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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.15後編

ブング・ジャムがおすすめする“オジサン文具”

ジャム.jpg
左からきだてさん、高畑編集長、他故さん

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。Vol.15後編では、“女子文具”ならぬ“オジサン文具”としておすすめの逸品をブング・ジャムのみなさんにご紹介いただきました。

デキる上司は“万年筆型”ルーペを持つべし!

ルッキーネ.jpgルッキーネ グランデ」(サンスター文具)

――後編のテーマは、「おじさんにおすすめする文房具」です。最近、何かと“女子文具”がもてはやされているので、おじさんたちにエールを送る意味も込めて、おすすめの逸品をご紹介いただければと思います。

【高畑】僕からいきましょうか。「ルッキーネ グランデ」という商品で、何となく万年筆っぽいデザインなんですけど、中身がルーペというものです。40過ぎると、だんだんと老眼なんかになっていくわけですよ。

【きだて】さっき他故さんが、商品パッケージの説明書きを読むのにメガネを上げて読んでいたけど。

【他故】もう見えないね。

【きだて】絶対見えないものね、俺も。

【高畑】僕も、普段は全然気にならないんですけど、めっちゃ細かいものを作らなきゃいけないときに、ギューッと寄ると見えなくなるんですよ。

【きだて】ほんと、それ。

【高畑】普段はいいんだけど、細かい作業をするときに、段々と焦点の合う距離が短くなってきているなとひしひしと感じていて、嫌だなと。こういうところで、告白しなきゃいけないのもどうかと思うけど(苦笑)。

【きだて】ぶっちゃけ、俺が行く拠点に1個ずつ老眼鏡を置いているものね。

――その場所に置いておくんですか。

【きだて】そう、置き老眼鏡してますから。会社もそうだし、家の中でも仕事場とリビングに1個ずつ置いてます。

【他故】普段でも必要?

【きだて】もう、本読むのは結構つらいね。目が大分きているらしくて。

【他故】僕はある特定の距離だと見えないんですよ。混でいて身動きとれない電車なんかでスマホを見ていると、「もうちょっと離したいな」という瞬間があるので。ただ、ド近眼だから、近いところはいくらでも見えますけど。

【高畑】そういうときにルーペがあると便利ですねという話なんだけど、ルーペっぽいものだと、「私はルーペを使ってます」と公言しているようなものなので…。

【きだて】恥ずかしいのかい(笑)。

【高畑】きだてさんは割と平気なの? 老眼鏡だとメガネだからか。

【きだて】まぁ小学生の頃からメガネだから、見た目として気にならないし。あと工作するときは必ず頭から被るタイプのルーペ使ってるし。

――「ハズキルーペ」みたいな?

【きだて】もうちょっとガチな作業用。ルーペ専門店に取材に行った時に買いました。

【他故】ライト付いているやつ?

【きだて】ライト付いているのも付いていないのも持ってるよ(笑)。

【高畑】ルーペを持ち運んで使うために、これは元々女性向けに作った「ルッキーネ」があって、年配の女性には評判がよかったんだけど、男性向けがないので。

【きだて】あれはちょっとファンシー過ぎるというか。

【高畑】ルーペっぽくないけど、化粧品っぽいから持ちづらいということで、男性向けが欲しいということでできたのがこの「グランデ」なんだけど。

(他故さんが「カスタムURUSHI万年筆を取り出して2つを並べてみる)

【高畑】その万年筆太すぎるわ! まじどっちも変わんないわ(笑)。

【きだて】比較が悪いわ、それ(笑)。

【他故】全然、大きさの比較にならない。「万年筆ぐらいの大きさですね」っていう話なんだ(笑)。

【高畑】男性が胸ポケットに挿していて変じゃないデザインということで、モチーフとしては万年筆みたいなかたちになっているんだけど。

【きだて】でも、その根底には、どうしたって「ルーペを使っているのは恥ずかしい」というのがあるんだね。

【高畑】何だってそうじゃない? 自分が老化していくことに対して、そう思われたくないというのは。きだてさんの帽子もそうでしょ?

【きだて】ん!? 何だおい、やるか! 帽子はキャラ付けのために被っているのであって、そこは誤解なきように(笑)。

【高畑】ともかく、僕らみんなおっさんなわけで、子どものときのようにはできないので。子どものときなんて、こんな2、3㎝のところに寄って見るのができていたわけですよ。

【他故】できてたね。

【高畑】それは仕方がない話として、これがいいのはレンズがちゃんとキャップの中に入るので、汚れなくていいという。

【きだて】そうだね。

【高畑】それで、僕がいいなと思っているのが、レンズがいわゆるカマボコ型のレンズじゃなくて、球面レンズを切っている。ルーペのレンズを細長く切って使っているので。カマボコ型のレンズって、紙にぴったり付けないと見えないんだけど、これは離した状態で見えるんだよね。

【他故】そうか。

【高畑】そういうところが、割といいところ。

【きだて】これ、思ったよりもひずみがないんだよね。よくできているんだ。

【高畑】国産の超有名車で使っているヘッドライトを成形している工場で作っているのね。ヘッドライトで使っているレンズって、すごく厚みがあって複雑な形状の透明樹脂なので、上手に成形しないとひずむんだよ。そういう所で作ってるからレンズの品質は高い。値段が言うほどほど高くない割には、ちゃんとしたレンズを使っている。

【きだて】知ってはいたけど、改めて使うといいな。俺もやっぱり買おう。

【高畑】普通にいいと思うんだよね。老眼じゃなくても、小さいものを見たいときはあるわけで。めっちゃ細かい細工をしていると裸眼では見えないので。だから、これをポケットに入れておくといいなと思う。

【他故】これいくらぐらい?

――2,800円ぐらいですね。

【きだて】この底のところにシヤチハタか何かが付いているともっといいね。

【高畑】あ~そんな感じだ。分かる。オプションケースに入れ替えると、シヤチハタが付けられるとかね。でも、これ道具としても使いやすいんだよ。

【他故】そうね。

【高畑】形状も使いやすいから悪くないと思う。

――持ち運びしやすいし、いいですよ。

【高畑】他故さんが持っている万年筆と、たいして大きさが変わんないし。

【他故】わはは(笑)。

【きだて】あれはデカすぎるわ(笑)。

――「カスタムURUSHI」と太さがほぼ一緒というのがすごいですが(笑)。

【高畑】「カスタムURUSHI」の方がでかいってどういうことなの? 前に、「これ万年筆型です」って言ったら、「こんな万年筆ないだろ」ってツッコまれたけどさ。

【きだて】あるわ。

【他故】全然、違和感なし(笑)。

――その時に「カスタムURUSHI」があれば説得力があったのに。

【高畑】これ、2つ並べてみると普通にあれだね。

【きだて】何の違和感もないね。

【他故】2本セットになっているみたい。

ルッキーネ2.jpg

【高畑】「カスタムURUSHI スポーツ」とでも名付けようかな(笑)。

【他故】カヴェコか(笑)。ちょっと短いから、よりカヴェコっぽい。

【高畑】いや、これ兄弟っぽいね。

【他故】思ったより似てるよ。

【きだて】「カスタムURUSHI」見たあとだと、何の違和感もなく万年筆サイズだと思っちゃうな。

【他故】並べて写真撮ったら誰も分からない。

【高畑】まあ、割と嫌みなく携帯できるものなので。ちょっとしたルーペを使いたいときに。あと、キャップに挿して使えるんだよ。

【きだて】それがいいよね。

【高畑】「ルッキーネ」はそれができないから。

【他故】そうか、できないんだ。

【高畑】上司に書類を持っていったときに、細かい字で印字した書類だと、それが見られないのも何だから、サッとルーペを取り出して見るという感じでね。

【他故】これが胸ポケットに挿さっている上司は出来る上司だ。

【高畑】胸ポケットに挿せるルーペはあんまりないのでね。ペンダント型があるけど。

【きだて】吊り下げている人ね。

【高畑】昔の上司で吊り下げている人いたけど、その人はそういうのを気にしない人だったから。ただ、チェーンとかヒモが付いているじゃない。ああいうのを男性がやるとね。気になる人は気になる。だから、ポケットにクリップで留めるのがいいかなと思うけど。

【他故】いいですよ。

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大人も鉛筆を使ってみませんか?

ミミック.jpgミミック(ペンギン)」(五十音)

――次は他故さんです。

【他故】2つ続けてペン型のものになってしまいますが。さっきはルーペで、これも実は鉛筆になっている。

【きだて】まともなペンがない(笑)。

【他故】これについては、文房具がお好きな方はご存じかもしれませんが、銀座・五十音というお店の「ミミック」という商品なんですけど。

【高畑】鉛筆とボールペンしか売ってないお店だ(笑)。

【他故】今は色のバリエーションが増えましたけど、これは一番最初のモデルで「ペンギン」という名前のやつ。「ミミック」は今年で10周年だそうで、確かにこれを買ったのは9年前なので、もうそんなになるんだなと。

【高畑】9年前に買ってずっと使っているの?

【他故】そうだね。これは初代モデル。中の金具で初代モデルかどうか分かるのね。今のモデルは、内製しているので、中のかたちがちょっと違っていて。昔のは、よそから仕入れた金具を付けていたので。これは初期型なので、クツワのグリップがそのまま付けられるという。

【高畑】この真鍮のグリップは、後から付け替えたの?

【他故】そう。

【きだて】あっ、そうだっけ?

【他故】初期型はこれのシルバーが付いていたの。それが追加で買うと、無塗装のブラスで、よく見ると五十音の名前が入っているというグリップで。

【高畑】五十音の名前とペンギンのマークもちゃんと入っている。

【他故】そう。滑り止めにもなってね、非常にいいという。まあ、おじさんがというか、「大人も鉛筆を使おうよ」というのを、長い間いろんなところで言っていて。ただ、鉛筆って持ち歩きにくいですよね。鉛筆を薦めても「いや、持ち歩くのがさ」って断られちゃうから。

――ああ、芯がね。

【きだて】芯が折れちゃったりもするし。

【他故】「長いまま持っていてもペンケースに入らないし」とかよく言われるんですけど、そういう時に、僕はへそ曲がりなので、「補助軸に短い鉛筆を入れるといいですよ」という話をしている。まあ、キャップがある商品がベストなんですけど、なくても反対向きに入れちゃうとか、色々工夫すればできなくはないので。

――前編の「ペンケシ」での話の続きみたいなものですね。

【他故】まあ、鉛筆に戻ってくるといいですよということで。キャップを取ったときの木の香りだとか、書いたときのサラサラとした感じだとか。たくさん字を書いたり、細かく書いたりするときに便利なものは世の中にたくさんありますが、そうじゃなくて、思ったことをサラッと書くときなんかに、鉛筆ってすごく気持ちいいので。そういう話をするときに、だいたい補助軸とセットで話をするんですよ。で、まあ、いいおじさんなんで、100円や200円の補助軸を勧めにくいので、じゃあせっかくなので万年筆ライクなのはどうですか? という話をしていて。これが今、12,000円くらいなのかな。軸の素材のバリエーションも増えたし、色のバリエーションも増えたし。で、実際には発売されなかったけど、「モノゼロ」が入っているやつもあったし。

【きだて】へぇ~。こんなのやってたんだ。

――発売されなかったんですね。

【きだて】試作品?

【他故】そう。木軸のものとか、五十音の中でしか買えなかった限定のもあった。

――はぁ~。

【他故】木とブラスのグリップという組み合わせがまたよくて。ブラスにすると、しっとりしているんだよね。シルバーのだと、表面がツルツルしているのであんまり好きじゃないけど、ブラスのグリップはちょうどいい感じで。

【高畑】長いこと使っていると、ブラスのにおいがするんだよ。

【きだて】俺、割と好き(笑)。

【他故】僕も好きだよ。鉛筆の香りもそうだし、持ったときのブラスのちょっとしたにおいも好きだし。

【高畑】大人になってもう一回分かる、鉛筆のこの柔らかくてちょっと太い…。若いころはすぐにキンキンに尖らせたくなるじゃないですか。

【きだて】尖るだけ尖らせたくなるというのはあったよ。

【高畑】中高生の頃はさ、とにかく「尖らせて」だったから。それで物足りなくなって、0.3㎜とか0.2㎜のシャープペンを使ったり、芯ホルダーを研芯器でギーッとやって細い線を描いたりとか、シャープに思い通りにやったりするところがあるじゃないですか。ある程度落ち着いて大人になってくると、このふわっとした感じが楽というのはあるよね。最近は、「ぺんてるサインペン」や「ボールぺんてる」とか、先がちょっとぬるくなった、割と太めで芯の柔らかい、しかも4Bの鉛筆とか、その辺りのやつで書いたときの「あ~楽」っていうのが。

【きだて】それ分かる。何年か前に異常に気に入っていたのが、「ウォペックス」。あの2Bを頑張って芯先を丸めて、その丸まったやつを長く使うという。

【高畑】「ウォペックス」は、芯の減りがちょっと遅いからね。芯が硬めだから、4Bなんかで書いてもあまり粉が出ない。

【きだて】そう。というのに一時期ハマっていたことがあった。ぬるまった鉛筆の良さというのは分かる。

【他故】細かく書くのじゃなくて、気持ちの赴くままに、大らかに書く感じがね。

【高畑】何となく雰囲気というね。

【他故】サラサラという音もまた良かったり。鉛筆の種類もそうだけど、補助軸でもこういうタイプがあるので、おじさんがというと変かもしれないですが、大人が持つ鉛筆というのはこういうのもアリじゃない、という話を10年前からしているわけですけど。

【高畑】キンキンに尖らした鉛筆に関しては、書くとすぐに丸くなっていくのが気になるけど、ちょっと丸くなってからの鉛筆で、そんなに筆圧強く書かなければ、意外と鉛筆って書けるんだよ。

【きだて】そう、結構保つよ。

【高畑】だから、「削り器持たなきゃ」というほどじゃなくて、時々気になったら削るぐらいで。まあ、家と会社のデスクに置いてあれば、そんなにね。

【きだて】外で削らなきゃというのは、よほど折れたときしかないものね。

【高畑】シャープに書きたかったら、シャープペンを使えばいいだけの話であって。

【他故】そうそう、元々ね。

【高畑】大人になって、鉛筆はそんなにキンキンじゃなくていいなというのは、特に最近思うようになった。

【きだて】何だろうね。歳を取ると、人格とともに丸いのがよくなっていくのかねぇ。

【他故】丸くなっていくのかね。

【高畑】風合いのある紙に書くと、これがまた気持ちいいんだ。

【他故】そうそう。

【高畑】それこそ、アンチークレイド紙を使ったノートがマルマンから出たじゃないですか。あれは、細いのでも書けるんだけど、太いのでやんわり書いたときのいい感じときたら…。

【他故】ああ、そうね。僕も今は用紙がほとんどクロッキーになってしまったので。クロッキーに鉛筆って、もうやみつきに近いものがあって。

【きだて】久々に、鉛筆でザラ紙に書きたいな。

【他故】ああ、いいね。ザラザラしているところに、ガッとのる感じがね。

【きだて】あの気持ち良さも、長らく味わってねえな。

【高畑】おじさんになって、「別に鉛筆でいいよね」という感じはあるし。

【きだて】回帰するところは、確かにある。

【他故】持ち歩くというのを、どうしても考えたいんだったら、「こういう選択肢がありますよ」というのがあってもいいかなって思う。

【高畑】家でだったら、裸で使ってもいいと思うんだけど、胸ポケットから鉛筆が頭を出しているのってさ(笑)。

【他故】それは危険だよ(笑)。

【きだて】シャツに黒鉛が付くしな。

【高畑】だからといって、学童向けのプラスチックの鉛筆キャップをはめてポケットに挿しているのもどうかなと思うし。だから、おじさん的にはこれぐらいがいいよね。仕事ではボールペンを使うじゃない。これは、アイデア出しに使ったりとか。

【きだて】自分のための筆記だよね。

【他故】本当にそうだよね。だから仕事用じゃないんだよね。非常にやわらかい感じで、自分のオフで使っているというかね。

――アイデア出しにいいですよね。

【他故】とてもいいですよ。

――気持ちよく書けて、いいアイデアが浮かびそう。

【他故】ただ、鉛筆単体の細さっていうのは苦手なんですよ。ちょっと細いと思っちゃうんです。だから、補助軸で持つというのが僕にとってベストの太さになるので、むしろ補助軸で使いましょうよと。長い鉛筆を2つに切って使ってもいいから。

【高畑】大人になると、割とペンに慣れているから。鉛筆の太さの筆記具はあまり他にないので、慣れてないというのはあるよね。

【他故】長いのを切るのは嫌だなという人がいたら、最初から半分になっている鉛筆もあるし。まあ、鉛筆もそれぞれの書き味があるので、書き比べてみるのも面白かったりするので。

――これを読んで、鉛筆を使いたくなる人は多いんじゃないですか。

心の中のロック魂を呼び覚ませ!!

ジャーナル.jpgレック・ディス・ジャーナル」(ケリ・スミス著、グラフィックス社)

――では、最後はきだてさんですね。

【きだて】「レック・ディス・ジャーナル」というノートです。

【他故】見たことないな。何ですか、それは?

【きだて】以前に「落書きをする専用のノート」っていうのがあったんだけど、その進化版というか、ハードコアタイプ。

【他故】ハードコア(笑)。

【きだて】ノートに落書きするのは、集中力を維持して脳を再活性化させるという効果があるんだけど、これはもうちょいハードで。本にただただストレスをぶつけるというか、ストレスのはけ口としてのノートという、かなり野蛮なやつ。

【他故】ええっ(笑)。何か色々と書いてあるね。

【きだて】冒頭の注意書きに「本書で遊ぶと汚れる」とか、「様々な異物まみれになることがある」とか、「びしょ濡れになることもあるし」とか、色々と書いてあるわけですよ。

【他故】ほう!

【きだて】そこだけ読むと「どういう脅しだ」って思うんだけど。で、めくっていくとページごとに色々とお題が書いてあるのね。

【高畑】なるほど。

【きだて】そのお題の通りの行為をこのノートに対してしなさいと。

【他故】「ここに立て」だって。

【きだて】まずこのノートを「踏め」と。

【他故】ほ~。

【きだて】これは、「ここにコーヒーをこぼせ」と。

【他故】ここには、「鉛筆で穴をあけろ」と書いてあるね。

【きだて】鉛筆でブスブスに穴をあけろということだね。

【他故】へぇ~。

ジャーナル2.jpg

【きだて】さらに「このページと一緒にシャワーを浴びろ」とか、「ヒモをくくりつけて一緒にお散歩しなさい」とか書いてあるわけ。それを実行していくと、結果、ノートがどんどんぐちゃぐちゃになっていく。

【高畑】いいね、面白いね(笑)。

【きだて】このノートに対して、色々とハードコアな行為を強制されるわけですわ。

【他故】はいはい。

【きだて】本当にね、ちょっと「お前、正気か」というような内容もありまして。

【他故】結構くるね。「尖ったもので引っ掻いて」(笑)。

【きだて】「このページを破って、土に埋めて養分にしよう」とか。

【高畑】「自分のお気に入りページを人にあげちゃえ」とか書いてある。

【きだて】はいはい。

【高畑】これ、「まず鉛筆かペンで線を描こう。そして指をなめ、こすって線をぼやかそう」と書いてる。あ~、分かるけど~。

【きだて】このページもそうだね。「水に浮かべて」とか。

【他故】はぁ~。

【きだて】そうかと思うと、「いろんなWをコレクション」というのがあって。これは、自分で書いてもいいし、新聞や本なんかを切り抜いて貼ってもいいし。

【他故】隣のページが白紙なのは、基本的にそこで何かをさせたりするからなの?

【きだて】というよりは、各ページでやたらエクストリームなことをさせるので、裏面は空けておかないと。

【他故】空けざるを得ないんだ。裏に影響が出るアクションが多いから(笑)。

【きだて】これがちょっとホコリっぽくなっているのは、俺が実際にヒモをくくりつけてお散歩したからなんだけども。あと、「指でゴシゴシ消す」というのも、フリクションのラバーでやってみたけど。

【高畑】「嫌いな自分の顔写真をここに貼って、落書きをしよう」とか、「君の髪の毛を1本、あるいはもっと使って、たくさん絵を描こう。

【きだて】これも面白かったよ。「口にくわえたペンで文字を書け」っていう。

【高畑】へぇ~!

【きだて】色々とやってみたけど難しかった。

【高畑】接着剤で絵を描くページもあるよ。

【きだて】で、ページを閉じちゃうともう二度と見られない(笑)。

【他故】すげーな。

【きだて】これもいいよ。「このページをなくそう。そして、その喪失感をかみしめよう」。

【他故】かみしめようって(笑)。

【高畑】本当にやると、いろんなページがなくなったりするんだね。

【きだて】するね。「切りとれ」とか言うものが多いので。「このページを縫え」というのもあったし。

【他故】本当だ、うひゃぁ縫ってる(笑)。

【きだて】サラリーマンって、上司から言われた仕事をその通りにこなすのがある種の美徳だったりするでしょ。で、その結果がお金儲けになったりするんだけど、それが最終的に疲れるのよ。指示されたことが正しい結果になるって。

【高畑】疲れるね。

【きだて】正しいことは疲れる。それよりかは、めちゃくちゃな結果になる方が面白くてスッキリするんだけど、でも自分で何かめちゃめちゃなことをやるのは難しいんだよ。

【他故】そうか、そういう意味か。

【高畑】破天荒な人にはなりたいけど、破天荒は自由にできないんだ。なるほど。

【きだて】他人の指示通りに破天荒なことができると、意外にストレスは発散できる。

【他故】破天荒の教科書みたいなものだ。「こんなやり方があるよ」って。

【きだて】そう。

――普通は、破天荒なことをしたくても自制心が働いちゃうから。

【きだて】実際、「ページに鉛筆で穴を開けろ」って指示も、最初の1本を突き通すときは「えっ…いいの?」ってなるんだ。きちんとしたノートにそういう無茶をするのって。でも、やってみると本当に気持ちいい。

【他故】これが、それをするために必要な道具なんだ。「アイデア、ガム、のり、汚れ、唾、ゴミ、植物、鉛筆とペン、針と糸、ありとあらゆるベタベタしたもの」(笑)。

【きだて】さすがに、唾なんかをつけると、人に見せられなくなるので。

【他故】すごいな。ちょっと哲学的なことも書いてあるよね。「感情、恐怖」とか(笑)。

【高畑】「ご近所の庭に隠す」というのもあったよ。

【きだて】もう一つ、お気に入りので、「ヒモで括り付けたあと、壁に思いっきりぶつける」というのがあって、結構楽しい(笑)。

――それは、ストレス発散だな~。

【きだて】「紙コップを作れ」というのもあるね。

【他故】「紙コップを作って、水を飲もう」だって。無茶過ぎないか(爆笑)。

【きだて】大体、考え得る限りの紙でできる無茶は書いてあるようなものなので。

【高畑】それで、みんながそれをSNSに上げているわけ?

【きだて】ツイッターで「#レックディスジャーナル」とか「#破壊日記」で検索すると様々な無茶がアップされてる。でも、ツイッターであげられているやつは、アーティスティック寄りなんだよ。何か書き込むにしても、かなりオリジナリティを出そうとか。

【他故】見せてもいいようなかたちにはなるよね。

【きだて】見せてもいいような前提でやってて。それ、違わなくね?と。もう、心の赴くままに無茶やった方が楽しいよ。だから、本当は他人に見せられない状態にしちゃうのが、正しいんだよねと、俺は思う。

――これは、ギリギリ見せられる感じですか?

【きだて】これは、ギリギリ見せられるように留めている。

【他故】まだそこまではね。見せられない反応になりそうなページも結構あるものね。「虫の死骸のコレクション」とかあるし(笑)。

【高畑】いやいやいや(笑)。

【他故】「鉛筆をドラムスティックにしてこのページを叩け」だって。

【きだて】それで、何が得られるのかはよく分からないけど(笑)。

【他故】分からないな~。「このページを凍らせろ」とかもあるし。

――凍らせるんだ(笑)。

【他故】「小高い山からこのページを転落させろ」って(爆笑)。

――何が面白いんだろう?

【きだて】やってみると、何かあるんですよ。

【他故】小高い山に、このノートを持って登るところを想像すると、かなりエクストリームですよね。

【きだて】わざわざそれをやりに行ったあとの虚しさ。「結果、俺は何をしたんだ」っていう。

――確かに、虚無感はありますね。

【他故】そういうのも含めて、このノートの面白さというか。

――これを持ってシャワーを浴びたので、こんなにボコボコな感じになっているんですね。

【きだて】そうですね。まあ、実際はシャワーをぶっかけただけなんですけど。

【他故】冒頭のインストラクションのところからかっこいいよね。「この帯をゴミ箱に捨てること」。

【きだて】ロックだよね。

【他故】ロックだね。「帯付けてたい」と思う人に、いきなりガツンとくるという(笑)。

【きだて】だから、帯付けたままの新品の状態のものも取ってあるんですけどね。

【高畑】比較できなくなるからね。

【きだて】これが、世界中で出版されているらしくて。検索すると、世界中のこのノートの破壊画像が見られる。

【他故】そうなんだ。各国で売られているんだ。

【きだて】表紙もね、ニス印刷でテープっぽい質感を出したりとかしてるし、凝ってはいるんだよね。

【他故】貼ってあるみたいな立体感があって。

――貼ってあるわけじゃないんですね。へぇ~。

【きだて】そう、印刷。

【他故】すごいよくできてますよ。

――お金かけてるな~。

【他故】でも、1,200円ですからね。中身にペーパーバックみたいな紙を使っているからですかね。

【きだて】それ以上に上質な紙を使うと、縫うのがやりにくいから、これでいいんだよ。

【他故】「このノートをテープで綴じて、自分宛に発送すること」(爆笑)。これ、送られてくるの?

【きだて】そう(爆笑)。

【高畑】すごいね、俺買っちゃおう。

【きだて】欲しくなるでしょ。

【高畑】これは、ロックじゃない人が、ロックな人にあこがれて始めるんだ。長いこと会社に飼われてキバを抜かれた人たちに、使って欲しいと。

【きだて】それはね、悪い表現に聞こえるけど、日本の働くおじさんって9割ぐらいはそんな感じでしょ。指示通りに正しく働いてるわけだから。

【他故】それは分かる。

【きだて】ならば、その9割の人からそれだけ希求される要素はあると思うんだ。これ、実際にストレスチェッカーとして使えるんじゃないかと思って。

――ほぉ~。

【きだて】会社でこれを配って、2カ月後に回収しますと言って、これの汚れ具合で「君、半月ぐらい休むか」という具合に、そういうのがあってもいいと思っているし。

【他故】あとは、日本人なら絶対に「一切汚せないので使えません」という人が出てきて、それはそれで病んでいるというか。

【きだて】それは、かなり病んでいるね。そういう人こそ半年くらい休ませた方がいいね。ある程度汚せる人はより健全だと思うし。

【他故】かもしれない。できるところまでやって、それを楽しむことができれば健全度が上がるという感じだね。

【きだて】そういう無茶なやり方を教えてくれるのは親切だし、分かりやすくていいな思ったのね。

【他故】知っているつもりでもできないからね。それだと、知らないのと同じだから。

――でも、これを買う人は100%その目的のために買うんですよね。

【きだて】そうです。

【他故】一番恐いのは、これを贈られた人がどう思うかですね。

(一同)あ~。

【他故】ちゃんと受け取ってくれる人に贈らないと(笑)。

――これをプレゼントで贈るのはリスキーだな。ちゃんとシャレが通じる人じゃないと。

【他故】自分で買う人はそりゃやるさ。そりゃそうだけど(笑)。

――これを使うことで、以外と精神的に健全になれるという(笑)。

【高畑】意外とそんなものですよ。僕らが若かった頃には、余った発泡スチロール材をバーンと壊すっていうのがあった。

【きだて】ちょっと前まで、秋葉原に皿を投げて割る専門のお店とかもあったからね。

【他故】あったね。

【きだて】やっぱね、何らかの破壊衝動というのはあるもんだし。

【高畑】それを、現代の社会では抑圧しているわけじゃないですか。そのはけ口がなくなると、SNSで誰かを攻撃したりするでしょ。

【きだて】そういうところで攻撃性が出ちゃうでしょ。

【高畑】だから、どこかで攻撃性をかたちにしちゃうというのは必要なことなんだね。

【きだて】攻撃性を抑圧する=ソフィスティケートされている、ということではなくて、周囲に被害が出ないように楽しく攻撃性を発揮できるのがいいんじゃないかなと。

【高畑】その効果はありそうな気がする。

【きだて】こういうのこそ、洗練されてるな、って感じするでしょ。

【他故】周りに当たるより全然いいですよ。

【きだて】イラッときてゴミ箱蹴るぐらいなら、このノートを蹴れよという。

【他故】「蹴れ」って書いてあるからね。ゴミ箱には書いてないけど。

【高畑】本来は、またいだだけでも怒られるものですよ。それが、いきなり本に対してグチャッとやるのは、僕らみたいに真面目に育てられてきた人には、ちょっとした後ろめたさがあって、やってしまった感がある。

【きだて】あるよ。ただね、それを1回突き抜けたあとの本への攻撃性たるや、なかなかのものですよ。

【他故】こいつには何をやってもいいんだっていう(笑)。

【きだて】実際、俺の中にこんな凶悪なものが潜んでいたのかという驚きもあり。

【高畑】それがどんどん出てきてしまって。

【他故】心の中の獣が出てくるんだ。

【きだて】でも、いい大人だから、それを外部にまで広げることはしないわけですよ。

【他故】まあ、そうだね。もちろん。

【きだて】このノートのルールに従ってる限りはね。だから、これやる人にとっては、汚れれば汚れるほどトロフィーとして価値が出てくる。

――あ~、ジーンズみたいですね。

【高畑】そうだね。ダメージジーンズみたいなものだよね。

【他故】これが、このままだったら価値ないですよね。

【きだて】そういう意味では、「俺はここまでできるんだ」という満足感もあり、やればやるほどいい気持ちになると思うよ。

【高畑】きだてさんの話を聞いて、今注文しちゃったよ。俺も破壊したいと思います。

【きだて】以上、「お前の中のロック魂を呼び覚ませ」というお話しでした(笑)。

――ありがとうございました。

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プロフィール

きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。東京・京橋の文具店・モリイチの文具コラムサイト「森市文具概論」の編集長も務める。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
【森市文具概論】http://shop.moriichi.net/blog/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。「森市文具概論」で「ブンボーグ・メモリーズ’80s」を連載中。

たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/


*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)も2018年3月2日に発売。

弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談5』も発売された。

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