流行ったままずっと来てたと思うんですが、自分の中での流行は変わってしまうもので、2019年はもう一度油性ボールペンにフォーカスしてみたいなと。
――ほう。
【他故】たまたまなのかもしれないですが、昨秋に地方に出張に行って、文房具関係のいろんな人と話をしたときに、「店頭で100円の油性ボールペンが売れなくなった」という話を聞いたんですよ。
――へぇ~。
【他故】150円や200円のものはよく売れるけど、もっと高いものもよく売れると。
――要は「ジェットストリーム」みたいな100円よりも高いものが売れるんですね。
【他故】そうです。「自分でお金を払うからには、いいものを買う」という人たちが買っていく価格帯のものはよく売れるけど、100円の油性ボールペンがパタッと止まってしまったと言う人が、結構いらっしゃった。
【きだて】その価格帯だと、店頭ではなくて、おそらくアスクルみたいなところでまとめて買うようになってるんだと思うけどね。
【他故】多分、まとめ買いをするんだったらアスクルとか使うだろうし、もしかしたら、「100円のものは100均でいいじゃん」と言って、特にメーカーにはこだわらずに100均で買っている人もたくさんいらっしゃるだろうと思いますし。じゃあ、文具店の店頭に100円のボールペンは要らないのか?というところに、個人的に注目して見ていきたいと思います。
――なるほど。
【他故】なくていいわけじゃないんだけど、メーカーとしてはおそらく、昔事務用のボールペンが50円だったころに、それが60円、70円、80円と上がっていき、ようやく100円になりました、という時代が長かった。段々値段が上がってきたけど、それをみんなが許してくれたということもあるでしょうけど、性能が上がったということも当然あったと思います。今のボールペンの性能が悪いとは言わないけど、150円から上のものが良すぎる。
【きだて】それはあるね。
【他故】みんなちゃんと分かってて、ちゃんと選ぶ人たちになってしまったので(笑)。100円のボールペンに関しては、ゲル以外は売れなくて、空洞化しちゃうんじゃないかなという風に思うくらい。
【高畑】それは、100円のボールペンが売れなくなったというよりは、150円のボールペンが売れるようになったということなので、メーカー的には単価も上がるし、それはつらいことなのかどうかというと…。
【他故】メーカーは、という考え方とはちょっと違うけど。
【高畑】それは、150円が最底辺になってきてるということだよね。
【他故】逆に、100円のボールペンでまだまだ頑張るという商品が出てくるのかなと思うけど。
――他故さんが個人的に興味があるのですね?
【他故】すごく興味があります。「100円でいいじゃん」と言っていた人たちが、みんな150円に行っちゃったというのも、すごいなと思うんですけど(笑)。
――そうですよね。
【きだて】逆に言うと、100円のペンよりいいものがたった150円で買えちゃうのかよ、っていう。50円しか上がってないのかよと思うけど(笑)。
【他故】10年前は、「50円余計に払えばいいものが買えますよ」といって、「150円のボールペンがあるぞ」という話をしてたじゃない。でも今は、「150円でこれなら、100円のボールペンは買わない」という時代になっちゃうのかな。
――100円のボールペンっていうと、どのあたりですかね?
【きだて】例えば、パイロットの「スーパーグリップ」なんかはそうですよね。
――ああ、そうですね。
【他故】メーカーごとに考えても、例えば、三菱鉛筆の100円って何があるのかピンとこなかったりするんですよ。
――確かに。
【きだて】三菱の100円って、今は何だ?
【高畑】「楽ボ」だよ。
【きだて】ああそうだ、「楽ボ」だ。
【他故】ゼブラは割と100円のボールペンが得意だけど。
【高畑】ゼブラはだって、「サラサクリップ」が100円じゃない。
――エマルジョンインクの「スラリ」も100円ですよ。
【他故】だから、ゼブラは100円が得意なんですよ。
【高畑】その辺り、ゼブラの変わらなさがすごいね。
【他故】その安定感も素晴らしいという感じはあるんだけど(笑)。
――ゼブラで、100円の油性ボールペンっていうと、「ジムノック」というイメージですよね。
【きだて】ああ、そうだ「ジムノック」ですね。
【他故】「ジムノック」とか、パイロットだったら「レックスグリップ」とかあるけど。
【高畑】「レックスグリップ」ね。あれも名品だけどね。
【他故】世の中のみなさんに響く話ではないですが、100円のボールペンを自分でも使ってないことにハッと気がついたんですよ。
――なるほど。ちょっと原点に戻ろう的な感じですか?
【他故】もっと100円のボールペンが売れてもいいと思いつつ、売れないという理由も含めてウォッチしていきたいなという感じがあって。
【高畑】うむ。
【他故】OKBの中では、100円のボールペンって少なくなっちゃったの?
【高畑】大分少ないね。少なくなりましたよ。
【きだて】ああそうだね、言われてみれば。
【高畑】やっぱり人気がというのと、新しく投入される商品は150円以上だったりするので、まあそれはしょうがないかなという気はするけど。
【きだて】100円台で差別化しにくいというのもあるよね。
【高畑】「売れなくなった」というと、ボールペン全体が売れなくなったと思われるけど、油性ボールペンの出荷額はずっと右上がりなので。そうじゃなくて、これはシフトなのかな?
【他故】出荷額は上がっているから、高いものがちゃんと売れているんだろうね。
【高畑】じゃあ、安くて普通のボールペンは今後どうなっていくのか。
【他故】今後見守りたいところなんだけど。
【高畑】格安というやつもあるじゃん。10本いくらというやつもあるじゃない。
【他故】あるね。本当の意味で安いやつはいくらでもあるからね。
【高畑】だから、そっちにシフトする可能性はあるよね。「何でもいいや」というのは、10本100円みたいなところに行く可能性はあるじゃない。
【他故】うん。
【高畑】だから、誰がどっちへ流動したのか知りたいよね。どのくらいの人たちが、前にいたところからどっちへシフトしたのかとか、どういう目的のものがこっちに買われているとか、そういうのが分かると面白い。
――会社でみんな何使ってるんですかね。自分で買って使ってるんですかね。それとも、会社から支給されているんですか?
【きだて】会社支給というか、会社で一般的に使われるBtoB向け商品があるので、それは結構まとめ買いでお得みたいな、それこそ10本一束みたいな売られ方をするんだよ。それは、いわゆる「100円でいいや商品」だったりするわけだよ。
【高畑】そういうのって、100円でも高いって思われない?
【他故】そうだね。
【きだて】それをまとめ買いすることによって、1本あたりの単価が65円くらいまで下がるとか。
【他故】今年一年間で、100円の油性ボールペンで新製品が出るのか。
【高畑】150円で、あんな「ブレン」みたいなのを出されちゃったらさ、どうしようかと思っちゃうよね。
【きだて】あれはさすがに戦略的過ぎるだろ。対ジェットストリームみたいな話じゃん。
【他故】ゼブラがついに、150円で自分たちの剛速球を投げてきたという話だよ。
【高畑】しかも、無音の剛速球ね。
【きだて】音が消える魔球(笑)。
【他故】注目すべき商品はたくさん出ているけど、ここから先100円の油性ボールペンはどうなるのかを見ていきたいなと思います。
――確かに、ここのところボールペンって、高いところを目指していたわけですよね。1,000円とか2,000円とか。
【他故】いや、ぶっちゃけなくなってもいいんですよ。しょうがないっていう気もしますけど(笑)。
――でも、長年100円ボールペンを見慣れた身としては。
【他故】底辺が150円になるのであれば、そういう時代だということで、それを見ていきたいということもありますよね。
――どこまで100円がいけるかという。
【他故】事務用のボールペンが80円から100円に値上がった時代を見てきているだけに、余計にそんな感じがあるんですが。
【高畑】考現学的には、タバコの値段がどうなったのかとか、コピー用紙の価格がどうなったのかとか。
【他故】でも、これは物価の話ではなくて、性能的に適切かという(笑)。
【高畑】多分、他のもののベースをみても、日本ではほとんど上がってないんだよね。ここしばらくね。
【他故】そう。上がってないんだよ。
【高畑】その中で、上がってるのかという話だよね。
【他故】シャープペンシルは間違いなく上がったと思うんだけど。
【きだて】そうだよね。
【高畑】でも、150円って1.5倍だよ。
【他故】「200円でいいじゃん」っていうものを150円で売っている気がするからね。
【高畑】なるほどね。でも、恐いのは、僕らが今売れているものに注目しがちじゃん。それで、よくある話なんだけど、現れるものってよく気がつくんだよ。でも、なくなっているものって気がつかないんだよ。
【他故】難しいよね。
【高畑】急に工事中になって空き地になったけど、「あれ、ここ何が建ってたっけ」って分からなくなるという。
【きだて】それはあるよね。
【他故】近所でも分からない。
【高畑】そういうのあるじゃん。大事な視点かなと思うのは、気がついたら変わっているもの、新しく出てきた商品じゃなくて、既存のものがどうなっていたのかのって、気をつけて見ていないと、分かんなくなっちゃうので。
【他故】特に、今自分の手元にないものは余計にそうなんだよ。「あっ、もうないの」っていうのに気がつくのに、ものすごく遅れる可能性があるから。
【高畑】そういう意味では、ものすごく注目しつついきましょうかということで。
【他故】私は今年一年間、それを気にしながら見ていきたいなと思います。プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
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