【連載】月刊ブング・ジャム Vol.14 GWスペシャル・その2
書き味もデザインもすご過ぎる! ボールペンの名品
――では、2日目は「アクロ1000」と「アクロ300」です。
【他故】これも、女性向けでいいの?
【きだて】細軸だから、女子が持てば似合うんじゃないのということでは。
【高畑】「アクロ300」のカラーラインナップをみると、パステルカラーっぽい色もあるから、やっぱり女子を意識したところがあると思うし。
【きだて】パステルあるな。そうだろうね。
【高畑】300と1000という値段の違う2ラインナップで、素材は違うけどかたちが一緒というのが、ちょっと面白いところだよね。
【きだて】そうだね。あんまりない感じ。
【高畑】全く同型って、あんまりないよね。値段が違って、素材も全く違うけど、同型っていうのは。
【きだて】1,000円の方にもっと高級感を出そうとするじゃない。無理してでも。
【他故】無理って(苦笑)。
【高畑】かたちを変えて「高いんだよ」っていうのを見せるというのはあるけど、かたちが一緒で、金属軸だから1,000円、プラスチックだから300円という。
【きだて】ちょっと高級ラインだからって、変にキラキラしたものを付けたりするじゃん。
【高畑】いやさ、値段の割にいいものがいっぱい出てきたよね。この「アクロ1000」と「アクロ300」は、本当にいい質感だなと思うよ。
【きだて】そうだよね。
【高畑】ゼブラの「サラサグランド」が出たときも思ったけど、この「アクロ1000」の出来もいいよ。
【きだて】見た目的に、この軸の真ん中の絞ったところとかすんげぇオシャレじゃん。
【高畑】そう。ここをつい外側に出したくなるんだけど、内側に絞ったから。あと、先太りのデザインが、ちゃんと根っこから先端までキレイにつながっているから。
【他故】そうそう。
【高畑】先太りってムズいんですよ。金属も難しいし、プラスチックも難しいんですよ。中を抜かないといけないから。金型作るのもむずかしいので、どうやって作るんだろう的なところはあって。特に、成形品の先太りのかたちは、あんまりやりたくない。
【他故】それは、作る方としてはということね。
【きだて】このアクロの先太り形状ってさ、パッと見で気づく人はあんまりいないんじゃない?
【高畑】いや、そんなことないよ。
【きだて】この細身の方に目がいっちゃうと、持ってみるまで気がつかないと思うんだよね。
【他故】どっちかな?
【高畑】俺としては、ちゃんと分かるくらいになっていると思うよ。
【他故】売り場什器で、ペンが立った状態で売られているとちょっと分からないかもしれないけど、什器から引き抜いた瞬間に分かると思うんだよ。
【きだて】あ~、そうか。
【高畑】サンプルとか絵は出ているからね。いわゆるネクタイみたいに、先が太くてそこから細くなっていくというしずく型というか、これはアクロのインクのイメージだよね。
【他故】それもあるし、先っぽを少し重くするというのもあるだろうし。あとは、ただのストレートな形状よりは、持ったときに滑りにくいという意味合いもあるだろうし。
【高畑】この根っこぐらいの太さで先端まで行くと、握るところがちょっと細いんだよね。これだと、太くなってくれているので。グリップを太くして、本体を細くしたいといったときに、サクラクレパスの「ボールサインノック」みたいなデザインの解決もあるけど、「ボールサインノック」がちょっとポップな感じなのに対して、アクロはちょっと大人っぽいじゃないですか。
【他故】そうだね。「アクロドライブ」はヘビーに重かったけど、「アクロ1000」になってちょっとライトな感じになってきて。これ確か、「日本のジョッターに育てる」という話なんだっけ?
【きだて】そういう話なんだ。
【高畑】へぇ~、「ジョッター」にしたいんだ。何で「ジョッター」なんだろう。
【他故】そういうようなイメージだったと聞いているんだけど。
――「アクロドライブ」と比べるとかなり細いですよね。
【他故】「アクロドライブ」は、今見ると結構ごついですね。
【高畑】「アクロドライブ」はしずくのイメージなので、まっすぐから先の方でほわっと太くなる感じだけど、今回の方がより洗練された感じがするよね。
【他故】完全にするね。
【高畑】きれいに収めてきたなと思うから。これ、形状として進歩してきているんだよね。
【他故】確実にそうだと思う。
――きだてさんが、先太りに気づかなかったのは、「アクロドライブ」のイメージを持っていたからじゃないですかね。
【きだて】あ~、そうかも。「アクロドライブ」は、明らかにウニッと先太りになっているので。今回のアクロは直線でスーッと太っていってるから、ぱっと見気づかない人もいるんじゃないかと思ったんだけどね。
――ノック式だとどうしても、回転式と比べるとデザイン的に上手くできない部分があるじゃないですか。お値段的にも回転式の方が高額になるし。これは、ノック式のデザイン処理としては、非常によろしいんじゃないですか。
【高畑】いいですよね。軸の真ん中のリングのところで凹ませるとかさ。ノックパーツも、普通よりテーパーがでかいし、ここが円筒形じゃないんですよね。端っこがななめにカットしてあるし。こういうほんのちょっとのところで、やり過ぎないけど特徴を出すというのがね。
【きだて】仕事している感がすごくある。
【高畑】それがね、「しました」と言わないぐらいの感じがね。
【きだて】嫌みじゃない収め方だよ。
【他故】クリップの真ん中にちょこっと穴があいているのも、300だとカラーが見えていいよね。ここがアクセントになっているというのが、すごく分かる。
【高畑】今回そこはしずくにしなかったんだね。
【きだて】「アクロドライブ」は、クリップがしずくのかたちだったからね。
【他故】そこはまあ、違いがあるということでいいんじゃないかな。
――3,000円と、1,000円/300円の価格の違いもあるでしょう。
【高畑】多分、このクリップ作るの面倒なんだよ。
【他故】そもそもこっちは「ドライブ」というシリーズで、これは「アクロ」シリーズだという考え方をしているんだと思うんですよ。
【高畑】なめらか系の中では、ともすると「ジェットストリーム」がいつも話題になってしまうけど、「アクロインキ」も普通にいいよと思う。
――初期のアクロインキよりも、また書き味がよくなりましたよね。
【高畑】なった、なった。
【他故】やっぱり、3年に1回は替え芯替えますよ。その芯を使い切っていないとしても。違うなってすぐに分かるもの。
【高畑】「日本のジョッターにしたい」と言って、300円と1,000円というのが、日本ならではだよね。「普段使いするのにいいやつで」と言って、この300円というところの、この総合力の高さ。
【きだて】150円や200円で性能的にいいボールペンっていっぱいあるでしょ。でも、もう一声で300円出したら「性能がいいのに加えてカッコよくなります」って言われたら、それは選択肢に入ってきちゃうでしょ。
【高畑】150円ラインの狙い方と明らかに違うから。高級ラインを落としてきている感じはするじゃない。いわゆる、実用品の普及ラインの100円~200円のラインとは明らかに違う高級品のデザイン処理の仕方をして、300円で出してきている。
【きだて】そうだね。そういう驚きの分だけ300円の方が割とお買い得だなと、俺は感じていたんだけど。
【他故】そうだね。1,000円のは自分でも買えるし、人様に差し上げても全く恥ずかしくないようなデザインになっていて、300円のは完全に自分用というか。
【高畑】これ、300円で横に並ぶボールペンがあまりないじゃない。1,000円だと、「サラサグランド」のように競合品が出はじめるけど、それに対してこの300円はね。しかも油性だし。
【他故】300円で油性、しかも女性にも映えるいいデザインって、あんまりないんだよね。
【高畑】この価格帯は、「ジェットストリーム」もまだないので。
【きだて】上手いことニッチなところで。
【高畑】ニッチじゃないよ、多分。潜在的だっただけでマスになりうる。
【他故】たまたまなかっただけだからね。
【きだて】もちろん、それは分かるよ。エアポケットという言い方がいいかな。
【他故】300円のボールペンって、割とお金を持っているおじさんがちょっとかっこいいやつを買うみたいな、変な価格帯だったんだよね。
【高畑】だから、「グリップがすごいですよ」みたいになっちゃうんだよ。「すごい楽ができるいいグリップが付いてます」みたいになるんだけど、そうじゃなくて全部そぎ落として「キレイでしょ」っていってここに来ている。そう見ると、ジョッターよりはBICとかペンコのボールペンみたいな、ああいう海外の“キレイで素敵”なペンと近いんじゃないか。雑貨屋なんかで売っている、500円くらいのプラスチックのおしゃれペンみたいな感じがするけど。とにかく、かたちの洗練度がすごいね。
――ちょっと輸入ペンっぽいですよね。
【高畑】輸入っぽくもあるけど、でも日本っぽいんだよな。
【他故】意外となかったですよ、こういうのは。
【高畑】なかったんだよ。
【他故】単純に、かたちだけでいうと、BICの「クリックゴールド」みたいなのを連想するんだけど、それだとちょっとお値段なりのイメージじゃない。
【高畑】そうなんだよ。ちゃんと高級ラインの「品」を持った状態だから。そんで、いつも思うけど、パイロットの筆記具は金型きれいだしね。艶があっていいよね。
【他故】今回は、これの青と赤の透け具合がものすごくよくて。
【高畑】透明の、ちょとボルドーっぽいやつとかね。あれもいいよね。見ていて俺も買っちゃったよ。
――「アクロ300」だと透明軸が圧倒的に売れているみたいですね。
【他故】みたいですね。
【きだて】でしょうね。買うなら俺もこれにするよ。
【他故】でも、1,000円のもめちゃめちゃ売れてますよ。在庫がない色もあるみたいで。
【きだて】そんなに売れてるんだ。
【高畑】すごい売れてるんだよね。これの紺色がいつもないの。
――そんなに人気なんですね。
【高畑】これは、海外の“デザイン文具”に負けない力を持っている気がするな。確かに1000はジョッターの立ち位置に近いのかな。
【他故】そうだね。
【きだて】こんだけほめた後だけど、俺は使わないからね。
【他故】ええっ(笑)。
【きだて】滑るから。
【高畑】そうか、手汗的に。
【きだて】先がどんなにふくらんでいても滑るから。
【他故】1000のこういう塗装でもダメ?
【きだて】やっぱり、汗かいてくるとね。
【高畑】だから、江戸切子の職人にさ。
【きだて】彫らせるの?
【高畑】 グリップにローレットを刻んでもらおうよ。300の透明軸だったら、職人にやってもらったらすごいキレイになるよ。
【きだて】そうだな。切子ガラスみたいになるよね。
【高畑】それで、職人さんに加工してもらって、4万円ぐらいかかるという(笑)。
【きだて】高級だな、おい(笑)。
――これ、細軸だから「プニュグリップ」は無理ですかね?
【他故】それじゃ台無しだ。あんだけデザインほめておいて(爆笑)。
【高畑】ようやく日本の筆記具が、安価なんだけど高級感があって、ムダな主張をしない、すごいキレイなラインを作ったと思うんだよ。
【他故】これは人にも勧めやすいし。「これ、使ってみなよ」ってあげたら、すごい喜ばれるだろうし。
【高畑】ちょっと地味だけど、日本の技術とデザインと、文房具に対する文化とか、いろんなものを背負ってくれるいい筆記具だと思います。今までもアクロインキのボールペンはあったし、書き心地が劇的に変わったわけではないんだけど、この仕上げでちょっとした完成の域を見た感じがするので。もちろん、「アクロドライブ」は高級品としての良さはあるんだけど、この300と1000がパイロットの真骨頂というかさ。これは、これからも残っていくかたちなんじゃないかな。
【他故】そういう気はするね。
【高畑】歴史的な名品なんじゃないかと、ちょっと思います。
――いいですよね。何か、最近は1,000円のペンを見ても驚かなくなりましたよ。
【高畑】本当にレベル高いよね。
【きだて】インフレ慣れしちゃった(笑)。
【他故】価格じゃないんですよね、見るところが。
【高畑】素材がすごい超高級品じゃなくて、普通のボールペンの価格帯からしてみたら、これは出来過ぎでしょう。
――シャープペンの単価って、今は500円前後じゃないですか。ボールペンだと、まだ100円、150円が中心ですよね。
【きだて】そうですよね。
【他故】「ジェットストリーム」のお陰で150円にまでなったという感じですよ。
――そう考えると、300円のボールペンが売れても、何の不思議もないですよね。
【他故】そうですね。一般普及の価格帯として、ここまで上がって来てもいいですよね。
【きだて】なかなか、ギミックが組み込めないというのがあるからね。
【他故】インクで勝負じゃないからな。
【高畑】インク性能や機能的にも世界的にみてトップレベルだけど、100円、150円のデザインに関しては賛否があるじゃないですか。「日本はいつまで経ってもデザインがこうだから遅れてる」みたいなことを散々言われてきたんだけど、これに関しては「もう言わせないよ」という感じかな。
【きだて】それは間違いないよ。
【高畑】それで、日本っぽい洗練の仕方かな。かたちに何となくそういう気分があって、日本の子だなという感じがする。*次回(5月4日)は、「ノートブック〈ReEDEN PREMIUM Shiga〉(リエデン プレミアム シガ)」を紹介します。
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。東京・京橋の文具店・モリイチの文具コラムサイト「森市文具概論」の編集長も務める。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
【森市文具概論】http://shop.moriichi.net/blog/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。「森市文具概論」で「ブンボーグ・メモリーズ’80s」を連載中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)も2018年3月2日に発売。
弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談5』も発売された。
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