【連載】月刊ブング・ジャム 新春スペシャル その1
2018年は“紙と女子”に注目(高畑編集長)
(一同)あけましておめでとうございます。
――2018年最初の「月刊ブング・ジャム」は、「2018年の文具界はこうなる」というのをみなさんに発表してもらいます。「今年はこんな文具がヒットする」とか、あるいは「こんな文具が欲しい」という個人的なものでも構いません。まずは、高畑編集長お願いします。
【高畑】昨年は、年の瀬も押し迫った年末に「文具女子博」が開かれて。あと「紙博」というのもありました。それと、活版印刷のイベント「活版TOKYO」もあったでしょ。
【他故】「活版TOKYO」あったね。7月の開催だったな。
【高畑】だから、「活版印刷」「紙」「女子」というのが、立て続けにあったわけ。それが、どれも大好評だったわけですよ。しかも、女性比率がすごく高い。これだけ女性が集まるイベントが、文具でできるとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。極端に人が多いわけではないんだけど、滞留時間が長いんだよ。人が減らないから、すごい混雑していて、フェス感が強いんだよね。
【きだて】根本的な話なんだけど、ああいうイベントに来ている人たちって、何をしてるの?
【高畑】そこね。いや、だから、興味のあるステキなものがある。で、そのステキなものが紙関係だと私は思っているのね。活版印刷も紙じゃないですか。それで、手触りのある紙。そこで売れて商品が足りないといっていたのに「紙神経衰弱」があるじゃないですか。
【きだて】Kino.Qのね。
【高畑】ああいうのを嗜むのが「おしゃれ」という感じができてきているわけですよ。
【きだて】「紙神経衰弱」なんかさ、5年くらい前だったら、あれを楽しめるの印刷関係者か紙系のデザイナーだけだったよ。
【高畑】そうじゃないですか。紙を銘柄指定で、例えば「トモエリバーがいい」とか、「ベラムがいい」とか女子がそういうことを言っているわけでしょ。
【他故】言ってるね。
【きだて】デザイナーか、あるいは同人作家だけしかいなかったのが、異常なリテラシーの上がり方をしているわけね。
【高畑】それが、一般にまで下りてきている。デザイナーしか分からなかった、フォントの違いを楽しむ「フォントかるた」が売れているわけでしょ。あと、カミテリアが出している「メモテリア」。
【きだて】いろんな紙質を楽しめるというメモね。
【高畑】これだって、ぶっちゃけただのメモですよね。あと、どこだっけ…。
【他故】山本紙業のじゃないかな。
【高畑】そう、いろんな紙を集めて箱に詰めて売ると。多分売れるんだよね。あと、この間クラウドファンディングで出ていたのが、「全ページ違う紙でできているノートを売りますよ」というのだけど、これそのまんま紙の見本帳じゃない。それを商品として発売して、それが欲しいという人がこんだけいるという状態なので、これは紙そのものへの注目というか、ノートやメモという製品以前の紙に対して人々の注目が来ているというのがね、俺は面白いなと思っているんですよ。それも女子。男性は、昔から万年筆ファンは紙にこだわっているけどね。でも、こんなブームにはならない。
【きだて】自分の万年筆にベストな紙を見つけたら、もうそれ以上は浮気しないんだよな、男子は。
【他故】まあ、浮気はしないよね。
【きだて】いろんな紙をバラエティ豊かに楽しむというのは、最近の流れだなと思うね。
【高畑】紙バイキングとかやると、めちゃくちゃ盛り上がるじゃない。組み合わせたりして。だから、単に機能というより、コレクションやファッションのアイテムなんだよね。
【きだて】で、それを家に持って帰ってきてどうしてるの?
【高畑】俺思うんだけど、このイベントに来ていることそのものにかなり意味があるんじゃないのかな。フェスなんだよ。だから、「あの会場にいる私」が楽しいんだよ。素敵だし、それこそ写真撮ってインスタにあげるのもあると思うけど、あのイベントに参加すること自体が、重要な意味があるんじゃないかと思っているんだけど。
【他故】ただ物が欲しいだけだったら、「通販で買えばいいじゃん」っていう話なんだけど、現場に行って「わっ」とやるのが楽しいんだ。
【高畑】それこそ、フジロックへ行くみたいなのも、もちろん音楽を聴きたいというのは半分はあるんだろうけど、あそこに参加したい感が強い気がするんだよね。
【きだて】そこで、紙っていうテーマが選ばれる理由が僕にはまだよく分からないんだけど。
【高畑】それにちょうどよかったんじゃない。フェスを楽しめるものとして、紙という素材がそれを上手く表しやすかったんじゃないのかなという気がする。
【きだて】あ~、まだちょっと具体的な感じが分からないな。
【高畑】違いにこだわったりとか、「これとこれは違うよね」というのが分かるし、それを買うことで、自分がちょっとこだわりのある紙を手にいれることができるし。他のアイテムで横に並べられるものといったら、万年筆のインクとかマスキングテープがそうだけど、万年筆のインクなんかに比べると、紙はもっといろんな並べ方ができるじゃない。万年筆のインクって、ボトル1個で1,400円ぐらいしちゃうけど、ああいうフェスに行っていろんな紙を買ってくる方が、もっと手軽なんじゃないかなと思う。
――紙って、加工しやすいから、限定品を作りやすいというのもあるんじゃないですか。
【高畑】文具女子博は限定品も多かったからね。
【他故】そもそも、そこへ行っても紙っぺらを買うとは限らないからね。紙製品はいくらでもあるけど。
――きだてさんは、以前からふせんブームについて色々と言及していたじゃないですか。
【きだて】でも、あれは商品価値の高いふせんを売りたいメーカー主導の話なので、この紙ブームとは違うんじゃないかな。
――それが根付いてきたという見方はできませんか?
【きだて】紙博で扱われているのって、ほぼほぼ加工前の紙じゃないですか。せいぜいノートとかがあるくらいで。
【高畑】まあ、そうだね。
【きだて】要は、メーカーにとって、それほど利率のよくない製品なんですよ。
――まあ、そうですね。
【きだて】ということはユーザー主導で盛り上がりが来てるということなんだろうけど、でも、文具王が言うように「フェスを楽しむ素材」として紙が選ばれたという理由がまだ分からない。他故さんはどう?
【他故】でも、現場に行ってみるとよく分かるけど、熱狂の度合いをみると、彼女たちは紙が好きなんだとしか思えないよね。
【きだて】うーん、それはやっぱりそうなんだろうね。
【他故】好きで来てるんだよ。
【きだて】それで、紙製品を買って帰るわけじゃん。紙好きの人ってそのあとどうしてるの? というのがあって。
【他故】ああ、買って帰った後ね。
【高畑】結構、色々いるじゃん。それで物を作る人もいるし、手紙書く人もいるし、ノートとして普通に使う人もいるし。
【他故】仲間で紙をシェアし合うというのもあるし。
【きだて】う~ん。
【高畑】だから、一部では牛乳ビンのフタの流通みたいな、交換アイテムになっている部分もあると思うけど。
【きだて】もしかして、印刷してない「遊戯王カード」みたいなもんなの?
【高畑】だから、遊戯王カードなんだよ。「レザック」っていう遊戯王カードなんだよ。
【きだて】あ~、コレクションアイテムなんだ。
【高畑】にもなりうるぐらい、紙そのものがそれぞれ違うものとしてそこにあるよということなんじゃない。
【きだて】それなら、紙バイキングで盛り上がるのは分かるんだけど、「そんなの印刷屋さんか紙屋さんに見本帳頼めば送ってくれるよ?」というのがどうしても(笑)。
【高畑】それは、プロのおっさんの発想じゃん。
【きだて】そこでイベント感を楽しむというのがあるのか。
【高畑】多分、そこで見せたり、「いいよね」って言うことがセットになっているんだよ。紙見本帳を持っていればいいわけじゃなくて、見本帳じゃなくてちゃんと製品になっているものをみんなで共有したりとかね。そこに集まる人たちは、元々外向きの人たちではないじゃない。ただ群れるための人たちじゃなくて、どちらかというと一人で楽しんでいる人たちが、ちょっと集まれる場所とか、自分たちが主張できる場所を見つけた感じはちょっとするんだよね。万年筆のインクを集めている人たちとも共通しているかもしれないけど、もっと奥手な感じがする。でも、楽しんでいるのは間違いないんだよね。そういう人たちが顕在化してきたというのは、今回のイベントですごく感じた。
【きだて】紙って、楽しむのには相当なリテラシーが要ると思うのね。
【高畑】だから、上がってきたんじゃない。
【きだて】そんだけ楽しめる人たちが増えているというのは、すごいんだよ。
【他故】そうだよ、すごいよね。
【きだて】だから、それに対しては、素直に驚きしかなくて。紙の知識って、実際ちゃんと紙に触れて勉強しないと身につかないタイプのものだからさ。印刷屋に入った若い子なんか先輩に殴られながら紙の種類とか斤量とか憶えるんだし。
【高畑】まあね。でも、最初は名前を知らなくても、「これかわいい」とか、「手触りがいい」というのが分かるところから、だんだんと銘柄を覚える人もいるけど、名前なんか覚えてなくて「この紙がかわいいから好き」という人もいると思う。
【他故】それはいると思うよ。
【きだて】そうか、それでいいのか。
【高畑】特定できて、識別や選別ができる必要はなくて、「私はこの手触りが好きだから、この紙」っていうので、名前知らなくても全然いい。
【きだて】そうか、「紙神経衰弱」が売れちゃってるもんだから。そこまでではないんだ。そこまでじゃなくても、楽しいんだね。
【高畑】だから、「メモテリア」みたいなのをめくりながら、「いろんなサラサラがあって楽しい」というのでもいい。その先に行かなくても、充分楽しめるじゃない。
【きだて】う~ん、なるほど。
【高畑】そういう人たちが「こんなにいるんだ」って顕在化したのが、昨年後半のことかなって思うよ。それで、「紙いけるぜ」っていう気はちょっとはしているんだけど。紙を楽しむお作法というのを提案して、誰かが「いい」って言い始めたら、まだ流行る要素があると思う。紙を楽しむための作法だから、「~道」じゃない?
――「~道」といったらきだてさんじゃないですか。
【きだて】うん、でもそれに関しては、Kino.Qが「紙神経衰弱」っていうピーキーなことを始めちゃったから。
【高畑】だから、Kino.Qさんはその一つの家元なわけですよ。
【きだて】先にあんな面白いことされちゃって、超くやしい。
【高畑】だけど、それだけが紙の楽しみ方ではないから。それこそ、学研の「大人の科学」で出した活版印刷機なんかは、その嗜み方の一つなんだよね。紙と風合いを楽しむ、嗜みの一つなんだよ。だから、「活版印刷機で名刺作るのが好き」という人が増えるかもしれないし。要は、単にオフセットではなくて、「シルクにしてみました」とか「箔押ししてみました」とか、いろんなやり方がもう一回出てるくんじゃない。あと、「デザインのひきだし」っていう本がすごい売れているじゃないですか。あれも、入手がどんどん難しくなってきているんだよね。
【きだて】たまに買ってたけど、ほんとすぐ売り切れるようになっちゃって。
【高畑】そう考えると、「女子」「紙」「加工方法」というのを上手く組み合わせた製品なり、楽しみ方なり、楽しみというよりは嗜みみたいなやつだけど、今年ブレイクしそうなんだよね。
【他故】「活版TOKYO」は、町工場の印刷屋の人たちが主催でやっていたのが基本だったから、俺が行ったときに「何しに来たんですか」ぐらいの勢いで訊かれたもの(笑)。だから、「活版印刷を目の前でやってくれるんですよね。楽しいですね」って言ったら、「こんなの、俺たちは毎日見ている機械で、面白くも何ともないんだけど」っておじさんたちが驚いているんですよ。
【きだて】いま活版印刷機持っている印刷屋って、もう職人が年寄りすぎて開店休業状態のところか、あるいは若手が「活版ってレトロで味わいあるよね」って目覚めたところが機械を引き取ってやっているかなんだよな。
【高畑】昔の活版印刷であんなに圧かけて凹んでいるのは、下手くそのやることだったんだよね。だから、できるだけフラットに、まるでオフセット印刷みたいに活版を打つのが腕だったんだけど、今はその凸凹した感じが見直されているわけでしょ。要は、リアルなものの手触りとか、同じ白い紙だけど違いがあって、そこに印刷するときに印刷方式の差とか、そういうのがどんどん分かる人たちが増えている。それは、デジタルの反動みたいなものもなくはないし。
【きだて】それはあると思う。
【高畑】だから、手触りというのを基準とするときに、紙ってすごくいいんだと思うんだよね。
【きだて】まあそうだよね。なるほど、そういう基点としての紙ということか。要点が固まってくると、なんとなく分かってきたぞ。
【高畑】そういうのって、女子ばっかりじゃん。これは今年、男子は置いてけぼりをくらうんだよ。そういうような気がするので。結構恐いんだよね。今年、俺の仕事があるのかっていう。
(一同爆笑)
【高畑】いや、これはね。リアルに、「女子の時代が来ちゃったな」って感じているんですよ。だから、「文具」って言ったときに、女子のイメージが強く出てくる年になる可能性があるなと思った。
【きだて】俺ね、「文具女子」という言い方に、強い憤りを感じているというかさ。
【高畑】おおっ(笑)。
【きだて】わりと真面目な話なんだけど、文具+女子=「雑貨系ふわふわカワイイ」という画一的なイメージで固めようとしてきてるのが、どうしても違うなと思ってて。俺が知ってる文房具好きの女性って、かわいいのが好きな人もいればハードにボールペンの書き比べやっちゃう人もいるわけでさ。その多様性って、イベントなんかで仕掛けようとしている文具女子のふわふわなイメージとは全然乖離してて。
【高畑】いや、そうなんだよ。「文具女子」っていう今回出てきたキーワードが、文具を扱う全ての女子という意味では全然なくて、「文具女子」っていう一つのかたまりなんだよ。
【きだて】そのふわふわしたものにフォーカスしていくと、一時はバーッと燃え上がるけど、多分廃れるのも早いので、明らかにこれは衝動の消費だなとずっと感じてて。
【高畑】ファッションなので、衝動の消費的なところは少しあって、それが燃焼してすぐになくなるかどうかは、まだこれからかなという気がしている。「文具女子」での「文具」というのは、知的生産の道具としての文房具だったりとか、何かしらの創造のための道具としての文房具だったりとは、違う「文具」かもしれない。
【きだて】文具女子が扱いたい文房具というのは、おそらくは俺らが語れるものではないということだよね。
【高畑】そう。それで今年は仕事があるのかという不安があるんだけど。
【きだて】それは分かってるんだ。
――2018年のキーワードは「危機感」ですか?
【高畑】去年後半に顕在化してきた文具というのが、僕らを置いてけぼりにしていく可能性はあるなと感じていて、語る術もなく「かわいいからかわいい」で通っちゃうと思うんだよね。僕らが言うこととか、機能とかが、多分「どっちでも良いですよ」ということになっちゃうかもしれない。じゃあ、僕らが前から思っていた文房具はどこへ行くのかは、また別の話として、今年顕在化してくるのは、僕らを置いてけぼりにする一部の女子の文具感というものが、グイグイ出てくる可能性があるんじゃないかな。
【きだて】今から宣言するけど、俺は今年、「文具レディ」として頑張るよ。
(一同爆笑)
【他故】どうやってだ(笑)?
【きだて】君たちとはもう今日限りだ(笑)。
【高畑】じゃあ、きだてさんは、今年は文具レディとして活動するんだ。
【きだて】俺は一応、文具ソムリエールの菅未里さんと、文具プランナーの福島槙子さんの「文具レディ」のスーパーサブになっているので、心の中に野生の乙女が住んでいるんだよ(笑)。今年は、野生の乙女に働かせる。機能だの何だのとか、面白い文房具とか言っていたきだてたくは、もう2017年でバイバイです。今年からは、「ヒゲの乙女きだてたく」でやっていかないと、多分仕事はない。
【高畑】いや、そうなんですよ。このイベント3つを見て。ある種可能性はあるわけ。文房具の可能性の一つとして、ああいうやり方もあるねというのが出てきた反面、「これ、俺の仕事じゃねえぞ」という感じはすごいある。
【きだて】そうだね、文具王はそう感じると思うし、他故さんもそうじゃない?
【他故】行って、「うぉー」って思って帰ってくるだけだよ。
【高畑】でも、他故さんが文具女子博の入場待ちの行列で2番目に待ってたというのがめちゃ面白かったよ(笑)。
【きだて】文具女子博はまだ、規模のでかい「文紙メッセ」みたいなもので、買い物できる展示会として楽しかったんだけど、あれが紙博みたいに文具女子を前面に押し出してきた感じだとちょっとね。
【他故】もう、紙博の段階で歯が立たなかったもの。
【きだて】俺も、紙博みたいなイベントを見ると、毎回「はぁ~」ってなるよ。
【高畑】俺は元々手触りフェチなので、分からなくはないんだけど、引っぱれない。「この差を楽しんでいる」という感じは分かるんだけど、それを文具王として「こうだよ」とは解説できない。次の文具女子博のときは、間違いなくもっと狙ってくるよね。
【きだて】間違いないよね。
【高畑】だから、大阪の「文紙メッセ」とは、これから狙ってくるところとかで、もっと違いがはっきりしてくるんじゃない? それで、ここに日販が入ってきているので、コンテンツビジネスとセットに持っていく気がするんだよ。
【きだて】それは間違いないと思うよ。日販が入った時点でそうなると思う。
【高畑】今回、告知もすごい上手だったから。ちゃんとターゲットを絞って、そこに対して告知をして。だから、作法とか楽しみ方とか、そういうのがセットになった紙というのが女子に向けて出てきた。あと、女子はリアルイベントに集まることの楽しさに目覚めたわけですよ。それに対して、男子は相変わらずユーチューブとかでブツブツ言っているわけですよ(笑)。だから今年は、今まで割と地味に楽しんでいた人たちが、ノリノリになってくる1年なんじゃないかな。で、その裏でペンやはさみの機能を動画で説明する俺みたいなのがいるという(笑)。地味に、「200人見てくれた」とか喜んでるところに、「これかわいい!」って写真あげたやつが18,000とか数字が出てくるんだよ。
――まあ、時代はインスタですから。
【高畑】「インスタ映え」という言葉が今年も流行るか分からないけど、そのコンセプト自体はずっと続いているんだよね。だから、見せるところまでセットになったり、「楽しんでいる私」を表現するところまでセットになっている文具の楽しみ方をする女子は、今年も絶対にいると思うんだよね。
【他故】それはいるだろうね。
【高畑】だから、ある意味私にとって暗黒時代というか。きだてさんは、心に乙女がいるからいいよ。それにある意味イロブンじゃない。一方で株価上がってきて、筆記具メーカーが高級なの出してきているじゃないですか。これは、どういうことを意味しているかというと、これから文具は、「機能は満足したから、もっとおしゃれに」という方向になるんですよ。俺みたいに、真面目に「知的生産が」という時代じゃなくなってくるかもしれないですよ。景気良くなってくると、「知的生産が」とか「効率化」がという時代じゃなくなってくるから。そうじゃなくて、「かっこいいな、これ」というところに行っちゃうじゃないですか。
【きだて】そうね。効率をあげるんじゃなくて、そうじゃないところでお金を取らないと行き詰まっちゃうからね。
【高畑】そういう余白が出てきたときに、きだてさんみたいな面白文具を出してくる可能性がこれからあるかもしれない。
【きだて】そこら辺のところは考えてはいたんだけどね。
――バブル時代の再来みたいな。
【高畑】文具は、バブルの後に一度下がって、また盛り上がってきたけど、今度下がったらその次に浮上する可能性が低いと思うんだよ。「じゃあ、デジタルでいいじゃん」ってなるかもしれない。
【他故】あ~、そうだね。
【きだて】デジタルの発展とアナログとの交差点が、いずれはできちゃうからね。
【高畑】もうすでに来ているんだけど、まだ文具のアナログの良さを嗜んでいるからここにいるけど、これがもう一回下がってしまうと、次は何を浮力に上がってくるのか難しいんですよ。
【他故】難しいね。
【高畑】そう考えると、結構正念場ではある。ただ一つ光明があるのは、女子が紙の質感まで分かってくれるようになったこと。そのリテラシーの高さは、いいところでもあるんだけど、ただそれが中堅以上の文具メーカーにプラスになるのかはちょっと分からない。
【きだて】う~ん。
【高畑】それは、ベンチャーにとってはいいニュースだよね。
【きだて】それはそうだね。
【高畑】いろんな戦い方ができるからね。でも、中堅どころが厳しくて。大手はブランドイメージがしっかりしているから、「測量野帳かわいい」ってなるんですよ。かわいいつもりで作ってなかったのに、「かわいい」って言ってくれるんだよね。このセンスの違いがね。だから、今までかわいいものを作ろうとしていた人たちが困る。
【きだて】かわいいってさ、ギャンブルじゃん。そのギャンブルに賭けて中小が生き残れるかというと、相当に疑問だよ。
【高畑】中小は最初からギャンブルじゃん。
【きだて】そうなんだけど、負けると後がないギャンブルじゃん。そういうのって、賭けちゃ駄目だよ。
【高畑】まあ、そうだけどね。でも、元々小さいメーカーは、一つひとつがそういうところがあったりするけど、真ん中あたりにある真面目なメーカーは上手くやらないと、という感じはするよね。「前より機能が良くなりました」ということよりも、大事なことがまだいっぱいあるという。
【他故】はいはい。
【高畑】というような感じがするよ。「インディジョーンズ」みたいに踏み石があって、「どれを踏んだら先へ進めるか」みたいなところに、今俺たちは立っているんだよ。
【他故】そうだね(笑)。
【きだて】踏み外すと即アウトな感じだよね(笑)。
【高畑】上手く石を選びながら、トントントンと行ければ、今年は行けるかもしれないけど、今まで通り何も考えないで歩いていると、崖から落ちる可能性がある。
【きだて】そうだね。いきなりガラガラと崩れちゃうね。
【高畑】だから、菅さんにとっては追い風なのかもしれない。「素敵」をちゃんと伝えられる人だから。だけど、俺なんかには、ブームを見ながら冷や汗が出る感じ。
【きだて】暗い新年予想だな~。元日からこれはやめよう、順番変えようぜ(笑)。
【高畑】いや、盛り上がるのは間違いないんだよ。今年はすごい華やかな年になるんだよ。で、心配しているのは「文具王が」なんだよね(笑)。
【きだて】「華やかな2018年」と言っている側で、文具王が暗い顔をしているという構図ですから。
【高畑】だから、それをどうしようと怒っているわけではないので。
【きだて】ただただ不安なんだろ(笑)。
【高畑】不安というか、「どうしようかな~」と思っているよ。
【きだて】それは鬱の初期症状だからね。
――それじゃあ、芥川龍之介ですよ。歯車が見えたりしませんか?
(一同爆笑)
【きだて】よくないな~、何か。
――新年早々あんまりな(笑)。
【高畑】ちょっと言い方があれだったけど、悪くなるというよりは、潮目が変わるというか、今年は雰囲気が一変するかも。で、それをドライブしていくのが女子と、特にこれまでオシャレとか思っていなかった職人みたいな人たち。真面目にコツコツやっている職人が、女子たちに「かわい~」って言われて、「えっ、これかわいいっすか」みたいな感じなんだよ。だから、変わったところにスポットがあたって、雰囲気が変わるんじゃないかな。
【他故】う~ん。
【高畑】この間、ここ10年の文具の話をしたじゃないですか。1月にその本が出るんだけどさ。「この10年は、すごい激動だったね」と言ってたけど、次の10年もすでに何かが変わり始めているんじゃないの。
【きだて】女子と職人って言ってたじゃん、そこで儲けるのは、その間に入っている人なんだよ。
【高畑】あー、そうだかもね。職人の人は今まで通り作っているだろうけどね。
【他故】そうだね。
【きだて】それが誰なのか、文房具プランナーみたいな人なのか。
【高畑】そういう人は虎視眈々と狙ってるかもしれないね。
【きだて】それを俺は阻止したいの。
(一同爆笑)
【きだて】ていうか、俺が取って代わりたいんだよ(笑)。まだ女子に見つかっていない製品を、「かわいい!」て連呼し続けて、何とかダマくらせないかなと思ってんだけど。「ライオン事務器ちょーかわいい!」みたいな(笑)。
【他故】わはは。
【高畑】別に、それはいいと思いますよ。それで乗ってきてくれたら正解だと思うけど。
【きだて】これはね、当たらなくても矢を何発でも放てばいいんだよ。当たらない矢は誰も気にしないから。
【高畑】きだてさんは今年、いろんな矢を何発も放っていくということだね(笑)。
【きだて】今年の俺の口癖は「かわいい」だから。
【他故】あ~、なるほどね~。
【高畑】とりあえず、「かわいい」って言ってみて、みんなが「そうね、かわいいかも」って言ってくれれば。
【きだて】そうなったら、もうグワッといくよ。
【他故】いくんだ(笑)。
【きだて】多分、「マッキーかわいい」とか、そういう話から入っていくと思うよ。
【高畑】でも、「マッキーかわいい」って言われる可能性はあるからね。
【他故】それは充分にあるね。
――マッキーのイベント盛り上がったっじゃないですか。
【きだて】そうそう。
【高畑】長いことやっている定番品が「かわいい」っていうのは、あるじゃん。そういうところに、きだてさんが言っていく可能性はあるし。俺は、軸になっている部分は変えられないから、それはしょうがないんだけど。とはいえ、全体の大きな流れが動いているという感じ。「文房具がどうなるの」と言ったときに、死んだわけじゃないんだよ。20年前の話をすると、しんどかったじゃないですか。ここ10年くらいで温まってきたけど、その雰囲気はまだまだ変わり得る。ここで女子が出てきたけれど、これがゴールかどうかも分からないわけですよ。
【きだて】それは分からないよ。
【高畑】もっともっと変わっていく、動き始めのところかもしれないし。このままこの10年が女子の時代になるかというと、そこまで変わるかどうかは分からないですけど。少なくとも、今までそんなに顕在化していなかった女子が、注目されたりすることは、今年は少なくともそれが増えるなと思うよ。
【きだて】そうだね。多分、2、3年は続くんじゃないかな。
――大丈夫ですよ、高畑さんには、「お片付け」があるから。
【高畑】お片付け文具ね。でも、断捨離も進行すると、文房具買わなくなるからね(笑)。
【きだて】他故さん、こいつは沈む船だからさ(笑)。
【他故】そうなのか(爆笑)。
――いや、「文具のとびら」は高畑編集長の船に乗ってますから。今年も頑張らないと。
【高畑】ここは、真面目な情報はずっとやっているけど、華やかなのが必要になったときは、華やかな人に登場してもらうことができるメディアなので、俺が死んでも「文具のとびら」は不滅です。
【きだて】2、3年後には、セーラー服着た俺が編集長やってるかもしれないから。「かわいい」を全面に押し出して。
(一同爆笑)
【高畑】その乗っ取りだけは許さん!
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。東京・京橋の文具店・モリイチの文具コラムサイト「森市文具概論」の編集長も務める。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
【森市文具概論】http://shop.moriichi.net/blog/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。「森市文具概論」で「ブンボーグ・メモリーズ’80s」を連載中。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。購入はこちらから。
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